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ミルフィのリボンの行方3
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「あの、セドリック様。私がこんなことを申し上げるのは僭越だと思いますけれど……」
私を慰める兄様に、メイドが言い難そうに声を掛けてきた。
「何か考えがあるのか?」
「はい。私がパティに、お嬢様からリボンの話を聞いたけれど、パティの話と違ったと言うのはいかがでしょうか」
メイドの提案に、そうして欲しいと言いそうになって慌てて首を横に振る。
私の何かが、それは一番悪い策だと警鐘を鳴らしたのだ。
「ミルフィ、それでは駄目かな? リボンを取り返すにはいい方法だと思うよ。勿論、彼女がパティに確認する時、影からお父様に見ていてもらう。盗みを行う人間をそのままにはしておけないからね」
兄様はリボンを取り返す為だけでなく、パティの処罰まで考えているのか。
本当に兄様は子どもとは思えない程、しっかりしている。
でも止めなければ、理由なく駄目だと言うのではなく、ちゃんと駄目だと思う理由を言わなければ。
そうだ!
「でも、みんなはミルフィがリボンをあげたって思ってるんでしょ? ミルフィが、やっぱり返してって言ったって思わない? ミルフィ悪い子だからパティに意地悪してるって……」
パティが盗んだとお父様が判断しても、使用人達はパティの味方だ。
自分達の主人であるお父様の判断に抗議することは無くても、本当に悪いのはパティではなく私だとそう考えるかもしれない。いいや、きっとそうなる。
「ミルフィ、どうしてそう思うの?」
「だって……お父様が」
思わずお父様と口にして、慌てて両手で口を押さえる。
私は何を言おうとしたのだろう。
お父様は謝ってくれたのに、勘違いで叱られたことを私はまだ忘れられないのだ。
「お父様?」
「……お父様あやまってくれたから、ミルフィ悪くなかったって。でも……」
どうしてだろう、お父様は私が悪くなかった、自分の勘違いだって言ったのに。
私はまだお父様が自分を信じていないと、不安なままだ。
誰も信じてくれない、悪いのは私でパティは私の被害者だと、きっとまた皆が考えると思ってしまう。
また? どうしてそう思ったのだろう。
使用人達が私を疑いパティを庇ったことはないのに、私は使用人達はパティの味方だから駄目だと何故確信しているのだろう。
「お待たせしました、どうかされましたか?」
考え込んで黙り込む私を、兄様とメイドが困惑し私を見つめている状況に驚いたのか、戻ってきたキム先生が首を傾げている。
「キム先生、実は……」
兄様がメイドの提案と私の不安を説明すると、先生は兄様みたいに困惑せずに「あぁ、そうですね」と納得した様に頷いた。
「キム先生はミルフィが心配していることが起きると思うのですか」
「可能性はあるでしょうね。あの子はどうもそういうのが上手そうですから」
今度は兄様とメイドだけでなく、私も困惑してしまう。
キム先生はパティを良く知らない筈なのに、なぜそう言い切れるのだろう。
「私は耳が良いのです。扉の向こうで何を話しているか聞き取れる程度にはね。ミルフィ様が侯爵に誤解されたあの時、三人が何を話していたか聞こえていました」
「扉を閉めていても聞こえるのですか」
「魔法使いは、魔力の増加に引きずられるのか身体能力が上がる場合があるのですよ。ミルフィ様もそのうち目や耳が良くなるとか、感覚が鋭くなるとか感じる様になると思いますよ」
そう言われて、耳が良くなった気がしたのはそのせいだったのかと理解した。
「話が逸れましたね。ミルフィ様、まずパティが家令に叱られた理由をお話頂けますか」
「……あのね、ミルフィが部屋から出た時、パティが壁に寄り掛かってたの、それで叱られたけど、具合が悪かったってパティが言って、だからミルフィはお母様にパティを休ませてって言いに行くって言ったの。そしたら二人が駄目って」
理路整然に説明するわけにはいかないから、ところどころ省略して分かり難くなるように話す。
兄様は兎も角、私達の話を聞いていたらしいキム先生にはこれで分かるだろう。
「媚びた声に家令は騙されてましたから、ミルフィ様から夫人に言われたらそれは困ったでしょうね」
「媚?」
「パティは体調が悪かったわけでは無く、ただ怠けていた。それを彼は理解して、でもパティに甘えられて許してしまったのですよ。彼女は熱を出したミルフィ様の付き添いを理由にしていましたからね」
キム先生の「そういうのが上手そう」という根拠はそれだったのか、と私は納得したけれど賢くても女性の駆け引きは流石に理解出来ていないのか兄様は首を傾げている。
「それは理由に納得したからとは違うのか? 熱を出した者の世話は大変だと思う。実際僕も皆に手数を掛けているし……」
「セドリック様、手数を掛ける等とんでもございません! 私達はもっとお世話をさせて欲しいと考えておりますのに、セドリック様はいつも我慢されてしまうではありませんか!」
「でも……いや、この話は今は止めよう。先生はその時パティは嘘を吐いていたと?」
興奮した声をあげるメイドを制して、兄様が先生に尋ねる。
「そうですね、パティはまるで夜会で獲物を狙う令嬢達の様に、媚て甘えた声で家令に言い訳していました。ミルフィ様に向けている声とは違い過ぎて私は吹き出しそうになりましたよ」
先生は真面目な顔で言っているけれど、それは子どもの前でしていい話では無いと思う。
それにしても、先生は夜会で嫌な思いをした経験があるのだろうか、何だか先生の灰色の目が怖くなっている気がするのは気のせいではない気がして私は曖昧な表情を浮かべることしか出来なかった。
私を慰める兄様に、メイドが言い難そうに声を掛けてきた。
「何か考えがあるのか?」
「はい。私がパティに、お嬢様からリボンの話を聞いたけれど、パティの話と違ったと言うのはいかがでしょうか」
メイドの提案に、そうして欲しいと言いそうになって慌てて首を横に振る。
私の何かが、それは一番悪い策だと警鐘を鳴らしたのだ。
「ミルフィ、それでは駄目かな? リボンを取り返すにはいい方法だと思うよ。勿論、彼女がパティに確認する時、影からお父様に見ていてもらう。盗みを行う人間をそのままにはしておけないからね」
兄様はリボンを取り返す為だけでなく、パティの処罰まで考えているのか。
本当に兄様は子どもとは思えない程、しっかりしている。
でも止めなければ、理由なく駄目だと言うのではなく、ちゃんと駄目だと思う理由を言わなければ。
そうだ!
「でも、みんなはミルフィがリボンをあげたって思ってるんでしょ? ミルフィが、やっぱり返してって言ったって思わない? ミルフィ悪い子だからパティに意地悪してるって……」
パティが盗んだとお父様が判断しても、使用人達はパティの味方だ。
自分達の主人であるお父様の判断に抗議することは無くても、本当に悪いのはパティではなく私だとそう考えるかもしれない。いいや、きっとそうなる。
「ミルフィ、どうしてそう思うの?」
「だって……お父様が」
思わずお父様と口にして、慌てて両手で口を押さえる。
私は何を言おうとしたのだろう。
お父様は謝ってくれたのに、勘違いで叱られたことを私はまだ忘れられないのだ。
「お父様?」
「……お父様あやまってくれたから、ミルフィ悪くなかったって。でも……」
どうしてだろう、お父様は私が悪くなかった、自分の勘違いだって言ったのに。
私はまだお父様が自分を信じていないと、不安なままだ。
誰も信じてくれない、悪いのは私でパティは私の被害者だと、きっとまた皆が考えると思ってしまう。
また? どうしてそう思ったのだろう。
使用人達が私を疑いパティを庇ったことはないのに、私は使用人達はパティの味方だから駄目だと何故確信しているのだろう。
「お待たせしました、どうかされましたか?」
考え込んで黙り込む私を、兄様とメイドが困惑し私を見つめている状況に驚いたのか、戻ってきたキム先生が首を傾げている。
「キム先生、実は……」
兄様がメイドの提案と私の不安を説明すると、先生は兄様みたいに困惑せずに「あぁ、そうですね」と納得した様に頷いた。
「キム先生はミルフィが心配していることが起きると思うのですか」
「可能性はあるでしょうね。あの子はどうもそういうのが上手そうですから」
今度は兄様とメイドだけでなく、私も困惑してしまう。
キム先生はパティを良く知らない筈なのに、なぜそう言い切れるのだろう。
「私は耳が良いのです。扉の向こうで何を話しているか聞き取れる程度にはね。ミルフィ様が侯爵に誤解されたあの時、三人が何を話していたか聞こえていました」
「扉を閉めていても聞こえるのですか」
「魔法使いは、魔力の増加に引きずられるのか身体能力が上がる場合があるのですよ。ミルフィ様もそのうち目や耳が良くなるとか、感覚が鋭くなるとか感じる様になると思いますよ」
そう言われて、耳が良くなった気がしたのはそのせいだったのかと理解した。
「話が逸れましたね。ミルフィ様、まずパティが家令に叱られた理由をお話頂けますか」
「……あのね、ミルフィが部屋から出た時、パティが壁に寄り掛かってたの、それで叱られたけど、具合が悪かったってパティが言って、だからミルフィはお母様にパティを休ませてって言いに行くって言ったの。そしたら二人が駄目って」
理路整然に説明するわけにはいかないから、ところどころ省略して分かり難くなるように話す。
兄様は兎も角、私達の話を聞いていたらしいキム先生にはこれで分かるだろう。
「媚びた声に家令は騙されてましたから、ミルフィ様から夫人に言われたらそれは困ったでしょうね」
「媚?」
「パティは体調が悪かったわけでは無く、ただ怠けていた。それを彼は理解して、でもパティに甘えられて許してしまったのですよ。彼女は熱を出したミルフィ様の付き添いを理由にしていましたからね」
キム先生の「そういうのが上手そう」という根拠はそれだったのか、と私は納得したけれど賢くても女性の駆け引きは流石に理解出来ていないのか兄様は首を傾げている。
「それは理由に納得したからとは違うのか? 熱を出した者の世話は大変だと思う。実際僕も皆に手数を掛けているし……」
「セドリック様、手数を掛ける等とんでもございません! 私達はもっとお世話をさせて欲しいと考えておりますのに、セドリック様はいつも我慢されてしまうではありませんか!」
「でも……いや、この話は今は止めよう。先生はその時パティは嘘を吐いていたと?」
興奮した声をあげるメイドを制して、兄様が先生に尋ねる。
「そうですね、パティはまるで夜会で獲物を狙う令嬢達の様に、媚て甘えた声で家令に言い訳していました。ミルフィ様に向けている声とは違い過ぎて私は吹き出しそうになりましたよ」
先生は真面目な顔で言っているけれど、それは子どもの前でしていい話では無いと思う。
それにしても、先生は夜会で嫌な思いをした経験があるのだろうか、何だか先生の灰色の目が怖くなっている気がするのは気のせいではない気がして私は曖昧な表情を浮かべることしか出来なかった。
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