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ミルフィのリボンの行方2
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「ミルフィのリボン。気に入らないなんて言ったりしない、お兄ちゃまが選んでくれたリボン、大切な、たい……」
涙がポトポトと落ちてきて、話せなくなる。
私の宝物、私が何も言わなくても兄様が自ら選んでくれた、大切な物。
前回、家族が私を思い何かを選んでくれたことも贈ってくれたことも無かった。
必要な服や装飾品は幼い頃はお母様が選んでいたのだと思うけれど、それはいつの間にか家庭教師だった子爵夫人の役目になっていた。
それはお母様が、私の物を選ぶことを放棄したということだ。
時間が無かったわけでは無い、兄様のものはすべてお母様が時間を掛けて選んでいたのを前回の私は知ってたのだから。
そして私は、自分の子どものものを選んだことも無かった。
パティがそれは使用人の仕事だと言って、夫は、夫は確か「君は私だけでなく、自分の子どもが使うものにも興味は無いのか」と言って、パティに問題なく用意するように指示した。
なぜあの時夫にはあんな事を言ったのだろう。
私は自分で選ぶつもりだったのに、自分が生んだ子の使うものに興味が無いなんて、そんなはずないのに。
「ミルフィ?」
「言ってない」
今と前回の自分の記憶が交差して、私は混乱していた。
なぜ急に思い出したのだろう。
忘れていた記憶が、突然蘇ってきた。
私はやはり全てを思い出せていないのだ。
パティが私を嫌う理由が分からない。
お菓子を盗む理由も、リボンを盗む理由も分からない。
「パティはミルフィが嫌いなの?」
「……」
ひとしきり泣いた後、私を見守っていた三人に問う様な、でも私の独り言が部屋に響いた。
「お菓子を床に落として、取り替えたのもわざとなの? ミルフィの好きなお菓子だったから?」
「それは、あの、昨日の午後のことを仰っていますか」
メイドに聞かれて頷いた。
昨日の午後兄様の治療の後、少し休む様に言われてこのメイドに送られ部屋に戻るとパティはエプロンのポケットにお菓子を詰めていた。
メイドは扉を開き廊下側に立って私が部屋に入るのを待っていたからパティの行いは見えなかったのだろうけれど、私には全部見えていた。
メイドは私が部屋に入ると、自分は中に入らず扉を閉めてしまった。
私はパティは何か言うだろうかと思いながらソファーに座り、彼女の行動を見ていた。
するとパティはお菓子が盛られた皿をテーブルに載せようとして、それをひっくり返したのだ。
驚く私に「すぐ新しいものを」と、手早く菓子を拾い集めパティは部屋を出て行った。
「私がセドリック様のお部屋に戻る途中、パティがお皿を持って走ってきたのです」
「皿を持って?」
「お嬢様が違うものが食べたい、今すぐ持ってきてと癇癪を起こしていると」
そうか、パティは私が盗みの行動を見ていたと気がついたのかもしれない。
そしてこのメイドが部屋の近くにまだいるだろうと考えて、お菓子の皿をひっくり返した。
「お皿にあったのは、どれもお嬢様のお好きなものだったでどうしたのだろうと思っていました」
「ミルフィの好きなお菓子よ。どれも美味しいの大好きよ」
お菓子に使われているのは、迷宮産の食材が殆どだからどれも高級品だ。
それを違うものが食べたいと我儘で無駄にするなんて、前回の私だってしない。
「料理人がいっぱいお腹が空いてしまうミルフィのために作ってくれたのに、そんなことしない」
止まった筈の涙がまたこぼれ落ちてくる。
「そんなことしないって分かってるよ」
「お兄ちゃま」
「最近のミルフィは食いしん坊だからね、食べ物を無駄にしたりしない」
兄様の軽口に少し拗ねて、それでもどんな理由でも私を信じてくれる兄様の気持ちが嬉しかった。
「ミルフィくいしんぼじゃないもん。お腹がすいちゃうだけだもん」
「魔法を沢山使うとお腹が空くのです。魔法使いはいつも空腹なのですよ、だから食べ物を粗末になんて決してしたりしません」
拗ねる私にキム先生が自慢気に言うけれど、いつも空腹なんて堂々と私は言えない。
でもすぐに空腹になるのは本当だ。
「……ミルフィ様、私に良い考えがあります。少しお待ち頂けますか、すぐに用意して来ます」
私が色々な事に衝撃を受けて俯いていると、キム先生が急に部屋を出ていってしまった。
「先生どうしたのかな」
「さあ、良い考えがあるらしいね」
「お兄ちゃま、いっぱい泣いてミルフィ悪い子でごめんなさい」
兄様の治療もせずに、勉強に忙しい兄様の時間を使ってしまった。
治療の後休憩を取る必要がある兄様は、勉強時間が思うように取れていないらしいのに、私が邪魔してしまった。
しょんぼり項垂れる私を、兄様は「気にしなくていいよ」と慰めてくれた。
涙がポトポトと落ちてきて、話せなくなる。
私の宝物、私が何も言わなくても兄様が自ら選んでくれた、大切な物。
前回、家族が私を思い何かを選んでくれたことも贈ってくれたことも無かった。
必要な服や装飾品は幼い頃はお母様が選んでいたのだと思うけれど、それはいつの間にか家庭教師だった子爵夫人の役目になっていた。
それはお母様が、私の物を選ぶことを放棄したということだ。
時間が無かったわけでは無い、兄様のものはすべてお母様が時間を掛けて選んでいたのを前回の私は知ってたのだから。
そして私は、自分の子どものものを選んだことも無かった。
パティがそれは使用人の仕事だと言って、夫は、夫は確か「君は私だけでなく、自分の子どもが使うものにも興味は無いのか」と言って、パティに問題なく用意するように指示した。
なぜあの時夫にはあんな事を言ったのだろう。
私は自分で選ぶつもりだったのに、自分が生んだ子の使うものに興味が無いなんて、そんなはずないのに。
「ミルフィ?」
「言ってない」
今と前回の自分の記憶が交差して、私は混乱していた。
なぜ急に思い出したのだろう。
忘れていた記憶が、突然蘇ってきた。
私はやはり全てを思い出せていないのだ。
パティが私を嫌う理由が分からない。
お菓子を盗む理由も、リボンを盗む理由も分からない。
「パティはミルフィが嫌いなの?」
「……」
ひとしきり泣いた後、私を見守っていた三人に問う様な、でも私の独り言が部屋に響いた。
「お菓子を床に落として、取り替えたのもわざとなの? ミルフィの好きなお菓子だったから?」
「それは、あの、昨日の午後のことを仰っていますか」
メイドに聞かれて頷いた。
昨日の午後兄様の治療の後、少し休む様に言われてこのメイドに送られ部屋に戻るとパティはエプロンのポケットにお菓子を詰めていた。
メイドは扉を開き廊下側に立って私が部屋に入るのを待っていたからパティの行いは見えなかったのだろうけれど、私には全部見えていた。
メイドは私が部屋に入ると、自分は中に入らず扉を閉めてしまった。
私はパティは何か言うだろうかと思いながらソファーに座り、彼女の行動を見ていた。
するとパティはお菓子が盛られた皿をテーブルに載せようとして、それをひっくり返したのだ。
驚く私に「すぐ新しいものを」と、手早く菓子を拾い集めパティは部屋を出て行った。
「私がセドリック様のお部屋に戻る途中、パティがお皿を持って走ってきたのです」
「皿を持って?」
「お嬢様が違うものが食べたい、今すぐ持ってきてと癇癪を起こしていると」
そうか、パティは私が盗みの行動を見ていたと気がついたのかもしれない。
そしてこのメイドが部屋の近くにまだいるだろうと考えて、お菓子の皿をひっくり返した。
「お皿にあったのは、どれもお嬢様のお好きなものだったでどうしたのだろうと思っていました」
「ミルフィの好きなお菓子よ。どれも美味しいの大好きよ」
お菓子に使われているのは、迷宮産の食材が殆どだからどれも高級品だ。
それを違うものが食べたいと我儘で無駄にするなんて、前回の私だってしない。
「料理人がいっぱいお腹が空いてしまうミルフィのために作ってくれたのに、そんなことしない」
止まった筈の涙がまたこぼれ落ちてくる。
「そんなことしないって分かってるよ」
「お兄ちゃま」
「最近のミルフィは食いしん坊だからね、食べ物を無駄にしたりしない」
兄様の軽口に少し拗ねて、それでもどんな理由でも私を信じてくれる兄様の気持ちが嬉しかった。
「ミルフィくいしんぼじゃないもん。お腹がすいちゃうだけだもん」
「魔法を沢山使うとお腹が空くのです。魔法使いはいつも空腹なのですよ、だから食べ物を粗末になんて決してしたりしません」
拗ねる私にキム先生が自慢気に言うけれど、いつも空腹なんて堂々と私は言えない。
でもすぐに空腹になるのは本当だ。
「……ミルフィ様、私に良い考えがあります。少しお待ち頂けますか、すぐに用意して来ます」
私が色々な事に衝撃を受けて俯いていると、キム先生が急に部屋を出ていってしまった。
「先生どうしたのかな」
「さあ、良い考えがあるらしいね」
「お兄ちゃま、いっぱい泣いてミルフィ悪い子でごめんなさい」
兄様の治療もせずに、勉強に忙しい兄様の時間を使ってしまった。
治療の後休憩を取る必要がある兄様は、勉強時間が思うように取れていないらしいのに、私が邪魔してしまった。
しょんぼり項垂れる私を、兄様は「気にしなくていいよ」と慰めてくれた。
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