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信じるという言葉は 5
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「え、いいの?」
お父様に信じてもらえなかった件は、私の心に大きな衝撃を与えた。
魔力を計ったあの日、私は眠った振りをしながらお父様とお母様の話を聞き、自分がどれだけ努力しても彼らが大切なのは兄様だけなのだと知ったというのに、心のどこかで『ほんの僅か私のことも思ってくれているのかもしれない』と、期待していたのかもしれない。
私は我儘も偏食も封印し、いい子になると誓い、怠惰な駄目な子供を止めようと努力していた。いい子になれば私のことも見てくれると、だけど結果は違った。
お父様は理由も聞かずに、私だけ叱ったのだ。
お父様の中では、私はまだ怠惰で駄目な子ども、我儘で癇癪持ちのミルフィのままなのだ。
どれだけ努力しても、変わろうとしてもお父様は私を認めてはくれない。なぜならもうすでに見限られてしまったから。
その悲しみに耐えきれず、毛布に包まって一人の世界に逃げ込みたかったが、ジョゼットとの授業を休むわけにはいかない。
集中出来ないままジョゼットに言われるまま文字を書く練習をしていたら、お父様が部屋を訪ねてきて兄様に魔法を掛けて良いと言い始めたのだから驚くなという方が無理な話だ。
「絶対に無理をしないと約束するなら、ミルフィがセドリックに魔法を掛けるのを許そう」
お父様がそう言っても信じられなくて、お父様の後ろに立つキム先生とガスパール先生に視線を向ける。二人が説得してくれたのだろうか。
私はお父様に信用されていなくても、二人の言葉ならお父様は納得した。そういうことなのか。
「ミルフィ無理しない、お兄ちゃまがミルフィの魔法怖いって思わないように頑張るの」
お父様は先程のことを勘違いで叱って済まなかったと謝って下さったけれど、それが本心だとは思わなかった。
大人と言うものは、自分が悪いと思ってなくても状況により謝罪を簡単に出来るのだと知っている。
私を疑っていても、必要なら謝れてしまう。そう考えてしまう自分の卑屈さが嫌になる。
こういう所は昔の、前回の私のままだ。
自分に自信が無く、卑屈なミルフィのまま。
「本当に無理だけはしないと、そう約束してくれるね」
「はい、お父様、約束します」
「忘れないで、絶対無理をせず、先生の指示に従うと」
私が無理をしないと言っても、お父様は信じられないのだろう。
繰り返し「無理をしない」と約束させられる。
「無理しない、ミルフィ約束する」
私が何度約束しても、きっとお父様は信じない。
だけど、お父様はが信じてくれなくても、お父様が兄様だけが大切でも、私は構わない。
兄様を死なせないのが目標なのだから、兄様へ魔法が使えるならそれでいい。
「ガスパール先生は三日間滞在してセドリックの経過を診てくださる」
わざとらしく首を傾げてお父様を見ると、壁際に控えていたパティがこちらを睨むように見ていると気がついた。
パティはあの後、何個かの焼き菓子をエプロンのポケットにしまいこんでいて、エプロンの両方のポケットはみっともなく膨らんでいた。
私に断りなく部屋を出て戻ってきた時にポケットの中身は無くなっていて、パティの口元には焼き菓子に挟まれていたジャムがついていた。
私を勉強の時間だと呼びに来たジョゼットは、パティの顔を見て「身だしなみが出来ていない」と注意していたけれど、それすら不満そうにパティはあの時も私を睨んでいた。
なぜ、パティはこんなに私に不満そうにするのだろう。
なぜ、私はパティから負の感情を向けられてもこんなに冷静でいられるのだろう。
前回の私は姉の様に彼女を思っていたのに、まるで嫌われていたと知っていたかの様だ。
「ミルフィ?」
「経過、……けいかって?」
パティのことを考えていて、お父様の話に集中していなかった。
うっかり、私が兄様に魔法を掛けた後、ガスパール先生が兄様の経過観察をするのだと納得しそうになって、慌てて聞き返した。
「経過というのは、セドリックが滋養魔法と強壮魔法を受けて、どう体調が変化するかを診るということだよ」
お父様もなかなかに難しいことを言う。
私は「たいちょうが変化する?」と聞き返し、困った顔で大人達を見る。
「変化というのは、ミルフィ様がセドリック様に魔法をかけて、どのくらい元気になるかということですよ」
キム先生が分かりやすいように説明してくれて、私はやっと納得したとばかりに反応する。
幼い子供の振りは難しい。
でもこれでやっと兄様に魔法を掛けられる。
パティの鋭い視線は気にしないことにして、私はその事実だけを受け入れたのだった。
お父様に信じてもらえなかった件は、私の心に大きな衝撃を与えた。
魔力を計ったあの日、私は眠った振りをしながらお父様とお母様の話を聞き、自分がどれだけ努力しても彼らが大切なのは兄様だけなのだと知ったというのに、心のどこかで『ほんの僅か私のことも思ってくれているのかもしれない』と、期待していたのかもしれない。
私は我儘も偏食も封印し、いい子になると誓い、怠惰な駄目な子供を止めようと努力していた。いい子になれば私のことも見てくれると、だけど結果は違った。
お父様は理由も聞かずに、私だけ叱ったのだ。
お父様の中では、私はまだ怠惰で駄目な子ども、我儘で癇癪持ちのミルフィのままなのだ。
どれだけ努力しても、変わろうとしてもお父様は私を認めてはくれない。なぜならもうすでに見限られてしまったから。
その悲しみに耐えきれず、毛布に包まって一人の世界に逃げ込みたかったが、ジョゼットとの授業を休むわけにはいかない。
集中出来ないままジョゼットに言われるまま文字を書く練習をしていたら、お父様が部屋を訪ねてきて兄様に魔法を掛けて良いと言い始めたのだから驚くなという方が無理な話だ。
「絶対に無理をしないと約束するなら、ミルフィがセドリックに魔法を掛けるのを許そう」
お父様がそう言っても信じられなくて、お父様の後ろに立つキム先生とガスパール先生に視線を向ける。二人が説得してくれたのだろうか。
私はお父様に信用されていなくても、二人の言葉ならお父様は納得した。そういうことなのか。
「ミルフィ無理しない、お兄ちゃまがミルフィの魔法怖いって思わないように頑張るの」
お父様は先程のことを勘違いで叱って済まなかったと謝って下さったけれど、それが本心だとは思わなかった。
大人と言うものは、自分が悪いと思ってなくても状況により謝罪を簡単に出来るのだと知っている。
私を疑っていても、必要なら謝れてしまう。そう考えてしまう自分の卑屈さが嫌になる。
こういう所は昔の、前回の私のままだ。
自分に自信が無く、卑屈なミルフィのまま。
「本当に無理だけはしないと、そう約束してくれるね」
「はい、お父様、約束します」
「忘れないで、絶対無理をせず、先生の指示に従うと」
私が無理をしないと言っても、お父様は信じられないのだろう。
繰り返し「無理をしない」と約束させられる。
「無理しない、ミルフィ約束する」
私が何度約束しても、きっとお父様は信じない。
だけど、お父様はが信じてくれなくても、お父様が兄様だけが大切でも、私は構わない。
兄様を死なせないのが目標なのだから、兄様へ魔法が使えるならそれでいい。
「ガスパール先生は三日間滞在してセドリックの経過を診てくださる」
わざとらしく首を傾げてお父様を見ると、壁際に控えていたパティがこちらを睨むように見ていると気がついた。
パティはあの後、何個かの焼き菓子をエプロンのポケットにしまいこんでいて、エプロンの両方のポケットはみっともなく膨らんでいた。
私に断りなく部屋を出て戻ってきた時にポケットの中身は無くなっていて、パティの口元には焼き菓子に挟まれていたジャムがついていた。
私を勉強の時間だと呼びに来たジョゼットは、パティの顔を見て「身だしなみが出来ていない」と注意していたけれど、それすら不満そうにパティはあの時も私を睨んでいた。
なぜ、パティはこんなに私に不満そうにするのだろう。
なぜ、私はパティから負の感情を向けられてもこんなに冷静でいられるのだろう。
前回の私は姉の様に彼女を思っていたのに、まるで嫌われていたと知っていたかの様だ。
「ミルフィ?」
「経過、……けいかって?」
パティのことを考えていて、お父様の話に集中していなかった。
うっかり、私が兄様に魔法を掛けた後、ガスパール先生が兄様の経過観察をするのだと納得しそうになって、慌てて聞き返した。
「経過というのは、セドリックが滋養魔法と強壮魔法を受けて、どう体調が変化するかを診るということだよ」
お父様もなかなかに難しいことを言う。
私は「たいちょうが変化する?」と聞き返し、困った顔で大人達を見る。
「変化というのは、ミルフィ様がセドリック様に魔法をかけて、どのくらい元気になるかということですよ」
キム先生が分かりやすいように説明してくれて、私はやっと納得したとばかりに反応する。
幼い子供の振りは難しい。
でもこれでやっと兄様に魔法を掛けられる。
パティの鋭い視線は気にしないことにして、私はその事実だけを受け入れたのだった。
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