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試しと後悔 3
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「ガスパール先生、ミルフィは本当に魔法が使えたのですか?」
ガスパール先生とキム先生と共にお父様の執務室に向かうと、お父様は執務机の前に座ったまま私達をソファーに座らせながら疑いの言葉を発した。
やはりお父様は、私に魔法など使えないと思って試しを許したのだ。
それが分かって、いいや最初から分かっていたのに、それを目の当たりにして心の奥が冷たくなった気がした。
私が幼いから、私がまだ魔力循環の練習を始めたばかりだから、だから魔法なんて使えない。
そう考えるのは当たり前だけれど、でもお父様が私に期待していないからそう思うのだとしか思えなかった。
「はい、ミルフィ様はとても上手に魔力を操り魔法を掛けていました。魔力循環をした時の拙さを思うと驚くばかりですが、あれは熟練者の魔法です。あの魔法なら安心して使って問題ないと思います」
キム先生とガスパール先生の間に座っている私は、私を庇う様に言ってくれたキム先生の横顔を見上げながら、お父様はこの言葉だけで信じるだろうかと不安になる。
兄様ならともかく、お父様から信用されていない私だ。
兄様がおばあ様の夢を見て、魔法が使える様にして貰えたと言ったらきっとお父様はすぐにそれを信じただろう。
でも私は信用されない、それが兄様と私のお父様の信頼の差だ。
「……ですが、ミルフィは……。一度は偶然に使えたとしても、それをセドリックに使って本当にいいのか」
ほら、信じていない。
ゆっくりと視線をキム先生からお父様へと向ける。
絶望を気付かせない様に、私がどれだけ悲しんでいるかお父様に分からない様に注意して、見つめる。
「ミルフィは使えるよ。まにあわなくなる前に使えるようにって言われたから、使えるようになったの」
声が震えない様に、涙が零れない様に。
我儘な子供だったミルフィが、お父様に信用されないのは仕方ない。
怠惰で駄目な子だと家庭教師だったオーレンス子爵夫人が言っていたのは嘘だったと分かっても、お父様の中ではきっとまだそれが本当の私で、私は何も期待できない駄目な子のミルフィのまま。
だから、私が魔法を使えたとキム先生が言っても信じられないのだ。
「ミルフィ、我儘を言わないでおくれ。セドリックの体が弱いのは幼いミルフィにも分かるだろう? 下手なことをしてセドリックになにかあったら……。それにミルフィだって慣れない魔法を使って何か起きないとも……」
ほら、全く信用されていない。
キム先生が問題ないと言っても、使うのがミルフィだから信用出来ないのだろう。
「ガスパール先生、先生がセドリックにその滋養魔法と強壮魔法を掛けて頂くわけにはいかないのでしょうか」
「それは勿論、侯爵が望まれるのであればいくらでも。滋養魔法と強壮魔法の話を聞いて私も考えましたが、今迄はセドリック様が熱を出す等体調を崩してから対処していました。それを滋養魔法と強壮魔法で体を整えていけば徐々に体が強くなっていく可能性はある。この二つの魔法は病を治療するものではありませんが、元々体力が無いセドリック様の体を強くするには効果が高いかと」
兄様の体はすぐに疲労し熱を出す。
元々の生命力が少なく、食事も一度に沢山食べられないし無理して食べると消化できずにお腹を壊してそこで体力を失ってしまうから、寝込んでしまう。
滋養魔法というのは、食事以外から体に栄養を取り込む魔法で、強壮魔法は取り込んだ栄養を体内に巡らせ体力を増強していく魔法だ。だからどちらか片方だけでなく、両方を掛けることで兄様の体に効く可能性が高い。
「それなら是非、ガスパール先生に……」
「効果が見込まれるのですが、セドリック様の場合一日に普通の強さで魔法を使った場合体に負担が掛かり過ぎるのではないかと。普通の魔法の力を百とするなら、一度に掛ける魔法の力を十程度まで弱くして、一刻置きに魔法を掛ける様にした方がいいでしょう」
ガスパール先生は侯爵家専属の契約をしているわけではないから、他にも患者がいる。
町に治癒院を持っていて、ガスパール先生の弟子と共に普段はそちらで治療を行っているのだから、一刻置きに侯爵家で兄様に魔法を掛けるなんて出来るわけがない。
「それではセドリックに魔法を掛けて頂くことは出来ないと」
「たとえば私が朝と晩だけその弱い魔法を掛けに来たとしても、気休め程度のものでしかないでしょう。それならばミルフィ様に掛けて頂いた方が良いでしょう」
思わず私はガスパール先生の方を向いて、そして私を見下ろす先生と目が合った。
「先生は、ミルフィに、こんな幼い子供に本気で魔法を使わせようとしているのですか」
「私は侯爵家に常時いられませんが、幸いキム先生がいるのですから、ミルフィ様が魔法を使われる時側にいられます。キム先生は治癒魔法は出来ないそうですが、何かあった時に対応は出来るのですから問題は何も無いでしょう」
問題は無い。ガスパール先生はそう言うと、私を励ます様に私の手を握ってくれたのだ。
※※※※※※
お父さんはミルフィを心配しているだけなんですが、全く本人に伝わっていません。
ガスパール先生とキム先生と共にお父様の執務室に向かうと、お父様は執務机の前に座ったまま私達をソファーに座らせながら疑いの言葉を発した。
やはりお父様は、私に魔法など使えないと思って試しを許したのだ。
それが分かって、いいや最初から分かっていたのに、それを目の当たりにして心の奥が冷たくなった気がした。
私が幼いから、私がまだ魔力循環の練習を始めたばかりだから、だから魔法なんて使えない。
そう考えるのは当たり前だけれど、でもお父様が私に期待していないからそう思うのだとしか思えなかった。
「はい、ミルフィ様はとても上手に魔力を操り魔法を掛けていました。魔力循環をした時の拙さを思うと驚くばかりですが、あれは熟練者の魔法です。あの魔法なら安心して使って問題ないと思います」
キム先生とガスパール先生の間に座っている私は、私を庇う様に言ってくれたキム先生の横顔を見上げながら、お父様はこの言葉だけで信じるだろうかと不安になる。
兄様ならともかく、お父様から信用されていない私だ。
兄様がおばあ様の夢を見て、魔法が使える様にして貰えたと言ったらきっとお父様はすぐにそれを信じただろう。
でも私は信用されない、それが兄様と私のお父様の信頼の差だ。
「……ですが、ミルフィは……。一度は偶然に使えたとしても、それをセドリックに使って本当にいいのか」
ほら、信じていない。
ゆっくりと視線をキム先生からお父様へと向ける。
絶望を気付かせない様に、私がどれだけ悲しんでいるかお父様に分からない様に注意して、見つめる。
「ミルフィは使えるよ。まにあわなくなる前に使えるようにって言われたから、使えるようになったの」
声が震えない様に、涙が零れない様に。
我儘な子供だったミルフィが、お父様に信用されないのは仕方ない。
怠惰で駄目な子だと家庭教師だったオーレンス子爵夫人が言っていたのは嘘だったと分かっても、お父様の中ではきっとまだそれが本当の私で、私は何も期待できない駄目な子のミルフィのまま。
だから、私が魔法を使えたとキム先生が言っても信じられないのだ。
「ミルフィ、我儘を言わないでおくれ。セドリックの体が弱いのは幼いミルフィにも分かるだろう? 下手なことをしてセドリックになにかあったら……。それにミルフィだって慣れない魔法を使って何か起きないとも……」
ほら、全く信用されていない。
キム先生が問題ないと言っても、使うのがミルフィだから信用出来ないのだろう。
「ガスパール先生、先生がセドリックにその滋養魔法と強壮魔法を掛けて頂くわけにはいかないのでしょうか」
「それは勿論、侯爵が望まれるのであればいくらでも。滋養魔法と強壮魔法の話を聞いて私も考えましたが、今迄はセドリック様が熱を出す等体調を崩してから対処していました。それを滋養魔法と強壮魔法で体を整えていけば徐々に体が強くなっていく可能性はある。この二つの魔法は病を治療するものではありませんが、元々体力が無いセドリック様の体を強くするには効果が高いかと」
兄様の体はすぐに疲労し熱を出す。
元々の生命力が少なく、食事も一度に沢山食べられないし無理して食べると消化できずにお腹を壊してそこで体力を失ってしまうから、寝込んでしまう。
滋養魔法というのは、食事以外から体に栄養を取り込む魔法で、強壮魔法は取り込んだ栄養を体内に巡らせ体力を増強していく魔法だ。だからどちらか片方だけでなく、両方を掛けることで兄様の体に効く可能性が高い。
「それなら是非、ガスパール先生に……」
「効果が見込まれるのですが、セドリック様の場合一日に普通の強さで魔法を使った場合体に負担が掛かり過ぎるのではないかと。普通の魔法の力を百とするなら、一度に掛ける魔法の力を十程度まで弱くして、一刻置きに魔法を掛ける様にした方がいいでしょう」
ガスパール先生は侯爵家専属の契約をしているわけではないから、他にも患者がいる。
町に治癒院を持っていて、ガスパール先生の弟子と共に普段はそちらで治療を行っているのだから、一刻置きに侯爵家で兄様に魔法を掛けるなんて出来るわけがない。
「それではセドリックに魔法を掛けて頂くことは出来ないと」
「たとえば私が朝と晩だけその弱い魔法を掛けに来たとしても、気休め程度のものでしかないでしょう。それならばミルフィ様に掛けて頂いた方が良いでしょう」
思わず私はガスパール先生の方を向いて、そして私を見下ろす先生と目が合った。
「先生は、ミルフィに、こんな幼い子供に本気で魔法を使わせようとしているのですか」
「私は侯爵家に常時いられませんが、幸いキム先生がいるのですから、ミルフィ様が魔法を使われる時側にいられます。キム先生は治癒魔法は出来ないそうですが、何かあった時に対応は出来るのですから問題は何も無いでしょう」
問題は無い。ガスパール先生はそう言うと、私を励ます様に私の手を握ってくれたのだ。
※※※※※※
お父さんはミルフィを心配しているだけなんですが、全く本人に伝わっていません。
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