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試しと後悔 1
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「ミルフィ様、まずは私に魔力を流すことが出来るか試してみて頂けますか?」
昨日泣いて眠ってしまった私は、結局一日寝て起きてを繰り返してしまった。
明けて今日私が朝食を取ってすぐ、ガスパール先生とキム先生が部屋にやって来て「今日は魔法を使ってみましょう」と言い始めた。
驚きで口が聞けない私に、ガスパール先生は魔力を流せるか試せと言うから二度驚いた。
何せ私が魔力暴走を起こしかけたと知っていて、言うのだから、ある意味無謀だとしか言えない。
「ミルフィ様お腹は空いていませんね」
「ミルフィ沢山食べたの」
今朝私は、自分の部屋で朝食をとった。
私は前回の記憶が戻ってからずっと、早起きを頑張り両親と兄様と一緒に朝食をとっていたのに、今朝はベッドから出ることが許されなかったから、部屋に食事が運ばれて来たのだ。
ベッドの側にいたのはジョゼットとパティの二人だけだった。
私が朝食を頂くのと同じ頃、お父様達は食堂で同じく食事中なのだから仕方がないことだと分かっていても、一人の食事はとても寂しかった。
ベッドで食べる食事程、味気ないものはない。
前回の私は結婚前も結婚後も、一人ベッドで朝食をとっていた。
カーテンを閉め切った部屋で、魔道具の灯りが照らすベッドに座り食べる食事はただ義務で食べていた様なものだったと思う。
夫はあの時どこにいたのだろう。
同じベッドで朝食を? いいや、そんな筈はない。
あの人は上位貴族だというのに、朝早くから起きて働いている様な人だったと思う。私が目覚めるのは昼近くだから当然彼は起きて働いていた。
働いていた? そうよ、彼は働き者でだから私はいつも一人で食事をしていた。
だけど、それは彼が忙しかったから? 本当にそれだけだったのか思い出せない。
結婚したばかりのころも私は一人で目覚めて、一人で食事をしていた。
結婚前も両親と食事をとるのはまれだったから、そんなものだと思っていた。淋しいけれどそれが普通だと。
……そうだった? 夫と子供達はどうだったのだろう。
それぞれがバラバラに? わからない。
思い出せない、私はすべてを思い出したわけではないのだろうか。
「ミルフィ様?」
「……ミルフィの魔力ぐるぐるになる?」
ガスパール先生は、なんの反応も示さない私を困った様な顔で見ていたから、私は慌てて怯えた振りをする。
ガスパール先生の声は聞こえていたというのに、ベッドでの朝食の時間が、なぜか辛く感じてしまい私は自分の考えに没頭していたのだ。
「怖いのであれば、魔法を使えませんよ」
ガスパール先生の診察で、私が現在魔法を使える体力があると診断された。今朝は食事の量も問題ないし、念の為魔物蜜蜂蜜と魔物の鳥の卵をたっぷりと使った焼き菓子が用意されている。
この状況で怖いと私が言うのは、我儘でしかない。そしてガスパール先生の隣に立つキム先生の言うのは当然のことだ。
私が自分から魔法を使うと言い出したのに、魔力を流すのすら怖いのならその先には進めない。
「つ、使えるっ! ミルフィ使えるの!」
「それでは私に魔力を少しずつ流してくださいませ。焦らなければ何も心配はありませんからね」
ガスパール先生は私を安心させようとしているのか、笑顔で手を私に差し出す。
「魔力、流す」
先生の手を両手で握る。
先生の手が温かく感じるのは私の手が冷えているからなのか、それすらわからない。
「流す、魔力」
前回の私が苦手だった魔力操作。
キム先生の授業では、上手く制御出来ずに終わってしまったけれど、ここで失敗したら私が兄様を治療したいと言ってもお父様は二度と許してはくれないだろう。
今の試しだって、お父様はどうせ失敗すると思っているから許可しただけだ。
お父様は、私を信じてはいないのだから。
「ほお、お上手ですよ、同じ量の魔力が流れています」
「魔力を流すのを止められますか?」
「止める、止める」
キム先生の指示に従い魔力を流すのを止める。
「ふむ、ミルフィ様は魔力が多いのでしたかな」
「ええ、それに……」
何を話しているのか、キム先生はガスパール先生の耳に何か囁いている。
「なんと。ミルフィ様滋養魔法と強壮魔法使い方はわかりますかな?」
「じようまほう、きょーしょうまほう、出来るよ。夢でおしえてもらった魔法なの」
体が幼い私は強壮が上手く言えない。
「では、滋養魔法を私に使ってみて下さいませ。ええと魔石は……」
「魔石いらないの」
魔石を使ったやり方では、兄様に気軽に何度も使えないから駄目だ。
いくらこの家が裕福でも、限度がある。
兄様の体を強くするには、前回の私の様に一日に何度も魔法を掛けなければならない。
「弱く何度もかけるの、そうしないといけないって」
「魔石を使わない場合、ミルフィ様の魔力を使う様になるのですよ。それはミルフィ様の負担が大き過ぎますよ」
ガスパール先生の心配は予想していた。
前回のどうしようもない私を最後まで見捨てずにいてくれたガスパール先生だ、幼い私を心配して当然だ。
「魔石つかうのならったけど、ミルフィ自分のまりよくのしかできないの。ごめんなさい」
ガスパール先生の言葉を理解していないふりをして、魔石が使えないと駄目なのかと勘違いし落ち込んだ振りをしながら、二人の反応を見る。
「……まずは試してみましょう」
「ためす?」
「魔法を使って良いというのとですよ。ミルフィ様ガスパール先生に魔法を使ってみて下さい」
試すという言葉が理解できない振りをしている私に、キム先生が優しく教えてくれる。
前回の私の近くにもキム先生がいてくれたら、何かが変わっただろうか。
今更どうしようもないことを思いながら、私はガスパール先生に滋養魔法をかけ始めた。
昨日泣いて眠ってしまった私は、結局一日寝て起きてを繰り返してしまった。
明けて今日私が朝食を取ってすぐ、ガスパール先生とキム先生が部屋にやって来て「今日は魔法を使ってみましょう」と言い始めた。
驚きで口が聞けない私に、ガスパール先生は魔力を流せるか試せと言うから二度驚いた。
何せ私が魔力暴走を起こしかけたと知っていて、言うのだから、ある意味無謀だとしか言えない。
「ミルフィ様お腹は空いていませんね」
「ミルフィ沢山食べたの」
今朝私は、自分の部屋で朝食をとった。
私は前回の記憶が戻ってからずっと、早起きを頑張り両親と兄様と一緒に朝食をとっていたのに、今朝はベッドから出ることが許されなかったから、部屋に食事が運ばれて来たのだ。
ベッドの側にいたのはジョゼットとパティの二人だけだった。
私が朝食を頂くのと同じ頃、お父様達は食堂で同じく食事中なのだから仕方がないことだと分かっていても、一人の食事はとても寂しかった。
ベッドで食べる食事程、味気ないものはない。
前回の私は結婚前も結婚後も、一人ベッドで朝食をとっていた。
カーテンを閉め切った部屋で、魔道具の灯りが照らすベッドに座り食べる食事はただ義務で食べていた様なものだったと思う。
夫はあの時どこにいたのだろう。
同じベッドで朝食を? いいや、そんな筈はない。
あの人は上位貴族だというのに、朝早くから起きて働いている様な人だったと思う。私が目覚めるのは昼近くだから当然彼は起きて働いていた。
働いていた? そうよ、彼は働き者でだから私はいつも一人で食事をしていた。
だけど、それは彼が忙しかったから? 本当にそれだけだったのか思い出せない。
結婚したばかりのころも私は一人で目覚めて、一人で食事をしていた。
結婚前も両親と食事をとるのはまれだったから、そんなものだと思っていた。淋しいけれどそれが普通だと。
……そうだった? 夫と子供達はどうだったのだろう。
それぞれがバラバラに? わからない。
思い出せない、私はすべてを思い出したわけではないのだろうか。
「ミルフィ様?」
「……ミルフィの魔力ぐるぐるになる?」
ガスパール先生は、なんの反応も示さない私を困った様な顔で見ていたから、私は慌てて怯えた振りをする。
ガスパール先生の声は聞こえていたというのに、ベッドでの朝食の時間が、なぜか辛く感じてしまい私は自分の考えに没頭していたのだ。
「怖いのであれば、魔法を使えませんよ」
ガスパール先生の診察で、私が現在魔法を使える体力があると診断された。今朝は食事の量も問題ないし、念の為魔物蜜蜂蜜と魔物の鳥の卵をたっぷりと使った焼き菓子が用意されている。
この状況で怖いと私が言うのは、我儘でしかない。そしてガスパール先生の隣に立つキム先生の言うのは当然のことだ。
私が自分から魔法を使うと言い出したのに、魔力を流すのすら怖いのならその先には進めない。
「つ、使えるっ! ミルフィ使えるの!」
「それでは私に魔力を少しずつ流してくださいませ。焦らなければ何も心配はありませんからね」
ガスパール先生は私を安心させようとしているのか、笑顔で手を私に差し出す。
「魔力、流す」
先生の手を両手で握る。
先生の手が温かく感じるのは私の手が冷えているからなのか、それすらわからない。
「流す、魔力」
前回の私が苦手だった魔力操作。
キム先生の授業では、上手く制御出来ずに終わってしまったけれど、ここで失敗したら私が兄様を治療したいと言ってもお父様は二度と許してはくれないだろう。
今の試しだって、お父様はどうせ失敗すると思っているから許可しただけだ。
お父様は、私を信じてはいないのだから。
「ほお、お上手ですよ、同じ量の魔力が流れています」
「魔力を流すのを止められますか?」
「止める、止める」
キム先生の指示に従い魔力を流すのを止める。
「ふむ、ミルフィ様は魔力が多いのでしたかな」
「ええ、それに……」
何を話しているのか、キム先生はガスパール先生の耳に何か囁いている。
「なんと。ミルフィ様滋養魔法と強壮魔法使い方はわかりますかな?」
「じようまほう、きょーしょうまほう、出来るよ。夢でおしえてもらった魔法なの」
体が幼い私は強壮が上手く言えない。
「では、滋養魔法を私に使ってみて下さいませ。ええと魔石は……」
「魔石いらないの」
魔石を使ったやり方では、兄様に気軽に何度も使えないから駄目だ。
いくらこの家が裕福でも、限度がある。
兄様の体を強くするには、前回の私の様に一日に何度も魔法を掛けなければならない。
「弱く何度もかけるの、そうしないといけないって」
「魔石を使わない場合、ミルフィ様の魔力を使う様になるのですよ。それはミルフィ様の負担が大き過ぎますよ」
ガスパール先生の心配は予想していた。
前回のどうしようもない私を最後まで見捨てずにいてくれたガスパール先生だ、幼い私を心配して当然だ。
「魔石つかうのならったけど、ミルフィ自分のまりよくのしかできないの。ごめんなさい」
ガスパール先生の言葉を理解していないふりをして、魔石が使えないと駄目なのかと勘違いし落ち込んだ振りをしながら、二人の反応を見る。
「……まずは試してみましょう」
「ためす?」
「魔法を使って良いというのとですよ。ミルフィ様ガスパール先生に魔法を使ってみて下さい」
試すという言葉が理解できない振りをしている私に、キム先生が優しく教えてくれる。
前回の私の近くにもキム先生がいてくれたら、何かが変わっただろうか。
今更どうしようもないことを思いながら、私はガスパール先生に滋養魔法をかけ始めた。
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