後悔はなんだった?

木嶋うめ香

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おかしな言動3

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「旦那様、料理人が魔牛の乳か魔鶏の卵を使った料理であれば、魔牛の乳で作ったチーズと魔鶏の卵でオムレツを作ってはどうかと言っています。お時間を頂けるのであればプリン等も作れます。こちらの甘みに魔蜜蜂の蜜を使ってはどうかと」
「おお、それはいいですね。魔蜜蜂の蜜も魔牛の乳のチーズもとても魔力が濃厚なものです。肉を食べたのと同等の魔力を摂取出来ます」

 キム先生が嬉しそうな反応を見せたけれど、私はチーズがあまり好きでは無い。
 どちらかいえば甘いプリンの方が嬉しいけれど、そんな我儘は多分言ってはいけないだろう。

「そうか、ではミルフィにそのオムレツを作り、お茶の時間にも何か作ってやって欲しい」
「畏まりました。オムレツはミルフィ様の分だけお作りすればいいでしょうか」
「はい、私も頂きたいです。セドリック様の分も是非」

 喜々としてキム先生が答える。

「畏まりました。すぐにお作り致しますので少々お時間を頂きます。旦那様、魔物の食材ですと比較的魔鶏の胸肉の冷製は癖が無く食べやすいのではないかと料理人が申しております。こちらはすぐにご用意出来ますが如何でしょうか」
「魔鶏の胸肉、いいですねぇ。私は是非頂きたいですし、ミルフィ様は今後の為にも魔物肉を食べる習慣をつけた方がいいでしょう。魔牛や魔豚よりも魔鶏の方がくせがありませんから魔物肉に慣れるにはいいと思いますよ。更に迷宮産のバジルかレモンがあると尚いいですね」
「バジルはございませんが、迷宮産のレモンは魔蜜蜂の蜜で漬けたものがございます」
「では肉のソースをそのレモンを刻んでお願いします」

 キム先生は料理も出来るのだろうか、かなり細かい指示を給仕にしている。
 私は苦手な魔物肉を食べないといけないというだけで、少し調子が悪くなって来た気がする。

「ミルフィ様、パンはもう一つお召し上がりになりますか?」
「うううん。オムレツがあるなら、パンはもういいの」
「畏まりました。……旦那様、オムレツの前にこちらはお召し上がり頂いた方がいいでしょうか」

 パティはミルフィの前に置いてある朝食について、お父様に確認している。
 日頃のミルフィなら、これだけでお腹いっぱいになるからだろう。

「そうだな、ミルフィ食べられるだけ食べておきなさい。先生の予想通り魔力暴走の後遺症ならすべて食べられるのだろう。いい確認材料になる」
「畏まりました。ではミルフィ様サラダからどうぞ」
「うん」

 嫌いな野菜が入っていないのは、ミルフィの体調を加味してなのだろう。
 
「ミルフィ、果汁飲みたい」

 少し離れた場所に置いてある果汁が注がれたコップをパティに取ってもらい、ごくごくと喉を鳴らし飲み干してしまう。なんだか喉の渇きが酷かった。

「まあ、ミルフィ様飲み干してしまわれたのですか?」
「もっと飲みたいの」
「ミルフィ様喉も渇いていらっしゃるのですね。侯爵後遺症はかなり酷い様です。喉の渇きを訴えるというのは、酷い後遺症に良く見られる症状です」

 酷い後遺症かどうか分からないけれど、喉が渇いて仕方がないのは本当だ。
 パティが果汁を新たにカップに注いでくれて、それを三度繰り返して喉の渇きはだいぶ良くなってきた。
 やっと食事に集中出来る。
 サラダを食べ、スープを飲み干した頃、給仕が魔鶏の胸肉の冷製を運んできてそれも全部食べてしまった。
 それから焼いた燻製肉と卵を食べてしまったが、それでも足りない。
 もっともっと食べたくて、パティにパンを頼もうかと考えていた時にやっと給仕がオムレツを運んで来た。

「お待たせ致しました。魔鶏の卵と魔牛チーズのオムレツでございます。迷宮産トマトのソースをオムレツにかけてお召し上がりください」
「おおこれは美味しそうですね」

 キム先生が喜びの声を上げるけれど、その反応を見ている余裕は無かった。
 すんとオムレツの匂いを吸い込んだ途端、どうしようもない飢えを感じてしまった。

「オムレツ食べる」

 品が無いと眉を顰めたくなる程たっぷりとトマトのソースをオムレツにかけて、ソースに溺れそうになっているオムレツをそっとフォークで掬う。
 一口食べたらもう駄目だった、日頃気になる臭みが全く気にならない。
 美味しくて、美味し過ぎて夢中でフォークを動かした。
 行儀なんて考える暇なんて無かった。

「ミルフィ?」
「これはいけない。オムレツを五つ急いで作って来てくれ。ソースも忘れずに。それから冷製肉もあるだけ持って来てくれ」

 キム先生が給仕に出している指示も気にならない。
 お皿に残ってソースを舐めたくてたまらなくなりながら、それだけは必死に我慢した。

「お待たせしました。追加のオムレツと魔鶏の冷製肉でございます」

 異常な食欲を抑えきれず、私は限界を遥かに超えて食べ続けた。
 キム先生も私の目の前で次々と皿を空にしている。
 だから私は安心して、自分も食べ続けられた。
 良く考えたら、私の年齢でこんなに食べるのは異常でしかないと思ったけれど、そう思った時にはすべてが遅かったのだった。
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