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おかしな言動1
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「ミルフィ、今日は嫌いなものは入っていないだろう? 食欲が無いのかな」
お父様の声に、私は止まっていた手を慌てて動かし始めた。
昨日はあのまま眠ってしまって、気がつけば自分のベッドの中で朝を迎えていた。
お腹はとても空いていたけれど、体が怠い。
本当は寝ていたかったけれど、昨日の失態を挽回しないといけないから無理矢理に目を開けて着替えを済ましパティに手を引かれて食堂まで歩いた。
「ごめんなさい」
行儀よく、背筋を伸ばしてスプーンでスープをすくい口へと運ぶ。
玉ねぎと芋を柔らかく牛乳で煮て裏漉ししたスープは、口当たりが滑らかだ。
いつもなら大嫌いなパセリが細かく刻まれスープの上に散らばっているけれど、今日はそれは無かった。
もしかすると料理人が忘れたのかもしれない、今はもう食べられた後の様だけれど兄様のスープには緑色のものが浮かんでいたと思う。
料理人の失態は兎も角、心身共に調子が悪い私にとって今日の朝食は有難い。
卵はバターを沢山使っているのかふんわりと焼かれていて燻製肉をカリカリに焼いたものが添えられているし、サラダの中にも嫌いな野菜は入っていない。パンには甘いジャムがこんもりと盛られている。
「謝らなくていい、具合が悪いのではないか」
「な、何も」
食べ始めてから手が止まっていたのは、考え事をしていたせいだ。
両親と兄様の顔をどんな風に見たらいいのか分からなくて、冷たい目をしてこちらを見ているのではないかと考えたらもう駄目だった。
だから兄様の前に並べられた朝食に視線を向けながら考えていた、今日は絶対に失敗は出来ないと。
そうでなければ、私は昨日以上に両親に失望されてしまう。
「昨日ミルフィ沢山寝たから、いっぱい食べられるの」
スープを口に運び始めたら、急に空腹を感じて来たのは本当だ。
そういえば、昨日は眠っていたせいで夕食を取っていなかった。
体が怠くて、気持ちが落ち込んでいて食欲を感じていなかったけれど、体は食事を求めていた様だ。
「ミルフィは夕食を食べていなかったものね」
「ミルフィ、お腹すいてたの?」
スープを飲みながら、パティが一口大に千切ってジャムを付けてくれたパンを受け取り食べる。
キム先生は、私がパンを一切れ食べ終わる前にパン一つ食べ終えそうな勢いで食べている。
魔法使いは健啖家というのは、以前の私も聞いた噂だけれどキム先生を見ているとそれは本当の様だ。
「ミルフィ様、頭痛などはありませんか?」
「頭痛?」
私がキム先生を見ていたと気が付いたのか、いきなり尋ねられて聞き返してしまう。
質問を答えずに聞き返すのは、あまり行儀が良い行いではないと礼儀作法の授業でジョゼットに習ったばかりだというのに、私はまた失敗してしまった。
「頭痛という言葉が難しかったですね。申し訳ありません、ミルフィ様。頭は痛くございませんか」
「頭痛くない……と思うけ……」
どうしよう。起きた時に身体が怠かったと言った方がいいのだろうか。
私は昨日魔力の操作が上手く行かずに、多分倒れた。
以前の私は経験がなかったけれど、あれはもしかすると魔力暴走をしかけていたのかもしれない。
それをキム先生が助けてくれて、私の幼い体は急激な魔力の変化に耐えきれず気を失ってしまった。
そう考えると私の体の怠さは魔力暴走の影響だから、魔法の師であるキム先生に状態を伝えるのは正しい行いだ。
「何か気になる事がありますか」
キム先生はあまり表情が変わらないけれど、私を心配している様に見える。
「ミルフィ、いっぱい歩いた時みたいなの」
怠いなんて言葉を幼いミルフィは知らない。
「ミルフィ、その時はジョゼットに抱っこしてもらうの」
これで意味が通じただろうか、分からなくてフォークで卵をすくい口に入れる。
理路整然と話すわけにはいないけれど、あまり変な物言いをしたらお父様達が失望しないだろうか、不安でつい視線を下に向けてしまう。
「ええと、侯爵夫人これは」
「発言をお許しいただけますでしょうか」
戸惑ったようなキム先生を見かねたのか、私の横に控えていたパティがお父様へと口を開く。
「ああ、許す。ミルフィが何を言いたいか説明出来るか」
「はい。ミルフィ様はまだ体力があまりございませんので長く歩かれるとお疲れになり、眠気を催されますから母が抱き上げております。お嬢様は先程目を覚められた直後お疲れのご様子でしたので、推測ではございますが今も体がとても疲れている様に感じていると仰りたいのではないかと」
「ミルフィ、疲れているの? 体が重く感じる? それとも眠いのを我慢しているの?」
兄様はパティの発言の後、すぐに私を案じる様に尋ねてくる。
「ミルフィ眠くないの。スープ美味しいの。卵も」
「でも疲れを感じているのだろう」
「食べたら違うみたい? ミルフィお腹空いてたのかな」
お腹が空いたなんて、感じたことあっただろうか。
その辺りの記憶があやふやだけれど、疲れているなら魔法の授業を休みなさいとお父様に言われかねないから慌てて否定する。
今日こそは完璧に、魔力操作が出来る様にならなければいけない。
そうしなければ、きっとまた二人に呆れられてしまう。
二人? あの時あの部屋に兄様とキム先生はいなかったのだろうか。
「魔力暴走をしかけたのですから、酷い空腹を感じてもおかしくはありません。過度な空腹を疲れと誤認されているのかもしれませんね」
「そうなのか? 私は魔力暴走を起こしたことはないから分からないが、ガスパール先生に診ていただかなくても問題は無いのだな」
「ええ、食欲はある様ですから、今日も魔力操作の練習をしてもいいでしょう。むしろミルフィ様は早く魔力操作が出来る様になった方が今後を考えるとよろしいかと」
それはどういう事だろう、私が愚かだから、役立たずだから勉強させないといけないということだろうか。
「そうか。でも無理をさせる事は」
「その辺りは十分気を付けますので、セドリック様は体調は如何ですか」
「熱はありませんので、僕の授業もお願いします」
背筋を伸ばしキム先生にそう告げる兄様の姿に、私は自分の出来の悪さを再認識する。
「ミルフィ、ミルフィも授業お願いしましゅっ! ミルフィ、頑張るにょっ」
なぜ焦ると語尾がおかしくなるのだろう、真剣に訴えているのに全員に微笑まれてしまい泣きたくなる。
私は話すことすら満足に出来ない、出来損ないだと泣きたくてたまらなかった。
お父様の声に、私は止まっていた手を慌てて動かし始めた。
昨日はあのまま眠ってしまって、気がつけば自分のベッドの中で朝を迎えていた。
お腹はとても空いていたけれど、体が怠い。
本当は寝ていたかったけれど、昨日の失態を挽回しないといけないから無理矢理に目を開けて着替えを済ましパティに手を引かれて食堂まで歩いた。
「ごめんなさい」
行儀よく、背筋を伸ばしてスプーンでスープをすくい口へと運ぶ。
玉ねぎと芋を柔らかく牛乳で煮て裏漉ししたスープは、口当たりが滑らかだ。
いつもなら大嫌いなパセリが細かく刻まれスープの上に散らばっているけれど、今日はそれは無かった。
もしかすると料理人が忘れたのかもしれない、今はもう食べられた後の様だけれど兄様のスープには緑色のものが浮かんでいたと思う。
料理人の失態は兎も角、心身共に調子が悪い私にとって今日の朝食は有難い。
卵はバターを沢山使っているのかふんわりと焼かれていて燻製肉をカリカリに焼いたものが添えられているし、サラダの中にも嫌いな野菜は入っていない。パンには甘いジャムがこんもりと盛られている。
「謝らなくていい、具合が悪いのではないか」
「な、何も」
食べ始めてから手が止まっていたのは、考え事をしていたせいだ。
両親と兄様の顔をどんな風に見たらいいのか分からなくて、冷たい目をしてこちらを見ているのではないかと考えたらもう駄目だった。
だから兄様の前に並べられた朝食に視線を向けながら考えていた、今日は絶対に失敗は出来ないと。
そうでなければ、私は昨日以上に両親に失望されてしまう。
「昨日ミルフィ沢山寝たから、いっぱい食べられるの」
スープを口に運び始めたら、急に空腹を感じて来たのは本当だ。
そういえば、昨日は眠っていたせいで夕食を取っていなかった。
体が怠くて、気持ちが落ち込んでいて食欲を感じていなかったけれど、体は食事を求めていた様だ。
「ミルフィは夕食を食べていなかったものね」
「ミルフィ、お腹すいてたの?」
スープを飲みながら、パティが一口大に千切ってジャムを付けてくれたパンを受け取り食べる。
キム先生は、私がパンを一切れ食べ終わる前にパン一つ食べ終えそうな勢いで食べている。
魔法使いは健啖家というのは、以前の私も聞いた噂だけれどキム先生を見ているとそれは本当の様だ。
「ミルフィ様、頭痛などはありませんか?」
「頭痛?」
私がキム先生を見ていたと気が付いたのか、いきなり尋ねられて聞き返してしまう。
質問を答えずに聞き返すのは、あまり行儀が良い行いではないと礼儀作法の授業でジョゼットに習ったばかりだというのに、私はまた失敗してしまった。
「頭痛という言葉が難しかったですね。申し訳ありません、ミルフィ様。頭は痛くございませんか」
「頭痛くない……と思うけ……」
どうしよう。起きた時に身体が怠かったと言った方がいいのだろうか。
私は昨日魔力の操作が上手く行かずに、多分倒れた。
以前の私は経験がなかったけれど、あれはもしかすると魔力暴走をしかけていたのかもしれない。
それをキム先生が助けてくれて、私の幼い体は急激な魔力の変化に耐えきれず気を失ってしまった。
そう考えると私の体の怠さは魔力暴走の影響だから、魔法の師であるキム先生に状態を伝えるのは正しい行いだ。
「何か気になる事がありますか」
キム先生はあまり表情が変わらないけれど、私を心配している様に見える。
「ミルフィ、いっぱい歩いた時みたいなの」
怠いなんて言葉を幼いミルフィは知らない。
「ミルフィ、その時はジョゼットに抱っこしてもらうの」
これで意味が通じただろうか、分からなくてフォークで卵をすくい口に入れる。
理路整然と話すわけにはいないけれど、あまり変な物言いをしたらお父様達が失望しないだろうか、不安でつい視線を下に向けてしまう。
「ええと、侯爵夫人これは」
「発言をお許しいただけますでしょうか」
戸惑ったようなキム先生を見かねたのか、私の横に控えていたパティがお父様へと口を開く。
「ああ、許す。ミルフィが何を言いたいか説明出来るか」
「はい。ミルフィ様はまだ体力があまりございませんので長く歩かれるとお疲れになり、眠気を催されますから母が抱き上げております。お嬢様は先程目を覚められた直後お疲れのご様子でしたので、推測ではございますが今も体がとても疲れている様に感じていると仰りたいのではないかと」
「ミルフィ、疲れているの? 体が重く感じる? それとも眠いのを我慢しているの?」
兄様はパティの発言の後、すぐに私を案じる様に尋ねてくる。
「ミルフィ眠くないの。スープ美味しいの。卵も」
「でも疲れを感じているのだろう」
「食べたら違うみたい? ミルフィお腹空いてたのかな」
お腹が空いたなんて、感じたことあっただろうか。
その辺りの記憶があやふやだけれど、疲れているなら魔法の授業を休みなさいとお父様に言われかねないから慌てて否定する。
今日こそは完璧に、魔力操作が出来る様にならなければいけない。
そうしなければ、きっとまた二人に呆れられてしまう。
二人? あの時あの部屋に兄様とキム先生はいなかったのだろうか。
「魔力暴走をしかけたのですから、酷い空腹を感じてもおかしくはありません。過度な空腹を疲れと誤認されているのかもしれませんね」
「そうなのか? 私は魔力暴走を起こしたことはないから分からないが、ガスパール先生に診ていただかなくても問題は無いのだな」
「ええ、食欲はある様ですから、今日も魔力操作の練習をしてもいいでしょう。むしろミルフィ様は早く魔力操作が出来る様になった方が今後を考えるとよろしいかと」
それはどういう事だろう、私が愚かだから、役立たずだから勉強させないといけないということだろうか。
「そうか。でも無理をさせる事は」
「その辺りは十分気を付けますので、セドリック様は体調は如何ですか」
「熱はありませんので、僕の授業もお願いします」
背筋を伸ばしキム先生にそう告げる兄様の姿に、私は自分の出来の悪さを再認識する。
「ミルフィ、ミルフィも授業お願いしましゅっ! ミルフィ、頑張るにょっ」
なぜ焦ると語尾がおかしくなるのだろう、真剣に訴えているのに全員に微笑まれてしまい泣きたくなる。
私は話すことすら満足に出来ない、出来損ないだと泣きたくてたまらなかった。
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