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授業を終えて4(キム先生視点)
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「ミルフィ様の詳細検査の結果を申し上げます。魔力は最大、現在の魔力量は大。精神力大ですが、現在の精神力は最小、生命力は大、現在の生命力は中です。そして現在覚えていらっしゃる魔法ですが……」
「魔法を覚えているというのは、怪我を治すものだな」
侯爵の質問は、ミルフィ様が無意識に傷を治しているからだろう。
確かに、私もそれだけを覚えているのだと考えていた。
だが、現実は違う。
「怪我を治療する魔法は覚えていらっしゃいますが、その他にもいくつか、結果は後で紙に書いてお渡ししますがかなり多いですね」
こんな事あるだろうか。
基本の治癒魔法と回復魔法は中位、下位をすでにいくつか覚えている。治癒魔法を使う為の補助魔法の名前もあるし、怪我を治すに特化した怪我治癒魔法だけ、上位まで覚えている。
侯爵家の家系は魔法使いの才能に優れているのは、セドリック様とミルフィ様のどちらも魔力量が高い事からも推測できる。
だが、セドリック様は何も魔法を覚えてはいなかった。
魔法の勉強をする前から、魔法をいくつか覚えている人というのは確かに存在する。
だがその場合、現在の魔力量と精神力どちらも高いのが殆どだ。
ミルフィ様は現在の魔力量に対して精神力が低すぎる。
魔力暴走を起こしたばかりで気を失っているとはいえ、この精神力は低すぎる。
これでは先程魔力暴走を起こしたのも分かる、魔力量と精神力の釣り合いが取れていなさ過ぎるのだ。
「何故そんなに魔法を? そんな事があり得るのですか」
セドリック様は、自分よりもミルフィ様を心配しているように見える。
この位の年齢であれば、自分より年下の者の能力が高いと言われたら不満を持ってもおかしくないというのに、セドリック様にその様子は見えない。
「今行ったものより更に詳しく調べる為には、宮廷魔法師団の中にある魔導具が必要です。それで調べる事も出来ますが今以上の血が必要ですから、針ではなくナイフで腕辺りを切らないとなりませんから、ミルフィ様には難しいでしょう。ですからどの程度使いこなせるのか魔導具では調べられませんが、治癒魔法を実際使ってというのも難しいですね」
「何故ですか」
「健康な者に治癒魔法を使っても効果は分かりません、治癒院等なら患者はいくらでもいるでしょうが、幼いミルフィ様にそこで治癒魔法を使わせるわけには行きません」
こんな幼い子供が上位の魔法を使えるとなれば、王家が放っておかないだろう。
何せ魔力量が最大まで増える可能性があるし、魔法の訓練を幼い頃から始める上に、最低限の魔法はもう覚えているのだから、王家専用の治癒師として王子の婚約者にしてしまおうと動く可能性だって出てくるだろう。
何せミルフィ様は裕福で知られる侯爵家のご令嬢だ。
「そんなことさせられるわけがない。ミルフィが道具扱いされかねん。先生このことは」
「分かっております。誰にも話しません。ガスパール先生は信用出来る方ですが、どうしますか」
「ガスパール先生なら悪いようにはされないでしょうが、それ以外の者に知られたら、ミルフィが狙われてしまう」
治癒魔法の使い手が育つには、かなり時間が掛かる。
平民は元々魔力量が低く、貴族は余程の理由が無ければ訓練を熱心にはしない。
簡易検査だけならミルフィ様も魔力は中としか分からないし、覚えている魔法等も簡易検査では分からないから高位貴族家の令嬢なら社交に困らない程度に使えれば良い程度にしか考えないだろう。
男性なら貴族でも迷宮に入ることも、外で魔物を狩ることもする可能性は多いにあるけれど、令嬢は殆ど屋敷の中にいるのだから本人か父親が強い思い入れがあって魔法の訓練をしでもしない限り、魔法使いや治癒師になることはない。
「ミルフィが狙われる?」
「物理的には無く婚約相手としてですね」
「王家か神殿、王家なら王子の婚約者、神殿なら聖女」
セドリック様と私の問いかけに、侯爵は眉間に皺を寄せ答えてくれる。
そうだ、聖女の可能性もあるのか。
「ミルフィの場合は家庭教師の虐待が魔法を覚えた理由だろうが、そんな事誰も思わないだろう。だとしたら考えるのはミルフィの魔法使いとしての才能だ」
「幼い頃にこれだけ覚えているなら、大人になればもっと凄い魔法を使えるようになるだろう、きっと誰もがそう考えることでしょう」
実際はどうか分からないけれど、少なくともミルフィ様には魔力量が宮廷魔法使い並みに増える可能性はある。
治癒師の能力に傾いているものは、攻撃魔法が使えないものが殆どだけれど、上手く育てば神殿も王家にも都合がいい浄化や解毒の上位魔法も覚えられる様になるかもしれないのだから、早めに確保したいと考えるだろう。
「聖女とは、物語に出てくる?」
「いいや、治癒魔法や浄化等の上位魔法が使える者を聖人や聖女と呼ぶんだよ。そうなってしまえば家とは切り離されて神殿の最奥に連れ去られてしまうだろう」
「家と切り離される? ミルフィが妹じゃ無くなる?」
みるみるセドリック様の顔が青くなっていくから、私はとっさにセドリック様の手を掴み魔力を診た。
暴走はしていないけれど、手は冷たくかなり魔力が乱れている。
「セドリック様落ち着いて、深呼吸してください」
「キム先生?」
「数年です、数年隠し続けれられればミルフィ様の能力は目立たなくなります。本人もある程度大きくなれば周囲から隠すことも出来るでしょう」
「守れる?」
何度も何度も深呼吸しながら、セドリック様は私を縋るように見つめている。
私は安心させる様に笑顔のまま、セドリック様の魔力を無理矢理に整える。
「ええ、守れますとも」
やっと温度が戻ってきた小さな手を掴み、セドリック様の魔力の動きを調節しながら、私は面倒なことになったと内心舌打ちしたい気持ちでいっぱいだった。
「魔法を覚えているというのは、怪我を治すものだな」
侯爵の質問は、ミルフィ様が無意識に傷を治しているからだろう。
確かに、私もそれだけを覚えているのだと考えていた。
だが、現実は違う。
「怪我を治療する魔法は覚えていらっしゃいますが、その他にもいくつか、結果は後で紙に書いてお渡ししますがかなり多いですね」
こんな事あるだろうか。
基本の治癒魔法と回復魔法は中位、下位をすでにいくつか覚えている。治癒魔法を使う為の補助魔法の名前もあるし、怪我を治すに特化した怪我治癒魔法だけ、上位まで覚えている。
侯爵家の家系は魔法使いの才能に優れているのは、セドリック様とミルフィ様のどちらも魔力量が高い事からも推測できる。
だが、セドリック様は何も魔法を覚えてはいなかった。
魔法の勉強をする前から、魔法をいくつか覚えている人というのは確かに存在する。
だがその場合、現在の魔力量と精神力どちらも高いのが殆どだ。
ミルフィ様は現在の魔力量に対して精神力が低すぎる。
魔力暴走を起こしたばかりで気を失っているとはいえ、この精神力は低すぎる。
これでは先程魔力暴走を起こしたのも分かる、魔力量と精神力の釣り合いが取れていなさ過ぎるのだ。
「何故そんなに魔法を? そんな事があり得るのですか」
セドリック様は、自分よりもミルフィ様を心配しているように見える。
この位の年齢であれば、自分より年下の者の能力が高いと言われたら不満を持ってもおかしくないというのに、セドリック様にその様子は見えない。
「今行ったものより更に詳しく調べる為には、宮廷魔法師団の中にある魔導具が必要です。それで調べる事も出来ますが今以上の血が必要ですから、針ではなくナイフで腕辺りを切らないとなりませんから、ミルフィ様には難しいでしょう。ですからどの程度使いこなせるのか魔導具では調べられませんが、治癒魔法を実際使ってというのも難しいですね」
「何故ですか」
「健康な者に治癒魔法を使っても効果は分かりません、治癒院等なら患者はいくらでもいるでしょうが、幼いミルフィ様にそこで治癒魔法を使わせるわけには行きません」
こんな幼い子供が上位の魔法を使えるとなれば、王家が放っておかないだろう。
何せ魔力量が最大まで増える可能性があるし、魔法の訓練を幼い頃から始める上に、最低限の魔法はもう覚えているのだから、王家専用の治癒師として王子の婚約者にしてしまおうと動く可能性だって出てくるだろう。
何せミルフィ様は裕福で知られる侯爵家のご令嬢だ。
「そんなことさせられるわけがない。ミルフィが道具扱いされかねん。先生このことは」
「分かっております。誰にも話しません。ガスパール先生は信用出来る方ですが、どうしますか」
「ガスパール先生なら悪いようにはされないでしょうが、それ以外の者に知られたら、ミルフィが狙われてしまう」
治癒魔法の使い手が育つには、かなり時間が掛かる。
平民は元々魔力量が低く、貴族は余程の理由が無ければ訓練を熱心にはしない。
簡易検査だけならミルフィ様も魔力は中としか分からないし、覚えている魔法等も簡易検査では分からないから高位貴族家の令嬢なら社交に困らない程度に使えれば良い程度にしか考えないだろう。
男性なら貴族でも迷宮に入ることも、外で魔物を狩ることもする可能性は多いにあるけれど、令嬢は殆ど屋敷の中にいるのだから本人か父親が強い思い入れがあって魔法の訓練をしでもしない限り、魔法使いや治癒師になることはない。
「ミルフィが狙われる?」
「物理的には無く婚約相手としてですね」
「王家か神殿、王家なら王子の婚約者、神殿なら聖女」
セドリック様と私の問いかけに、侯爵は眉間に皺を寄せ答えてくれる。
そうだ、聖女の可能性もあるのか。
「ミルフィの場合は家庭教師の虐待が魔法を覚えた理由だろうが、そんな事誰も思わないだろう。だとしたら考えるのはミルフィの魔法使いとしての才能だ」
「幼い頃にこれだけ覚えているなら、大人になればもっと凄い魔法を使えるようになるだろう、きっと誰もがそう考えることでしょう」
実際はどうか分からないけれど、少なくともミルフィ様には魔力量が宮廷魔法使い並みに増える可能性はある。
治癒師の能力に傾いているものは、攻撃魔法が使えないものが殆どだけれど、上手く育てば神殿も王家にも都合がいい浄化や解毒の上位魔法も覚えられる様になるかもしれないのだから、早めに確保したいと考えるだろう。
「聖女とは、物語に出てくる?」
「いいや、治癒魔法や浄化等の上位魔法が使える者を聖人や聖女と呼ぶんだよ。そうなってしまえば家とは切り離されて神殿の最奥に連れ去られてしまうだろう」
「家と切り離される? ミルフィが妹じゃ無くなる?」
みるみるセドリック様の顔が青くなっていくから、私はとっさにセドリック様の手を掴み魔力を診た。
暴走はしていないけれど、手は冷たくかなり魔力が乱れている。
「セドリック様落ち着いて、深呼吸してください」
「キム先生?」
「数年です、数年隠し続けれられればミルフィ様の能力は目立たなくなります。本人もある程度大きくなれば周囲から隠すことも出来るでしょう」
「守れる?」
何度も何度も深呼吸しながら、セドリック様は私を縋るように見つめている。
私は安心させる様に笑顔のまま、セドリック様の魔力を無理矢理に整える。
「ええ、守れますとも」
やっと温度が戻ってきた小さな手を掴み、セドリック様の魔力の動きを調節しながら、私は面倒なことになったと内心舌打ちしたい気持ちでいっぱいだった。
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