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初めての魔法の授業1
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「初めまして、私はキム・ブリーンクと申します。お二人の魔法をお教えする為参りました」
魔法を教えてくれる人が来るからと、私と兄様は応接室のソファーに座って待っていた。
どんな人が来るのだろう、以前の私に教えに来てくれたのは神殿に勤めている治癒師だった。
不真面目な私を怒ることなく教えてくれた人だけど、同じ人がだろうか。
考え込む私を兄様は心配そうに見ていて、そんな私達をよそに部屋の扉は開かれてお父様と一緒に知らない人が入って来た。
「よろしくお願いします」
よろしくと言いながら不愛想という言葉を絵にした様な顔で目の前に立っているのは、灰色の長い髪をした背の高い男性だった。
ブリーンクという名前は聞き覚えがある。
以前の私が結婚した頃、確か若くして宮廷魔術師長となった方の名前がブリーンク伯爵家の三男だった筈だ。
「私はセドリック・スフィールです。こちらは妹のミルフィーヌです。どうぞよろしくお願い致します」
「ミルフィーヌ・スフィールです。どうぞよろしくお願い致します」
私達はソファーから立ち上がり挨拶を始めた。
この国の初対面の挨拶は、誰かに紹介された後なら今の様に名前と家名を名のり、そうでなければスフィール侯爵家長女のミルフィーヌです。といった風に挨拶をする。
今私達の横に両親が揃っているけれど、私達はお父様達からブリーンク様に「子供達です」としか紹介されていない。けれどこういう場合は今の挨拶でいいのだろう。
私は以前の時も挨拶が苦手だった。
真面な淑女教育を受けていなかったのだから仕方がないと言えばそうだけれど、淑女の礼も下手だったしダンスも下手だった。
今更だとは思うけれど、以前の私は侯爵家の恥でしか無かったと思う。
「ミルフィーヌお嬢様、如何なさいました」
以前の自分の酷い挨拶を思い出し落ち込んでいると、ブリーンク様が首を傾げてこちらを見ていた。
「あ、あの。ブリーンク先生が魔法の先生なのですか?」
意識して、私は三歳児の振りをしながらぼんやりしていた理由をうやむやにした。
ガスパール先生が私を試してから、すでに一ヶ月以上経っている。
私が何故魔法を無意識に魔法を使っていたのか、それを周囲がどうやって知ったのか、三歳の私と五歳の兄様に魔法を教える師を探すにはその事情を話さなければならず、そうなると頼める人は簡単には見つけれらなかった。
そんな話を昨日の夕食の席で教えられ、私は理解しながら分からない振りをしなければならなかった。
「先生? 私ですか」
「勉強を教えてくれるのは、先生って言うよね?」
兄様の顔を見て聞くと、そうだねと頷いてくれる。
「そうですか、先生と言われる程ではありませんが、それではキム先生と呼んで頂ければ幸いです。ミルフィーヌお嬢様」
「キム先生、ミルフィはミルフィって皆呼ぶの」
三歳児の振りはどの程度にしたらいいのか毎日悩む、なにせ周囲にいる子供は兄様だけだからそれならもう少し上手に話せても良い様に思う。
けれど、兄様はとても五歳には見えない程聡明だから、平凡そのもののミルフィーヌが同じく話をしたら不自然な気がする。
「ではミルフィお嬢様」
「はい」
「お嬢様は、魔法をご覧になった事はございますか」
まだソファーに座りもせず、全員立ったままキム先生は私に尋ねた。
どうしよう、キム先生はガスパール先生みたいに難しい言い方を子供にもする方の様だ。
これはこのまま反応してはいけない気がして、私は兄様の顔を見る。
「ミルフィ、どうしたの」
「お兄ちゃま、魔法?」
「あ、ああそうか。キム先生。僕達は熱を出した時に治癒魔法を受けています」
「それはミルフィお嬢様もですか」
「はい」
「でも、ミルフィお嬢様はそれが魔法だと分かっていらっしゃらない?」
兄様が何を言いたいのか、キム先生には理解出来ない様だ。
私と兄様の顔を交互に見て、その後面白そうに私達を見ているお父様の方へとキム先生は顔を向けた。
「キム先生、まずはどうぞお掛け下さい」
「え、ああそうですね。立ち話は失礼でしたね。興味深いお話を頂いたもので、気がせいてしまいました」
口調がまったく表情と合っていないキム先生は、いそいそとソファーに腰を下ろすとすぐにまた口を開いた。
「ミルフィお嬢様、魔法はどんなものかお分かりになりませんか」
「キム先生。ミルフィは治癒魔法は多分理解していますが、先生が仰った『魔法をご覧になる』という言葉の意味は理解出来ていない様です」
兄様は、五歳とは思えない口調で私の理解度を説明した。
「と言いますと」
「ミルフィ、妹はまだ三歳ですから難しい言葉はさすがに理解出来ません」
それは五歳でも変わらないと私は思うけれど、兄様は大人と対等に会話出来るだけの理解力がある様だ。
それをお父様もお母様もおかしいとは思っていない様に見える。
兄様が賢い子供だと分かっているから当たり前だと思っているのか、それとも侯爵家の跡継ぎへの教育が兄様を個の様にしたのかどちらなのか分からないけれど、この屋敷内で兄様の言動が子供の様に見えないと疑問に思っている人はいない様だ。
「成程、失礼しました。セドリック様はご理解されている?」
「はい、辛うじて理解しています。でも僕もまだ五歳ですから、少し簡単な言葉で話して頂けたらと思います」
十分に兄様は大人と会話が出来ると思う。
幼いミルフィの思考に引きずられつつある私に比べたら、兄様はすでに五歳にして大人だ。
「成程。あまり子供と話をしたことが無いもので、分からない言葉は遠慮なく聞いて頂ければ」
「はい、よろしくお願いします」
「それで、ミルフィお嬢様は治癒魔法はお分かりになるのですね」
「ミルフィ、魔法……」
魔法の練習は今すぐにでも始めたい。その気持ちは勿論あるのだけれど、ガスパール先生が使った魔法で自分の両腕に現れた傷の衝撃が強すぎて、私は魔法という言葉であの傷を思い出す様になっていた。
あの日、兄様が私を慰める様に一緒に眠ってくれた。
あの時は、絶対に兄様を死なせない、治癒魔法を使いこなせる様になると誓ったのに、今の私は魔法が少しだけ怖いのだ。
魔法が怖いというより、自分の両腕にあんなに傷があったという事実が怖いのだ。
「どうしたの、ミルフィ」
「……傷、見る?」
不安に思っている事をそのまま口にすると、兄様の顔が歪んだ。
「傷? どうしたの」
「ガスパール先生、傷見てミルフィ魔法使ったって、キム先生もミルフィの傷見る?」
ミルフィが無意識に魔法を使う。
それを確認する為に、もう一度傷を出してみようとするのではないか、私はそれが怖かったのだ。
魔法を教えてくれる人が来るからと、私と兄様は応接室のソファーに座って待っていた。
どんな人が来るのだろう、以前の私に教えに来てくれたのは神殿に勤めている治癒師だった。
不真面目な私を怒ることなく教えてくれた人だけど、同じ人がだろうか。
考え込む私を兄様は心配そうに見ていて、そんな私達をよそに部屋の扉は開かれてお父様と一緒に知らない人が入って来た。
「よろしくお願いします」
よろしくと言いながら不愛想という言葉を絵にした様な顔で目の前に立っているのは、灰色の長い髪をした背の高い男性だった。
ブリーンクという名前は聞き覚えがある。
以前の私が結婚した頃、確か若くして宮廷魔術師長となった方の名前がブリーンク伯爵家の三男だった筈だ。
「私はセドリック・スフィールです。こちらは妹のミルフィーヌです。どうぞよろしくお願い致します」
「ミルフィーヌ・スフィールです。どうぞよろしくお願い致します」
私達はソファーから立ち上がり挨拶を始めた。
この国の初対面の挨拶は、誰かに紹介された後なら今の様に名前と家名を名のり、そうでなければスフィール侯爵家長女のミルフィーヌです。といった風に挨拶をする。
今私達の横に両親が揃っているけれど、私達はお父様達からブリーンク様に「子供達です」としか紹介されていない。けれどこういう場合は今の挨拶でいいのだろう。
私は以前の時も挨拶が苦手だった。
真面な淑女教育を受けていなかったのだから仕方がないと言えばそうだけれど、淑女の礼も下手だったしダンスも下手だった。
今更だとは思うけれど、以前の私は侯爵家の恥でしか無かったと思う。
「ミルフィーヌお嬢様、如何なさいました」
以前の自分の酷い挨拶を思い出し落ち込んでいると、ブリーンク様が首を傾げてこちらを見ていた。
「あ、あの。ブリーンク先生が魔法の先生なのですか?」
意識して、私は三歳児の振りをしながらぼんやりしていた理由をうやむやにした。
ガスパール先生が私を試してから、すでに一ヶ月以上経っている。
私が何故魔法を無意識に魔法を使っていたのか、それを周囲がどうやって知ったのか、三歳の私と五歳の兄様に魔法を教える師を探すにはその事情を話さなければならず、そうなると頼める人は簡単には見つけれらなかった。
そんな話を昨日の夕食の席で教えられ、私は理解しながら分からない振りをしなければならなかった。
「先生? 私ですか」
「勉強を教えてくれるのは、先生って言うよね?」
兄様の顔を見て聞くと、そうだねと頷いてくれる。
「そうですか、先生と言われる程ではありませんが、それではキム先生と呼んで頂ければ幸いです。ミルフィーヌお嬢様」
「キム先生、ミルフィはミルフィって皆呼ぶの」
三歳児の振りはどの程度にしたらいいのか毎日悩む、なにせ周囲にいる子供は兄様だけだからそれならもう少し上手に話せても良い様に思う。
けれど、兄様はとても五歳には見えない程聡明だから、平凡そのもののミルフィーヌが同じく話をしたら不自然な気がする。
「ではミルフィお嬢様」
「はい」
「お嬢様は、魔法をご覧になった事はございますか」
まだソファーに座りもせず、全員立ったままキム先生は私に尋ねた。
どうしよう、キム先生はガスパール先生みたいに難しい言い方を子供にもする方の様だ。
これはこのまま反応してはいけない気がして、私は兄様の顔を見る。
「ミルフィ、どうしたの」
「お兄ちゃま、魔法?」
「あ、ああそうか。キム先生。僕達は熱を出した時に治癒魔法を受けています」
「それはミルフィお嬢様もですか」
「はい」
「でも、ミルフィお嬢様はそれが魔法だと分かっていらっしゃらない?」
兄様が何を言いたいのか、キム先生には理解出来ない様だ。
私と兄様の顔を交互に見て、その後面白そうに私達を見ているお父様の方へとキム先生は顔を向けた。
「キム先生、まずはどうぞお掛け下さい」
「え、ああそうですね。立ち話は失礼でしたね。興味深いお話を頂いたもので、気がせいてしまいました」
口調がまったく表情と合っていないキム先生は、いそいそとソファーに腰を下ろすとすぐにまた口を開いた。
「ミルフィお嬢様、魔法はどんなものかお分かりになりませんか」
「キム先生。ミルフィは治癒魔法は多分理解していますが、先生が仰った『魔法をご覧になる』という言葉の意味は理解出来ていない様です」
兄様は、五歳とは思えない口調で私の理解度を説明した。
「と言いますと」
「ミルフィ、妹はまだ三歳ですから難しい言葉はさすがに理解出来ません」
それは五歳でも変わらないと私は思うけれど、兄様は大人と対等に会話出来るだけの理解力がある様だ。
それをお父様もお母様もおかしいとは思っていない様に見える。
兄様が賢い子供だと分かっているから当たり前だと思っているのか、それとも侯爵家の跡継ぎへの教育が兄様を個の様にしたのかどちらなのか分からないけれど、この屋敷内で兄様の言動が子供の様に見えないと疑問に思っている人はいない様だ。
「成程、失礼しました。セドリック様はご理解されている?」
「はい、辛うじて理解しています。でも僕もまだ五歳ですから、少し簡単な言葉で話して頂けたらと思います」
十分に兄様は大人と会話が出来ると思う。
幼いミルフィの思考に引きずられつつある私に比べたら、兄様はすでに五歳にして大人だ。
「成程。あまり子供と話をしたことが無いもので、分からない言葉は遠慮なく聞いて頂ければ」
「はい、よろしくお願いします」
「それで、ミルフィお嬢様は治癒魔法はお分かりになるのですね」
「ミルフィ、魔法……」
魔法の練習は今すぐにでも始めたい。その気持ちは勿論あるのだけれど、ガスパール先生が使った魔法で自分の両腕に現れた傷の衝撃が強すぎて、私は魔法という言葉であの傷を思い出す様になっていた。
あの日、兄様が私を慰める様に一緒に眠ってくれた。
あの時は、絶対に兄様を死なせない、治癒魔法を使いこなせる様になると誓ったのに、今の私は魔法が少しだけ怖いのだ。
魔法が怖いというより、自分の両腕にあんなに傷があったという事実が怖いのだ。
「どうしたの、ミルフィ」
「……傷、見る?」
不安に思っている事をそのまま口にすると、兄様の顔が歪んだ。
「傷? どうしたの」
「ガスパール先生、傷見てミルフィ魔法使ったって、キム先生もミルフィの傷見る?」
ミルフィが無意識に魔法を使う。
それを確認する為に、もう一度傷を出してみようとするのではないか、私はそれが怖かったのだ。
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