後悔はなんだった？

真実はここにあった

「いやっ！　ミルフィ、ごめんなさい、ごめんなさい。ミルフィは悪い子です、生まれてきてごめんなさいっ、悪い子でごめんなさいっ。ミルフィは悪い子です、馬鹿な恥ずかしい子供です。ごめんなさいっ！！」

　両腕にある沢山の傷を見て、私は正気を失った。
　ふるふると顔を横に振り、ギュッと目をつぶり謝罪の言葉を繰り返した。

　叫び声を上げた私は、その瞬間体から大量の魔力が流れ出るのを感じた。
　流れ出る？　いいえ、魔力は私の中で使われた。
　私の魔力が私の体を駆け巡り、私の傷を癒やしたのだ。

「ミルフィ落ち着いて、謝る必要なんてないのよ」
「ミルフィを愛しているよ。生まれてきたことを謝るなんてしないでおくれ、私達の可愛いミルフィ」

　頭を抱えながら謝罪を繰り返す私を、お父様が抱きしめてくれる。

「ぶたないで、許して！　いやぁぁっ」

　涙が溢れて、涙が溢れて。
　体が震えて呼吸すらままならない。

「誰もミルフィをぶったりしないわ、大丈夫、大丈夫よ」

　お母様が私に手を伸ばすけれど、恐怖でそれを振り払ってしまう。それでもお母様は、大丈夫と繰り返す。
　でも、頭の中に聞こえてくるのは子爵婦人の罵声だけ。
　
　定規をテーブルに何度も叩きつけながら、いかに私が駄目な子供か馬鹿な子供かを繰り返し、謝るのが遅れると腕を叩かれる。
　悪い子は叩かれて当然なのだ、馬鹿な子供は怒鳴られて当然なのだ。

「ミルフィは馬鹿な子です。許して下さい、生まれてきてはいけなかったの。お兄ちゃまだけが侯爵家に相応しいのミルフィは駄目なの。ごめんなさい」

　涙がぽろぽろと溢れて止まらない、泣いたら余計に叩かれると分かっているのに止められない。

「ミルフィ」

　突然兄様の声がして、ベッドが軽く沈む。

「ミルフィは駄目じゃないよ。可愛い僕の妹だよ」

　お父様とお母様と、そして兄様。三人に抱きしめられていると気が付いて私の謝罪はやっと止まった。

「お兄ちゃま？」
「そうだよ。僕だよ」
「お父様、お母様」

　側にいるのは怖い子爵婦人じゃない。私を優しく抱きしめる三人の家族。

「ミルフィお嬢様、申し訳なかったです。突然傷を見て恐ろしかったでしょう」
「傷、傷なんで？」
「お嬢様が受けていた暴力のお話を聞きましたが、傷が一つも無かったのです。色々な状況を繋ぎ合わせるとお嬢様は無意識に魔法を使っているのではないかと」

　その確認の為にガスパール先生は魔法を使い私の過去の傷を復活させた。確認のためとはいえ、なんて乱暴なことをするのだろう。

「ミルフィ、魔法使えるの」

　私は魔法が使えるのは事実、でもそれをこんな幼い頃から無意識に使い自分の傷を治していたのだろうか。

「傷がないから余計に発見が遅れたのでしょうなあ」
「ミルフィ、申し訳なかったわ。もっと私達が気を付けていればあなたを苦しめずに済んだのに」
「忌々しいあのおん……いや、もうあれの話はいい。ガスパール先生、ミルフィは魔法の勉強を始めた方がいいのでしょうか。こんなに幼い子供がそれをしていいのでしょうか」

　お父様が心配そうにガスパール先生に聞く。
　兄様でさえまだ始めていない魔法の勉強を、私が始めると言うのだろうか。

「幼いですが、自分の魔力を使いこれだけの傷を治しても魔力切れは起こさないというのは、心配があるのです。ミルフィお嬢様は確かに幼いですが、勉強しない方が怖いです」
「そうですか」
「お嬢様は無意識に魔法を使っておいでです。魔力は年齢が上がるによって増えていきます。魔力が増えた状態で無意識に魔法を使ったら魔力暴走を起こしかねません」

　魔力暴走。それは前回の人生でも魔法を習う際に何度も繰り返し怖ろしさを教えられた。
　
「それではまず魔法適性を調べて頂いて、教師も探さないと」
「お父様、僕も一緒に習います」
「お前もか、まあ妹だけ習わせるわけにもいかない。ミルフィはまだ外部の教師は恐ろしく感じるだろう。お前は妹と一緒に魔法を習えるかい」

　まさか、魔法だけ兄様と一緒に？
　お父様の言葉に茫然としていると、兄様は何かを決意した様に口を開いた。

「僕はミルフィと一緒に魔法を勉強します。ミルフィが魔力暴走したりしない様に僕が守ります」

　体の弱い兄様が、ミルフィを守ろうと思ってくれているのを感じて私は胸が一杯で何も言えなくなってしまった。