40 / 164
ガスパール先生の試し2
しおりを挟む
「ミルフィーヌお嬢様、目を開けられますか」
私を呼ぶ声に渋々目を開けると、ガスパール先生が私の顔を覗き込んでいた。
「せんせぇ」
「回復魔法は掛けておりますから、頭痛は治まっていると思いますが如何ですか」
相変わらずガスパール先生は、幼児に向かって難しい言葉を使う。
それにつられないように気をつけて、私は頭の重さに顔をしかめながら体を起こす。
これは頭痛のせいじゃない、頭痛を回復魔法で治した弊害だった。
「頭痛?」
ぼんやりしているのは、ガスパール先生も原因が分かっているのだろう。
慌てる様子もなく私を注意深く見ている。
「眠い」
珍しいことにガスパール先生は、私の魔力を使って治癒魔法を掛けたみたいだった。
普通であればガスパール先生は自分の魔力を使って回復魔法を掛けるのに、なぜだろう。
しかも使われた魔法はそれなりに強いものの様だ。
おかげでわたしの体はひどく疲れている様に感じる。
「パティ、奥様はすぐに来られますか」
「お呼びして参ります」
パティが出ていき、部屋は私とガスパール先生だけになった。
「さてと、お口を開けて頂けますか。喉の様子を見ますのでね、おっとっ」
先生が口を開けた私に覆いかぶさるように立ち上がった拍子に、ベッド脇のテーブルの上に置いてあったガラスの水差しが床に落ちて割れた様な音が部屋の中に響いた。
「失礼、痛いつ」
「先生、痛いの? ひっ」
先生はベッドの脇にしゃがみ込むと、割れた水差しの破片を拾い始めた。
そんなのはメイドの仕事、普段ならガスパール先生がしないはずの行為に思えるけれど、私は冷静じゃなかった。
「いやっ、血、嫌っ」
目の前でポタポタと先生の手から血の雫が落ちていくのを見て、私は驚きのあまり叫んだ。
「……あ」
「ふむ」
大量の魔力が抜けたのを感じた。
私は無意識に何か使ったのだと、悟った。
「ミルフィーヌお嬢様」
「ガスパール先生、ミルフィ、あの」
「体が怠くはありませんか」
傷が治っても出血した血は消えないから、ガスパール先生の手は赤く汚れている。
「せんせぇ」
フラフラする、これは魔力切れ? そこまでは行かないけれど、体が怠くて目を開けていられない。
ぶらりと体が揺れて、座ったまま前に倒れ込む。
「お嬢様手を拭きますから少々そのままで我慢して下さいね。あぁ、傷が治っていますねぇ。困りましたなぁ」
ガスパール先生は私が倒れても慌てていない、それどころか理由が魔法を使ったからだと分かっている様に感じる。
どうして私は魔法を使ったの?
兄様の時も、今も私には魔法を使おうという意識は無かったというのに。
「血は拭きましたから大丈夫ですよ。体を起こしますね」
優しい口調で言いながら、ガスパール先生は私の体を起こしてベッドに寝かせてくれた。
体を横たえて呼吸は楽になったけれど、怠いのは変わらない。
「ミルフィーヌお嬢様、目を開けられますか」
「ふぁい」
怠くて話すのも辛くて、まぶたを半開きのまま返事をする。
「意識はあるようですね。こちらをお飲みください」
「せん……」
背中に手を回させ少し体を起こされたから、怠いのを堪えて口を少し開くと、前世で馴染んだ味の液体が注がれた。
これは魔力回復薬だ、体が少しずつ楽になってきたのは魔力が回復したから。
「もう話せますかな」
「美味しくない」
顔をしかめる。
魔力回復薬は不味くて有名だった。
これを飲むのが嫌で私は練習を熱心にしなかったと、余計なことまで思い出してしまった。
「美味しくございませんか」
「果汁じゃない」
「はい、これは魔力回復薬という薬でございますよ」
あっさりとガスパール先生は打ち明ける。
「魔力、薬?」
「はい、お嬢様は魔力切れを起こしかけていらっしゃったのですよ。薬を飲んだらお体が楽になったでしょう?」
楽にはなったけれど、何故先生は私が魔力切れを起こしたと分かったのだろう。
「ガスパール先生」
お母様らしからぬ勢いの良さで扉が開いたと思ったら、お父様も一緒に部屋に入って来手驚いてしまった。
「侯爵」
「何があった」
「セドリック様のお考え通りでございます」
「……それでは」
「はい、ミルフィーヌお嬢様は無意識に治癒魔法または回復魔法を使われています」
ガスパール先生は、私が魔法を使ったと知っていたのだ。
私を呼ぶ声に渋々目を開けると、ガスパール先生が私の顔を覗き込んでいた。
「せんせぇ」
「回復魔法は掛けておりますから、頭痛は治まっていると思いますが如何ですか」
相変わらずガスパール先生は、幼児に向かって難しい言葉を使う。
それにつられないように気をつけて、私は頭の重さに顔をしかめながら体を起こす。
これは頭痛のせいじゃない、頭痛を回復魔法で治した弊害だった。
「頭痛?」
ぼんやりしているのは、ガスパール先生も原因が分かっているのだろう。
慌てる様子もなく私を注意深く見ている。
「眠い」
珍しいことにガスパール先生は、私の魔力を使って治癒魔法を掛けたみたいだった。
普通であればガスパール先生は自分の魔力を使って回復魔法を掛けるのに、なぜだろう。
しかも使われた魔法はそれなりに強いものの様だ。
おかげでわたしの体はひどく疲れている様に感じる。
「パティ、奥様はすぐに来られますか」
「お呼びして参ります」
パティが出ていき、部屋は私とガスパール先生だけになった。
「さてと、お口を開けて頂けますか。喉の様子を見ますのでね、おっとっ」
先生が口を開けた私に覆いかぶさるように立ち上がった拍子に、ベッド脇のテーブルの上に置いてあったガラスの水差しが床に落ちて割れた様な音が部屋の中に響いた。
「失礼、痛いつ」
「先生、痛いの? ひっ」
先生はベッドの脇にしゃがみ込むと、割れた水差しの破片を拾い始めた。
そんなのはメイドの仕事、普段ならガスパール先生がしないはずの行為に思えるけれど、私は冷静じゃなかった。
「いやっ、血、嫌っ」
目の前でポタポタと先生の手から血の雫が落ちていくのを見て、私は驚きのあまり叫んだ。
「……あ」
「ふむ」
大量の魔力が抜けたのを感じた。
私は無意識に何か使ったのだと、悟った。
「ミルフィーヌお嬢様」
「ガスパール先生、ミルフィ、あの」
「体が怠くはありませんか」
傷が治っても出血した血は消えないから、ガスパール先生の手は赤く汚れている。
「せんせぇ」
フラフラする、これは魔力切れ? そこまでは行かないけれど、体が怠くて目を開けていられない。
ぶらりと体が揺れて、座ったまま前に倒れ込む。
「お嬢様手を拭きますから少々そのままで我慢して下さいね。あぁ、傷が治っていますねぇ。困りましたなぁ」
ガスパール先生は私が倒れても慌てていない、それどころか理由が魔法を使ったからだと分かっている様に感じる。
どうして私は魔法を使ったの?
兄様の時も、今も私には魔法を使おうという意識は無かったというのに。
「血は拭きましたから大丈夫ですよ。体を起こしますね」
優しい口調で言いながら、ガスパール先生は私の体を起こしてベッドに寝かせてくれた。
体を横たえて呼吸は楽になったけれど、怠いのは変わらない。
「ミルフィーヌお嬢様、目を開けられますか」
「ふぁい」
怠くて話すのも辛くて、まぶたを半開きのまま返事をする。
「意識はあるようですね。こちらをお飲みください」
「せん……」
背中に手を回させ少し体を起こされたから、怠いのを堪えて口を少し開くと、前世で馴染んだ味の液体が注がれた。
これは魔力回復薬だ、体が少しずつ楽になってきたのは魔力が回復したから。
「もう話せますかな」
「美味しくない」
顔をしかめる。
魔力回復薬は不味くて有名だった。
これを飲むのが嫌で私は練習を熱心にしなかったと、余計なことまで思い出してしまった。
「美味しくございませんか」
「果汁じゃない」
「はい、これは魔力回復薬という薬でございますよ」
あっさりとガスパール先生は打ち明ける。
「魔力、薬?」
「はい、お嬢様は魔力切れを起こしかけていらっしゃったのですよ。薬を飲んだらお体が楽になったでしょう?」
楽にはなったけれど、何故先生は私が魔力切れを起こしたと分かったのだろう。
「ガスパール先生」
お母様らしからぬ勢いの良さで扉が開いたと思ったら、お父様も一緒に部屋に入って来手驚いてしまった。
「侯爵」
「何があった」
「セドリック様のお考え通りでございます」
「……それでは」
「はい、ミルフィーヌお嬢様は無意識に治癒魔法または回復魔法を使われています」
ガスパール先生は、私が魔法を使ったと知っていたのだ。
180
お気に入りに追加
2,036
あなたにおすすめの小説

どんなに私が愛しても
豆狸
恋愛
どんなに遠く離れていても、この想いがけして届かないとわかっていても、私はずっと殿下を愛しています。
これからもずっと貴方の幸せを祈り続けています。
※子どもに関するセンシティブな内容があります。

家族に裏切られて辺境で幸せを掴む?
しゃーりん
恋愛
婚約者を妹に取られる。
そんな小説みたいなことが本当に起こった。
婚約者が姉から妹に代わるだけ?しかし私はそれを許さず、慰謝料を請求した。
婚約破棄と共に跡継ぎでもなくなったから。
仕事だけをさせようと思っていた父に失望し、伯父のいる辺境に行くことにする。
これからは辺境で仕事に生きよう。そう決めて王都を旅立った。
辺境で新たな出会いがあり、付き合い始めたけど?というお話です。

今日、大好きな婚約者の心を奪われます 【完結済み】
皇 翼
恋愛
昔から、自分や自分の周りについての未来を視てしまう公爵令嬢である少女・ヴィオレッタ。
彼女はある日、ウィステリア王国の第一王子にして大好きな婚約者であるアシュレイが隣国の王女に恋に落ちるという未来を視てしまう。
その日から少女は変わることを決意した。将来、大好きな彼の邪魔をしてしまう位なら、潔く身を引ける女性になろうと。
なろうで投稿している方に話が追いついたら、投稿頻度は下がります。
プロローグはヴィオレッタ視点、act.1は三人称、act.2はアシュレイ視点、act.3はヴィオレッタ視点となります。
繋がりのある作品:「先読みの姫巫女ですが、力を失ったので職を辞したいと思います」
URL:https://www.alphapolis.co.jp/novel/496593841/690369074

妹から私の旦那様と結ばれたと手紙が来ましたが、人違いだったようです
今川幸乃
恋愛
ハワード公爵家の長女クララは半年ほど前にガイラー公爵家の長男アドルフと結婚した。
が、優しく穏やかな性格で領主としての才能もあるアドルフは女性から大人気でクララの妹レイチェルも彼と結ばれたクララをしきりにうらやんでいた。
アドルフが領地に次期当主としての勉強をしに帰ったとき、突然クララにレイチェルから「アドルフと結ばれた」と手紙が来る。
だが、レイチェルは知らなかった。
ガイラー公爵家には冷酷非道で女癖が悪く勘当された、アドルフと瓜二つの長男がいたことを。
※短め。

これでも全属性持ちのチートですが、兄弟からお前など不要だと言われたので冒険者になります。
りまり
恋愛
私の名前はエルムと言います。
伯爵家の長女なのですが……家はかなり落ちぶれています。
それを私が持ち直すのに頑張り、贅沢できるまでになったのに私はいらないから出て行けと言われたので出ていきます。
でも知りませんよ。
私がいるからこの贅沢ができるんですからね!!!!!!

笑わない妻を娶りました
mios
恋愛
伯爵家嫡男であるスタン・タイロンは、伯爵家を継ぐ際に妻を娶ることにした。
同じ伯爵位で、友人であるオリバー・クレンズの従姉妹で笑わないことから氷の女神とも呼ばれているミスティア・ドゥーラ嬢。
彼女は美しく、スタンは一目惚れをし、トントン拍子に婚約・結婚することになったのだが。

恋人が聖女のものになりました
キムラましゅろう
恋愛
「どうして?あんなにお願いしたのに……」
聖騎士の叙任式で聖女の前に跪く恋人ライルの姿に愕然とする主人公ユラル。
それは彼が『聖女の騎士(もの)』になったという証でもあった。
聖女が持つその神聖力によって、徐々に聖女の虜となってゆくように定められた聖騎士たち。
多くの聖騎士達の妻が、恋人が、婚約者が自分を省みなくなった相手を想い、ハンカチを涙で濡らしてきたのだ。
ライルが聖女の騎士になってしまった以上、ユラルもその女性たちの仲間入りをする事となってしまうのか……?
慢性誤字脱字病患者が執筆するお話です。
従って誤字脱字が多く見られ、ご自身で脳内変換して頂く必要がございます。予めご了承下さいませ。
完全ご都合主義、ノーリアリティ、ノークオリティのお話となります。
菩薩の如き広いお心でお読みくださいませ。
小説家になろうさんでも投稿します。

欲しがり病の妹を「わたくしが一度持った物じゃないと欲しくない“かわいそう”な妹」と言って憐れむ(おちょくる)姉の話 [完]
ラララキヲ
恋愛
「お姉様、それ頂戴!!」が口癖で、姉の物を奪う妹とそれを止めない両親。
妹に自分の物を取られた姉は最初こそ悲しんだが……彼女はニッコリと微笑んだ。
「わたくしの物が欲しいのね」
「わたくしの“お古”じゃなきゃ嫌なのね」
「わたくしが一度持った物じゃなきゃ欲しくない“欲しがりマリリン”。貴女はなんて“可愛”そうなのかしら」
姉に憐れまれた妹は怒って姉から奪った物を捨てた。
でも懲りずに今度は姉の婚約者に近付こうとするが…………
色々あったが、それぞれ幸せになる姉妹の話。
((妹の頭がおかしければ姉もそうだろ、みたいな話です))
◇テンプレ屑妹モノ。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい。
◇なろうにも上げる予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる