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ガスパール先生の試し2
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「ミルフィーヌお嬢様、目を開けられますか」
私を呼ぶ声に渋々目を開けると、ガスパール先生が私の顔を覗き込んでいた。
「せんせぇ」
「回復魔法は掛けておりますから、頭痛は治まっていると思いますが如何ですか」
相変わらずガスパール先生は、幼児に向かって難しい言葉を使う。
それにつられないように気をつけて、私は頭の重さに顔をしかめながら体を起こす。
これは頭痛のせいじゃない、頭痛を回復魔法で治した弊害だった。
「頭痛?」
ぼんやりしているのは、ガスパール先生も原因が分かっているのだろう。
慌てる様子もなく私を注意深く見ている。
「眠い」
珍しいことにガスパール先生は、私の魔力を使って治癒魔法を掛けたみたいだった。
普通であればガスパール先生は自分の魔力を使って回復魔法を掛けるのに、なぜだろう。
しかも使われた魔法はそれなりに強いものの様だ。
おかげでわたしの体はひどく疲れている様に感じる。
「パティ、奥様はすぐに来られますか」
「お呼びして参ります」
パティが出ていき、部屋は私とガスパール先生だけになった。
「さてと、お口を開けて頂けますか。喉の様子を見ますのでね、おっとっ」
先生が口を開けた私に覆いかぶさるように立ち上がった拍子に、ベッド脇のテーブルの上に置いてあったガラスの水差しが床に落ちて割れた様な音が部屋の中に響いた。
「失礼、痛いつ」
「先生、痛いの? ひっ」
先生はベッドの脇にしゃがみ込むと、割れた水差しの破片を拾い始めた。
そんなのはメイドの仕事、普段ならガスパール先生がしないはずの行為に思えるけれど、私は冷静じゃなかった。
「いやっ、血、嫌っ」
目の前でポタポタと先生の手から血の雫が落ちていくのを見て、私は驚きのあまり叫んだ。
「……あ」
「ふむ」
大量の魔力が抜けたのを感じた。
私は無意識に何か使ったのだと、悟った。
「ミルフィーヌお嬢様」
「ガスパール先生、ミルフィ、あの」
「体が怠くはありませんか」
傷が治っても出血した血は消えないから、ガスパール先生の手は赤く汚れている。
「せんせぇ」
フラフラする、これは魔力切れ? そこまでは行かないけれど、体が怠くて目を開けていられない。
ぶらりと体が揺れて、座ったまま前に倒れ込む。
「お嬢様手を拭きますから少々そのままで我慢して下さいね。あぁ、傷が治っていますねぇ。困りましたなぁ」
ガスパール先生は私が倒れても慌てていない、それどころか理由が魔法を使ったからだと分かっている様に感じる。
どうして私は魔法を使ったの?
兄様の時も、今も私には魔法を使おうという意識は無かったというのに。
「血は拭きましたから大丈夫ですよ。体を起こしますね」
優しい口調で言いながら、ガスパール先生は私の体を起こしてベッドに寝かせてくれた。
体を横たえて呼吸は楽になったけれど、怠いのは変わらない。
「ミルフィーヌお嬢様、目を開けられますか」
「ふぁい」
怠くて話すのも辛くて、まぶたを半開きのまま返事をする。
「意識はあるようですね。こちらをお飲みください」
「せん……」
背中に手を回させ少し体を起こされたから、怠いのを堪えて口を少し開くと、前世で馴染んだ味の液体が注がれた。
これは魔力回復薬だ、体が少しずつ楽になってきたのは魔力が回復したから。
「もう話せますかな」
「美味しくない」
顔をしかめる。
魔力回復薬は不味くて有名だった。
これを飲むのが嫌で私は練習を熱心にしなかったと、余計なことまで思い出してしまった。
「美味しくございませんか」
「果汁じゃない」
「はい、これは魔力回復薬という薬でございますよ」
あっさりとガスパール先生は打ち明ける。
「魔力、薬?」
「はい、お嬢様は魔力切れを起こしかけていらっしゃったのですよ。薬を飲んだらお体が楽になったでしょう?」
楽にはなったけれど、何故先生は私が魔力切れを起こしたと分かったのだろう。
「ガスパール先生」
お母様らしからぬ勢いの良さで扉が開いたと思ったら、お父様も一緒に部屋に入って来手驚いてしまった。
「侯爵」
「何があった」
「セドリック様のお考え通りでございます」
「……それでは」
「はい、ミルフィーヌお嬢様は無意識に治癒魔法または回復魔法を使われています」
ガスパール先生は、私が魔法を使ったと知っていたのだ。
私を呼ぶ声に渋々目を開けると、ガスパール先生が私の顔を覗き込んでいた。
「せんせぇ」
「回復魔法は掛けておりますから、頭痛は治まっていると思いますが如何ですか」
相変わらずガスパール先生は、幼児に向かって難しい言葉を使う。
それにつられないように気をつけて、私は頭の重さに顔をしかめながら体を起こす。
これは頭痛のせいじゃない、頭痛を回復魔法で治した弊害だった。
「頭痛?」
ぼんやりしているのは、ガスパール先生も原因が分かっているのだろう。
慌てる様子もなく私を注意深く見ている。
「眠い」
珍しいことにガスパール先生は、私の魔力を使って治癒魔法を掛けたみたいだった。
普通であればガスパール先生は自分の魔力を使って回復魔法を掛けるのに、なぜだろう。
しかも使われた魔法はそれなりに強いものの様だ。
おかげでわたしの体はひどく疲れている様に感じる。
「パティ、奥様はすぐに来られますか」
「お呼びして参ります」
パティが出ていき、部屋は私とガスパール先生だけになった。
「さてと、お口を開けて頂けますか。喉の様子を見ますのでね、おっとっ」
先生が口を開けた私に覆いかぶさるように立ち上がった拍子に、ベッド脇のテーブルの上に置いてあったガラスの水差しが床に落ちて割れた様な音が部屋の中に響いた。
「失礼、痛いつ」
「先生、痛いの? ひっ」
先生はベッドの脇にしゃがみ込むと、割れた水差しの破片を拾い始めた。
そんなのはメイドの仕事、普段ならガスパール先生がしないはずの行為に思えるけれど、私は冷静じゃなかった。
「いやっ、血、嫌っ」
目の前でポタポタと先生の手から血の雫が落ちていくのを見て、私は驚きのあまり叫んだ。
「……あ」
「ふむ」
大量の魔力が抜けたのを感じた。
私は無意識に何か使ったのだと、悟った。
「ミルフィーヌお嬢様」
「ガスパール先生、ミルフィ、あの」
「体が怠くはありませんか」
傷が治っても出血した血は消えないから、ガスパール先生の手は赤く汚れている。
「せんせぇ」
フラフラする、これは魔力切れ? そこまでは行かないけれど、体が怠くて目を開けていられない。
ぶらりと体が揺れて、座ったまま前に倒れ込む。
「お嬢様手を拭きますから少々そのままで我慢して下さいね。あぁ、傷が治っていますねぇ。困りましたなぁ」
ガスパール先生は私が倒れても慌てていない、それどころか理由が魔法を使ったからだと分かっている様に感じる。
どうして私は魔法を使ったの?
兄様の時も、今も私には魔法を使おうという意識は無かったというのに。
「血は拭きましたから大丈夫ですよ。体を起こしますね」
優しい口調で言いながら、ガスパール先生は私の体を起こしてベッドに寝かせてくれた。
体を横たえて呼吸は楽になったけれど、怠いのは変わらない。
「ミルフィーヌお嬢様、目を開けられますか」
「ふぁい」
怠くて話すのも辛くて、まぶたを半開きのまま返事をする。
「意識はあるようですね。こちらをお飲みください」
「せん……」
背中に手を回させ少し体を起こされたから、怠いのを堪えて口を少し開くと、前世で馴染んだ味の液体が注がれた。
これは魔力回復薬だ、体が少しずつ楽になってきたのは魔力が回復したから。
「もう話せますかな」
「美味しくない」
顔をしかめる。
魔力回復薬は不味くて有名だった。
これを飲むのが嫌で私は練習を熱心にしなかったと、余計なことまで思い出してしまった。
「美味しくございませんか」
「果汁じゃない」
「はい、これは魔力回復薬という薬でございますよ」
あっさりとガスパール先生は打ち明ける。
「魔力、薬?」
「はい、お嬢様は魔力切れを起こしかけていらっしゃったのですよ。薬を飲んだらお体が楽になったでしょう?」
楽にはなったけれど、何故先生は私が魔力切れを起こしたと分かったのだろう。
「ガスパール先生」
お母様らしからぬ勢いの良さで扉が開いたと思ったら、お父様も一緒に部屋に入って来手驚いてしまった。
「侯爵」
「何があった」
「セドリック様のお考え通りでございます」
「……それでは」
「はい、ミルフィーヌお嬢様は無意識に治癒魔法または回復魔法を使われています」
ガスパール先生は、私が魔法を使ったと知っていたのだ。
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