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お兄ちゃまとお茶会、そして
しおりを挟む三人の徒競走の結果、学校に間に合った。
龍牙の左目の話の前に、クラスの話はしていた。五クラスある内、龍牙と私がC組で光彦はB組だ。龍牙は残念がっていたけど、正直助かった…と思ってしまった。あの瞳で見られ続けるのは、精神が削られるから。
「…あれ?」
「ん、どうした?」
教室に入った私はその光景に驚いた。
半分以上空いた席、チャイムが鳴ったにも関わらず、席につくことなく何人かで集まって話す生徒。
あ、そうか。ここ、不良校だっけ。
「どーこ座ろっかな。やっぱ窓際埋まってんなあ…、よし、ここにしようぜ。鈴は俺の右な!」
「え、え?」
慣れたように生徒の間をスイスイ通る龍牙。不良さん達の間に置いて行かれたくなくて、龍牙の背中にぴったり着いて行く。龍牙は左の窓際から三番目、一番後ろの席に座って、私に隣に座るように言う。でも私は迷った。
「えっ、先生が席決めたりとか…」
「んなことするわけねーだろ。ここ不良校だぞ。俺ら不良が言うこと聞くか?」
「確かに…」
常識だ、と言わんばかりに馬鹿にしてくる龍牙。ちょっとむかつくけど、事実なのかもしれない。でも初日からこんなに人が居ないなんて、思いもしなかった。ここは不良校なんだなと改めて思う。かく言う私も入学式をすっぽかしたが、まああれは不可抗力だろう。
本鈴が鳴ってから10分くらいして、やっと先生が来た。ちょっと髪がボサボサだけど、優しそうな先生だ。少し猫背で、フレームの無い眼鏡をかけた先生が、ゆっくり教壇に上がる。
「ぇぇ…、おはようございます、皆さん…。私は」
蚊が鳴くような声だ。自己紹介をしたのに、生徒の笑い声でかき消された。聞き取るのもやっとだった声は、生徒の話し声であっという間に聞こえなくなる。
それを聞いて、先生が諦めたように下を向いてしまった。きっと不良さんが怖いんだ。私だってちょっと怖い。
今にも教室を出てしまいそうな先生を見ていられなくて、龍牙に声をかける。龍牙は興味が無さそうに足を組んで頬杖をついている。
「ねえ、龍牙」
「放っとけよ。あ、そうだ。俺トランプ持ってきたんだ」
「……でも、寂しいよ。折角先生、優しそうなのに…」
「しゃあねぇなあ…、ほら、何か言ってみ。守ってやるから」
龍牙がにやっと笑って、私を後押ししてくれる。よし、私は先生と仲良くしたいんだ。
「…先生。よく聞こえなかったので、もう一度お願いしますっ!」
「……あー?」
「うっさ」
「何アイツ」
大きな声を上げれば当然目立つ。窓際を占領していた不良達三人がこちらに振り向く。ぎろりとこちらを睨む視線に体が竦むけど、龍牙が守ってくれるって言ってくれたから、頑張る。
「えっ、も、もう一度、かい?」
「はいっ、私、先生の名前知りたいです!」
先生が驚いて顔を上げる。
「テメェうるせぇ」
「黙った方がいいよー根暗くん」
「わ、私の名前は」
「黙れっつってんだろセンコー!」
「ひぃっ!!!」
黒髪のツーブロックで両耳にピアスを開けた生徒が勢いよく机を蹴り上げる。結構な轟音が鳴って、先生は悲鳴を上げて完全に萎縮してしまった。
先生が教壇の上の荷物を集め始める。
え、帰っちゃうの?でも先生は余程怖かったみたいで、手が震えて物を落としてしまった。落とした冊子をツーブロックの生徒が拾う。
「センコー、帰れ」
手にした冊子を、勢いよく
「…いたっ!…」
先生に投げつけた。
ありえない。
先生は何もしてないのに。苛立ちから勢いよく椅子を立つ。隣から楽しむような笑い声が聞こえた。龍牙、迷惑かけてごめん。
ガタンと大きな音をさせたから、窓際の三人がこちらを向く。少し怖いけどピアスをつけた生徒と先生の間に割って入る。
「…ちょっと、先生に何てことするんですか。先生何もしてないですよね」
「は?何真面目ぶってんだ。調子乗ってんじゃねぇぞ」
「調子に乗ってるのはそっちです。威圧的な態度で相手を怖がらせるなんて、酷いです」
ピアスさんは頭にきたみたいで、私に掴みかかろうとして腕が上がる。でも、大丈夫。
横から素早く手が伸びてきて、ピアスさんの腕を捻りあげる。
「…何、俺のダチに何か用?」
とっても格好良い、私のヒーロー。
昨日と同じあのギラギラした目でピアスさんを睨みつける。でもピアスさんも全く引かない。おお、不良同士の張り合いだ…。
「離せ。この根暗くんぶっ飛ばすんだよ」
「そいつぶっ飛ばすんなら、俺倒してからにしな、キョセイ君」
「なっ…、よーし分かった。お前から可愛がってやるよ」
…もしかして、二人とも虚勢の意味分かってないな?
その時、後ろからガラガラと戸を開ける音がした。不思議に思って振り向くと、空っぽの教壇と、開いた扉。先生は余程の怖がりみたいだ。あれ、出欠とかとらなくていいのかな。
振り向くと、龍牙が窓際の三人と対峙していた。ピアスさんと、ピンクのメッシュを入れた人と、金髪の人。あれ、人数増えてない?
「…おいおい、一対三とか卑怯じゃね~?」
「生意気な奴にはこんなもんで充分だろ」
「分からせてやんないとさ?」
「あ、そこの根暗くん。これ終わったらお金貸~してっ」
彼らが口々に好きなことを言う。ピンクさん、お金は貸しませんよ。
一対三人は少し不安を感じる。しかも私が売った喧嘩のようなものだ。龍牙に迷惑をかけている。でも、龍牙は余裕そうな笑みを浮かべていた。
「龍牙…」
「大丈夫。こんな雑魚余裕だから」
「余所見すんじゃねぇよ!!」
龍牙の言葉に挑発されて、ピアスさんが殴りかかる。
龍牙は分かっていたのか、少しだけ体を右に逸らした。傾いた龍牙を狙って金髪さんから蹴りが飛ぶ。龍牙が右足を素早く上げてそれを防ぐ。素早く踏み込んだ龍牙の拳は、金髪さんの顔を捕えた。金髪さんはそれでも倒れないし、直ぐにピアスさんから拳が飛んでくる。でも、龍牙は、ふわりふわりと髪を靡かせながら、相手の攻撃を風みたいに避けてしまう。
「…かっこいい」
「え!?」
気づいたら口から漏れていた。
龍牙はそれを聞き取ったらしく、完全に喧嘩から意識が逸れ、勢いよくこちらに振り向く。
「龍牙っ!?」
「余所見すんなっつったろ!」
その隙を不良さん達が見逃すはずもなく、ピアスさんの拳が龍牙の顔に入ってしまった。龍牙が少しよろめくけど、上手く受け流したみたいで、直ぐに持ち直す。でも、右の口端から血が少し出ていた。痛そうだ。
どうしてこちらを振り向いたんだろう。今の独り言はそんなに気を引かれるものだっただろうか。
結局、龍牙はまた勝った。龍牙の右頬には痛々しい痣があるけれど、倒れている不良さん達の方が傷は多かった。
龍牙が倒れた三人を見下ろして、不敵な笑みを浮かべる。
「…ふー、余所見してても勝てるな、お前ら」
「くそっ…ふざけんなよ…」
「いったぁ…、顔に傷ついた…最悪」
「……ぅ…痛てぇ…」
龍牙は三人がもう反抗してこないことを確認すると、後ろの席に戻った。
チャイムが鳴る。何のチャイムかなと見上げると、1時間目が終わっていた。
あれ、先生は?
後ろを見れば、扉は閉まっていた。見て見ぬふりですか?ここの学校、もしかして、先生も不良さんなの?それとも不良さんが怖いのだろうか。
時計から目を離すと、私のことをピアスさんが睨みつけているのが見えた。怖かったから、私も急いで後ろの席に戻った。
龍牙の左目の話の前に、クラスの話はしていた。五クラスある内、龍牙と私がC組で光彦はB組だ。龍牙は残念がっていたけど、正直助かった…と思ってしまった。あの瞳で見られ続けるのは、精神が削られるから。
「…あれ?」
「ん、どうした?」
教室に入った私はその光景に驚いた。
半分以上空いた席、チャイムが鳴ったにも関わらず、席につくことなく何人かで集まって話す生徒。
あ、そうか。ここ、不良校だっけ。
「どーこ座ろっかな。やっぱ窓際埋まってんなあ…、よし、ここにしようぜ。鈴は俺の右な!」
「え、え?」
慣れたように生徒の間をスイスイ通る龍牙。不良さん達の間に置いて行かれたくなくて、龍牙の背中にぴったり着いて行く。龍牙は左の窓際から三番目、一番後ろの席に座って、私に隣に座るように言う。でも私は迷った。
「えっ、先生が席決めたりとか…」
「んなことするわけねーだろ。ここ不良校だぞ。俺ら不良が言うこと聞くか?」
「確かに…」
常識だ、と言わんばかりに馬鹿にしてくる龍牙。ちょっとむかつくけど、事実なのかもしれない。でも初日からこんなに人が居ないなんて、思いもしなかった。ここは不良校なんだなと改めて思う。かく言う私も入学式をすっぽかしたが、まああれは不可抗力だろう。
本鈴が鳴ってから10分くらいして、やっと先生が来た。ちょっと髪がボサボサだけど、優しそうな先生だ。少し猫背で、フレームの無い眼鏡をかけた先生が、ゆっくり教壇に上がる。
「ぇぇ…、おはようございます、皆さん…。私は」
蚊が鳴くような声だ。自己紹介をしたのに、生徒の笑い声でかき消された。聞き取るのもやっとだった声は、生徒の話し声であっという間に聞こえなくなる。
それを聞いて、先生が諦めたように下を向いてしまった。きっと不良さんが怖いんだ。私だってちょっと怖い。
今にも教室を出てしまいそうな先生を見ていられなくて、龍牙に声をかける。龍牙は興味が無さそうに足を組んで頬杖をついている。
「ねえ、龍牙」
「放っとけよ。あ、そうだ。俺トランプ持ってきたんだ」
「……でも、寂しいよ。折角先生、優しそうなのに…」
「しゃあねぇなあ…、ほら、何か言ってみ。守ってやるから」
龍牙がにやっと笑って、私を後押ししてくれる。よし、私は先生と仲良くしたいんだ。
「…先生。よく聞こえなかったので、もう一度お願いしますっ!」
「……あー?」
「うっさ」
「何アイツ」
大きな声を上げれば当然目立つ。窓際を占領していた不良達三人がこちらに振り向く。ぎろりとこちらを睨む視線に体が竦むけど、龍牙が守ってくれるって言ってくれたから、頑張る。
「えっ、も、もう一度、かい?」
「はいっ、私、先生の名前知りたいです!」
先生が驚いて顔を上げる。
「テメェうるせぇ」
「黙った方がいいよー根暗くん」
「わ、私の名前は」
「黙れっつってんだろセンコー!」
「ひぃっ!!!」
黒髪のツーブロックで両耳にピアスを開けた生徒が勢いよく机を蹴り上げる。結構な轟音が鳴って、先生は悲鳴を上げて完全に萎縮してしまった。
先生が教壇の上の荷物を集め始める。
え、帰っちゃうの?でも先生は余程怖かったみたいで、手が震えて物を落としてしまった。落とした冊子をツーブロックの生徒が拾う。
「センコー、帰れ」
手にした冊子を、勢いよく
「…いたっ!…」
先生に投げつけた。
ありえない。
先生は何もしてないのに。苛立ちから勢いよく椅子を立つ。隣から楽しむような笑い声が聞こえた。龍牙、迷惑かけてごめん。
ガタンと大きな音をさせたから、窓際の三人がこちらを向く。少し怖いけどピアスをつけた生徒と先生の間に割って入る。
「…ちょっと、先生に何てことするんですか。先生何もしてないですよね」
「は?何真面目ぶってんだ。調子乗ってんじゃねぇぞ」
「調子に乗ってるのはそっちです。威圧的な態度で相手を怖がらせるなんて、酷いです」
ピアスさんは頭にきたみたいで、私に掴みかかろうとして腕が上がる。でも、大丈夫。
横から素早く手が伸びてきて、ピアスさんの腕を捻りあげる。
「…何、俺のダチに何か用?」
とっても格好良い、私のヒーロー。
昨日と同じあのギラギラした目でピアスさんを睨みつける。でもピアスさんも全く引かない。おお、不良同士の張り合いだ…。
「離せ。この根暗くんぶっ飛ばすんだよ」
「そいつぶっ飛ばすんなら、俺倒してからにしな、キョセイ君」
「なっ…、よーし分かった。お前から可愛がってやるよ」
…もしかして、二人とも虚勢の意味分かってないな?
その時、後ろからガラガラと戸を開ける音がした。不思議に思って振り向くと、空っぽの教壇と、開いた扉。先生は余程の怖がりみたいだ。あれ、出欠とかとらなくていいのかな。
振り向くと、龍牙が窓際の三人と対峙していた。ピアスさんと、ピンクのメッシュを入れた人と、金髪の人。あれ、人数増えてない?
「…おいおい、一対三とか卑怯じゃね~?」
「生意気な奴にはこんなもんで充分だろ」
「分からせてやんないとさ?」
「あ、そこの根暗くん。これ終わったらお金貸~してっ」
彼らが口々に好きなことを言う。ピンクさん、お金は貸しませんよ。
一対三人は少し不安を感じる。しかも私が売った喧嘩のようなものだ。龍牙に迷惑をかけている。でも、龍牙は余裕そうな笑みを浮かべていた。
「龍牙…」
「大丈夫。こんな雑魚余裕だから」
「余所見すんじゃねぇよ!!」
龍牙の言葉に挑発されて、ピアスさんが殴りかかる。
龍牙は分かっていたのか、少しだけ体を右に逸らした。傾いた龍牙を狙って金髪さんから蹴りが飛ぶ。龍牙が右足を素早く上げてそれを防ぐ。素早く踏み込んだ龍牙の拳は、金髪さんの顔を捕えた。金髪さんはそれでも倒れないし、直ぐにピアスさんから拳が飛んでくる。でも、龍牙は、ふわりふわりと髪を靡かせながら、相手の攻撃を風みたいに避けてしまう。
「…かっこいい」
「え!?」
気づいたら口から漏れていた。
龍牙はそれを聞き取ったらしく、完全に喧嘩から意識が逸れ、勢いよくこちらに振り向く。
「龍牙っ!?」
「余所見すんなっつったろ!」
その隙を不良さん達が見逃すはずもなく、ピアスさんの拳が龍牙の顔に入ってしまった。龍牙が少しよろめくけど、上手く受け流したみたいで、直ぐに持ち直す。でも、右の口端から血が少し出ていた。痛そうだ。
どうしてこちらを振り向いたんだろう。今の独り言はそんなに気を引かれるものだっただろうか。
結局、龍牙はまた勝った。龍牙の右頬には痛々しい痣があるけれど、倒れている不良さん達の方が傷は多かった。
龍牙が倒れた三人を見下ろして、不敵な笑みを浮かべる。
「…ふー、余所見してても勝てるな、お前ら」
「くそっ…ふざけんなよ…」
「いったぁ…、顔に傷ついた…最悪」
「……ぅ…痛てぇ…」
龍牙は三人がもう反抗してこないことを確認すると、後ろの席に戻った。
チャイムが鳴る。何のチャイムかなと見上げると、1時間目が終わっていた。
あれ、先生は?
後ろを見れば、扉は閉まっていた。見て見ぬふりですか?ここの学校、もしかして、先生も不良さんなの?それとも不良さんが怖いのだろうか。
時計から目を離すと、私のことをピアスさんが睨みつけているのが見えた。怖かったから、私も急いで後ろの席に戻った。
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