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魔法の練習はいつから
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「そうですなあ、使える可能性は高いでしょう。魔法の才があるかないかは調べれば分かります。ですがまだお嬢様は幼くていらっしゃる。セドリック様もまだ確認されてないのですから、もう少し大きくなるまでお待ち下さい」
「今は駄目?」
分かったような分からない様な、そんな顔で返事をして「魔法いいなあ」と呟いてみた。
「ミルフィーヌお嬢様は魔法に興味があるのですな」
「興味? あのね、ミルフィは、魔法の勉強をしなさいって必要なの」
こんなことを言ってもガスパール先生が私に魔法を教えることはないだろう。
私の常識が間違っていなければ、魔法の才の適性を見てからでなければ高位貴族の子供でも魔法を教えてはもらえない。
魔法を覚えるのは簡単ではないし、使いこなすには訓練が必要なのだ。
「ミルフィーヌお嬢様のご両親である侯爵も夫人も魔法の才をお持ちですから、お嬢様にも同じくその才が引き継がれていると思います。ですが、未だセドリック様もその才を確認されてはおりません。魔法の訓練は危険が伴うものですし、幼い子には酷なのです」
なんと答えても駄目な気がして、私はただ先生の顔を見つめた後パティに視線を向ける。
相変わらずガスパール先生は難しい言葉を使う。優しい方なのは確かだけれど、その辺りの融通がきかない方でもあるのだ。
「ガスパール先生、僭越ですがお嬢様には少しお言葉が難しいかと」
見かねたパティが先生にそう言うと、やっと納得したのかポンと膝を打ち言い直してくれた。
「おお、そうでしたか。ミルフィーヌお嬢様、魔法はもう少し大きくなってから。それまでお待ち下さい」
今度はかなり大雑把な説明になった。
説明というよりも、誤魔化した感じに近いのかもしれない。
「待つの?」
「ええ。今ミルフィーヌお嬢様がしなければならないのは、好き嫌いなくなんでも食べ、よく眠り、よく遊ぶことです。あとは礼儀作法などのお勉強も大切ですよ」
ミルフィの偏食は誰もが頭を悩ませていたのだろうか、また好き嫌いの話になって、思わず眉をひそめた。
「どうされましたか」
「パセリとピーマンは苦いから嫌い、人参はふにゃふにゃするの」
「そうですか」
「それでね、ミルフィはいい子になるから、食べたのよ。そしたら皆が笑ったの」
へにょりと眉が下がる。
一生懸命に食べているのに、その度に皆が笑うものだから最近の私は食事の時間が楽しくないのだ。
「ミルフィーヌお嬢様が大嫌いなパセリを召し上がったのですか。それは頑張りましたね、お嬢様」
先生は私が食べているところを見ていないからだろうか、大袈裟に褒めながら私の頭を撫でてくれた。
私は目を細めて、もっと撫でてもらえたらいいなと思う。
私の頭を両親が撫でてくれたなんて、あっただろうか。
熱を出した後お母様が私の傍に居てくれたことすら奇跡の様に思う程、私と両親は関りが少ないし最近食事を一緒に取る機会が増えたのも何かのご褒美かと思う程だ。
「頑張って食べたのよ」
「ええ、偉いですね。パセリは苦いですが薬効がありますから、お熱を出したばかりのお嬢様には必要な食べ物なんですよ」
また難しいことを言う、でも偉いと誉めて貰えた私は少し気分が良くなっていた。
「やっこうってなに?」
「薬効とはお薬の素になる成分があるという事ですよ。セドリック様はお体を強くする為に毎食お薬を飲まれているでしょう?」
「お薬、お兄ちゃまが飲んでるの?」
薬なんて飲んでいただろうか? 思いだそうとするけれど食事は自分のことで精一杯で全く覚えていない。
「ええ、薬湯を飲まれていますよ。とても苦くて匂いも良くありませんが、セドリック様は何も仰らずに飲まれていますね」
「薬湯……」
薬湯ということは、最後に飲んでいるお茶だろうか。
私は果汁だけれど、兄様はそんな物を飲んでいるのか。
「苦いの飲んでいるの?」
「ええ。セドリック様はすぐに体調を崩されるのでその予防の為の薬です」
「苦い……」
食事に少量出てくるパセリでさえ辛いのに、兄様はそんなものを飲まされているのか。
「苦いの飲むなんてミルフィ出来ない」
苦い薬を毎食なんて、今のミルフィには拷問に近い。
「ミルフィ、ご飯ちゃんと食べる。嫌いな野菜も食べる、頑張る」
良い子になる以前に、健康でいなければ。
毎食後に薬湯を飲む生活なんて、私には無理だ。それにしても、魔法の練習はどうやったら始められるだろう。
回復魔法を今の私は難なく使えるけれど、魔力量が全然足りない。
魔力量を増やすには体の成長と共に、日々の練習が必要なのだからこっそり寝る前に何度も使い増やす努力をしているけれど、それでも全然訓練が足りないと思う。
兄様を救うためには少しでも早く魔法の練習を始めないといけないのに、兄様が体調を崩すあの年齢までには中級魔法を最低でも使いこなせる様にならなければならないのに。
中級魔法を覚えてはいても、この幼い体で使いこなすのはまだ難しいのだ。
何か考えなければ。
パティが複雑そうな顔で私を見ているとも気付かずに、私は自分の考えに没頭していたのだった。
「今は駄目?」
分かったような分からない様な、そんな顔で返事をして「魔法いいなあ」と呟いてみた。
「ミルフィーヌお嬢様は魔法に興味があるのですな」
「興味? あのね、ミルフィは、魔法の勉強をしなさいって必要なの」
こんなことを言ってもガスパール先生が私に魔法を教えることはないだろう。
私の常識が間違っていなければ、魔法の才の適性を見てからでなければ高位貴族の子供でも魔法を教えてはもらえない。
魔法を覚えるのは簡単ではないし、使いこなすには訓練が必要なのだ。
「ミルフィーヌお嬢様のご両親である侯爵も夫人も魔法の才をお持ちですから、お嬢様にも同じくその才が引き継がれていると思います。ですが、未だセドリック様もその才を確認されてはおりません。魔法の訓練は危険が伴うものですし、幼い子には酷なのです」
なんと答えても駄目な気がして、私はただ先生の顔を見つめた後パティに視線を向ける。
相変わらずガスパール先生は難しい言葉を使う。優しい方なのは確かだけれど、その辺りの融通がきかない方でもあるのだ。
「ガスパール先生、僭越ですがお嬢様には少しお言葉が難しいかと」
見かねたパティが先生にそう言うと、やっと納得したのかポンと膝を打ち言い直してくれた。
「おお、そうでしたか。ミルフィーヌお嬢様、魔法はもう少し大きくなってから。それまでお待ち下さい」
今度はかなり大雑把な説明になった。
説明というよりも、誤魔化した感じに近いのかもしれない。
「待つの?」
「ええ。今ミルフィーヌお嬢様がしなければならないのは、好き嫌いなくなんでも食べ、よく眠り、よく遊ぶことです。あとは礼儀作法などのお勉強も大切ですよ」
ミルフィの偏食は誰もが頭を悩ませていたのだろうか、また好き嫌いの話になって、思わず眉をひそめた。
「どうされましたか」
「パセリとピーマンは苦いから嫌い、人参はふにゃふにゃするの」
「そうですか」
「それでね、ミルフィはいい子になるから、食べたのよ。そしたら皆が笑ったの」
へにょりと眉が下がる。
一生懸命に食べているのに、その度に皆が笑うものだから最近の私は食事の時間が楽しくないのだ。
「ミルフィーヌお嬢様が大嫌いなパセリを召し上がったのですか。それは頑張りましたね、お嬢様」
先生は私が食べているところを見ていないからだろうか、大袈裟に褒めながら私の頭を撫でてくれた。
私は目を細めて、もっと撫でてもらえたらいいなと思う。
私の頭を両親が撫でてくれたなんて、あっただろうか。
熱を出した後お母様が私の傍に居てくれたことすら奇跡の様に思う程、私と両親は関りが少ないし最近食事を一緒に取る機会が増えたのも何かのご褒美かと思う程だ。
「頑張って食べたのよ」
「ええ、偉いですね。パセリは苦いですが薬効がありますから、お熱を出したばかりのお嬢様には必要な食べ物なんですよ」
また難しいことを言う、でも偉いと誉めて貰えた私は少し気分が良くなっていた。
「やっこうってなに?」
「薬効とはお薬の素になる成分があるという事ですよ。セドリック様はお体を強くする為に毎食お薬を飲まれているでしょう?」
「お薬、お兄ちゃまが飲んでるの?」
薬なんて飲んでいただろうか? 思いだそうとするけれど食事は自分のことで精一杯で全く覚えていない。
「ええ、薬湯を飲まれていますよ。とても苦くて匂いも良くありませんが、セドリック様は何も仰らずに飲まれていますね」
「薬湯……」
薬湯ということは、最後に飲んでいるお茶だろうか。
私は果汁だけれど、兄様はそんな物を飲んでいるのか。
「苦いの飲んでいるの?」
「ええ。セドリック様はすぐに体調を崩されるのでその予防の為の薬です」
「苦い……」
食事に少量出てくるパセリでさえ辛いのに、兄様はそんなものを飲まされているのか。
「苦いの飲むなんてミルフィ出来ない」
苦い薬を毎食なんて、今のミルフィには拷問に近い。
「ミルフィ、ご飯ちゃんと食べる。嫌いな野菜も食べる、頑張る」
良い子になる以前に、健康でいなければ。
毎食後に薬湯を飲む生活なんて、私には無理だ。それにしても、魔法の練習はどうやったら始められるだろう。
回復魔法を今の私は難なく使えるけれど、魔力量が全然足りない。
魔力量を増やすには体の成長と共に、日々の練習が必要なのだからこっそり寝る前に何度も使い増やす努力をしているけれど、それでも全然訓練が足りないと思う。
兄様を救うためには少しでも早く魔法の練習を始めないといけないのに、兄様が体調を崩すあの年齢までには中級魔法を最低でも使いこなせる様にならなければならないのに。
中級魔法を覚えてはいても、この幼い体で使いこなすのはまだ難しいのだ。
何か考えなければ。
パティが複雑そうな顔で私を見ているとも気付かずに、私は自分の考えに没頭していたのだった。
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