30 / 164
憂鬱な朝食の席で
しおりを挟む
「ミルフィ、今日から暫くの間はジョゼットがミルフィに勉強を教えるから、しっかり勉強をするんだよ」
次の日の朝、眠い目を擦りながら朝食のテーブルに着くなりお父様に言われ私は思わず兄様に視線を向けた。
本当に兄様がお願いしてくれたのだ。
にこにこ笑いながら私を見ている兄様の、その表情で悟った私は「嬉しい! ありがとう!」とはしゃいだ声を上げた。
ガスパール先生の診察を受け、今日から普通に食事をしていいと許可を頂いたからか、朝食の量は元に戻っていた。
小さな子供の手でも持てる大きさに焼かれた、丸パン。
黄色の色が鮮やかなオムレツに、潰したじゃがいもを塩とバターで味付けしたものと炒めたキャベツが添えられている。そして細かく刻んだ玉ねぎと人参が入った牛乳のスープ。
お父様とお母様の朝食はスープとパン、主菜、果物の順で給仕されていくけれど、私と兄様はまとめてテーブルに置かれる。
「パセリ」
喜んだものの、じゃがいもの上に振りかけられている小さく刻まれたパセリが視界に入り眉をしかめる。
昨日は嫌いなものが出てこなかったから、油断してしまった。
スープに入っている人参も苦手な野菜だから、そちらも嫌だけれどパセリよりはまだ好きな方だと言える。
「さあ、今日の恵みを下さった精霊神様に感謝して頂こう」
「豊かな恵みを感謝致します」
両手を組んで祈るお父様達を見ながら、私はぺこりと頭を下げてしまった。
この国では精霊神様を信仰する派と女神マルガレーテ様を信仰する派とあるが、スフィール侯爵家は精霊神様を信仰している。以前の私の夫だったレムフリードの実家ラケニオン子爵家は女神マルガレーテ様を信仰していた。
一緒に食事をしたのは数える程しかなかったと思うが、彼は食事の時は両手を組まず頭を軽く下げるだけだったから私もいつの間にかそうする様になっていた。
その癖が出てしまったのだ。
「ミルフィ?」
いつもお祈りしていないのだから急にこんなことをしたらおかしいというのに、お父様達につられて頭を下げてしまったが、不審に思われないだろうか。
「ミルフィも感謝出来て偉いね」
私の不安を余所に兄様が誉めてくれるけれど、私は内心冷や汗をかいていた。
「ミルフィいい子なの」
どこまでこれで誤魔化せるのだろう。
もはや誤魔化せていない気がしながら、丸パンを掴む。
「お嬢様、ジャムをお付けしましょうか」
「うん」
そういえば、丸パンにはバターではなく、蜂蜜かジャムをつけて食べるのが好きだった。
すっかり忘れていて、そのまま食べようとしていた。
ジョゼットに丸パンを手渡すと、一口大にしてジャムをつけてくれたから、つい口を開いてしまった。
「お嬢様?」
「あ」
すでに介助される時期は過ぎたと言うのに、私は何をやっているのだろう。
恥ずかしくなった私は俯きそうになるけれど、ジョゼットは驚きながらもパンを口に入れてくれた。
「お味は如何でしょう」
「林檎?」
「はい、林檎のジャムでございます」
「もっと沢山つけて欲しい」
「畏まりました」
ジョゼットがパンにジャムをつけているのを横目で見ながら、私は急いでフォークにパセリがついたじゃがいもをすくって口に入れた。
どうして神様はこんなに苦い野菜を作ったのだろう、大人になっても好きでは無かったが子供の舌は敏感なのか以前の記憶よりも苦く青臭く感じてしまう。
苦いし匂いも好きではないと内心泣きながら、必死に噛んで飲み込むと、ジョゼットの方を向いて口を開いた。
「パンを召し上がれるのですね?」
口を開いたまま頷くと、形容しがたい顔をしたジョゼットがたっぷり林檎のジャムをつけたパンを食べさせてくれた。
まだ苦みは口の中に残っているけれど、ジャムの甘さが癒してくれる。
「ぷ」
笑ったのは誰だろうか、私は必死なのに。
スープで流し込むわけにはいかないから、せめて好きな味で口の中の苦味を消そうとしているというのに。
「が、頑張ったね。ミルフィ」
笑ったのはお父様だった。
笑いながら誉めてくれても嬉しくないけれど、怒られるよりはいいと思い直した。
「お行儀は誉められないけれど、頑張りましたねミルフィ」
「偉いよ」
お母様も兄様も笑いながら誉めてくれる。
確かに行儀は誉められないだろう。
でも、口にするだけ偉いし、外ではしないから見逃して欲しい。
どうして好き嫌いしない等と言ってしまったのだろう。
過去を後悔しながら、オムレツを食べる。
スープにも人参が入っているのが憂鬱だった、スープが牛乳味なのが救いだがそれでも人参の味も苦手だ。
「ミルフィ、いい子になるんだもの」
意識は大人なのに、味覚は子供だから苦手なものは苦手なままだと嘆きながら、憂鬱な食事は続くのだった。
次の日の朝、眠い目を擦りながら朝食のテーブルに着くなりお父様に言われ私は思わず兄様に視線を向けた。
本当に兄様がお願いしてくれたのだ。
にこにこ笑いながら私を見ている兄様の、その表情で悟った私は「嬉しい! ありがとう!」とはしゃいだ声を上げた。
ガスパール先生の診察を受け、今日から普通に食事をしていいと許可を頂いたからか、朝食の量は元に戻っていた。
小さな子供の手でも持てる大きさに焼かれた、丸パン。
黄色の色が鮮やかなオムレツに、潰したじゃがいもを塩とバターで味付けしたものと炒めたキャベツが添えられている。そして細かく刻んだ玉ねぎと人参が入った牛乳のスープ。
お父様とお母様の朝食はスープとパン、主菜、果物の順で給仕されていくけれど、私と兄様はまとめてテーブルに置かれる。
「パセリ」
喜んだものの、じゃがいもの上に振りかけられている小さく刻まれたパセリが視界に入り眉をしかめる。
昨日は嫌いなものが出てこなかったから、油断してしまった。
スープに入っている人参も苦手な野菜だから、そちらも嫌だけれどパセリよりはまだ好きな方だと言える。
「さあ、今日の恵みを下さった精霊神様に感謝して頂こう」
「豊かな恵みを感謝致します」
両手を組んで祈るお父様達を見ながら、私はぺこりと頭を下げてしまった。
この国では精霊神様を信仰する派と女神マルガレーテ様を信仰する派とあるが、スフィール侯爵家は精霊神様を信仰している。以前の私の夫だったレムフリードの実家ラケニオン子爵家は女神マルガレーテ様を信仰していた。
一緒に食事をしたのは数える程しかなかったと思うが、彼は食事の時は両手を組まず頭を軽く下げるだけだったから私もいつの間にかそうする様になっていた。
その癖が出てしまったのだ。
「ミルフィ?」
いつもお祈りしていないのだから急にこんなことをしたらおかしいというのに、お父様達につられて頭を下げてしまったが、不審に思われないだろうか。
「ミルフィも感謝出来て偉いね」
私の不安を余所に兄様が誉めてくれるけれど、私は内心冷や汗をかいていた。
「ミルフィいい子なの」
どこまでこれで誤魔化せるのだろう。
もはや誤魔化せていない気がしながら、丸パンを掴む。
「お嬢様、ジャムをお付けしましょうか」
「うん」
そういえば、丸パンにはバターではなく、蜂蜜かジャムをつけて食べるのが好きだった。
すっかり忘れていて、そのまま食べようとしていた。
ジョゼットに丸パンを手渡すと、一口大にしてジャムをつけてくれたから、つい口を開いてしまった。
「お嬢様?」
「あ」
すでに介助される時期は過ぎたと言うのに、私は何をやっているのだろう。
恥ずかしくなった私は俯きそうになるけれど、ジョゼットは驚きながらもパンを口に入れてくれた。
「お味は如何でしょう」
「林檎?」
「はい、林檎のジャムでございます」
「もっと沢山つけて欲しい」
「畏まりました」
ジョゼットがパンにジャムをつけているのを横目で見ながら、私は急いでフォークにパセリがついたじゃがいもをすくって口に入れた。
どうして神様はこんなに苦い野菜を作ったのだろう、大人になっても好きでは無かったが子供の舌は敏感なのか以前の記憶よりも苦く青臭く感じてしまう。
苦いし匂いも好きではないと内心泣きながら、必死に噛んで飲み込むと、ジョゼットの方を向いて口を開いた。
「パンを召し上がれるのですね?」
口を開いたまま頷くと、形容しがたい顔をしたジョゼットがたっぷり林檎のジャムをつけたパンを食べさせてくれた。
まだ苦みは口の中に残っているけれど、ジャムの甘さが癒してくれる。
「ぷ」
笑ったのは誰だろうか、私は必死なのに。
スープで流し込むわけにはいかないから、せめて好きな味で口の中の苦味を消そうとしているというのに。
「が、頑張ったね。ミルフィ」
笑ったのはお父様だった。
笑いながら誉めてくれても嬉しくないけれど、怒られるよりはいいと思い直した。
「お行儀は誉められないけれど、頑張りましたねミルフィ」
「偉いよ」
お母様も兄様も笑いながら誉めてくれる。
確かに行儀は誉められないだろう。
でも、口にするだけ偉いし、外ではしないから見逃して欲しい。
どうして好き嫌いしない等と言ってしまったのだろう。
過去を後悔しながら、オムレツを食べる。
スープにも人参が入っているのが憂鬱だった、スープが牛乳味なのが救いだがそれでも人参の味も苦手だ。
「ミルフィ、いい子になるんだもの」
意識は大人なのに、味覚は子供だから苦手なものは苦手なままだと嘆きながら、憂鬱な食事は続くのだった。
160
お気に入りに追加
2,036
あなたにおすすめの小説

どんなに私が愛しても
豆狸
恋愛
どんなに遠く離れていても、この想いがけして届かないとわかっていても、私はずっと殿下を愛しています。
これからもずっと貴方の幸せを祈り続けています。
※子どもに関するセンシティブな内容があります。

家族に裏切られて辺境で幸せを掴む?
しゃーりん
恋愛
婚約者を妹に取られる。
そんな小説みたいなことが本当に起こった。
婚約者が姉から妹に代わるだけ?しかし私はそれを許さず、慰謝料を請求した。
婚約破棄と共に跡継ぎでもなくなったから。
仕事だけをさせようと思っていた父に失望し、伯父のいる辺境に行くことにする。
これからは辺境で仕事に生きよう。そう決めて王都を旅立った。
辺境で新たな出会いがあり、付き合い始めたけど?というお話です。

今日、大好きな婚約者の心を奪われます 【完結済み】
皇 翼
恋愛
昔から、自分や自分の周りについての未来を視てしまう公爵令嬢である少女・ヴィオレッタ。
彼女はある日、ウィステリア王国の第一王子にして大好きな婚約者であるアシュレイが隣国の王女に恋に落ちるという未来を視てしまう。
その日から少女は変わることを決意した。将来、大好きな彼の邪魔をしてしまう位なら、潔く身を引ける女性になろうと。
なろうで投稿している方に話が追いついたら、投稿頻度は下がります。
プロローグはヴィオレッタ視点、act.1は三人称、act.2はアシュレイ視点、act.3はヴィオレッタ視点となります。
繋がりのある作品:「先読みの姫巫女ですが、力を失ったので職を辞したいと思います」
URL:https://www.alphapolis.co.jp/novel/496593841/690369074

妹から私の旦那様と結ばれたと手紙が来ましたが、人違いだったようです
今川幸乃
恋愛
ハワード公爵家の長女クララは半年ほど前にガイラー公爵家の長男アドルフと結婚した。
が、優しく穏やかな性格で領主としての才能もあるアドルフは女性から大人気でクララの妹レイチェルも彼と結ばれたクララをしきりにうらやんでいた。
アドルフが領地に次期当主としての勉強をしに帰ったとき、突然クララにレイチェルから「アドルフと結ばれた」と手紙が来る。
だが、レイチェルは知らなかった。
ガイラー公爵家には冷酷非道で女癖が悪く勘当された、アドルフと瓜二つの長男がいたことを。
※短め。

これでも全属性持ちのチートですが、兄弟からお前など不要だと言われたので冒険者になります。
りまり
恋愛
私の名前はエルムと言います。
伯爵家の長女なのですが……家はかなり落ちぶれています。
それを私が持ち直すのに頑張り、贅沢できるまでになったのに私はいらないから出て行けと言われたので出ていきます。
でも知りませんよ。
私がいるからこの贅沢ができるんですからね!!!!!!

お姉さまは最愛の人と結ばれない。
りつ
恋愛
――なぜならわたしが奪うから。
正妻を追い出して伯爵家の後妻になったのがクロエの母である。愛人の娘という立場で生まれてきた自分。伯爵家の他の兄弟たちに疎まれ、毎日泣いていたクロエに手を差し伸べたのが姉のエリーヌである。彼女だけは他の人間と違ってクロエに優しくしてくれる。だからクロエは姉のために必死にいい子になろうと努力した。姉に婚約者ができた時も、心から上手くいくよう願った。けれど彼はクロエのことが好きだと言い出して――

私だけが家族じゃなかったのよ。だから放っておいてください。
鍋
恋愛
男爵令嬢のレオナは王立図書館で働いている。古い本に囲まれて働くことは好きだった。
実家を出てやっと手に入れた静かな日々。
そこへ妹のリリィがやって来て、レオナに助けを求めた。
※このお話は極端なざまぁは無いです。
※最後まで書いてあるので直しながらの投稿になります。←ストーリー修正中です。
※感想欄ネタバレ配慮無くてごめんなさい。
※SSから短編になりました。

愛し子は自由のために、愛され妹の嘘を放置する
紅子
恋愛
あなたは私の連理の枝。今世こそは比翼の鳥となりましょう。
私は、女神様のお願いで、愛し子として転生した。でも、そのことを誰にも告げる気はない。可愛らしくも美しい双子の妹の影で、いない子と扱われても特別な何かにはならない。私を愛してくれる人とこの世界でささやかな幸せを築ければそれで満足だ。
その希望を打ち砕くことが起こるとき、私は全力でそれに抗うだろう。
完結済み。毎日00:00に更新予定です。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる