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絵本を読んで
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「この子がスザンヌです。お嬢様、本当によろしいのですか」
パティは恐る恐るスザンヌを連れて私の部屋に入ってきた。
「スザンヌご挨拶なさい。こちらはミルフィーヌお嬢様よ。私とお母さんがお仕えしているお嬢様よ」
「……お嬢様? 果汁くれた人?」
「スザンヌ失礼よ。ご挨拶なさい。お母さんに習ったでしょう」
ぼんやりとした表情のスザンヌは、パティに甘える様に抱きついたまま私を不審そうに見ている。
「スザンヌです。三歳です」
「ミルフィーヌよ。パティ、スザンヌはそこに座らせて」
「よろしいのですか?」
「パティはその隣、私がここ」
パティを挟んで左右に私とスザンヌが座る様にパティに指示を出す。
絵本は読み聞かせられるだけではつまらない。綺麗な挿絵を見ながら読んで貰うのが楽しいのだ。当然絵本を読むパティは私の隣だし、だとしたらスザンヌも同じ様にパティの隣に座らないと絵本を楽しめない。
「よろしいのですか」
「よろしい? パティ早く読んで」
躊躇うパティに絵本を読むように強要すると、パティは困った顔をしたまま本を開いた。
「では読みます。むかしむかしある村近くの山のふもとに、子うさぎが母親うさぎと暮らしていました」
パティはどもることもなく絵本を読んでいく。
幼児向けの絵本だから、十二歳のパティが読めるのは貴族の感覚では当り前だけれどその隣で黙って絵本を見つめているスザンヌの反応は、予想に反していた。
「可愛い花、そう子うさぎは思いました。そして、いつも美味しい食べ物を集めてくれるお母さんうさぎにプレゼントしたらきっとよろこんで貰える。そう考えた子うさぎは夢中で花を摘み始めました」
スザンヌの好みの話では無かったのだろうか、飽きた雰囲気を出しながらそれでもスザンヌは大人しくパティの読む絵本を見つめている。
三歳児の反応としてこれが普通なのだろうか。
なんとなくスザンヌは大人しすぎる気がするけれど、気のせいなのだろうか。
「子うさぎは一生懸命逃げました。猟師の放つ弓矢は逃げる子うさぎの近くに放たれ、もう駄目だと子うさぎは目をつむりました」
花とうさぎは、子うさぎが綺麗な花を見つけ、摘んで巣穴に帰ろうとしたら猟師に見つかり一生懸命逃げて、巣穴に帰り母うさぎに再会するという話だ。
逃げた時に摘んだ花を無くしてしまい落ち込む子うさぎを、母うさぎは「お前が元気ならそれで十分」と抱きしめてくれる。それが幸せだと感じる子うさぎという、なんというか幼児向けなのか微妙な絵本だったけれど、私は好きだった。
「お前が元気ならそれで十分だよ。お母さんうさぎはそういうと、子うさぎを抱きしめました。子うさぎは、その夜幸せな気持ちのままお母さんうさぎと一緒に眠りについたのでした。おしまい」
何が好きだと言えば、母うさぎが子うさぎと一緒に眠る最後の挿絵だった。
私はお母様と一緒に眠った記憶が無い。
それは多分兄様も同じだと思う。
貴族にとって子育ての殆どは乳母がするものだから、それは当然だった。
でも母うさぎに抱きしめられて眠る子うさぎはとても幸せそうで、私は幼い感情で羨ましいと思っていたのだ。
「子うさぎ、スザンヌと一緒ね。お母さんとスザンヌみたい」
その一言で現実に戻された。
ああ、そうかジョゼットは私の乳母だけれど、スザンヌとパティの母親なのだ。
「スザンヌ」
「スザンヌとジョゼットはお母さんうさぎと子うさぎみたいにして寝るのね」
羨ましい。
そんな感情に蓋をして、私はただ笑ったのだった。
パティは恐る恐るスザンヌを連れて私の部屋に入ってきた。
「スザンヌご挨拶なさい。こちらはミルフィーヌお嬢様よ。私とお母さんがお仕えしているお嬢様よ」
「……お嬢様? 果汁くれた人?」
「スザンヌ失礼よ。ご挨拶なさい。お母さんに習ったでしょう」
ぼんやりとした表情のスザンヌは、パティに甘える様に抱きついたまま私を不審そうに見ている。
「スザンヌです。三歳です」
「ミルフィーヌよ。パティ、スザンヌはそこに座らせて」
「よろしいのですか?」
「パティはその隣、私がここ」
パティを挟んで左右に私とスザンヌが座る様にパティに指示を出す。
絵本は読み聞かせられるだけではつまらない。綺麗な挿絵を見ながら読んで貰うのが楽しいのだ。当然絵本を読むパティは私の隣だし、だとしたらスザンヌも同じ様にパティの隣に座らないと絵本を楽しめない。
「よろしいのですか」
「よろしい? パティ早く読んで」
躊躇うパティに絵本を読むように強要すると、パティは困った顔をしたまま本を開いた。
「では読みます。むかしむかしある村近くの山のふもとに、子うさぎが母親うさぎと暮らしていました」
パティはどもることもなく絵本を読んでいく。
幼児向けの絵本だから、十二歳のパティが読めるのは貴族の感覚では当り前だけれどその隣で黙って絵本を見つめているスザンヌの反応は、予想に反していた。
「可愛い花、そう子うさぎは思いました。そして、いつも美味しい食べ物を集めてくれるお母さんうさぎにプレゼントしたらきっとよろこんで貰える。そう考えた子うさぎは夢中で花を摘み始めました」
スザンヌの好みの話では無かったのだろうか、飽きた雰囲気を出しながらそれでもスザンヌは大人しくパティの読む絵本を見つめている。
三歳児の反応としてこれが普通なのだろうか。
なんとなくスザンヌは大人しすぎる気がするけれど、気のせいなのだろうか。
「子うさぎは一生懸命逃げました。猟師の放つ弓矢は逃げる子うさぎの近くに放たれ、もう駄目だと子うさぎは目をつむりました」
花とうさぎは、子うさぎが綺麗な花を見つけ、摘んで巣穴に帰ろうとしたら猟師に見つかり一生懸命逃げて、巣穴に帰り母うさぎに再会するという話だ。
逃げた時に摘んだ花を無くしてしまい落ち込む子うさぎを、母うさぎは「お前が元気ならそれで十分」と抱きしめてくれる。それが幸せだと感じる子うさぎという、なんというか幼児向けなのか微妙な絵本だったけれど、私は好きだった。
「お前が元気ならそれで十分だよ。お母さんうさぎはそういうと、子うさぎを抱きしめました。子うさぎは、その夜幸せな気持ちのままお母さんうさぎと一緒に眠りについたのでした。おしまい」
何が好きだと言えば、母うさぎが子うさぎと一緒に眠る最後の挿絵だった。
私はお母様と一緒に眠った記憶が無い。
それは多分兄様も同じだと思う。
貴族にとって子育ての殆どは乳母がするものだから、それは当然だった。
でも母うさぎに抱きしめられて眠る子うさぎはとても幸せそうで、私は幼い感情で羨ましいと思っていたのだ。
「子うさぎ、スザンヌと一緒ね。お母さんとスザンヌみたい」
その一言で現実に戻された。
ああ、そうかジョゼットは私の乳母だけれど、スザンヌとパティの母親なのだ。
「スザンヌ」
「スザンヌとジョゼットはお母さんうさぎと子うさぎみたいにして寝るのね」
羨ましい。
そんな感情に蓋をして、私はただ笑ったのだった。
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