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パティの妹
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「パティは絵本読める?」
「はい」
「じゃあ、花とうさぎ、読んでくれる?」
パティに手を引かれ部屋へと戻る途中で、私は彼女に尋ねた。
ミルフィはまともな授業を受けていないけれど、時々ジョゼットに絵本を読んで貰っていた様だった。
「お嬢様のお好きな絵本ですね」
「うん」
頷いて、そういえばパティには妹がいたと唐突に思い出した。果汁を二人で飲んでと戯れに言ったけれど、忘れていた。
名前はなんだっただろうか、以前の私の記憶にパティの妹の記憶は薄ぼんやりとしか残っていない。
パティは私の侍女見習いとして常に側にいたけれど、パティの妹は私と同じ年の筈だから働ける筈がないし、ずっと部屋に一人でいたのかもしれない。
「お兄ちゃまはどんな絵本を読んでくれるのかな」
兄様はきっと約束を守ってくれる。
一緒に絵本を読んだなんて、以前の私は体験していない。
そう思うと、とても貴重な時間になりそうで、約束が果たされる日が待ち遠しかった。
「パティ、リスって見たことある?」
動物なんて、今のミルフィは馬を見たことがあるだけだ。
その馬も馬車に乗りこむお父様を見送る時に見るだけで、実際に触れたことなど無かった。
「リスは絵本の挿し絵でしか見たことはございませんね」
「可愛い?」
「ええ、とても可愛いですよ」
兄様の言い方ではそういう感じでは無かったけれど、以前の私の記憶にあるリスはそれなりに可愛かった覚えがあるから、パティの言うとおりとても可愛いのかもしれない。
「お兄ちゃま、ミルフィがリスって」
「それは……お嬢様が、その」
「なあに」
「可愛いリスの様だと誉めたかったのかと」
何か含みのある言い方に、やはり違う意味なのかと考えながら、嬉しい方に考えようと思考を切り替えた。
今までの兄様との関係では、きっとミルフィをそんな風に言ったりしなかった。
試されたのは驚いたし、がっかりもしたけれど。
以前の私を含めても、我が儘で甘えたことしか言ってこなかったし思い通りにならなければ癇癪を起こしていたのだから、すぐに信じられなくて当たり前なのだと思う。
これはだから、良い変化なのだと思う。
「ねえ、パティの妹はなんていう名前なの?」
「え、あ、あの。スザンヌと申します」
「会える?」
ジョゼットが怪我で寝込んでいた時、パティの妹スザンヌは部屋にいただろうか?
覚えていないのは、治療で頭がいっぱいだったせいなのだろう。
「会え、ですが」
「絵本、パティの妹も一緒に読んだらもっと楽しいよ」
「一緒に、でございますかっ」
パティが驚くのも無理はない、今まで名前すら聞こうとしなかったというのに、一緒に絵本を読もうなんて言われたら何か裏があるのかと勘ぐっても仕方ないだろう。
「そう、一緒に。ミルフィ、お兄ちゃまに絵本を読んでもらうの楽しみなの。だから、パティの妹もパティに絵本を読んで貰うの」
わざと分けがわからない様に話すけれど、単純な発想なのだ。
兄様に絵本を読んで貰えるのが楽しみで仕方ない。同じくパティの妹も姉であるパティに絵本を読んでもらったら嬉しいだろう。
ただそれだけだった。
「ですが、妹をお嬢様のお部屋に入れるのは」
「絵本破る? それとも行儀が悪いの?」
癇癪をおこして暴れるのは、今までの私だ。
だから私の部屋は、壊れそうな物は私の手の届かないところに置いてある。スザンヌが暴れる様な子でなければ部屋に入れても問題はないだろう。
「大人しい子ですから、そんな事は致しませんが」
「じゃあ、いいでしょ」
「絵本を読む間だけでしたら」
「うん」
スザンヌがどんな子か分からないけれど、私は自分の思い付きに満足したのだった。
「はい」
「じゃあ、花とうさぎ、読んでくれる?」
パティに手を引かれ部屋へと戻る途中で、私は彼女に尋ねた。
ミルフィはまともな授業を受けていないけれど、時々ジョゼットに絵本を読んで貰っていた様だった。
「お嬢様のお好きな絵本ですね」
「うん」
頷いて、そういえばパティには妹がいたと唐突に思い出した。果汁を二人で飲んでと戯れに言ったけれど、忘れていた。
名前はなんだっただろうか、以前の私の記憶にパティの妹の記憶は薄ぼんやりとしか残っていない。
パティは私の侍女見習いとして常に側にいたけれど、パティの妹は私と同じ年の筈だから働ける筈がないし、ずっと部屋に一人でいたのかもしれない。
「お兄ちゃまはどんな絵本を読んでくれるのかな」
兄様はきっと約束を守ってくれる。
一緒に絵本を読んだなんて、以前の私は体験していない。
そう思うと、とても貴重な時間になりそうで、約束が果たされる日が待ち遠しかった。
「パティ、リスって見たことある?」
動物なんて、今のミルフィは馬を見たことがあるだけだ。
その馬も馬車に乗りこむお父様を見送る時に見るだけで、実際に触れたことなど無かった。
「リスは絵本の挿し絵でしか見たことはございませんね」
「可愛い?」
「ええ、とても可愛いですよ」
兄様の言い方ではそういう感じでは無かったけれど、以前の私の記憶にあるリスはそれなりに可愛かった覚えがあるから、パティの言うとおりとても可愛いのかもしれない。
「お兄ちゃま、ミルフィがリスって」
「それは……お嬢様が、その」
「なあに」
「可愛いリスの様だと誉めたかったのかと」
何か含みのある言い方に、やはり違う意味なのかと考えながら、嬉しい方に考えようと思考を切り替えた。
今までの兄様との関係では、きっとミルフィをそんな風に言ったりしなかった。
試されたのは驚いたし、がっかりもしたけれど。
以前の私を含めても、我が儘で甘えたことしか言ってこなかったし思い通りにならなければ癇癪を起こしていたのだから、すぐに信じられなくて当たり前なのだと思う。
これはだから、良い変化なのだと思う。
「ねえ、パティの妹はなんていう名前なの?」
「え、あ、あの。スザンヌと申します」
「会える?」
ジョゼットが怪我で寝込んでいた時、パティの妹スザンヌは部屋にいただろうか?
覚えていないのは、治療で頭がいっぱいだったせいなのだろう。
「会え、ですが」
「絵本、パティの妹も一緒に読んだらもっと楽しいよ」
「一緒に、でございますかっ」
パティが驚くのも無理はない、今まで名前すら聞こうとしなかったというのに、一緒に絵本を読もうなんて言われたら何か裏があるのかと勘ぐっても仕方ないだろう。
「そう、一緒に。ミルフィ、お兄ちゃまに絵本を読んでもらうの楽しみなの。だから、パティの妹もパティに絵本を読んで貰うの」
わざと分けがわからない様に話すけれど、単純な発想なのだ。
兄様に絵本を読んで貰えるのが楽しみで仕方ない。同じくパティの妹も姉であるパティに絵本を読んでもらったら嬉しいだろう。
ただそれだけだった。
「ですが、妹をお嬢様のお部屋に入れるのは」
「絵本破る? それとも行儀が悪いの?」
癇癪をおこして暴れるのは、今までの私だ。
だから私の部屋は、壊れそうな物は私の手の届かないところに置いてある。スザンヌが暴れる様な子でなければ部屋に入れても問題はないだろう。
「大人しい子ですから、そんな事は致しませんが」
「じゃあ、いいでしょ」
「絵本を読む間だけでしたら」
「うん」
スザンヌがどんな子か分からないけれど、私は自分の思い付きに満足したのだった。
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