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ジョゼット達を巻き込もう
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泣きつかれて眠っていた。
熱を出して、ガスパール先生の治療を受けて、お母様の前で泣いた。
今が何時なのか分からないけれど、喉が乾いていた。
「ん」
起き上がったものの、小さな体ではベッドから一人では出られない。
サイドテーブルの上に水差しはあるだろうか?
ベッドから遠いテーブルに、小さな灯りが灯っているのは私を怖がらせない為だろう。
この時代ではまだまだ高価な魔道具である、灯の魔道具が子供部屋に置かれるのは火事の心配があるからだけれど、夜中ずっと点けているのは珍しい。
昼間のことがあるから、気を遣ったのだろうか?
考えていたら、クゥとお腹が鳴った。
「お嬢様?」
「ひっ」
不意に声が聞こえて私はビクリと身体を震わせた。
「パティ?」
何故ここにいるのだろう?
椅子にも座らず、パティはドアの辺りに立っていたのだ。
灯りから離れた場所にいたから気付かなかった。
「お目覚めになられたのですね。お水は飲まれますか?」
「うん」
部屋の灯りを点けて、テーブルに置いてった水差しからグラスに水を注ぐと私の手に持たせ、手を添えて飲ませてくれる。
サイドテーブルにはやはり呼び鈴すら置いていなかった。
「パティ。お母様は?」
「奥様はもうお休みになられました。先程までいらっしゃいましたが、昨日一晩中起きて付き添われていましたから、旦那様が休まなければいけないと言われて」
子供にそんな説明をしても普通は分からないだろう。
でも、こういうところが生真面目なパティらしい。
それよりも、一晩中? お母様が私の側にいてくれたなんて、信じられない。
「えと、ミルフィ」
「お腹は如何ですか、スープでもお持ち致しましょうか」
「パティ、一晩って?」
「一晩は、夜に寝てから朝になるまでという意味です。昨日ミルフィ様は熱を出されて、ガスパール先生の治療の後でも目を覚まさず、漸くお目覚めになったのは今日の夕方近くでした。けれど、またすぐにお休みになられたのです」
幼いミルフィとの夢は一瞬の様に思えたけれど、長い時間だったのかもしれない。
二人の意識が混ざり合うにはそれだけの時間が必要だったのだろう。
「申し訳ありません。説明が難しかったですね」
「パティ、お腹すいた」
「すぐ厨房にいってまいります。一人でお待ち頂けますか?」
「うん」
考える時間が欲しくて、空腹だと言ってパティを部屋から出ていかせる。
空腹なのは事実だから、嘘ではない。
「夫人はどうなったのかしら」
先生、いやもう先生ではないのだから夫人でいいだろう。彼女の様子をお父様は見ていたのだから、さすがに私の授業をする等はないと思う。
お母様はさっき何も教えてくれなかった。
「子供に詳しく説明する筈がないわね」
膝を抱えて考え込む。
行儀はよくないけれど、こうして考え込むのは昔からの癖だった。
小さく身体を丸めていると何故か安心出来たのだ。
「失礼致します」
「ジョゼット?」
「パティが厨房に行くというので急ぎ参りました。この様な姿で申し訳ございません」
寝支度をした後なのだろう。
長い髪をひとつにしばっただけのジョゼットは、寝巻きと思われる簡素なワンピースに厚手のショールを羽織っただけの姿で部屋に入ってきた。
「ご気分は悪くございませんか?」
「うん。ねえ、ジョゼット」
ベッドに近付いてきたジョゼットに、聞いてみることにした。
詳しくは知らなくても、ジョゼットなら何か教えてくれるかもしれない。
「はい」
「先生は?」
「先生? ガスパール先生でしょうか」
「ううん。あの」
「夫人は、オーレンス子爵が連れてお帰りになりました。もう二度とこの屋敷に訪れることはないでしょう」
まさかお父様が夫人を許すとは思わなかったけれど、子爵の兄であるダーニャ伯爵家はお母様の妹が嫁いでいた筈だ。 今後関わりが無くなるとは思えなかったから、ジョゼットの話を聞いて驚いてしまった。
「本当? もうミルフィを打たない?」
「お嬢様、お可哀想に怯えていらっしゃるのですね。お守りできず申し訳こざいません」
「ジョゼットはミルフィを打ったりしない。怒鳴ったりしないって分かってるよ」
子供の言葉で信用を伝えるのは難しい。
それに新しく来る教師がどんな人間か分からないのも怖かった。
以前の私はずっとあの人を先生としていたのだから。
「ミルフィ、怖いよ。また先生に打たれる?」
「そんな事ございません。もう子爵夫人はお嬢様に近付けませんから」
「じゃあ、ミルフィの先生は?」
「それは、新しい先生を」
「新しい先生?また打たれるの?ずっと立っていなさいって、謝りなさいって」
想像するだけで体が震える。
次がまともな人だとどうして言える?
兄様ならともかく、私では不満だと相手が考えないとどうして言える?
考えるのは怖いし、そもそもよく知りもしない他人は怖いのだ。
「お嬢様、そんなことございませんから、どうか怯えないで下さいませ」
「本当?」
「ええ」
頷くジョゼットを見ながら考えていた。
ジョゼットを先生にしたらどうだろう?
私が子供の振りに失敗しても、ジョゼットならお母様達に言わないかもしれない。
それにジョゼットは元々男爵家の夫人だったから、礼儀作法は問題ないし、勉強も出来たらしく以前の私は学校の宿題を度々手伝って貰っていたのだ。
「ジョゼットが先生ならいいのに」
「お嬢様?」
「ジョゼットなら打たないし怖くないよね」
もう少し大きくなれば他人への恐怖も薄まるだろう。
それまでジョゼットには頑張って貰おう。
明日の朝お父様にお願いしてみよう。
心に決めた私は、ジョゼットの手を掴んでにっこりと微笑むのだった。
熱を出して、ガスパール先生の治療を受けて、お母様の前で泣いた。
今が何時なのか分からないけれど、喉が乾いていた。
「ん」
起き上がったものの、小さな体ではベッドから一人では出られない。
サイドテーブルの上に水差しはあるだろうか?
ベッドから遠いテーブルに、小さな灯りが灯っているのは私を怖がらせない為だろう。
この時代ではまだまだ高価な魔道具である、灯の魔道具が子供部屋に置かれるのは火事の心配があるからだけれど、夜中ずっと点けているのは珍しい。
昼間のことがあるから、気を遣ったのだろうか?
考えていたら、クゥとお腹が鳴った。
「お嬢様?」
「ひっ」
不意に声が聞こえて私はビクリと身体を震わせた。
「パティ?」
何故ここにいるのだろう?
椅子にも座らず、パティはドアの辺りに立っていたのだ。
灯りから離れた場所にいたから気付かなかった。
「お目覚めになられたのですね。お水は飲まれますか?」
「うん」
部屋の灯りを点けて、テーブルに置いてった水差しからグラスに水を注ぐと私の手に持たせ、手を添えて飲ませてくれる。
サイドテーブルにはやはり呼び鈴すら置いていなかった。
「パティ。お母様は?」
「奥様はもうお休みになられました。先程までいらっしゃいましたが、昨日一晩中起きて付き添われていましたから、旦那様が休まなければいけないと言われて」
子供にそんな説明をしても普通は分からないだろう。
でも、こういうところが生真面目なパティらしい。
それよりも、一晩中? お母様が私の側にいてくれたなんて、信じられない。
「えと、ミルフィ」
「お腹は如何ですか、スープでもお持ち致しましょうか」
「パティ、一晩って?」
「一晩は、夜に寝てから朝になるまでという意味です。昨日ミルフィ様は熱を出されて、ガスパール先生の治療の後でも目を覚まさず、漸くお目覚めになったのは今日の夕方近くでした。けれど、またすぐにお休みになられたのです」
幼いミルフィとの夢は一瞬の様に思えたけれど、長い時間だったのかもしれない。
二人の意識が混ざり合うにはそれだけの時間が必要だったのだろう。
「申し訳ありません。説明が難しかったですね」
「パティ、お腹すいた」
「すぐ厨房にいってまいります。一人でお待ち頂けますか?」
「うん」
考える時間が欲しくて、空腹だと言ってパティを部屋から出ていかせる。
空腹なのは事実だから、嘘ではない。
「夫人はどうなったのかしら」
先生、いやもう先生ではないのだから夫人でいいだろう。彼女の様子をお父様は見ていたのだから、さすがに私の授業をする等はないと思う。
お母様はさっき何も教えてくれなかった。
「子供に詳しく説明する筈がないわね」
膝を抱えて考え込む。
行儀はよくないけれど、こうして考え込むのは昔からの癖だった。
小さく身体を丸めていると何故か安心出来たのだ。
「失礼致します」
「ジョゼット?」
「パティが厨房に行くというので急ぎ参りました。この様な姿で申し訳ございません」
寝支度をした後なのだろう。
長い髪をひとつにしばっただけのジョゼットは、寝巻きと思われる簡素なワンピースに厚手のショールを羽織っただけの姿で部屋に入ってきた。
「ご気分は悪くございませんか?」
「うん。ねえ、ジョゼット」
ベッドに近付いてきたジョゼットに、聞いてみることにした。
詳しくは知らなくても、ジョゼットなら何か教えてくれるかもしれない。
「はい」
「先生は?」
「先生? ガスパール先生でしょうか」
「ううん。あの」
「夫人は、オーレンス子爵が連れてお帰りになりました。もう二度とこの屋敷に訪れることはないでしょう」
まさかお父様が夫人を許すとは思わなかったけれど、子爵の兄であるダーニャ伯爵家はお母様の妹が嫁いでいた筈だ。 今後関わりが無くなるとは思えなかったから、ジョゼットの話を聞いて驚いてしまった。
「本当? もうミルフィを打たない?」
「お嬢様、お可哀想に怯えていらっしゃるのですね。お守りできず申し訳こざいません」
「ジョゼットはミルフィを打ったりしない。怒鳴ったりしないって分かってるよ」
子供の言葉で信用を伝えるのは難しい。
それに新しく来る教師がどんな人間か分からないのも怖かった。
以前の私はずっとあの人を先生としていたのだから。
「ミルフィ、怖いよ。また先生に打たれる?」
「そんな事ございません。もう子爵夫人はお嬢様に近付けませんから」
「じゃあ、ミルフィの先生は?」
「それは、新しい先生を」
「新しい先生?また打たれるの?ずっと立っていなさいって、謝りなさいって」
想像するだけで体が震える。
次がまともな人だとどうして言える?
兄様ならともかく、私では不満だと相手が考えないとどうして言える?
考えるのは怖いし、そもそもよく知りもしない他人は怖いのだ。
「お嬢様、そんなことございませんから、どうか怯えないで下さいませ」
「本当?」
「ええ」
頷くジョゼットを見ながら考えていた。
ジョゼットを先生にしたらどうだろう?
私が子供の振りに失敗しても、ジョゼットならお母様達に言わないかもしれない。
それにジョゼットは元々男爵家の夫人だったから、礼儀作法は問題ないし、勉強も出来たらしく以前の私は学校の宿題を度々手伝って貰っていたのだ。
「ジョゼットが先生ならいいのに」
「お嬢様?」
「ジョゼットなら打たないし怖くないよね」
もう少し大きくなれば他人への恐怖も薄まるだろう。
それまでジョゼットには頑張って貰おう。
明日の朝お父様にお願いしてみよう。
心に決めた私は、ジョゼットの手を掴んでにっこりと微笑むのだった。
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