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目が覚めたら
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「あぁ、ミルフィ良かったわ」
「お母様?」
何かの気配に目を開けると、お母様が私の額に手を当てていた。
「熱を出していたのよ。さっきガスパール先生に診ていただいたの」
「熱」
何となく体が汗ばんでいる気がするのはそのせいだろうか、倦怠感は無いが気持ちが悪かった。
「お母様」
身体を起こしてベッドの上に座りお母様を見つめる。
夫人はあの後どうなったのだろう。
お父様があの場にいたのはどうして?
ジョゼットに打ち明け話をしたけれど、それが理由なのだろうか。
それで、お父様は今日に限って授業を見ようとしたのだろうか。信じられない。
今まで夫人の報告を疑うこともなく、「夫人の言うことを聞いて頑張りなさい」としか言わなかったのに。
「あの、ミルフィ」
「ごめんなさいね、ミルフィ。あなたが辛い目にあっていると気が付かず、授業から逃げ出したと叱って」
「お母様」
「一度もまともな授業をしていなかったとあの人は白状したわ。使用人達がいたから食事の作法だけは教えたけれど、後はナニもせずまともな家に嫁げない様な令嬢に育てようとしていたと」
ああ、お母様も理解してくれた。
これでもう夫人は私の前には現れないだろう。
少なくとも両親は夫人から守ってくれる筈だ。
陰で「亡くなったのはどうしてセドリックの方だったんだ」等と嘆かれる事もない。
きっと、私がこれから努力すれば違う人生になる筈だ。
「先生に叱られるの、怖いの。ミルフィ馬鹿だから、先生に叱られてるって言ったら皆、ミルフィを嫌いになるって言うの」
ポタポタと涙がこぼれ落ちて、寝具を濡らす。
「ミルフィいい子になるから、嫌いにならないで。馬鹿で怠け者で、愚図なミルフィでも嫌いにならないで」
「そんな言葉を、言われていたの」
「ごめんなさい、ごめんなさい。ミルフィは馬鹿です悪い子です、ごめんなさい。ごめっ、ごめんなっ」
夫人を思い出したら、心がざわついて涙が止まらなくなってしまった。
そして勝手に口が謝罪の言葉を繰り返す。
幼いミルフィと私の心が混ざって、幼いミルフィの恐怖は私の恐怖になった。
「ごめんなさい、打たないで、ごめんなさい」
夫人を思い出したら、怖くて堪らなくなった。
目の前にいるのはお母様なのに、早く謝らなきゃ駄目だともっと謝らなきゃ駄目だと気が焦る。
「ミルフィ、謝らなくていいの。あなたは何も悪くないのよ」
お母様の優しい声に、私は、ミルフィは、もう先生に苦しめられることはないから安心していいのだと心の底から理解した。
「お母様、お母様、お母様っ!!」
わあわぁっと、声をあげて泣いた。
声をあげ、涙を流し、呼吸困難になりかけながらも泣き続けた。
こんなに泣いたのは、以前の私の人生を含めても初めての経験だと思う。
「ミルフィ、可愛い私のミルフィ。あなたを嫌いになんてならないわ。馬鹿で愚かな愚図なんかであるものですか」
「ひっく。ほん、と?」
「ええ。あなたは優しい子よ。たまに我が儘な時もあるけれど、でも理由もなく打たれなくてはいけないような悪い子ではないわ。親に呆れられ嫌われるなんて、心配はいらないの」
「ほ、本当に?」
「あなたは、私の宝物よ。ミルフィ、愛しているわ」
ハンカチで涙を拭くと、お母様は私を愛していると言ってくれた。
お母様のハンカチは不思議な匂いがした、何だろうこの匂いを知っているのに何の匂いか分からない。
以前の私の部屋で私はこの匂いをよく嗅いでいた、そんな記憶が急に浮かんですぐに消えてしまいもう追えない。
「お母様」
大好きよ、愛してるわと、お母様に繰り返し言われ、私も「ミルフィ、お母様が大好き」と言うことが出来た。
「お母様、大、好き……」
そうして泣き疲れた私は、お母様に見守られながら眠りの中に落ちていくのだった。
「お母様?」
何かの気配に目を開けると、お母様が私の額に手を当てていた。
「熱を出していたのよ。さっきガスパール先生に診ていただいたの」
「熱」
何となく体が汗ばんでいる気がするのはそのせいだろうか、倦怠感は無いが気持ちが悪かった。
「お母様」
身体を起こしてベッドの上に座りお母様を見つめる。
夫人はあの後どうなったのだろう。
お父様があの場にいたのはどうして?
ジョゼットに打ち明け話をしたけれど、それが理由なのだろうか。
それで、お父様は今日に限って授業を見ようとしたのだろうか。信じられない。
今まで夫人の報告を疑うこともなく、「夫人の言うことを聞いて頑張りなさい」としか言わなかったのに。
「あの、ミルフィ」
「ごめんなさいね、ミルフィ。あなたが辛い目にあっていると気が付かず、授業から逃げ出したと叱って」
「お母様」
「一度もまともな授業をしていなかったとあの人は白状したわ。使用人達がいたから食事の作法だけは教えたけれど、後はナニもせずまともな家に嫁げない様な令嬢に育てようとしていたと」
ああ、お母様も理解してくれた。
これでもう夫人は私の前には現れないだろう。
少なくとも両親は夫人から守ってくれる筈だ。
陰で「亡くなったのはどうしてセドリックの方だったんだ」等と嘆かれる事もない。
きっと、私がこれから努力すれば違う人生になる筈だ。
「先生に叱られるの、怖いの。ミルフィ馬鹿だから、先生に叱られてるって言ったら皆、ミルフィを嫌いになるって言うの」
ポタポタと涙がこぼれ落ちて、寝具を濡らす。
「ミルフィいい子になるから、嫌いにならないで。馬鹿で怠け者で、愚図なミルフィでも嫌いにならないで」
「そんな言葉を、言われていたの」
「ごめんなさい、ごめんなさい。ミルフィは馬鹿です悪い子です、ごめんなさい。ごめっ、ごめんなっ」
夫人を思い出したら、心がざわついて涙が止まらなくなってしまった。
そして勝手に口が謝罪の言葉を繰り返す。
幼いミルフィと私の心が混ざって、幼いミルフィの恐怖は私の恐怖になった。
「ごめんなさい、打たないで、ごめんなさい」
夫人を思い出したら、怖くて堪らなくなった。
目の前にいるのはお母様なのに、早く謝らなきゃ駄目だともっと謝らなきゃ駄目だと気が焦る。
「ミルフィ、謝らなくていいの。あなたは何も悪くないのよ」
お母様の優しい声に、私は、ミルフィは、もう先生に苦しめられることはないから安心していいのだと心の底から理解した。
「お母様、お母様、お母様っ!!」
わあわぁっと、声をあげて泣いた。
声をあげ、涙を流し、呼吸困難になりかけながらも泣き続けた。
こんなに泣いたのは、以前の私の人生を含めても初めての経験だと思う。
「ミルフィ、可愛い私のミルフィ。あなたを嫌いになんてならないわ。馬鹿で愚かな愚図なんかであるものですか」
「ひっく。ほん、と?」
「ええ。あなたは優しい子よ。たまに我が儘な時もあるけれど、でも理由もなく打たれなくてはいけないような悪い子ではないわ。親に呆れられ嫌われるなんて、心配はいらないの」
「ほ、本当に?」
「あなたは、私の宝物よ。ミルフィ、愛しているわ」
ハンカチで涙を拭くと、お母様は私を愛していると言ってくれた。
お母様のハンカチは不思議な匂いがした、何だろうこの匂いを知っているのに何の匂いか分からない。
以前の私の部屋で私はこの匂いをよく嗅いでいた、そんな記憶が急に浮かんですぐに消えてしまいもう追えない。
「お母様」
大好きよ、愛してるわと、お母様に繰り返し言われ、私も「ミルフィ、お母様が大好き」と言うことが出来た。
「お母様、大、好き……」
そうして泣き疲れた私は、お母様に見守られながら眠りの中に落ちていくのだった。
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