後悔はなんだった?

木嶋うめ香

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嘘を重ねて

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「おや、ミルフィ」

 すでに朝食が始まっていたところに私がやって来て、お父様は驚いた様に食事の手を止めている。
 私の席のところにも朝食の用意はされているけれど、いないのが当たり前だったから驚くのも当然だろう。

「おはようございます」
「おはようミルフィ」
「早起きだね、ミルフィおはよう」

 お父様とお母様が挨拶をしてくれる。
 だけど兄様の姿は無かった。

「お兄ちゃまは?」
「あぁ、少し熱があるようでね」
「熱?」

 ジョゼットに抱き上げられ椅子に座りながら、兄様の様子を尋ねれば不安な答えが帰って来た。

「お部屋に行くの、駄目?」
「ガスパール先生を呼びに行っているから、診断を受けてからになさい」
「はい」

 一度駄目と言われたら頷くしかないから、仕方無くスプーンを手に取りスープを口に運ぶ。
 今朝のスープは、比較的好きな玉ねぎとトマトのスープだった。バターが塗られた焼きたてのパンを一口大に千切り口に入れるけれど、少し硬い。

 柔らかなパンがこの家で主流になるのは、私がもう少し大きくなってからだ。
 この領地出身で王都の大きな商会に雇われていた料理人が商会を辞めて、スフィール家に雇われる様になってから当時王都で流行り始めていた柔らかいパンを焼くようになったのだ。
 これはこれで美味しいけれど、ふわふわのパンが食べたい。
 けれど私は作り方を知らないし、ふわふわのパンなんて今の私が知っていたらおかしいだろう。
 諦めるしかない。

「ミルフィおとなしいな、まだ眠いのではないか」
「あのね、お父様」
「どうした」

 なんて言えばいいか悩みながら、理路整然としていたら逆におかしいのだと気がついて話し始めた。

「ミルフィ、魔法のお勉強するの?」
「どういうことだ」
「ちゃんと出来て偉かったけど、早く覚えないと駄目だよって。必要だからって言われたの」

 これで意味が伝わったら、奇跡だろう。
 でも、夢でおばあ様が出て来て、ジョゼットを治せた事を誉めてくれた。そして今後魔法が必要になるから、早く勉強を始めないといけないと言われた等と、そんな説明が出来るわけがない。
 これが精一杯だ。

「誰がそう言ったんだ」
「おばあ様??」

 お父様は理解したのかしていないのか、表情が読めない顔で私に尋ねてくる。
 サラダのトマトをフォークで突き刺そうとしていた私は、惚けた振りをしてお母様を見つめた。

「ミルフィ、また夢を見たの?」
「おばあ様、ミーフィはいい子ねって」
「昨日のジョゼットの怪我をミルフィが治したお話はしていたと思いますが、ミルフィは夢で母に力を借りたと。確か昨日も必要だと言っていたわね、ミルフィ」

 お母様は深刻な顔で私に尋ねるけれど、そんなに記憶力がいいわけがないから「昨日?」と首を傾げてトマトを齧る。
 比較的今朝は嫌いな物が少ないけれど、サラダの中にピーマンが入っていたのを発見して眉をしかめる。

「ミルフィ?」
「お母様、ピーマンを卵と一緒に食べてもいい?」
「卵と一緒なら食べられるの、ミルフィ」
「う、うん。お兄ちゃまにピーマン食べたって言うの」

 ピーマンだけでは食べられる自信がない。
 トマトは食べてしまったし、レタスではピーマンの味は誤魔化せないだろう。

「行儀は良くないけれど、まず食べるのが大切ね。いいわよ。ジョゼット、ミルフィのサラダのピーマンを卵の方へ移してあげなさい」
「畏まりました」

 ジョゼットが新しいフォークでピーマンをサラダから卵の皿に移していく。
 全部で五切れ。飾り程度の量だけれど、私には死活問題だ。

「あなた、ミルフィは夢で母にお告げを受けたのかしら」
「どうだろうな。この様子でははっきり覚えていないのだろうが。まだ文字も書けない子供が魔法を習うのは」
「適正だけでも調べてはいかがでしょう」

 サラダに夢中な振りをしながら二人の会話に耳をすませる。

「そうだな、調べるだけなら早くてもいいだろう」
「適正があっても集中力が育つまでは難しいでしょうか」
「そうだなセドリックなら三歳でも問題なかったろうが」

 兄様なら三歳でも可能で私では駄目だという判断をされてしまったのは、やはり私の勉強態度が悪すぎる為だろう。
 でもいきなり真面目に勉強して、急に文字を覚えきってしまったら怪しまれてしまうかもしれない。

「お嬢様、レタスがテーブルに落ちています」
「あ」

 ぼんやりしていたら、手元が疎かになっていた。

「ミルフィ」
「ごめんなさい」

 謝ると、驚いた顔をした後お父様は満足そうに頷いた。

「行儀はまだまだだが、謝れる様になったのは偉いぞミルフィ」
「そうね。でも食事に集中なさい」
「はい」

 こんなことじゃ魔法の練習は始めさせて貰えないかもしれない。
 心配しながら食べていたら、いつの間にかピーマンも食べ終わっていた。
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