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今までとこれから
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「まず、朝寝坊しない。次に偏食を止める。勉強をサボらない」
入浴を終え、寝仕度をしてベッドに潜り込むとジョゼットとパティは部屋から出て行った。
二人がこの後何か仕事があるのかどうかは知らないが、怪我が治ったばかりのジョゼットは体力が落ちているから、部屋で休んでいるのかもしれない。
ベッドの中で、三歳の子供が出来るいい子への努力を考えていた。
幼いミルフィーヌの嫌いなものは、早起きに勉強に入浴そして野菜だ。
入浴は、大人の私は汗を流すのはさっぱりして気持ちが良いことだと知っているから、問題はない。
子供の体はすぐ疲れるし眠くなるけれど、仮に眠ってしまってもメイド達が部屋まで連れてきてくれる。
偏食は、兄様の前で好き嫌いはもう言えないから、努力するしかない。
勉強は、さすがに大人だったのだから、学校に上がる以前の勉強が出来ない筈がない。
早起きは、これはなんとか努力するしかない。
考えるだけで憂鬱になるけれど、すぐに挫折して兄様を失望させたくはない。
「魔法の勉強の開始次期を早めて貰うには、行儀とダンスがある程度進まないと難しいかしら」
以前の私が魔法を勉強し始めたのは七歳だったけれど、兄様はもっと早くからしていた記憶がある。
今の兄様はどうなのだろう。
勉強している様子を見たことが無かったから、分からない。
「治療系の魔法の素質があると、仄めかしたつもりだけど、お母様忘れていないかしら」
力を借りたという方だけしか覚えて貰えていなかったら、時期を早めて貰うのは難しいだろう。
「何か考えないと」
兄様が同じように亡くなるとしたら、あと十年程度の時間しかない。
魔力循環は習得済みでも、教師がすぐに魔法の使用を認めてくれるとは思えない。
体の成長で増える魔力なんて些細なものだ。魔法を繰り返し使うことで魔力は増える。
「魔力循環は毎晩練習する。自分に回復魔法も毎晩掛ける」
魔法を使う許可が出たら、パティやジョゼットに練習として下級魔法を使わせて貰おう。
後は、掛ける相手の体力や魔力を使わない、体調鑑定の魔法を掛ける。
多分この魔法の方が先に習う気がするから、こっちを頻繁に練習してもいいかもしれない。
どんな魔法でも回数をこなす事が重要なのだ。
「あとは、何をしたらいいのかしら」
兄様を死なせない。
それが私にとって一番大切な事だけれど、どうせもう一度ミルフィーヌの人生を生きるなら、しかもいい子になると決めて生きるなら、違った人生を生きてみたい。
「兄様が亡くならなければ私は家を継がないのだから、結婚相手は変わるのかしら」
夫との仲はお世辞にも良いとは言えなかった。
夫は誠実で優しい人だったし、領主の仕事も真剣に取り組んでくれた。
夫がいたから領地は栄えたし、豊かだったのだと思う。
「私は文句ばかり言って、おしゃれとお茶会や夜会そして贅沢な生活にしか興味がなかったのにね」
子供に戻ったからといっても私は当主に私だ、なのにどうして以前の私を客観的に見られるのだろう。
それが不思議だったけれど、子供の頃の寂しかった思いを認めたら、何故か自分の駄目なところに目を向けられるようになってきたのだ。
「ジョゼットの怪我の様に、私が悪かったから彼とも上手くいかなかったのかしら」
分からない、彼とは最初からギクシャクしていた気もするし結婚してからそうなった気もする。
すべての記憶があるわけではないのかもしれない。
幼い頃のこともきっと全部覚えてはいないのだろう。
「私が変われば、もっと幸せな結婚生活が送れたのかしら」
多分不幸と言い切るほど、私は不幸では無かった。
好きなドレスや宝石を買い、贅沢に暮らした。
可愛い子供と孫にも恵まれた。
「それでも寂しかったんだわ」
夫はいい人だった、領主として完璧だった。
でも、私を自分が侯爵家の当主にするためのお飾りの妻、子供の書類上の母親としか見てくれなかった。
その証拠に必要な人数の子供が生まれたら、寝室は別になってしまった。
子供達も私より夫に懐いていた。
私もそれでいいと思っていた。
「寂しさを認めたくなかったから、私は文句ばかり言って、ドレスや宝石を買い続けたのかしら」
贅沢な悩みなのかもしれないけれど、私は孤独だったのだ。
入浴を終え、寝仕度をしてベッドに潜り込むとジョゼットとパティは部屋から出て行った。
二人がこの後何か仕事があるのかどうかは知らないが、怪我が治ったばかりのジョゼットは体力が落ちているから、部屋で休んでいるのかもしれない。
ベッドの中で、三歳の子供が出来るいい子への努力を考えていた。
幼いミルフィーヌの嫌いなものは、早起きに勉強に入浴そして野菜だ。
入浴は、大人の私は汗を流すのはさっぱりして気持ちが良いことだと知っているから、問題はない。
子供の体はすぐ疲れるし眠くなるけれど、仮に眠ってしまってもメイド達が部屋まで連れてきてくれる。
偏食は、兄様の前で好き嫌いはもう言えないから、努力するしかない。
勉強は、さすがに大人だったのだから、学校に上がる以前の勉強が出来ない筈がない。
早起きは、これはなんとか努力するしかない。
考えるだけで憂鬱になるけれど、すぐに挫折して兄様を失望させたくはない。
「魔法の勉強の開始次期を早めて貰うには、行儀とダンスがある程度進まないと難しいかしら」
以前の私が魔法を勉強し始めたのは七歳だったけれど、兄様はもっと早くからしていた記憶がある。
今の兄様はどうなのだろう。
勉強している様子を見たことが無かったから、分からない。
「治療系の魔法の素質があると、仄めかしたつもりだけど、お母様忘れていないかしら」
力を借りたという方だけしか覚えて貰えていなかったら、時期を早めて貰うのは難しいだろう。
「何か考えないと」
兄様が同じように亡くなるとしたら、あと十年程度の時間しかない。
魔力循環は習得済みでも、教師がすぐに魔法の使用を認めてくれるとは思えない。
体の成長で増える魔力なんて些細なものだ。魔法を繰り返し使うことで魔力は増える。
「魔力循環は毎晩練習する。自分に回復魔法も毎晩掛ける」
魔法を使う許可が出たら、パティやジョゼットに練習として下級魔法を使わせて貰おう。
後は、掛ける相手の体力や魔力を使わない、体調鑑定の魔法を掛ける。
多分この魔法の方が先に習う気がするから、こっちを頻繁に練習してもいいかもしれない。
どんな魔法でも回数をこなす事が重要なのだ。
「あとは、何をしたらいいのかしら」
兄様を死なせない。
それが私にとって一番大切な事だけれど、どうせもう一度ミルフィーヌの人生を生きるなら、しかもいい子になると決めて生きるなら、違った人生を生きてみたい。
「兄様が亡くならなければ私は家を継がないのだから、結婚相手は変わるのかしら」
夫との仲はお世辞にも良いとは言えなかった。
夫は誠実で優しい人だったし、領主の仕事も真剣に取り組んでくれた。
夫がいたから領地は栄えたし、豊かだったのだと思う。
「私は文句ばかり言って、おしゃれとお茶会や夜会そして贅沢な生活にしか興味がなかったのにね」
子供に戻ったからといっても私は当主に私だ、なのにどうして以前の私を客観的に見られるのだろう。
それが不思議だったけれど、子供の頃の寂しかった思いを認めたら、何故か自分の駄目なところに目を向けられるようになってきたのだ。
「ジョゼットの怪我の様に、私が悪かったから彼とも上手くいかなかったのかしら」
分からない、彼とは最初からギクシャクしていた気もするし結婚してからそうなった気もする。
すべての記憶があるわけではないのかもしれない。
幼い頃のこともきっと全部覚えてはいないのだろう。
「私が変われば、もっと幸せな結婚生活が送れたのかしら」
多分不幸と言い切るほど、私は不幸では無かった。
好きなドレスや宝石を買い、贅沢に暮らした。
可愛い子供と孫にも恵まれた。
「それでも寂しかったんだわ」
夫はいい人だった、領主として完璧だった。
でも、私を自分が侯爵家の当主にするためのお飾りの妻、子供の書類上の母親としか見てくれなかった。
その証拠に必要な人数の子供が生まれたら、寝室は別になってしまった。
子供達も私より夫に懐いていた。
私もそれでいいと思っていた。
「寂しさを認めたくなかったから、私は文句ばかり言って、ドレスや宝石を買い続けたのかしら」
贅沢な悩みなのかもしれないけれど、私は孤独だったのだ。
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