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誤魔化しは成功したのだろうか
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何かの気配に瞼を開くと、お母様が私の顔を覗き込んでいた。
「あれ」
私は何をしていたのだろう? ぼんやりする意識のままお母様の顔を見つめていると「ミルフィ、目が覚めたのね」とお母様が私の額に手を当てながら呟いたのが聞こえた。
「ミルフィ、あれ?」
私はジョゼットの部屋に居た筈なのに、ここは私の部屋だと気がついた。
私の部屋、私のベッドに横たわりお母様に顔を見つめられている。
私はどうしたのだろう。
「ミルフィは、ジョゼットの部屋で倒れたのよ」
そう言われて視線を動かすと、お母様の後ろにパティとジョゼットが立っていた。
そう、ジョゼットが立っている。顔色も悪くない。
「ジョゼット治った?」
「ミルフィ、あなた何をしたの?」
「ミルフィ、力借りたの?」
「力を借りた?」
「あのね、ミーフィって呼ばれたの。ミルフィがジョゼットに元気になって欲しいって言ったら、一回だけ力を貸してあげるよって。ミーフィは使えるけど、使えないから。一回だけ貸してあげるって」
「力を貸す? ミーフィと呼んだの?」
お母様は私の説明を疑う事なく、ただ言葉を繰り返す。
「ミルフィ約束したの。ジョゼットを治したら良い子になるって」
「約束したの?」
「治したいって思いながら力を使いなさいって、言われたの。忘れない様にって言われたの。治したいって気持ちが大事だから、そう願って力を使いなさい。あとね、ミーフィの力をちゃんと使える様に勉強をすると誓いなさいって」
「お母様がミルフィに力を貸したの? でもどうして」
困惑しているお母様の顔に罪悪感を覚えながら、後に引けないので無邪気な顔で嘘をつき続ける。
今必要なのは、お母様を納得させることとジョゼットが元気に私の側にいる事だ。
「ミルフィ、ジョゼットに元気になって欲しかったの。体が痛いの嫌よ。ミルフィはジョゼットが大好き。だから元気になって欲しいっていっぱいお祈りして寝たの」
この国では、強い祈りを叶えてくれるのは血の力だと言われている。
血の繋がりは何より大切にされるし、だからこそ女でも家を継げる。
家によっては女が家を継ぐ方が正しい血を継いでいけると歓迎するところもある程だ。
「そう、ミルフィの願いをお母様が叶えて下さったのね。お母様、ありがとうございます」
お母様が言うお母様は、すなわち私のお祖母様だ。
亡くなったと兄様が言っていた、私をミーフィと呼んで可愛がって下さっていたお祖母様。
嘘の理由にして申し訳なかったけれど、ジョゼットを助ける為だから許して欲しいと心の中で懺悔した。
「ミルフィはジョゼットを治したかったのね」
「ジョゼットはミルフィを守ってくれたの。ミルフィをぎゅってしてくれたの」
あの階段の最上段から転げ落ちる恐怖は、状況が分る大人の方が怖かっただろう。
それなのにジョゼットは、自分の身を守らず私を優先し落ちたのだ。
何も分らない子供の頃なら兎も角、大人の意識がある私にはジョゼットの行動は忠臣の一言で終わらせられるものじゃない。
「ジョゼットが体痛いの嫌なの。元気でいて欲しいの」
「ミルフィ、それ程ジョゼットが好きなのね」
お母様は、優しい顔で私の髪を撫でながら微笑む。
お母様は私の言葉を疑っていない。そう確信した。
「ミルフィね、お母様が好き、お兄ちゃまもお父様も好き。ジョゼットもパティも好き」
三歳の子供だと自分に言い聞かせ、言葉を意識する。
「大好きなの。だからね、ミルフィね」
「もういいわ、分ったから。ミルフィはゆっくり休みなさい」
「寝るの駄目、お兄ちゃまとお昼ご飯を食べるって約束したの」
「そうなの? でももう午後よ。お昼ご飯は終わってしまったわ」
言われ流石に衝撃を受けた。
兄様とお昼を一緒にと約束していたのに、大好きな兄様と過ごせる時間だったのに。
「お兄ちゃま、一緒にご飯って」
じわりと涙が滲み出した。
三歳児は、涙腺がゆるい。すぐに泣き始める。
「ミルフィの体調が良ければ夜は一緒にしたいと言っていたわ。ミルフィ、どうしたいかしら?」
「お兄ちゃまと一緒がいい。ミルフィ、お兄ちゃまと一緒にご飯食べたいの」
喰い気味にお母様の質問に答える。
兄様と過ごせる時間は貴重なのだ。
両親と一緒の食事も貴重だけれど、兄様も私と一緒の食事は稀だったのだ。
「分ったわ。一緒に食事にしましょう。幸い今日は私の外出もないから一緒にね」
「嬉しい、嬉しい」
喜ぶ私をジョゼットもパティも微笑ましい顔で見つめていた。
二人の姿に私を憎む様子は無かった。
「あれ」
私は何をしていたのだろう? ぼんやりする意識のままお母様の顔を見つめていると「ミルフィ、目が覚めたのね」とお母様が私の額に手を当てながら呟いたのが聞こえた。
「ミルフィ、あれ?」
私はジョゼットの部屋に居た筈なのに、ここは私の部屋だと気がついた。
私の部屋、私のベッドに横たわりお母様に顔を見つめられている。
私はどうしたのだろう。
「ミルフィは、ジョゼットの部屋で倒れたのよ」
そう言われて視線を動かすと、お母様の後ろにパティとジョゼットが立っていた。
そう、ジョゼットが立っている。顔色も悪くない。
「ジョゼット治った?」
「ミルフィ、あなた何をしたの?」
「ミルフィ、力借りたの?」
「力を借りた?」
「あのね、ミーフィって呼ばれたの。ミルフィがジョゼットに元気になって欲しいって言ったら、一回だけ力を貸してあげるよって。ミーフィは使えるけど、使えないから。一回だけ貸してあげるって」
「力を貸す? ミーフィと呼んだの?」
お母様は私の説明を疑う事なく、ただ言葉を繰り返す。
「ミルフィ約束したの。ジョゼットを治したら良い子になるって」
「約束したの?」
「治したいって思いながら力を使いなさいって、言われたの。忘れない様にって言われたの。治したいって気持ちが大事だから、そう願って力を使いなさい。あとね、ミーフィの力をちゃんと使える様に勉強をすると誓いなさいって」
「お母様がミルフィに力を貸したの? でもどうして」
困惑しているお母様の顔に罪悪感を覚えながら、後に引けないので無邪気な顔で嘘をつき続ける。
今必要なのは、お母様を納得させることとジョゼットが元気に私の側にいる事だ。
「ミルフィ、ジョゼットに元気になって欲しかったの。体が痛いの嫌よ。ミルフィはジョゼットが大好き。だから元気になって欲しいっていっぱいお祈りして寝たの」
この国では、強い祈りを叶えてくれるのは血の力だと言われている。
血の繋がりは何より大切にされるし、だからこそ女でも家を継げる。
家によっては女が家を継ぐ方が正しい血を継いでいけると歓迎するところもある程だ。
「そう、ミルフィの願いをお母様が叶えて下さったのね。お母様、ありがとうございます」
お母様が言うお母様は、すなわち私のお祖母様だ。
亡くなったと兄様が言っていた、私をミーフィと呼んで可愛がって下さっていたお祖母様。
嘘の理由にして申し訳なかったけれど、ジョゼットを助ける為だから許して欲しいと心の中で懺悔した。
「ミルフィはジョゼットを治したかったのね」
「ジョゼットはミルフィを守ってくれたの。ミルフィをぎゅってしてくれたの」
あの階段の最上段から転げ落ちる恐怖は、状況が分る大人の方が怖かっただろう。
それなのにジョゼットは、自分の身を守らず私を優先し落ちたのだ。
何も分らない子供の頃なら兎も角、大人の意識がある私にはジョゼットの行動は忠臣の一言で終わらせられるものじゃない。
「ジョゼットが体痛いの嫌なの。元気でいて欲しいの」
「ミルフィ、それ程ジョゼットが好きなのね」
お母様は、優しい顔で私の髪を撫でながら微笑む。
お母様は私の言葉を疑っていない。そう確信した。
「ミルフィね、お母様が好き、お兄ちゃまもお父様も好き。ジョゼットもパティも好き」
三歳の子供だと自分に言い聞かせ、言葉を意識する。
「大好きなの。だからね、ミルフィね」
「もういいわ、分ったから。ミルフィはゆっくり休みなさい」
「寝るの駄目、お兄ちゃまとお昼ご飯を食べるって約束したの」
「そうなの? でももう午後よ。お昼ご飯は終わってしまったわ」
言われ流石に衝撃を受けた。
兄様とお昼を一緒にと約束していたのに、大好きな兄様と過ごせる時間だったのに。
「お兄ちゃま、一緒にご飯って」
じわりと涙が滲み出した。
三歳児は、涙腺がゆるい。すぐに泣き始める。
「ミルフィの体調が良ければ夜は一緒にしたいと言っていたわ。ミルフィ、どうしたいかしら?」
「お兄ちゃまと一緒がいい。ミルフィ、お兄ちゃまと一緒にご飯食べたいの」
喰い気味にお母様の質問に答える。
兄様と過ごせる時間は貴重なのだ。
両親と一緒の食事も貴重だけれど、兄様も私と一緒の食事は稀だったのだ。
「分ったわ。一緒に食事にしましょう。幸い今日は私の外出もないから一緒にね」
「嬉しい、嬉しい」
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