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「お兄ちゃま。お兄ちゃま」
優しい兄様の手に涙が出そうになって、ぎゅうぎゅうとしがみつく。
どうして兄様はあの日亡くなってしまったんだろう。
優しい兄様、大好きな兄様。
兄様ではなく私が残ってしまった意味はあるのだろうか、以前の私は何度も何度も考えて、意味を探せずに絶望して考えるのを止めてしまった。
兄様は素晴らしい人だったと誰もが褒めて、兄様が居なくなってしまった事を嘆いていた。お父様もお母様も口には出さなかったけれど、そう思っているとひしひしと感じた。
望んでいたわけではないのに、私は家を継ぐことになり婿を取った。
兄様が生きていればと何度も思った。
兄様に生きていて欲しかったと、何度も何度も思った。
「お兄ちゃまお勉強?」
「そうだよ。お父様の様な立派な領主になる為にしっかり勉強しないとね」
すがりつく私が疎ましかったのかもしれない、兄様はそう言うと私の手をやんわりと離した。
「邪魔してごめんなさい」
私には久し振りの兄様でも、兄様は違うと思い出した。
自分の愚行で寝込んでいた妹など、勉強に忙しい幼い兄様には都合も考えずに邪魔をしてくる存在でしかないのかもしれない。
「ごめんなさいが言えるのは偉い子だよ。ミルフィ」
謝るなんて言葉を知らないのかと疑いたくなる程、以前の私は我が儘で自分だけが大切だったから、謝る私が以外だったのだろう。
兄様は目を丸くして私を見た後、優しく頭を撫でてくれた。
「ミルフィ偉い?」
「ああ、とっても偉いよ。良い子だねミルフィ」
目を細めて兄様は私の頭を何度も撫でる。
五歳児とは思えない程、兄様の行動は大人びている。
「あのね、兄様」
「なあに」
「ミルフィをミーフィって呼ぶ?」
昨日の夜考えていた、ジョゼットに魔法を掛けられた理由。
その言い訳の為に兄様を使うのは心苦しかったけれど、一番都合がいい相手でもあった。
「ミーフィ?」
「お母様みたいな、でも違うのかな」
「ミーフィと呼ぶ人に会ったの?」
「うん、会った? 会った?」
あやふやに、兄様に逆に聞くのは演技だ。
夢でミーフィと私を呼ぶ女の人に会った。
彼女は私に、治したい元気になって欲しいと本当に思えるなら力を一度だけ貸して上げると言っていた。私には力があるけれど、今はまだ未熟で使えないから力を貸して上げる。
そう夢で言われたのだと、そうしてジョゼットを治したのだと言い訳しようとしたのだ。
「それは亡くなったお祖母様だと思うよ。お祖母様はミルフィをそう呼んでとても可愛がって下さっていたとお母様がお話されていたから」
「お祖母様?」
知っているけれど知らない振りでお兄様に聞き返す。
流石に二歳の幼児がお祖母様をそう認識していたとは思えないから、知らない振りが正しいと思ったのだ。
「ミルフィは覚えていないだろうね。去年亡くなった、お母様のお母様だよ」
「お母様のお母様」
不自然に思われないだろうか。
パティは兎も角、兄様付きのメイドが不自然さに気がつく可能性はある。
私は慎重に三歳の幼児を演じ、無垢な幼児の顔で兄様を見た。
「そうだよ、お母様のお母様」
「ミーフィって呼ぶ?」
「そうだね、そう呼んでいたよ」
「会える?」
「今は遠い場所にいらっしゃるから、お会い出来ないけれど。お祖母様は僕達をいつも見守って下さるよ」
優しい兄様は、優しい答えを私にくれる。
「遠い? 王様がいるところ?」
「王様? ああ、お父様が王都に行かれる時に遠い場所だと言っていたね。覚えていたのは偉いね。でも違うよ。もっと遠いところ。亡くなって遠い場所へと旅立たれたんだよ」
幼い頃の私の遠い所と言えば王都だった。
両親は社交の時期は王都へ出掛けてしまい、私と兄様は二人屋敷に残される。
幼い頃の私はそれが嫌だった。
「もっと遠いの」
「そうだよ。もっと遠い」
たった五歳で兄様はお祖母様の死を理解していたのかもしれない。
悲しそうな顔で、私に遠い場所だと教えてくれた。
「でもどうしたの、ミルフィは覚えていないと思ってたのに」
「あのね。ミーフィって言われたの」
「お祖母様の夢を見たの?」
「夢、分らない ミーフィって呼んでたけど、夢なのかなあ」
あくまでも曖昧に、ただ覚えているのだと兄様へ告げる。
これで準備は整った。
後はジョゼットの元へ行くだけ。
「坊ちゃまそろそろお時間です」
「ああ。ミルフィ、もっとお話していたいけれど時間みたいだ。お昼は一緒に食べようね、約束だよ」
「はいお兄ちゃま、絶対ね」
「ああ、約束するよ」
手を振って兄様は去って行く。
それを手を振って見送った後、私は後ろに黙って立っていたパティに振り返る。
「パティ、ジョゼットのところに行こう」
「畏まりましたお嬢様」
思うところが色々あるだろうけれど、パティはそう言うとお辞儀の見本見たいに頭を下げた。
ジョゼットの怪我を治す。絶対に治す。
そう心に誓って私は歩き始めた。
優しい兄様の手に涙が出そうになって、ぎゅうぎゅうとしがみつく。
どうして兄様はあの日亡くなってしまったんだろう。
優しい兄様、大好きな兄様。
兄様ではなく私が残ってしまった意味はあるのだろうか、以前の私は何度も何度も考えて、意味を探せずに絶望して考えるのを止めてしまった。
兄様は素晴らしい人だったと誰もが褒めて、兄様が居なくなってしまった事を嘆いていた。お父様もお母様も口には出さなかったけれど、そう思っているとひしひしと感じた。
望んでいたわけではないのに、私は家を継ぐことになり婿を取った。
兄様が生きていればと何度も思った。
兄様に生きていて欲しかったと、何度も何度も思った。
「お兄ちゃまお勉強?」
「そうだよ。お父様の様な立派な領主になる為にしっかり勉強しないとね」
すがりつく私が疎ましかったのかもしれない、兄様はそう言うと私の手をやんわりと離した。
「邪魔してごめんなさい」
私には久し振りの兄様でも、兄様は違うと思い出した。
自分の愚行で寝込んでいた妹など、勉強に忙しい幼い兄様には都合も考えずに邪魔をしてくる存在でしかないのかもしれない。
「ごめんなさいが言えるのは偉い子だよ。ミルフィ」
謝るなんて言葉を知らないのかと疑いたくなる程、以前の私は我が儘で自分だけが大切だったから、謝る私が以外だったのだろう。
兄様は目を丸くして私を見た後、優しく頭を撫でてくれた。
「ミルフィ偉い?」
「ああ、とっても偉いよ。良い子だねミルフィ」
目を細めて兄様は私の頭を何度も撫でる。
五歳児とは思えない程、兄様の行動は大人びている。
「あのね、兄様」
「なあに」
「ミルフィをミーフィって呼ぶ?」
昨日の夜考えていた、ジョゼットに魔法を掛けられた理由。
その言い訳の為に兄様を使うのは心苦しかったけれど、一番都合がいい相手でもあった。
「ミーフィ?」
「お母様みたいな、でも違うのかな」
「ミーフィと呼ぶ人に会ったの?」
「うん、会った? 会った?」
あやふやに、兄様に逆に聞くのは演技だ。
夢でミーフィと私を呼ぶ女の人に会った。
彼女は私に、治したい元気になって欲しいと本当に思えるなら力を一度だけ貸して上げると言っていた。私には力があるけれど、今はまだ未熟で使えないから力を貸して上げる。
そう夢で言われたのだと、そうしてジョゼットを治したのだと言い訳しようとしたのだ。
「それは亡くなったお祖母様だと思うよ。お祖母様はミルフィをそう呼んでとても可愛がって下さっていたとお母様がお話されていたから」
「お祖母様?」
知っているけれど知らない振りでお兄様に聞き返す。
流石に二歳の幼児がお祖母様をそう認識していたとは思えないから、知らない振りが正しいと思ったのだ。
「ミルフィは覚えていないだろうね。去年亡くなった、お母様のお母様だよ」
「お母様のお母様」
不自然に思われないだろうか。
パティは兎も角、兄様付きのメイドが不自然さに気がつく可能性はある。
私は慎重に三歳の幼児を演じ、無垢な幼児の顔で兄様を見た。
「そうだよ、お母様のお母様」
「ミーフィって呼ぶ?」
「そうだね、そう呼んでいたよ」
「会える?」
「今は遠い場所にいらっしゃるから、お会い出来ないけれど。お祖母様は僕達をいつも見守って下さるよ」
優しい兄様は、優しい答えを私にくれる。
「遠い? 王様がいるところ?」
「王様? ああ、お父様が王都に行かれる時に遠い場所だと言っていたね。覚えていたのは偉いね。でも違うよ。もっと遠いところ。亡くなって遠い場所へと旅立たれたんだよ」
幼い頃の私の遠い所と言えば王都だった。
両親は社交の時期は王都へ出掛けてしまい、私と兄様は二人屋敷に残される。
幼い頃の私はそれが嫌だった。
「もっと遠いの」
「そうだよ。もっと遠い」
たった五歳で兄様はお祖母様の死を理解していたのかもしれない。
悲しそうな顔で、私に遠い場所だと教えてくれた。
「でもどうしたの、ミルフィは覚えていないと思ってたのに」
「あのね。ミーフィって言われたの」
「お祖母様の夢を見たの?」
「夢、分らない ミーフィって呼んでたけど、夢なのかなあ」
あくまでも曖昧に、ただ覚えているのだと兄様へ告げる。
これで準備は整った。
後はジョゼットの元へ行くだけ。
「坊ちゃまそろそろお時間です」
「ああ。ミルフィ、もっとお話していたいけれど時間みたいだ。お昼は一緒に食べようね、約束だよ」
「はいお兄ちゃま、絶対ね」
「ああ、約束するよ」
手を振って兄様は去って行く。
それを手を振って見送った後、私は後ろに黙って立っていたパティに振り返る。
「パティ、ジョゼットのところに行こう」
「畏まりましたお嬢様」
思うところが色々あるだろうけれど、パティはそう言うとお辞儀の見本見たいに頭を下げた。
ジョゼットの怪我を治す。絶対に治す。
そう心に誓って私は歩き始めた。
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