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懐かしい兄の姿
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「お嬢様、あのどちらに向かわれるのですか」
しっかりと眠ったら朝はすぐにやって来た。
パティに回復魔法を掛けた後、もう一度自分にも中級の回復魔法を掛けた。そして魔力がまだ残っていると感じて更にパティに回復魔法を掛けてから、ぐっすりと夢も見ずに眠った。
自分の魔力量がどれほどか分らない。
神殿にある魔水晶で、魔力量と自分の適性は見て貰うことは出来るけれどあれは簡単に何度も使えるものじゃない。
魔法を使うものは、どの魔法をどれだけ使えるのか体験で把握するしかない。
魔力量限界まで使うと気を失うらしいけれど、以前の私はそこまで魔法を使った事が無かったからその感覚は分らない。
魔力量は使ってから時間が過ぎれば自然に回復するし、魔力回復薬を飲んでも回復する。
昨夜私は下級の回復魔法を一回と中級の回復魔法を三回使った。
眠る事で使用した魔力は回復する。ぐっすりと眠った私は、多分魔力が全回復している。
回復魔法を自分に掛けたから、今の私は絶好調だ。
空腹と共に目を覚しベッドに座ったまま軽い朝食を取った後、私はパティと供に部屋を抜け出した。
「パティ、お父様とお母様は今何をしているか分る?」
「旦那様はお出掛けになりました。奥様は再来月の王家主催の夜会で着られるドレスを注文される為商人と会われています」
「ドレス、じゃあ時間が掛かる? 商人は来たばかり?」
油断すると大人の様な口調になってしまうから。意識して子供っぽい話し方にしようとするけれど失敗している気がして仕方ない。
三歳の頃の自分がどんな話し方だったかなんて、覚えていないのだから仕方ない。
パティはあまり気にしていない様だけど、他の人もそうだとは限らないからもっと注意して話さないといけない気がする。
「先程到着されたばかりですから、昼近くまでかかるのではないかと思います」
私の問いに答えるパティは顔色がいい。
予想通り不寝番をしていたパティは、私が目を覚すと寝る前と同じ姿のまま椅子に座って目を閉じていた。
疲れているだろうに、たった十二歳のパティがそうしている姿は考えるものがあったけれどどうしようもないのだと思い直した。だって三歳の幼児でしかない私には何も出来ないのだ。
「じゃあいいね。パティ連れて行って」
「お嬢様?」
「ジョゼットのところに行くの。ごめんなさいって言うの。絶対に」
「お嬢様」
ガスパール先生は午後往診に来て下さるのだと、朝起きてすぐにパティに言われたから今はまだ大丈夫。
家庭教師は私が元気になるまでお休みする事になっているし、お父様は出掛けている。
「お母様達に見つからない様に、急いで行こう」
「どこに行くつもり? ミルフィ」
「え」
「体は大丈夫なの? 熱を出したって聞いたよ」
私の部屋の前でグズグズしていたのが悪かったのだろう。
聞き慣れた懐かしい声に振り返るとそこに、記憶の中と同じ姿の兄様が立っていた。
「おはようミルフィ。良かった顔色が良い」
「おはようございます。お兄ちゃま」
確かそう言っていた筈だと記憶を探り兄様を呼ぶと、にこにこと優しい笑顔で兄様は私の頭を撫でてくれた。
「ああ良かった、ミルフィ。ずっと目を覚さないと聞いていたから心配していたんだよ」
私が三歳と言うことは。兄様は五歳の筈。
だけれど兄様はしっかりとした言葉遣いで、私を気遣ってくれる。兄様は勤勉だったし頭も良かったから、五歳とは思えない口調も違和感を覚えることはない。
その兄様の後ろには、侍女が一人ついている。彼女も記憶の中の彼女よりもだいぶ若い、名前は分からないが顔は何となく覚えている。
「もう元気です。お兄ちゃま、お勉強は?」
「これからだよ。勉強の前にミルフィに会いに来たんだよ。元気になって良かったよ」
何度も何度も私の頭を撫でながら、兄様は良かったと繰り返す。
兄様はとにかく優しい人だった。
頭が良くて優しくて、学校でもお茶会でも兄様は皆に慕われていた。
「お兄ちゃま」
ぎゅうと兄様の体にしがみつく。
十代の後半、たったそれだけ生きただけで兄様は亡くなってしまった。
避暑の為、田舎にある別荘に行った時に体調を崩しそのまま亡くなってしまったのだ。
嵐の晩だった。
元々体が丈夫では無かった兄様は夏風邪を引いて、それが悪化したのだ。
地元の治癒師を呼ぼうにも嵐で馬車が出せず、朝になって治癒師が駆けつけた時にはもう手遅れだったのだ。
「どうしたのミルフィ」
「お兄ちゃま、お昼は一緒がいいです」
「淋しかったのかな。勿論いいよ。ミルフィの調子がいいなら一緒にお昼を食べよう」
「はい。お兄ちゃま。頭を撫でてください。ミルフィ、元気になるの」
兄様の体温を感じ、涙が出そうになるのを必死に堪える。
優しい兄様が大好きだった。
あんなに早くお別れがくるなんて、思いもしなかった。
「ミルフィは甘えん坊だね。体まだ辛いんじゃない? 少し顔が赤いよ」
「大丈夫です。お兄ちゃまに頭撫でて貰えて嬉しかったの」
離れたくなくてぎゅうぎゅうと兄様にしがみつく。
生きているのが信じられない。
お父様とお母様の顔を見た時よりも、パティやガスパール先生の顔を見た時よりも、兄様が生きてこうして触れられるのが信じられない。
「そうか。僕も嬉しいよ。可愛いミルフィが元気になって。だから約束してね、階段を下りる時は注意するって」
「はい、気をつけます。約束します」
真剣な顔をして私を諭す兄様に、私は真面目な顔で頷く。
良い子になる。我が儘を言わず怠けず、努力する。
だから、今度は生きて。兄様。あんなに早く居なくならないで。
願いを込めて、兄様にぎゅっとしがみついた。
しっかりと眠ったら朝はすぐにやって来た。
パティに回復魔法を掛けた後、もう一度自分にも中級の回復魔法を掛けた。そして魔力がまだ残っていると感じて更にパティに回復魔法を掛けてから、ぐっすりと夢も見ずに眠った。
自分の魔力量がどれほどか分らない。
神殿にある魔水晶で、魔力量と自分の適性は見て貰うことは出来るけれどあれは簡単に何度も使えるものじゃない。
魔法を使うものは、どの魔法をどれだけ使えるのか体験で把握するしかない。
魔力量限界まで使うと気を失うらしいけれど、以前の私はそこまで魔法を使った事が無かったからその感覚は分らない。
魔力量は使ってから時間が過ぎれば自然に回復するし、魔力回復薬を飲んでも回復する。
昨夜私は下級の回復魔法を一回と中級の回復魔法を三回使った。
眠る事で使用した魔力は回復する。ぐっすりと眠った私は、多分魔力が全回復している。
回復魔法を自分に掛けたから、今の私は絶好調だ。
空腹と共に目を覚しベッドに座ったまま軽い朝食を取った後、私はパティと供に部屋を抜け出した。
「パティ、お父様とお母様は今何をしているか分る?」
「旦那様はお出掛けになりました。奥様は再来月の王家主催の夜会で着られるドレスを注文される為商人と会われています」
「ドレス、じゃあ時間が掛かる? 商人は来たばかり?」
油断すると大人の様な口調になってしまうから。意識して子供っぽい話し方にしようとするけれど失敗している気がして仕方ない。
三歳の頃の自分がどんな話し方だったかなんて、覚えていないのだから仕方ない。
パティはあまり気にしていない様だけど、他の人もそうだとは限らないからもっと注意して話さないといけない気がする。
「先程到着されたばかりですから、昼近くまでかかるのではないかと思います」
私の問いに答えるパティは顔色がいい。
予想通り不寝番をしていたパティは、私が目を覚すと寝る前と同じ姿のまま椅子に座って目を閉じていた。
疲れているだろうに、たった十二歳のパティがそうしている姿は考えるものがあったけれどどうしようもないのだと思い直した。だって三歳の幼児でしかない私には何も出来ないのだ。
「じゃあいいね。パティ連れて行って」
「お嬢様?」
「ジョゼットのところに行くの。ごめんなさいって言うの。絶対に」
「お嬢様」
ガスパール先生は午後往診に来て下さるのだと、朝起きてすぐにパティに言われたから今はまだ大丈夫。
家庭教師は私が元気になるまでお休みする事になっているし、お父様は出掛けている。
「お母様達に見つからない様に、急いで行こう」
「どこに行くつもり? ミルフィ」
「え」
「体は大丈夫なの? 熱を出したって聞いたよ」
私の部屋の前でグズグズしていたのが悪かったのだろう。
聞き慣れた懐かしい声に振り返るとそこに、記憶の中と同じ姿の兄様が立っていた。
「おはようミルフィ。良かった顔色が良い」
「おはようございます。お兄ちゃま」
確かそう言っていた筈だと記憶を探り兄様を呼ぶと、にこにこと優しい笑顔で兄様は私の頭を撫でてくれた。
「ああ良かった、ミルフィ。ずっと目を覚さないと聞いていたから心配していたんだよ」
私が三歳と言うことは。兄様は五歳の筈。
だけれど兄様はしっかりとした言葉遣いで、私を気遣ってくれる。兄様は勤勉だったし頭も良かったから、五歳とは思えない口調も違和感を覚えることはない。
その兄様の後ろには、侍女が一人ついている。彼女も記憶の中の彼女よりもだいぶ若い、名前は分からないが顔は何となく覚えている。
「もう元気です。お兄ちゃま、お勉強は?」
「これからだよ。勉強の前にミルフィに会いに来たんだよ。元気になって良かったよ」
何度も何度も私の頭を撫でながら、兄様は良かったと繰り返す。
兄様はとにかく優しい人だった。
頭が良くて優しくて、学校でもお茶会でも兄様は皆に慕われていた。
「お兄ちゃま」
ぎゅうと兄様の体にしがみつく。
十代の後半、たったそれだけ生きただけで兄様は亡くなってしまった。
避暑の為、田舎にある別荘に行った時に体調を崩しそのまま亡くなってしまったのだ。
嵐の晩だった。
元々体が丈夫では無かった兄様は夏風邪を引いて、それが悪化したのだ。
地元の治癒師を呼ぼうにも嵐で馬車が出せず、朝になって治癒師が駆けつけた時にはもう手遅れだったのだ。
「どうしたのミルフィ」
「お兄ちゃま、お昼は一緒がいいです」
「淋しかったのかな。勿論いいよ。ミルフィの調子がいいなら一緒にお昼を食べよう」
「はい。お兄ちゃま。頭を撫でてください。ミルフィ、元気になるの」
兄様の体温を感じ、涙が出そうになるのを必死に堪える。
優しい兄様が大好きだった。
あんなに早くお別れがくるなんて、思いもしなかった。
「ミルフィは甘えん坊だね。体まだ辛いんじゃない? 少し顔が赤いよ」
「大丈夫です。お兄ちゃまに頭撫でて貰えて嬉しかったの」
離れたくなくてぎゅうぎゅうと兄様にしがみつく。
生きているのが信じられない。
お父様とお母様の顔を見た時よりも、パティやガスパール先生の顔を見た時よりも、兄様が生きてこうして触れられるのが信じられない。
「そうか。僕も嬉しいよ。可愛いミルフィが元気になって。だから約束してね、階段を下りる時は注意するって」
「はい、気をつけます。約束します」
真剣な顔をして私を諭す兄様に、私は真面目な顔で頷く。
良い子になる。我が儘を言わず怠けず、努力する。
だから、今度は生きて。兄様。あんなに早く居なくならないで。
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