6 / 164
今できることを考える
しおりを挟む
「パティ、もう寝るね」
「はい、お嬢様。お休みください」
ベッドに横たわる私に毛布を掛けた後、部屋の灯りを最低限にしてパティは部屋の隅に置いてある椅子に腰掛ける。
普段なら私が眠ればジョゼットは自分の部屋に戻るけれど、今晩パティは不寝番をするのかもしれない。
「……」
寝たふりをしながら、回復魔法について考えていた。
怪我を治す治癒魔法と、病気を治す回復魔法。
どちらも下級から上級まで種類があり、下級は本人の体力や魔力を元に魔法を発動する。それがこの魔法の基本だ。
詠唱は全部覚えているけれど無詠唱、今でも出来るんだろうか。
疑問に思い以前の私が覚えていた魔力循環をやってみることにした。
魔法を覚える基礎の基礎、それが魔力循環だ。
体内にある魔力を思い通りに体中に循環させ、魔法発動の素として使用する。
魔力循環が上手く出来ないと魔法も上手く使えないというのは、以前の私が家庭教師に散々習ったから覚えているし、魔法を使う度に実感もしていた事だった。
以前の私は魔力循環を習得するまでかなりの時間を要した。
元々が堪え性のない怠け者な私だったから、派手さもなくただひたすら自分の内面と向き合う様に繰り返す魔力循環の練習が苦手と言うより嫌いだったのだ。
上手く出来ずにすぐ癇癪を起す私を辛抱強く宥めて、訓練に付き合ってくれたのは兄様だった。仕事が忙しいお父様、社交や屋敷の管理に忙しいお母様二人とも私を愛してはくれていたけれど教育は家庭教師任せだった。
我が儘で怠け者な私を家庭教師は持て余していたから、兄様がいなかったら私は魔法を上手く使える様にはならなかったかもしれない。
以前の自分を思い出しため息をつきたくなるのを我慢して、こっそりとパティの様子を窺うが、彼女が起きているのか寝ているのか分らなかった。
詠唱したら気がつかれる可能性がある。
パティは平民で、魔法なんて使えないけれど。詠唱がどんなものかは平民の子供でも知っている事だ。
体力の回復をする魔法もある。
それを自分に無詠唱で掛けてみた。
無詠唱に必要なのは、使う魔法への理解と想像力らしい。
私は以前の私がそうしていたように、魔法で自分の体が元気になるところを想像しながら回復魔法を発動した。
そのせつな魔法が発動した感覚があり、体温が上がった気がした。
使えた。
私は以前の私の様に魔法が使える。
以前の三歳の私には決して使えなかった魔法が、今の私には使う事が出来る。
以前の私は七歳で魔法の勉強を始めた。三歳の頃なんて文字を書く練習くらいしかしていなかったし、それすら嫌だと家庭教師から逃げ出していたのだ。
使える、今の私は十分に魔力を持っているし魔法を発動出来る。
試しにパティに向かって回復魔法を掛けてみた。
回復魔法にも種類がある。パティに掛けたのは回復の際私の魔力を糧とする中級の魔法だ。私が目を覚さずにいた間、無理をしていた筈のパティの体を労る為の魔法。
それを無詠唱で、パティに気がつかれない様にこっそりと掛ける。
ごっそりと魔力が減った感覚が中級回復魔法が無事発動した事を教えてくれる。
これも使える。
三歳の私が、下級の魔法と中級魔法を無詠唱で使えた。
中級魔法が一度だけでも発動出来るなら、話は早い。
一度ジョゼットに中級魔法を掛けて、おおよその怪我を治し後は状況を見ながら下級魔法を何度も掛ければいいのだ。
以前のジョゼットは、私に仕える為体が辛くても休みも取らず働いていた。
足を引き摺りながら仕えてくれていたのだ。
どうしようもない主人だったというのに。
「ジョゼットを治せる」
こっそりとジョゼットに会いに行こう。
明日、お父様とお母様が執務に忙しい時間を狙えばきっとジョゼットに会いに行ける筈。
その為に今は自分の体力を回復しよう。
私は目を閉じて、自分自身に回復魔法と睡眠の魔法を掛けた。
魔法使いの体力と魔力は眠る事で回復する。
明日はジョゼットを治す。絶対に。
心に誓って私は目を閉じた。
「はい、お嬢様。お休みください」
ベッドに横たわる私に毛布を掛けた後、部屋の灯りを最低限にしてパティは部屋の隅に置いてある椅子に腰掛ける。
普段なら私が眠ればジョゼットは自分の部屋に戻るけれど、今晩パティは不寝番をするのかもしれない。
「……」
寝たふりをしながら、回復魔法について考えていた。
怪我を治す治癒魔法と、病気を治す回復魔法。
どちらも下級から上級まで種類があり、下級は本人の体力や魔力を元に魔法を発動する。それがこの魔法の基本だ。
詠唱は全部覚えているけれど無詠唱、今でも出来るんだろうか。
疑問に思い以前の私が覚えていた魔力循環をやってみることにした。
魔法を覚える基礎の基礎、それが魔力循環だ。
体内にある魔力を思い通りに体中に循環させ、魔法発動の素として使用する。
魔力循環が上手く出来ないと魔法も上手く使えないというのは、以前の私が家庭教師に散々習ったから覚えているし、魔法を使う度に実感もしていた事だった。
以前の私は魔力循環を習得するまでかなりの時間を要した。
元々が堪え性のない怠け者な私だったから、派手さもなくただひたすら自分の内面と向き合う様に繰り返す魔力循環の練習が苦手と言うより嫌いだったのだ。
上手く出来ずにすぐ癇癪を起す私を辛抱強く宥めて、訓練に付き合ってくれたのは兄様だった。仕事が忙しいお父様、社交や屋敷の管理に忙しいお母様二人とも私を愛してはくれていたけれど教育は家庭教師任せだった。
我が儘で怠け者な私を家庭教師は持て余していたから、兄様がいなかったら私は魔法を上手く使える様にはならなかったかもしれない。
以前の自分を思い出しため息をつきたくなるのを我慢して、こっそりとパティの様子を窺うが、彼女が起きているのか寝ているのか分らなかった。
詠唱したら気がつかれる可能性がある。
パティは平民で、魔法なんて使えないけれど。詠唱がどんなものかは平民の子供でも知っている事だ。
体力の回復をする魔法もある。
それを自分に無詠唱で掛けてみた。
無詠唱に必要なのは、使う魔法への理解と想像力らしい。
私は以前の私がそうしていたように、魔法で自分の体が元気になるところを想像しながら回復魔法を発動した。
そのせつな魔法が発動した感覚があり、体温が上がった気がした。
使えた。
私は以前の私の様に魔法が使える。
以前の三歳の私には決して使えなかった魔法が、今の私には使う事が出来る。
以前の私は七歳で魔法の勉強を始めた。三歳の頃なんて文字を書く練習くらいしかしていなかったし、それすら嫌だと家庭教師から逃げ出していたのだ。
使える、今の私は十分に魔力を持っているし魔法を発動出来る。
試しにパティに向かって回復魔法を掛けてみた。
回復魔法にも種類がある。パティに掛けたのは回復の際私の魔力を糧とする中級の魔法だ。私が目を覚さずにいた間、無理をしていた筈のパティの体を労る為の魔法。
それを無詠唱で、パティに気がつかれない様にこっそりと掛ける。
ごっそりと魔力が減った感覚が中級回復魔法が無事発動した事を教えてくれる。
これも使える。
三歳の私が、下級の魔法と中級魔法を無詠唱で使えた。
中級魔法が一度だけでも発動出来るなら、話は早い。
一度ジョゼットに中級魔法を掛けて、おおよその怪我を治し後は状況を見ながら下級魔法を何度も掛ければいいのだ。
以前のジョゼットは、私に仕える為体が辛くても休みも取らず働いていた。
足を引き摺りながら仕えてくれていたのだ。
どうしようもない主人だったというのに。
「ジョゼットを治せる」
こっそりとジョゼットに会いに行こう。
明日、お父様とお母様が執務に忙しい時間を狙えばきっとジョゼットに会いに行ける筈。
その為に今は自分の体力を回復しよう。
私は目を閉じて、自分自身に回復魔法と睡眠の魔法を掛けた。
魔法使いの体力と魔力は眠る事で回復する。
明日はジョゼットを治す。絶対に。
心に誓って私は目を閉じた。
150
お気に入りに追加
2,036
あなたにおすすめの小説

どんなに私が愛しても
豆狸
恋愛
どんなに遠く離れていても、この想いがけして届かないとわかっていても、私はずっと殿下を愛しています。
これからもずっと貴方の幸せを祈り続けています。
※子どもに関するセンシティブな内容があります。

誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。

家族に裏切られて辺境で幸せを掴む?
しゃーりん
恋愛
婚約者を妹に取られる。
そんな小説みたいなことが本当に起こった。
婚約者が姉から妹に代わるだけ?しかし私はそれを許さず、慰謝料を請求した。
婚約破棄と共に跡継ぎでもなくなったから。
仕事だけをさせようと思っていた父に失望し、伯父のいる辺境に行くことにする。
これからは辺境で仕事に生きよう。そう決めて王都を旅立った。
辺境で新たな出会いがあり、付き合い始めたけど?というお話です。

今日、大好きな婚約者の心を奪われます 【完結済み】
皇 翼
恋愛
昔から、自分や自分の周りについての未来を視てしまう公爵令嬢である少女・ヴィオレッタ。
彼女はある日、ウィステリア王国の第一王子にして大好きな婚約者であるアシュレイが隣国の王女に恋に落ちるという未来を視てしまう。
その日から少女は変わることを決意した。将来、大好きな彼の邪魔をしてしまう位なら、潔く身を引ける女性になろうと。
なろうで投稿している方に話が追いついたら、投稿頻度は下がります。
プロローグはヴィオレッタ視点、act.1は三人称、act.2はアシュレイ視点、act.3はヴィオレッタ視点となります。
繋がりのある作品:「先読みの姫巫女ですが、力を失ったので職を辞したいと思います」
URL:https://www.alphapolis.co.jp/novel/496593841/690369074

妹から私の旦那様と結ばれたと手紙が来ましたが、人違いだったようです
今川幸乃
恋愛
ハワード公爵家の長女クララは半年ほど前にガイラー公爵家の長男アドルフと結婚した。
が、優しく穏やかな性格で領主としての才能もあるアドルフは女性から大人気でクララの妹レイチェルも彼と結ばれたクララをしきりにうらやんでいた。
アドルフが領地に次期当主としての勉強をしに帰ったとき、突然クララにレイチェルから「アドルフと結ばれた」と手紙が来る。
だが、レイチェルは知らなかった。
ガイラー公爵家には冷酷非道で女癖が悪く勘当された、アドルフと瓜二つの長男がいたことを。
※短め。

これでも全属性持ちのチートですが、兄弟からお前など不要だと言われたので冒険者になります。
りまり
恋愛
私の名前はエルムと言います。
伯爵家の長女なのですが……家はかなり落ちぶれています。
それを私が持ち直すのに頑張り、贅沢できるまでになったのに私はいらないから出て行けと言われたので出ていきます。
でも知りませんよ。
私がいるからこの贅沢ができるんですからね!!!!!!

笑わない妻を娶りました
mios
恋愛
伯爵家嫡男であるスタン・タイロンは、伯爵家を継ぐ際に妻を娶ることにした。
同じ伯爵位で、友人であるオリバー・クレンズの従姉妹で笑わないことから氷の女神とも呼ばれているミスティア・ドゥーラ嬢。
彼女は美しく、スタンは一目惚れをし、トントン拍子に婚約・結婚することになったのだが。

欲しがり病の妹を「わたくしが一度持った物じゃないと欲しくない“かわいそう”な妹」と言って憐れむ(おちょくる)姉の話 [完]
ラララキヲ
恋愛
「お姉様、それ頂戴!!」が口癖で、姉の物を奪う妹とそれを止めない両親。
妹に自分の物を取られた姉は最初こそ悲しんだが……彼女はニッコリと微笑んだ。
「わたくしの物が欲しいのね」
「わたくしの“お古”じゃなきゃ嫌なのね」
「わたくしが一度持った物じゃなきゃ欲しくない“欲しがりマリリン”。貴女はなんて“可愛”そうなのかしら」
姉に憐れまれた妹は怒って姉から奪った物を捨てた。
でも懲りずに今度は姉の婚約者に近付こうとするが…………
色々あったが、それぞれ幸せになる姉妹の話。
((妹の頭がおかしければ姉もそうだろ、みたいな話です))
◇テンプレ屑妹モノ。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい。
◇なろうにも上げる予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる