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必死に願っても
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「ジョゼットが元気じゃなきゃ嫌なの」
「ミルフィーヌ」
気持ちが落ち着いてくれば、口調は元の前世の私に近くなる。
さすがにそれでは怪しまれてしまうから、更に意識して幼い口調で話す。
「ガスパール先生に」
ひくっと喉が鳴った。泣きすぎて顔が熱くなってしまった。
「ミルフィーヌ。幼いあなたに言っても仕方ない事だけれどね、ジョゼットはあなたを守れなかったのよ。幸いあなたに怪我は無かったけれど、そもそも手を離してしまったジョゼットが悪いの。そのせいであなたは階段から落ちてしまったのだから。本当なら、その責任をとって辞めさせても良いくらいなのよ」
お母様の説明をその後ろに立つパティは、唇を噛みしめながら聞いている。
これは私へというよりも、パティに話しているのではないのだろうか。
私と同じ様にガスパール先生に診て貰えたら、ジョゼットの怪我は多分すぐに良くなるし後遺症も残らないだろう。
上級とそれ以下の治癒師の差は、すなわち治癒魔法や回復魔法の力の差だ。
治癒魔法も回復魔法も、基本的には治療魔法を受ける本人の体力や魔力を使い治す。
治癒師が魔法を使う際、魔法を発動する為の魔力の他にその魔法を使い体を治すための力が必要になるからだ。
だけど下位貴族や平民には魔力が殆どないから、体力しか使えるものがない。
上位貴族であればある程強い魔力を持つというのが定説だ。
平民でも強い魔力を持つ者は稀に存在すれらしいけれど、元を辿れば両親のどちらかの家系が貴族出身だった場合が殆どだと言われている。
「辞めさせちゃ嫌」
治療が必要な人間は体力が落ちている場合が多いから、そうなると治癒魔法に使える体力が足りなくて治療は最低限になってしまう。
上級治癒師は魔石を使う上級治癒魔法を使うことで、治療を受ける本人の体力も魔力も殆ど使わない。だからどんな相手にも強い魔法が使えるのだ。
中級の治癒魔法、回復魔法は術者の魔力を使い治すけれど、魔法を使う為の魔力と治癒させる為に使う魔力の両方が必要な為そう何度も使えない。
だから殆どの治癒師は上級か下級のみを使っている。
ちなみに、下級の治癒師は魔石を使う上級魔法は使えない。
だから、本人の体力に合わせた治癒魔法を何度も何度も掛けなければいけないし、短期間では治療出来ないのだ。
治癒魔法はただでは無い、何度も魔法を掛ければそれだけお金が掛かる。
平民には例え下級とはいえ治癒魔法そのものが高価で、何度も治癒魔法を掛けるなんて出来ないから、病気や怪我が治らなくても我慢してしまうのだ。
ジョゼットも途中で治療を止めてしまったのだろう。
給金がどれくらい支払われているか分らないけれど、怪我が完治するまで治癒魔法を受けるなんて無理だったのだ。だから後遺症が残ったのだ。
「でも、ジョゼットはぎゅってしてくれたの。だから、だから」
「あなたを守りながら落ちたのは見ていたから知っているわ。大階段の最上段から落ちたミルフィーヌが無傷だったのは、奇跡に近いとガスパール先生も仰っていたし。それでもね」
「良い子になるから、ミルフィ、良い子になるから。勉強嫌って言わない。嫌いなものもちゃんと食べるから。我が儘言わない、良い子になるから」
あの頃の私は、どうしようもない我が儘娘だった。
両親に甘やかされ、偏食で怠け者だったから家庭教師が来ても逃げてばかりいた。
私に子供が生まれ子供の癇癪に悩んでいた時、お母様にそう話を聞いたから覚えている。
あの頃、私の偏食にどれだけ悩んでいたか。
だから、それを駆け引きに使えないかと閃いたのだ。
「お嬢様、そんな事仰らないで。母は大丈夫ですから、どうか落ち着いて。お嬢様は目覚められたばかりなのですから」
泣きわめく私を、パティがオロオロと宥める。
「お願い。お願い」
こんなに頼んでも、良いとは言って貰えないかもしれない。
なら、後は直接ガスパール先生に頼むしかない。
いいや、頼まなくても何も出来なかった前世の私とは違い、私は前世の記憶がある。
私には治癒魔法の才能があった。
弱い魔法でも、何度か繰り返せば前世よりはマシな結果になるかもしれない。
前世の私は攻撃魔法は何も出来なかったけれど、魔力量は多かったから中級は治癒魔法も回復魔法どちらも使えた。魔石を使った治癒魔法も上手では無かったけれど一応は使う事ができた。
練習を真面目にしなかったから、攻撃魔法も防御魔法も苦手なままだった。
私は上位貴族の子供にありがちな、甘ったれで世間知らずの令嬢だったのだ。
「ミルフィーヌ」
気持ちが落ち着いてくれば、口調は元の前世の私に近くなる。
さすがにそれでは怪しまれてしまうから、更に意識して幼い口調で話す。
「ガスパール先生に」
ひくっと喉が鳴った。泣きすぎて顔が熱くなってしまった。
「ミルフィーヌ。幼いあなたに言っても仕方ない事だけれどね、ジョゼットはあなたを守れなかったのよ。幸いあなたに怪我は無かったけれど、そもそも手を離してしまったジョゼットが悪いの。そのせいであなたは階段から落ちてしまったのだから。本当なら、その責任をとって辞めさせても良いくらいなのよ」
お母様の説明をその後ろに立つパティは、唇を噛みしめながら聞いている。
これは私へというよりも、パティに話しているのではないのだろうか。
私と同じ様にガスパール先生に診て貰えたら、ジョゼットの怪我は多分すぐに良くなるし後遺症も残らないだろう。
上級とそれ以下の治癒師の差は、すなわち治癒魔法や回復魔法の力の差だ。
治癒魔法も回復魔法も、基本的には治療魔法を受ける本人の体力や魔力を使い治す。
治癒師が魔法を使う際、魔法を発動する為の魔力の他にその魔法を使い体を治すための力が必要になるからだ。
だけど下位貴族や平民には魔力が殆どないから、体力しか使えるものがない。
上位貴族であればある程強い魔力を持つというのが定説だ。
平民でも強い魔力を持つ者は稀に存在すれらしいけれど、元を辿れば両親のどちらかの家系が貴族出身だった場合が殆どだと言われている。
「辞めさせちゃ嫌」
治療が必要な人間は体力が落ちている場合が多いから、そうなると治癒魔法に使える体力が足りなくて治療は最低限になってしまう。
上級治癒師は魔石を使う上級治癒魔法を使うことで、治療を受ける本人の体力も魔力も殆ど使わない。だからどんな相手にも強い魔法が使えるのだ。
中級の治癒魔法、回復魔法は術者の魔力を使い治すけれど、魔法を使う為の魔力と治癒させる為に使う魔力の両方が必要な為そう何度も使えない。
だから殆どの治癒師は上級か下級のみを使っている。
ちなみに、下級の治癒師は魔石を使う上級魔法は使えない。
だから、本人の体力に合わせた治癒魔法を何度も何度も掛けなければいけないし、短期間では治療出来ないのだ。
治癒魔法はただでは無い、何度も魔法を掛ければそれだけお金が掛かる。
平民には例え下級とはいえ治癒魔法そのものが高価で、何度も治癒魔法を掛けるなんて出来ないから、病気や怪我が治らなくても我慢してしまうのだ。
ジョゼットも途中で治療を止めてしまったのだろう。
給金がどれくらい支払われているか分らないけれど、怪我が完治するまで治癒魔法を受けるなんて無理だったのだ。だから後遺症が残ったのだ。
「でも、ジョゼットはぎゅってしてくれたの。だから、だから」
「あなたを守りながら落ちたのは見ていたから知っているわ。大階段の最上段から落ちたミルフィーヌが無傷だったのは、奇跡に近いとガスパール先生も仰っていたし。それでもね」
「良い子になるから、ミルフィ、良い子になるから。勉強嫌って言わない。嫌いなものもちゃんと食べるから。我が儘言わない、良い子になるから」
あの頃の私は、どうしようもない我が儘娘だった。
両親に甘やかされ、偏食で怠け者だったから家庭教師が来ても逃げてばかりいた。
私に子供が生まれ子供の癇癪に悩んでいた時、お母様にそう話を聞いたから覚えている。
あの頃、私の偏食にどれだけ悩んでいたか。
だから、それを駆け引きに使えないかと閃いたのだ。
「お嬢様、そんな事仰らないで。母は大丈夫ですから、どうか落ち着いて。お嬢様は目覚められたばかりなのですから」
泣きわめく私を、パティがオロオロと宥める。
「お願い。お願い」
こんなに頼んでも、良いとは言って貰えないかもしれない。
なら、後は直接ガスパール先生に頼むしかない。
いいや、頼まなくても何も出来なかった前世の私とは違い、私は前世の記憶がある。
私には治癒魔法の才能があった。
弱い魔法でも、何度か繰り返せば前世よりはマシな結果になるかもしれない。
前世の私は攻撃魔法は何も出来なかったけれど、魔力量は多かったから中級は治癒魔法も回復魔法どちらも使えた。魔石を使った治癒魔法も上手では無かったけれど一応は使う事ができた。
練習を真面目にしなかったから、攻撃魔法も防御魔法も苦手なままだった。
私は上位貴族の子供にありがちな、甘ったれで世間知らずの令嬢だったのだ。
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