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新婚夫婦のお昼ご飯
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「カラム様、今日はお仕事はよろしいのですか?」
「ああ、結婚したばかりで仕事をさせるわけにはいかないと、数日休みを頂いている」
見事に手入れされた庭が良く見える部屋で、キティとカラムはお昼ご飯を食べていた。
屋敷を案内した後、キティが嬉しそうに見渡していた図書室で少し二人で時間を過ごした。
本は基本高価なものだ。
学校で使う教材でさえ高価でなかなか一般市民には手が出せないものだ。
だが貴族はそれを当たり前の様に購入し、大きな図書室を屋敷に作るのが当然の様に言われている。
カラムの家は見栄からというよりも、カラムの趣味で本を沢山揃えていた。
攻撃魔法が得意で十三歳から戦場にいたカラムは、死神と言われるその風貌に反して本を読むことを好んでいた。
詩集などはあまり得意では無かったけれど、神話や伝記物は好きで過去の英雄の話等は幼いころから擦り切れるまで読んでいた。
カラムの両親は、カラムが王命で戦場に旅立ってからも息子の無事を祈ってカラムが好きそうな本を集めていた。
戦場から戻って来ないカラムは、両親にとってみればいつまでたっても十代前半の若者でしかなく、愛しい息子が戻ってきた時の為にと買い集める本も十代の若者が好んで読みそうな物ばかりだった。
「そうですか。では一緒に過ごせますね」
昨日と今日の時間でカラムに慣れてしまったキティは、昼食の鶏の冷製サラダを食べながら嬉しそうにそう呟いた。
「一緒に。キティは私と一緒でいいのか?」
「カラム様はご自宅でもお仕事がおありですか? そうであれば邪魔は出来ませんが」
キティの中では無意識に父親に頼る様な気持ちでカラムを見れば、カラムは素直に勘違いをして内心の動揺を誤魔化す様に咳払いをした。
「いや、私は急ぎの仕事はないから。キティと一緒にいても問題はない」
キティの真っ直ぐな視線はカラムにとっては戸惑うものでしかない。
十代から二十代全部を戦場で過ごしたカラムには、女の子と親しく話をする経験等皆無だったしそれがまさか己の妻だなんて、自覚するだけで顔から火が出る思いだった。
「良かった。では、一緒にお庭をお散歩しませんか? 手入れが行き届いたお庭が素晴らしくて、ゆっくりと見て回りたいと思っていたんです」
「そ、そうか。では午後のお茶は庭で取ろうか」
「はい。あ、もしカラム様のお時間が許すのであれば、一緒に図書室にも行きたいです」
純真すぎるキティの誘いを面倒だと断る気持ちはカラムには無かった。
親友の娘のキティは、あの夫婦の子だとすぐに分かる真っ直ぐな気性でカラムを戸惑わせ、それと同時に懐かしい気持ちにさせた。
キティの父親はカラムと良く文学について語り、その他の事でも良く意見をぶつけ合った。
キティの父親は、学ぶことを幸せと感じる人間で、それに感化されていたカラムはキティの父親と語らう事こそが幸せだったのだ。
「ふっ」
「カラム様?」
「ああ、悪い。ローク、君のお父さんと昔昼休憩の時に良く話をしたんだよ。彼とはよく学校の図書室で本を読んだ後語り合ったし、勉強も一緒にしたから、なんだか懐かしくて」
無口なカラムが話すとキティはその情景を思い浮かべたのか、うっとりとした顔でほうっと息を吐いた。
「素敵な図書室でした。私はあまり学がありませんが、私もカラム様と本について語り合えたら嬉しいです」
「そうだな。では散歩の後は図書室に行こう。キティの好む本があるといいのだが」
「私、本はなんでも好きです。詩集も好きですが、神話とか英雄譚とか大好きです」
「ああ、私も英雄譚は良く読んだ。神話は本を読むのも吟遊詩人が吟じるのも好きだ」
「吟遊詩人! 祭りの日に広場にいたのを見たことがあります。素晴らしいですよね」
「キティが好きなら、今度屋敷に招いてもいいぞ」
可愛いキティ望むことを叶えてやりたい。
カラムは自然な気持ちでそう思うのだった。
「ああ、結婚したばかりで仕事をさせるわけにはいかないと、数日休みを頂いている」
見事に手入れされた庭が良く見える部屋で、キティとカラムはお昼ご飯を食べていた。
屋敷を案内した後、キティが嬉しそうに見渡していた図書室で少し二人で時間を過ごした。
本は基本高価なものだ。
学校で使う教材でさえ高価でなかなか一般市民には手が出せないものだ。
だが貴族はそれを当たり前の様に購入し、大きな図書室を屋敷に作るのが当然の様に言われている。
カラムの家は見栄からというよりも、カラムの趣味で本を沢山揃えていた。
攻撃魔法が得意で十三歳から戦場にいたカラムは、死神と言われるその風貌に反して本を読むことを好んでいた。
詩集などはあまり得意では無かったけれど、神話や伝記物は好きで過去の英雄の話等は幼いころから擦り切れるまで読んでいた。
カラムの両親は、カラムが王命で戦場に旅立ってからも息子の無事を祈ってカラムが好きそうな本を集めていた。
戦場から戻って来ないカラムは、両親にとってみればいつまでたっても十代前半の若者でしかなく、愛しい息子が戻ってきた時の為にと買い集める本も十代の若者が好んで読みそうな物ばかりだった。
「そうですか。では一緒に過ごせますね」
昨日と今日の時間でカラムに慣れてしまったキティは、昼食の鶏の冷製サラダを食べながら嬉しそうにそう呟いた。
「一緒に。キティは私と一緒でいいのか?」
「カラム様はご自宅でもお仕事がおありですか? そうであれば邪魔は出来ませんが」
キティの中では無意識に父親に頼る様な気持ちでカラムを見れば、カラムは素直に勘違いをして内心の動揺を誤魔化す様に咳払いをした。
「いや、私は急ぎの仕事はないから。キティと一緒にいても問題はない」
キティの真っ直ぐな視線はカラムにとっては戸惑うものでしかない。
十代から二十代全部を戦場で過ごしたカラムには、女の子と親しく話をする経験等皆無だったしそれがまさか己の妻だなんて、自覚するだけで顔から火が出る思いだった。
「良かった。では、一緒にお庭をお散歩しませんか? 手入れが行き届いたお庭が素晴らしくて、ゆっくりと見て回りたいと思っていたんです」
「そ、そうか。では午後のお茶は庭で取ろうか」
「はい。あ、もしカラム様のお時間が許すのであれば、一緒に図書室にも行きたいです」
純真すぎるキティの誘いを面倒だと断る気持ちはカラムには無かった。
親友の娘のキティは、あの夫婦の子だとすぐに分かる真っ直ぐな気性でカラムを戸惑わせ、それと同時に懐かしい気持ちにさせた。
キティの父親はカラムと良く文学について語り、その他の事でも良く意見をぶつけ合った。
キティの父親は、学ぶことを幸せと感じる人間で、それに感化されていたカラムはキティの父親と語らう事こそが幸せだったのだ。
「ふっ」
「カラム様?」
「ああ、悪い。ローク、君のお父さんと昔昼休憩の時に良く話をしたんだよ。彼とはよく学校の図書室で本を読んだ後語り合ったし、勉強も一緒にしたから、なんだか懐かしくて」
無口なカラムが話すとキティはその情景を思い浮かべたのか、うっとりとした顔でほうっと息を吐いた。
「素敵な図書室でした。私はあまり学がありませんが、私もカラム様と本について語り合えたら嬉しいです」
「そうだな。では散歩の後は図書室に行こう。キティの好む本があるといいのだが」
「私、本はなんでも好きです。詩集も好きですが、神話とか英雄譚とか大好きです」
「ああ、私も英雄譚は良く読んだ。神話は本を読むのも吟遊詩人が吟じるのも好きだ」
「吟遊詩人! 祭りの日に広場にいたのを見たことがあります。素晴らしいですよね」
「キティが好きなら、今度屋敷に招いてもいいぞ」
可愛いキティ望むことを叶えてやりたい。
カラムは自然な気持ちでそう思うのだった。
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