ごめん、好きなんだ

木嶋うめ香

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キティは学びたい

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「お義母様が張り切る? の、ですか?」

 キティの戸惑う様な声に、カラムは珍しくこちらも困った様な顔で話し始めた。

「ああ、キティに申し訳ないのだが、私の母は貴族令嬢を教育するというのを自分の天職だと思っているところがある。その、教えられる方にとっては不幸なのではないかと思う程に、教育熱心なのだ」
「お義母様は昔家庭教師をされていたのでしょうか」

 家庭教師というのは女性の場合、下級から中級の貴族女性が生活の糧を得るため貴族の子息子女の為の家庭教師になるのが普通だという認識をキティは持っていたけれど、カラムの家である伯爵家でしかも夫人が稼がなければいけない様な家だとは思えないから、女性が働く様な環境になるのは想像が出来なかった。
 という事は、お義母様が結婚される前なのだろうか? キティのそういう疑問はカラムにも通じたらしく無表情で首を横に振られたのだった。

「母は結婚して姉と私を産んだ後、王女殿下の教育係となったのだ」
「王女殿下の、まあ素晴らしいですね」

 まさかの王女殿下の教育者という言葉に、キティは目を丸くしながら手を打っていた。
 結婚してからの王宮勤めというのは、色々困難なことも多かっただろうに、教育熱心になるというのは本当にすごいとキティは目をキラキラさせて感動していたのだ。

「お義母様に私も教えて頂けるのでしょうか」

 キティは自分自身の貴族令嬢としての知識不足は、恥ずべきことではないと思っている。
 あの環境でも学べることはそれなりに頑張って覚えてきた。
 でも父親がキティに教えられる内容には限りがあり、教材等も手に入れることは出来なかった。
 知らないと言う事は恥ではない、知らないことは覚えていけばいいと思えるのはキティの美点だった。

「母上は喜んで教えてくださるだろうし、すでにそのつもりだ。だが母上はかなり厳しいから、キティが気が進まぬなら別の者に……」
「厳しくても、美しい所作は貴族家の夫人には当たり前に望まれる能力です。私はそれを覚えたいのです」

 先程は、母上が張り切っているから大丈夫と言いながら心配そうに告げるカラムに、キティはカラムの両手を握りこみながら答えた。

 貧乏で笑われても、キティは平気だった。
 父親は真摯に仕事をしているだけだと知っていたし、キティは父親が大好きだった。
 毎日顔色が悪い母親の事は悲しいといもうけれど、キティは母親の世話も弟と妹の世話も苦痛だとは思わなかったから、貴族令嬢としての勉強が出来なくても構わないと考えていたから、働くことも苦では無かった。
 でも今はカラムの妻になったのだから、恥ずかしくない教養を身に着けたかったのだ。

「どうか私が学ぶ機会を頂けないでしょうか」
「母は本当に厳しいぞ。頼んでから出来ないという泣き言は聞いてやれないぞ」
「……カラム様はやっぱり優しいのですね。ですが心配しないで下さい。お義母様のお手を煩わせてしまいますが、絶対に逃げたり泣いたりしません」

 そう誓うとカラムはなぜかキティに、ありがとうと告げたのだった。
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