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旦那様は狼狽える。
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「ふぁっ」
再びキティが目覚めると、ふかふかの枕を背もたれにして座りがっくりと項垂れたカラムが視界に入ったキティは文字通り飛び起きた。
「カ、カラム様。私寝坊してしまいましたかっ? どうしましょう、やっぱりさっき目を覚ました時に起きれば良かったわ」
慌てたように捲し立てるキティの迫力に、カラムは項垂れていた顔を起こし不機嫌そうな表情で首を横に振った。
「カラム様?」
「寝坊などしていない。まだ誰も部屋に来ていないしだいぶ早い時間だから慌てる必要はない」
「そ、そうなのですね。良かったです」
キティはホッとしたものの、今度は寝間着が乱れていないか、髪はどうかと気にかかりカラムが再び項垂れている様子までは察せられずにいた。
「あ、私ったら。カラム様おはようございます。ご挨拶もせず申し訳ありません」
「いや、おはよう。頭痛など不調はないか?」
「え、頭痛ですか?……ありません。よく眠ったせいかいつもより元気な位です。あっ」
何故頭痛の心配などしているのだろうと内心不思議に思いながら返事をした後、キティは遅蒔きながら理由に気が付いた。
「私葡萄酒を頂いて眠ってしまったのですよね。も、申し訳ありませんカラム様。酔っぱらって眠ってしまうなんてはしたない事……」
起きた時に気が付いていたというのに、眠気が勝ってしまって気にしつつ眠ってしまったさっきの自分を叱りたい気持ちになりながらキティはしょんぼりとした顔でカラムに謝罪した。
「はしたない? 初めて酒を飲んで加減など分からないだろう。私の方が気が付かず申し訳なかった。頭痛などがないなら何よりだ。ほんの少し飲んだだけでも具合が悪くなって吐いたりする者もいるらしいからな」
「心配して一緒にいて下さったのですか? ありがとうございます。カラム様」
寝室を暫く分けると言っていた筈のカラムが隣に寝ていたのはそういう理由だったのかと気が付いて、キティはやはりカラムは自分を気遣ってくれていると嬉しくなった。
「一緒にいたのは……いや。驚かせてしまっただろう。すまなかった」
「驚く? それは確かに自分に驚きました。酔っぱらって眠って毛布を全部奪って寝てしまうとか、私寝相は悪くなかった筈なのですが」
嫁いだ初日にこんな粗相をしてしまうなんてお父様が知ったら呆れるだろうと想像し落ち込みながら、そもそもカラムが呆れているのではないだろうかとキティは不安になって不機嫌そうなカラムの顔を盗み見た。
「どうした」
「いえ。あの」
呆れてませんかと聞くのはおかしいだろうと判断して、キティは何て聞いたものかと途方に暮れてしまう。
カラムが口下手なのは、短すぎる付き合いの中ですでにキティの中で決定事項だ。
キティは下町で食堂の女将や客達に鍛えられ平民としてなら、大抵の相手と上手く話せる自信があったけどこれが上位貴族の、しかも自分の旦那様になったばかりの父親に年が違い人とどんな風に会話をしていけばいいのか分からなかったのだ。
「カラム様、毛布奪ってしまって申し訳ありません」
「毛布?」
「私毛布もお布団も全部奪って一人で使っていましたよね。お寒く無かったですか?」
キティの実家と比べ、この屋敷は全体的に暖かい。
寝室にも暖炉があるし、魔道具で床が暖められているから寒さを感じる程ではないのだと聞いて、伯爵家の財力に眩暈を感じるけれど、それでも眠る時に毛布や布団は必要だろうとキティはしょんぼりしてしまう。
「いや、私は寒さには耐性があるしそもそも寒く無かったから問題ない」
「そうですか。良かった。あ、でも今晩からは毛布を奪わない様に気を付けて眠るように致しますね」
昨日一緒に眠ったのだから、今晩も一緒なのだろう。
夫婦になったのだから、別々に眠る方がやっぱりおかしいと思うし、女将さんが言っていた事を考えるとカラム様と一緒に眠るのは嫌じゃないから大丈夫。
呑気にキティがそんな惚けたことを考えているとは思わずに、カラムはギョッとして文字通り飛び上がり掛けた。
「今晩から?」
声で感情を判断できないカラムの言葉はいつも通りの不機嫌そうな暗いもので、キティはカラムに疑われたのかと勝手に判断した。
「大丈夫です。今までは双子達と寝ていてちゃんとベッドから落ちることなく布団だって三人で掛けて寝ていたんですから、昨日はたまたま、そう酔っていたから寝相が悪かったのだと思います」
頭痛がしている様に額に手を当てて、カラムはキティの言い訳を聞いてため息をついた。
「いや、そういうことではなくて」
「え。あ、もしかして蹴とばしたりしましたか?」
「蹴とばす?」
「私寝ぼけてカラム様を蹴ったりしませんでしたか?」
「寝室を分けると言っただろう」
「え。でも、昨日は一緒に」
キョトンと首を傾げるキティに、カラムは本格的に頭痛を感じながら天を仰いだ。
「お前は私と一緒に休むのが嫌ではないのか?」
「旦那様とは一緒に休むものでは?」
キョトンとした顔のまま尋ねてくるキティに、カラムは誰でもいいから今すぐ部屋に来てくれと内心悲鳴を上げるのだった。
※※※※※※※※※※※※
キティ、耳年間な割に精神がちょっとお子ちゃまだったりするイメージです。
再びキティが目覚めると、ふかふかの枕を背もたれにして座りがっくりと項垂れたカラムが視界に入ったキティは文字通り飛び起きた。
「カ、カラム様。私寝坊してしまいましたかっ? どうしましょう、やっぱりさっき目を覚ました時に起きれば良かったわ」
慌てたように捲し立てるキティの迫力に、カラムは項垂れていた顔を起こし不機嫌そうな表情で首を横に振った。
「カラム様?」
「寝坊などしていない。まだ誰も部屋に来ていないしだいぶ早い時間だから慌てる必要はない」
「そ、そうなのですね。良かったです」
キティはホッとしたものの、今度は寝間着が乱れていないか、髪はどうかと気にかかりカラムが再び項垂れている様子までは察せられずにいた。
「あ、私ったら。カラム様おはようございます。ご挨拶もせず申し訳ありません」
「いや、おはよう。頭痛など不調はないか?」
「え、頭痛ですか?……ありません。よく眠ったせいかいつもより元気な位です。あっ」
何故頭痛の心配などしているのだろうと内心不思議に思いながら返事をした後、キティは遅蒔きながら理由に気が付いた。
「私葡萄酒を頂いて眠ってしまったのですよね。も、申し訳ありませんカラム様。酔っぱらって眠ってしまうなんてはしたない事……」
起きた時に気が付いていたというのに、眠気が勝ってしまって気にしつつ眠ってしまったさっきの自分を叱りたい気持ちになりながらキティはしょんぼりとした顔でカラムに謝罪した。
「はしたない? 初めて酒を飲んで加減など分からないだろう。私の方が気が付かず申し訳なかった。頭痛などがないなら何よりだ。ほんの少し飲んだだけでも具合が悪くなって吐いたりする者もいるらしいからな」
「心配して一緒にいて下さったのですか? ありがとうございます。カラム様」
寝室を暫く分けると言っていた筈のカラムが隣に寝ていたのはそういう理由だったのかと気が付いて、キティはやはりカラムは自分を気遣ってくれていると嬉しくなった。
「一緒にいたのは……いや。驚かせてしまっただろう。すまなかった」
「驚く? それは確かに自分に驚きました。酔っぱらって眠って毛布を全部奪って寝てしまうとか、私寝相は悪くなかった筈なのですが」
嫁いだ初日にこんな粗相をしてしまうなんてお父様が知ったら呆れるだろうと想像し落ち込みながら、そもそもカラムが呆れているのではないだろうかとキティは不安になって不機嫌そうなカラムの顔を盗み見た。
「どうした」
「いえ。あの」
呆れてませんかと聞くのはおかしいだろうと判断して、キティは何て聞いたものかと途方に暮れてしまう。
カラムが口下手なのは、短すぎる付き合いの中ですでにキティの中で決定事項だ。
キティは下町で食堂の女将や客達に鍛えられ平民としてなら、大抵の相手と上手く話せる自信があったけどこれが上位貴族の、しかも自分の旦那様になったばかりの父親に年が違い人とどんな風に会話をしていけばいいのか分からなかったのだ。
「カラム様、毛布奪ってしまって申し訳ありません」
「毛布?」
「私毛布もお布団も全部奪って一人で使っていましたよね。お寒く無かったですか?」
キティの実家と比べ、この屋敷は全体的に暖かい。
寝室にも暖炉があるし、魔道具で床が暖められているから寒さを感じる程ではないのだと聞いて、伯爵家の財力に眩暈を感じるけれど、それでも眠る時に毛布や布団は必要だろうとキティはしょんぼりしてしまう。
「いや、私は寒さには耐性があるしそもそも寒く無かったから問題ない」
「そうですか。良かった。あ、でも今晩からは毛布を奪わない様に気を付けて眠るように致しますね」
昨日一緒に眠ったのだから、今晩も一緒なのだろう。
夫婦になったのだから、別々に眠る方がやっぱりおかしいと思うし、女将さんが言っていた事を考えるとカラム様と一緒に眠るのは嫌じゃないから大丈夫。
呑気にキティがそんな惚けたことを考えているとは思わずに、カラムはギョッとして文字通り飛び上がり掛けた。
「今晩から?」
声で感情を判断できないカラムの言葉はいつも通りの不機嫌そうな暗いもので、キティはカラムに疑われたのかと勝手に判断した。
「大丈夫です。今までは双子達と寝ていてちゃんとベッドから落ちることなく布団だって三人で掛けて寝ていたんですから、昨日はたまたま、そう酔っていたから寝相が悪かったのだと思います」
頭痛がしている様に額に手を当てて、カラムはキティの言い訳を聞いてため息をついた。
「いや、そういうことではなくて」
「え。あ、もしかして蹴とばしたりしましたか?」
「蹴とばす?」
「私寝ぼけてカラム様を蹴ったりしませんでしたか?」
「寝室を分けると言っただろう」
「え。でも、昨日は一緒に」
キョトンと首を傾げるキティに、カラムは本格的に頭痛を感じながら天を仰いだ。
「お前は私と一緒に休むのが嫌ではないのか?」
「旦那様とは一緒に休むものでは?」
キョトンとした顔のまま尋ねてくるキティに、カラムは誰でもいいから今すぐ部屋に来てくれと内心悲鳴を上げるのだった。
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キティ、耳年間な割に精神がちょっとお子ちゃまだったりするイメージです。
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