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「あ、あの。まだ今日は行わないというだけなのよ。あの、私がまだ成人前の子供だから、あの、そういうのは体に負担が掛かるから、私の年齢でもし子供が出来たら負担が掛かりすぎて成人前の女性の体に無理を強いるのは良くないって言われて。それとね、私達はまだ知り合ったばかりだから、良く知らない相手とそういう行いをするのは……。お互いをもう少し知ってからでも遅くないだろうって」
キティは驚きの表情を隠せないでいる二人に、慌ててカラムの言葉をしどろもどろに、でも精一杯の早口で告げた。
「それでね、カラム様は、自分の都合上先に婚姻の手続きをしたし、対外的には妻と夫だけれど。今日婚約したのだと思って欲しいと仰ったの。ゆっくりお互いを知っていこうって」
カラムは本当に優しくて良い方なのだと、キティは馬車の中の会話を思い出しながら言った。
「今日、婚約、でございますか」
「成程」
漸く表情が優秀な侍女及びメイドのものに戻った二人は笑顔を浮かべキティにそう返事を返した後、内心カラムの言葉に不安になっているキティを励ます様に大きく頷いてくれた。
「旦那様はとても奥様のお体を心配されているのですね。確かにキティ様はまだ成人前の体が十分に大人になっていらっしゃらない時期でございます。特に旦那様は普通の方よりも魔力量が遥かに多いそうですから、生まれてくるお子様にも同じように魔力の多い可能性がございます」
「そういうものなの?」
「失礼な質問をお許し下さい。キティ様の魔力量はいかほどでしょうか」
マチルダの質問に、キティはへにょりと眉毛を下げてしまう。
この国の貴族の子供は七歳の時に神殿に行って魔法の適性や魔力量を検査するが、その頃すでに超貧乏になっていたキティの家では神殿に払う検査料が捻出できずキティは検査を受けていなかった。
平民であれば十歳の時に神殿で祝福を受けるので、その際無料で簡易的な検査をしてもらえるがキティの家は平民よりも悲惨な暮らしをしている超貧乏でも、正式な貴族で男爵位を持っているからその簡易検査は受けられない事を両親はキティに言えずにいたせいで、平民ですら行っている検査のは知らなかった。
「あの、私。検査をしたことがなくて」
「まあ。そうでしたか。では祝福も?」
「祝福?」
「はい、貴族の子息子女は七歳の時に神殿で祝福を受けます。魔法の適性検査はその時に受けるものです」
「そうなの、知らなかったわ」
俯いてキティはスカートをぎゅっと握りしめた。
七歳の幼かったキティに、父親は何度も何度も謝っていた。
大事なのに、すまないと繰り返し繰り返し謝る姿が、幼いキティには辛くて悲しかったのだ。
「奥様、僭越ながら一つお伺いしてもいいでしょうか」
「はい」
「先程の初夜の件、ご主人様から言われたのですよね」
「え、ああ、違うわ。私が言ったの」
「奥様から?」
「あの、はしたないとか思われるかもしれないけれど、あの、今晩から寝室は一緒ですかって、そう聞いたの」
幼かったキティの辛かった思い出が吹き飛ぶ勢いで、キティは恥ずかしさで顔が赤くなってしまう。
冷静になればなんと大胆な質問を自分はしたのだろう。
「まあ、そうでしたか」
「旦那様からお話を始めたのではなかったのですね」
「ええ。あの」
「はい」
「カラム様はとても優しい方ね」
神殿の花びらに行った魔法も、馬車での会話も、父親への言葉も、そのどれからもカラムの優しさが伝わってくるとキティは思いながら、そんな優しい人が自分の旦那様なのだと幸せな気持ちになった。
キティは、将来自分はあの老医師の息子の妾になると諦めていた。そうしなければ今まで以上に辛い日々を家族が送ることになるのだからと物分かりのいい振りをして、諦めていた。
それなのに、ここ数日の夢の様な出来事はまるで物語の主人公になった様で、キティは半分まだ現実だと思えなかったのだ。
「優しい、ですか?」
「怖くはございませんか?」
「怖い? お顔はその、最初、初めてお会いした時は失礼ながらそう思ったけれど、でもお話してみたらとても優しい方で、私の気持ちを気遣って下さる方だと分かったの。だから今はちっとも怖くないわ」
キティは自分の気持ちを話すのに精一杯で、両脇に座るマチルダとデジレが「旦那様良かったですね。怖がられてませんよ!」と呟いたのを聞き逃していた。
「二人ともどうしたの?」
「いえ、いえ。奥様がご主人様を思って下さるのが嬉しくて。感動しておりました」
「はい。ご主人様は寡黙な方ですから少し誤解されやすいのですが、本当はとてもとても優しくて繊細な方なのですよ。それはどの使用人に聞いてくださっても同じく答えると思います」
「そうなの」
「はい」
「そうね、そうだと思うわ。私が一人の食事が寂しいと言ったら、仕事が忙しい時以外は朝と晩一緒に食事をすると約束して下さったのよ」
子供じゃないのだから我慢しろと言われても仕方ない話だったというのに、カラムは真面目な顔でそう約束してくれたのがキティは嬉しくてたまらなかった。
だからその嬉しい気持ちのまま、二人にそう告げると二人は真面目な顔で声を合わせて言ったのだ。
「奥様、それはとっても素晴らしいお話です! あのご主人様に食事のお約束をされるなど、奇跡の行いです!」
興奮しはしゃぐ二人に、キティは目を丸くするのだった。
キティは驚きの表情を隠せないでいる二人に、慌ててカラムの言葉をしどろもどろに、でも精一杯の早口で告げた。
「それでね、カラム様は、自分の都合上先に婚姻の手続きをしたし、対外的には妻と夫だけれど。今日婚約したのだと思って欲しいと仰ったの。ゆっくりお互いを知っていこうって」
カラムは本当に優しくて良い方なのだと、キティは馬車の中の会話を思い出しながら言った。
「今日、婚約、でございますか」
「成程」
漸く表情が優秀な侍女及びメイドのものに戻った二人は笑顔を浮かべキティにそう返事を返した後、内心カラムの言葉に不安になっているキティを励ます様に大きく頷いてくれた。
「旦那様はとても奥様のお体を心配されているのですね。確かにキティ様はまだ成人前の体が十分に大人になっていらっしゃらない時期でございます。特に旦那様は普通の方よりも魔力量が遥かに多いそうですから、生まれてくるお子様にも同じように魔力の多い可能性がございます」
「そういうものなの?」
「失礼な質問をお許し下さい。キティ様の魔力量はいかほどでしょうか」
マチルダの質問に、キティはへにょりと眉毛を下げてしまう。
この国の貴族の子供は七歳の時に神殿に行って魔法の適性や魔力量を検査するが、その頃すでに超貧乏になっていたキティの家では神殿に払う検査料が捻出できずキティは検査を受けていなかった。
平民であれば十歳の時に神殿で祝福を受けるので、その際無料で簡易的な検査をしてもらえるがキティの家は平民よりも悲惨な暮らしをしている超貧乏でも、正式な貴族で男爵位を持っているからその簡易検査は受けられない事を両親はキティに言えずにいたせいで、平民ですら行っている検査のは知らなかった。
「あの、私。検査をしたことがなくて」
「まあ。そうでしたか。では祝福も?」
「祝福?」
「はい、貴族の子息子女は七歳の時に神殿で祝福を受けます。魔法の適性検査はその時に受けるものです」
「そうなの、知らなかったわ」
俯いてキティはスカートをぎゅっと握りしめた。
七歳の幼かったキティに、父親は何度も何度も謝っていた。
大事なのに、すまないと繰り返し繰り返し謝る姿が、幼いキティには辛くて悲しかったのだ。
「奥様、僭越ながら一つお伺いしてもいいでしょうか」
「はい」
「先程の初夜の件、ご主人様から言われたのですよね」
「え、ああ、違うわ。私が言ったの」
「奥様から?」
「あの、はしたないとか思われるかもしれないけれど、あの、今晩から寝室は一緒ですかって、そう聞いたの」
幼かったキティの辛かった思い出が吹き飛ぶ勢いで、キティは恥ずかしさで顔が赤くなってしまう。
冷静になればなんと大胆な質問を自分はしたのだろう。
「まあ、そうでしたか」
「旦那様からお話を始めたのではなかったのですね」
「ええ。あの」
「はい」
「カラム様はとても優しい方ね」
神殿の花びらに行った魔法も、馬車での会話も、父親への言葉も、そのどれからもカラムの優しさが伝わってくるとキティは思いながら、そんな優しい人が自分の旦那様なのだと幸せな気持ちになった。
キティは、将来自分はあの老医師の息子の妾になると諦めていた。そうしなければ今まで以上に辛い日々を家族が送ることになるのだからと物分かりのいい振りをして、諦めていた。
それなのに、ここ数日の夢の様な出来事はまるで物語の主人公になった様で、キティは半分まだ現実だと思えなかったのだ。
「優しい、ですか?」
「怖くはございませんか?」
「怖い? お顔はその、最初、初めてお会いした時は失礼ながらそう思ったけれど、でもお話してみたらとても優しい方で、私の気持ちを気遣って下さる方だと分かったの。だから今はちっとも怖くないわ」
キティは自分の気持ちを話すのに精一杯で、両脇に座るマチルダとデジレが「旦那様良かったですね。怖がられてませんよ!」と呟いたのを聞き逃していた。
「二人ともどうしたの?」
「いえ、いえ。奥様がご主人様を思って下さるのが嬉しくて。感動しておりました」
「はい。ご主人様は寡黙な方ですから少し誤解されやすいのですが、本当はとてもとても優しくて繊細な方なのですよ。それはどの使用人に聞いてくださっても同じく答えると思います」
「そうなの」
「はい」
「そうね、そうだと思うわ。私が一人の食事が寂しいと言ったら、仕事が忙しい時以外は朝と晩一緒に食事をすると約束して下さったのよ」
子供じゃないのだから我慢しろと言われても仕方ない話だったというのに、カラムは真面目な顔でそう約束してくれたのがキティは嬉しくてたまらなかった。
だからその嬉しい気持ちのまま、二人にそう告げると二人は真面目な顔で声を合わせて言ったのだ。
「奥様、それはとっても素晴らしいお話です! あのご主人様に食事のお約束をされるなど、奇跡の行いです!」
興奮しはしゃぐ二人に、キティは目を丸くするのだった。
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