これから言うことは嘘だから信じないでくれという紙を見せながら、旦那様はお前を愛することはないと私を罵りました。何この茶番?

木嶋うめ香

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「奥様何を驚いていらっしゃるのですか」
「いえ、あの。今言った様な宝飾品は、気軽に贈るものではないと思いますけれど、私の感覚がおかしいのかしら」

 私は何せ婚約者に嫌われていたから、首飾りどころか花すらまともに貰ったことが無いから、前回の婚約なんて参考にもならない。
 王太子からと言いつつ従者が手配したお詫びなら、何度かあるけれどあれは贈り物とは呼ばない。
 今の話だと度々そんな贈り物をしていたように聞こえるけれど、この家にそんなに資産があるのだろうか、領地経営は上手くいっている方らしいけれどそれでも限度はあるだろう。

「おかしくありません。この方が毒されておいでなのです」
「それは、そうなのか?」
「だから、王家から予算を頂いていたでしょうが」

 またポカリと頭を叩く、エイマールは些か乱暴が過ぎると思う。

「王女殿下がおかしいとしても、結婚したんだから贈り物をしたいと思うのはおかしくないだろう?」
「おかしくないかもしれませんが、そんなに沢山頂いても困ってしまいますわ」

 そんなことをすれば私は国の代表の様な形で嫁いできているのに、あの国の女はさっそく婚家の金で宝飾品を買い漁っていると言われてしまう。
 
「困る? 宝飾品はいくらあっても良いと思うが」
「私の体は一つですし、実家から持たされた物もございます。使う機会などそうあるものではありません。ですから今は結構です、そうですね今後王家主催の夜会等があればその際にでも。今は社交の時期ではありませんから当分先になりますわね」

 祖国もこの国も社交の時期は夏の終わりから冬、春になったばかりの今は大きな夜会等は基本的に開かれない。
 開かれるとすれば国王陛下の誕生を祝うとかだろう、確かこの国の陛下の誕生日は真夏だった筈だ。
 
「そうか、では指輪だけ」
「ええ、結婚の記念ですもの一つあれば十分です。飾りが多くなければいつも着けていられますし」

 旦那様の機嫌を損ねる事はないだろうけれど、エイマールの視線が気になるから言葉は選ぶ。

「いつも着ける」
「はい、結婚の記念ですもの」

 にこりと優雅さと儚さを意識して、微笑みを作る。
 あざとく可愛らしく、策略的ではないさすが聖女の血筋と言われてきた微笑みだ。

「か、可愛っ……ゴホゴホッ」
「旦那様、いかがなさいましたか。空気が悪いのかしら、どうしましょう」

 何かに動揺したらしい旦那様は突然咳き込んでしまった。
 顔が真っ赤だけれど、大丈夫だろうか。

「旦那様、背中を擦りましょうか」

 オロオロとしている風を装いながら立ち上がると、「さ、擦るっ」と旦那様も咳をしつつ立ち上がりかける。

「お二人共落ち着いて、これではいつまで経っても話が終わらない。妻のあまりにも愛らしい笑みに照れたのは分かるけれど、少し落ち着こうか情けなさ過ぎるぞ」
「エイマールッ」
「そんな、恥ずかしいです」

 エイマールの露骨な言い方は引っかかるけれど、ここは照れるところだから、私は腰を下ろして扇を広げ顔を隠す。

「いや、そういう意味では、あの、いや可愛いと思ったのは本当だけれど、その、すまない」
「い、いいえ。旦那様に好意的に見て頂けるなら嬉しいです」

 何せ王太子殿下から好意的に見てもらった事など皆無なのだから、素直に喜んでおこう。
 嬉しいけれど、恥ずかしい感じに、でも劣等感を持っているのも話しておいた方が良いかもしれない。
 第三者から噂を聞くのもあれだろうし。

「旦那様は私を可愛いと思ってくださるのですね」
「か、可愛いし、そのとても綺麗だと、そのあの」

 この人、これが素だとすれば私をかなり好意的に見ているのだと思う。対してエイマールは私を疑っている感じがある。

「私こんな地味な見た目をしていますから、その、言いにくいのですけれど」
「はい、どうぞ遠慮なさらず」

 何故か答えるのはエイマールの方だ。
 この二人の関係がいまいち分からない。

「以前の婚約者から嫌われていましたの、地味過ぎて嫌だと。ですから旦那様に申し訳なくて、私の様な者を押し付けられてしまっても旦那様は文句も言えないでしょう? 王命なのですから」
「わ、私は嫌じゃないし、文句なんかありませんから!」

 バンッとデーブルを叩くから、演技抜きにビクリと体を震わせる。
 旦那様、体が大きい分力が強すぎるのよ。

「あなたは綺麗です。清楚で清らかで、白百合の様に綺麗です」

 これを真顔で言われると、しかもエイマールが面白そうに見ている横でこんな風に言われても反応に困るわ。

「旦那様はこう言ってますが、奥様は旦那様をどう思っているんでしょうかね、こんな貴族らしくない粗野な男でいいんですか」

 しかも、エイマールはにやにやしながら、私に聞いてきたのだ。
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