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番外編

それでも愛だった1(ヒロイン視点)

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「第一王子殿下と共に離宮に籠るか、大富豪の老人の後添え。そのどちらかを選べというのですか」

 あの憎たらしい女コーデリアと学園の裏庭での一件があった後日、私は第二王子殿下であるイシュト殿下に呼び出されたのよ。

 私はマリアーナ、平民よ。
 平民ながら貴族が通う学園の生徒になれたのは私が努力し続けた結果だったわ。
 私は少しだけ裕福な家に生まれただけの女だったわ。
 生まれは平民だけれど、私は近所に住む子供とは違う人間っだってずっと思っていたの。
 だって、私は幼い時から可愛くて、賢かったのよ。
 お母さんは幼い私に言ったわ、私くらい可愛ければどんな家にも望まれるって。
 裕福な家、貴族の家、王族の男性だって私を妻にしたいと思うだろうって。
 そのためには礼儀作法をしっかり学んで、貴族との繋がりを作る為に学園に通う必要もあるのよって言われたの。

 努力したわ。

 甘いお菓子を食べ過ぎない、美味しいご飯も大好きなお肉もお腹いっぱい食べることは無かったわ。男は馬鹿だから小食で華奢な女だと庇護欲をかきたてられるんですって。
 だから常に控えめに食べる様にして、華奢な体を維持出来る様にしたの。
 行儀作法は完璧な筈よ。美しいと言われるお辞儀の仕方も頭を揺らさずに歩くのも完璧に覚えたわ。
 勉強も完璧、貴族の令嬢と比べられても見劣りしない程にダンスも刺繍も何もかもを完璧に体に覚えさせたわ。
 そして、何より笑顔。
 貴族女性は、大口を開けて笑わないんですって、おかしい事があっても声を出して笑わないの。
 常に気持ちを隠して、心のそこから笑うなんてしない。それが貴族令嬢なんですって。

 馬鹿じゃないの? 私はそう思っていたわ。
 学園に通う様になって、馬鹿じゃないの? そう思う代表がいたのよ。
 コーデリア・ラリット。第一王子殿下の婚約者である彼女は完璧な令嬢とも言われていたわ。
 美しくて、いつも穏やかな笑みを絶やさない。
 高位貴族の令嬢だというのに高飛車なところはなく、優しい未来の王妃。
 誰もが彼女を褒め称えたけれど、私はそれが気に入らなかったの。
 だって、笑顔が胡散臭いのよ。本心では笑っていないのが分かる笑顔で、第一王子殿下の隣に立っているのが気に入らなかったの。
 第一王子殿下と仲が悪いのは見てすぐにわかったわ。
 話したことは無かったけれど、すぐに理解したの。彼女は第一王子殿下を思っていないって。
 何よりそれが気に入らなかったのよ。

「聞いているのか、お前」
「聞いております。ですが、あまりのお話に驚いてしまいましたの。私は平民ですが、第一王子殿下を、殿下だけをお慕いしております。殿下も私を愛して下さいました。それなのに殿下を裏切り老人の後添えを等」

 イシュト殿下の話についあの女のことを考えてしまっていた私は、慌てて困惑した顔を作り俯いたの。
 私が第一王子殿下だけを愛しているのよ。
 彼と結婚したくて、他の男子生徒に愛想を振りまいたわ。
 味方は一人でも多い方がいいと思ったから、そうしたのよ。特にあの女の弟は私の信者になるように、しむけたのよ。姉に劣等感を持っていたから誑かすのは簡単だったわ。

「兄を慕う? 誰にでも足を開く淫乱が良く言うわ」
「そんな、そんなこと私は」
「していないのか? ほお、まあそんなことどうでもいい。お前にそのつもりがなくとも世間はそう見ているのだから。それが真実だ」

 イシュト殿下の言葉にわたしの顔は青くなる。
 誰にでも足を開く淫乱。そんなこと、私はしていない。私はまだ乙女だわ。私は第一王子殿下だけのものだもの、気軽に他の男を相手にしたりしないもの。

「お前が兄上と添い遂げたくて何やら画策していたんだろうが、やり方がまずかったな。王家は血筋を何より大事にしている。お前の様に多数の男の影がある女は側妃としても妾としてもおけぬ。理由が分かるか」
「わ、分かりません」

 だって私は第一王子殿下だけを愛している。
 他の人達に愛想を振りまき、弱いところをわざと見せ同情を誘っていたのはすべて第一王子殿下の妻になる為だもの。私は誰にも体を許したりしていないもの。

「誰の子供を孕んでいるのか分からない女を王家には入れられない。それが理由だ」
「私は、第一王子殿下だけですっ」
「お前にとってそれが事実でも、世間がそう思わなければ意味がないのだよ。分かるか、お前は世間的にはただの男好きのあばずれだっていうことを」

 冷ややかな目で、イシュト殿下は私を見下す。
 兄弟だというのに、第一王子殿下と彼は顔が似ているだけの他人だと思う。

「あばずれだなんて、私は本当に第一王子殿下だけを思って」

 それだけが真実。
 だって、皆第一王子殿下と私を応援してくれていたのよ。コーデリアなんて聖女という肩書を持っていても婚約者にすら愛して貰えていない可哀そうな女なのに。
 私の方が第一王子殿下に愛されていると言うのに、あばずれだなんて。

「まあ、お前の世間の評価などどうでもいい。それでどちらを選ぶんだ? 兄上か大富豪の老人か」
「そんなの決まっています」

 第一王子殿下、そう言おうとしてイシュト殿下の声に止められてしまった。

「兄上を選ぶなら、一年以内に二人は仲良く儚くなってもらう」
「え」
「私は王太子になると決まった。兄上の失態のお陰で無理だと諦めていた王太子の地位が私に転がり込んできた」
「そんな、どうして」
「分からないのか? 兄上は父上が選んだ婚約を勝手に破棄しようとした。コーデリア嬢は聖女だ。彼女との婚約は元々王家と彼女の家との繋がりを強化するための政治的な思惑があってのことだったが、彼女は成長する間に聖女となり、その価値を自ら高めた。愚かな兄上は彼女と親しくなる努力もせずに、自分の欲望に忠実になりお前の様なあばずれを選んでしまった」

 あばずれ、そう言われて唇を噛む。
 私のやり方が悪かったせいで、第一王子殿下に迷惑を掛けたのかと思うとやりきれなかったのよ。
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