上 下
244 / 248

ニルスさんを呼ぼう8

しおりを挟む
「くううん」

 瞼を開くとゲルトさんの顔が見えて驚いた。
 俺、ゲルトさんに抱き込まれた状態で寝てたみたいだ。
 上を見るとテントっぽい天井、体の下は毛布越しの地面の感触だ。
 そして見える、俺の白い手。
 そう、目が覚めても俺の体は元には戻っていなかった。
 大神様のところにも行けなかった。
 もしかしたら、大神様が何か教えてくれるかもなんて考えてた俺は甘かったということだ。

「ううう」

 何て言うか悲しくなってきて、小さく鳴くとゲルトさんを起こしてしまった。

「ウヅ起きたか、腹は減ってないか」
「くううん」

 俺を抱っこして寝てたゲルトさんは、目を覚ました途端俺のお腹を心配してくれる。
 俺は嬉しくなって、顔をゲルトさんに擦り付けた。

「くすぐったい」

 寝起きのゲルトさんの声は少し掠れていて、ちょっと色気過剰気味だ。
 狼の体の方が鼻がいいのか、ゲルトさんの匂いが良く分かる。
 ああ、この匂い安心する。
 もう少しこのままいちゃいたいな。

「まだ、眠いのか、寝るか」

 うっかり目を閉じてしまった俺は、本能のまま動いてるんだろうか。
 起きた方が良いかな、でもこんな姿でずっといるのどうなんだろう。
 もうテントの中にずっといようかな。

「くううん」
「寝てていいぞ、ウヅが寝るなら俺も寝てるとするか」

 寝ころんだまま、ゲルトさんは狼になった小さな俺の頭を撫でいる。
 人型の俺の頭よりも、狼の頭はゲルトさんの手の感触をしっかりと拾ってくれて、なんだか優しい手の感触に俺は目を閉じてうっとりとしてしまう。
 これって、俺が卯月の時に犬と遊んでいた時によく犬がやって顔なんじゃないかな。
 頭を撫でたり、犬の散歩のバイトの時にブラシを掛けてあげた時、よく目を細めて小さくクウウンって鳴いてた。
 今の俺、そんな気持ち。
 いいよ、もっと撫でて、もっといっぱい撫でて。
 そんな気持ちで、うっとりしてる。

「魔力不足は大丈夫か?」
「くうん」
「そうか、昨日は慌ただしくて疲れただろうが回復してるならいいか」

 ゲルトさんは俺の頭を撫でる手を止めて、俺を抱き込んで首の辺りに顔を埋めてしまった。
 あれ、こんな体勢今までなかったよね。
 え、ゲルトさん大丈夫? もしかして具合悪い?

「ウヅの毛はふわふわだな。眠くなる」
「くううん」

 眠いの? ゲルトさん、昨日一晩走り続けて疲れちゃったんだね?
 眠ってていいよ、俺の毛ふわふわで気持ちいい?
 元気になって、癒されて。

「くうん」

 あれ、今魔力が抜けた?
 でも回復魔法じゃないよね。なんだろ、何か増えた?

 こんな状態で鑑定出来るのかなと思いながら鑑定したら、見えた。

 癒しの風(下の下):精神の疲れを癒しその結果体力を回復する。眠気が強くなる場合がある。

 え、こんなのあるの? 癒しの風、そうかあ。
 俺ゲルと三を癒したいって思ったから、それで覚えちゃたのか。
 相変わらず、俺の魔法の覚え方って俺の強い望みが反映しちゃうんだね。

「なんだか、眠いな……ウヅ、寝よ……う」

 ゲルトさんはそう言うと、寝息を立て始めた。
 わあ、珍しい。
 ゲルトさんが本気で寝ようとしてるんだ。
 いつもは俺の方が寝るの早いし、ゲルトさんって眠り浅い感じなのに。

「くううん」

 駄目押しでもう一度癒しの風をゲルトさんに掛ける。
 今度はしっかり意識して、ゲルトさんに掛ける事が出来た。
 俺とグレオ君のところに来るために、夜通し駆けて来てくれたんだもん疲れちゃったよね。
 ありがとう、ゲルトさん。
 大好きだよ、ゲルトさん。
 沢山眠って元気になってね。

 ゲルトさんが起きたら凄く元気になってるといいなあ。
 その時、俺は狼の姿なんだろうか。
 考えながら、俺ももう一度目を閉じたんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)

藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!? 手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

無自覚主人公の物語

裏道
BL
トラックにひかれて異世界転生!無自覚主人公の話

釣った魚、逃した魚

円玉
BL
瘴気や魔獣の発生に対応するため定期的に行われる召喚の儀で、浄化と治癒の力を持つ神子として召喚された三倉貴史。 王の寵愛を受け後宮に迎え入れられたかに見えたが、後宮入りした後は「釣った魚」状態。 王には放置され、妃達には嫌がらせを受け、使用人達にも蔑ろにされる中、何とか穏便に後宮を去ろうとするが放置していながら縛り付けようとする王。 護衛騎士マクミランと共に逃亡計画を練る。 騎士×神子  攻目線 一見、神子が腹黒そうにみえるかもだけど、実際には全く悪くないです。 どうしても文字数が多くなってしまう癖が有るので『一話2500文字以下!』を目標にした練習作として書いてきたもの。 ムーンライト様でもアップしています。

異世界では総受けになりました。

西胡瓜
BL
尾瀬佐太郎はある日、駅のホームから突き飛ばされ目が覚めるとそこは異世界だった。 しかも転移先は魔力がないと生きていけない世界。   魔力なしで転移してしまったサタローは、魔力を他人から貰うことでしか生きられない体となってしまう。 魔力を貰う方法……それは他人の体液を自身の体に注ぎ込んでもらうことだった。 クロノス王国魔法軍に保護され、サタローは様々な人物から魔力を貰うことでなんとか異世界を生き抜いていく。 ※アホ設定なので広い心でお読みください ※コメディ要素多め ※総受けだけど最終的には固定カプになる予定

処理中です...