ひとめぼれなので、胃袋から掴みます

木嶋うめ香

文字の大きさ
上 下
243 / 248

ニルスさんを呼ぼう7

しおりを挟む
「手足は白いが、全体の毛は銀色で目も銀、ウヅの髪と目の色と同じだな。さっき全体が白く見えたのは目の錯覚だったのか」

 ぼんやりと考えていた俺は、ゲルトさんの声にハッと我に返る。
 俺の体、手足以外は銀色なのか、今の俺から見えないから分からなかった。
 でも、さっき白い狐に見えたっていうのは何だろう、目の錯覚にしてもおかしいよね?

「ウヅキは本当に銀狼獣人なんだな。髪と目の色からそうだとは思ってたが」
「くうん?」

 狼獣人って種類があるの?
 俺は首を傾げてゲルトさんを見る。

「狼獣人は銀、白、灰と毛色で種族が分かれてるんだ。ウヅは気にしたこと無かったのか?」
「くううん」

 知らない。だってそんな話大神様しなかったし。
 俺、自分以外の狼獣人見たことないもん。
 ニルスさんとマリアさんの耳としっぽは、こんがり焼けたパンみたいな色だけど狐の姿は白だった。
 髪の色ってそこまで重要じゃなくて、獣体の毛色が種族の色ってことなのかな?

「そうか、ウヅは小さいから毛の色とか注意して見ていなかったのかもしれないな」

 体は小さいけど俺十歳だよ、色の違い位分かるよ。
 不満に思うけれど話せないから、うううと唸るだけだ。

「それにしてもどうして」

 戸惑う俺の頭をゲルトさんは優しく撫でてくれるけれど、いつもの撫で方と違う気がする。
 なんていうか、他人行儀? 違う、遠慮してる?

「くううん」
「どうしたの、ウヅキ悲しそうな声」
「そうだな。腹は一杯の筈だし、眠いのかもしれねえな」
「そういえば、俺は夜子供達と馬車で寝てたけど、ウヅキはずっと起きて見張りしてたから疲れてるのかも。ウヅキ俺だけ寝ててごめん」

 それは違うよ、俺が睡眠の魔法を掛けたんだから。
 あ、でもグレオ君はそれ知らないんだ。

「困ったなあ。この位の年の子が獣体になるなんざ聞いた事ねえぞ」
「そうだな。狼獣人はこうなるというわけでもないと思うが」

 ゲルトさんとワルドさんの困惑した声に、俺は申し訳なくて顔を伏せてしまう。
 当然俺の素直な耳もしっぽもぺっしゃんこだ。

「ああ、ウヅキそんなに落ち込まないで、きっとすぐに元に戻るよ。そうだ、ゲルトさんウヅキと休んでてください俺その間ワルドさんと見張りしてますから。ルルさん達も来てくれるかもしれないし」
「だが」
「そうだな、俺はまだ興奮してて眠くねえから。馬車があれならテント張ってもいいしよ」

 ワルドさんなんでテントなんて勧めるんだろ。
 不思議に思っていると、ゲルトさんは俺を一旦地面に下ろして少し離れた場所にテントを張りに行ってしまった。

「くぅううん」

 さっきの事があるから、何となくここに居ずらくてゲルトさんの方へと歩いて行く。
 狼の体だから、当然四つ足で地面が近い。
 近いし、こんな歩き方人生初だから、何て言うか歩き難い。

「きゃん」

 歩き難いと思っていたら、見事に躓いた。
 ああ、びっくり。転びはしなかったけど、凄くびっくりした。

「ウヅ、大丈夫か」

 ゲルトさんが近づいてくるけれど、四つ足の俺と立っているゲルトさんの身長差が凄すぎる。
 これ、戻れなかったらどうしよう。
 なんでこんな風になっちゃったんだろ。

「ほら、ウヅテントの中に入ろう。毛布も敷いたから温かいぞ」
「くうん」

 ゲルトさんが伸ばしてきた手にすりすりと頬を摺り寄せる。
 俺、だいぶちっちゃくなったのかな、顔がゲルトさんの手の中にすっぽり入っちゃいそうだ。

「ほら、おいで」

 しゃがみ込んで俺を抱き上げて、ゲルトさんはテントの中に入っていく。
 不思議と中が温かくて、俺はふああっとあくびをしてしまった。

「やっぱり眠いんだな。寝ような」
「くうううん」

 ゲルトさんは優しく俺を抱っこして、横になるけれど何て言うか落ち着かない。
 俺の体がどうなるか不安で仕方ない。

「眠れ、ウヅ」
「くううん」

 仕方ないから、言われるままに目を閉じる。
 あったかいゲルトさんの腕の中、俺の眠りの定位置なのに体が狼だから違和感がありすぎる。
 でも眠くなってきて、俺はいつの間にか眠りについてしまったんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

子を成せ

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
ミーシェは兄から告げられた言葉に思わず耳を疑った。 「リストにある全員と子を成すか、二年以内にリーファスの子を産むか選べ」 リストに並ぶ番号は全部で十八もあり、その下には追加される可能性がある名前が続いている。これは孕み腹として生きろという命令を下されたに等しかった。もう一つの話だって、譲歩しているわけではない。

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

「今夜は、ずっと繋がっていたい」というから頷いた結果。

猫宮乾
BL
 異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

処理中です...