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ニルスさんを呼ぼう2
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「対立、戦になるということですか」
「そうじゃない。船を沈める」
「船を沈める」
この世界の港がどんな感じなのか、俺は知らない。
人族の船が沢山入港しているのかも知らないけど、船を沈めるって簡単に出来るんだろうか。
「グリームの町で何かあっても、そこで人族を裁くのは難しい。今回もそれが出来なかったから人族の国から迎えが来る事になってしまった。もし人族が獣人を攫おうとしていたのが発覚したとしても、また同じ事が繰り返されるだけだろう」
「それはそうかもしれないですが」
「だから、あいつらを船に乗せて出港したという記録を残した上で、獣人国の海域から離れた場所で船を沈める。グリームの町で何もしなくても、狐獣人の里の件があるからそれをルルに伝え領主とギルマスに話がいけば、これは確定になるだろう」
つまり、逃げようがない船で彼らを襲い殺すって事?
「獣人国と人族の国は船で一ヶ月以上の距離があるし、海の上では何があるか分からない、魔道船が開発されて無事に辿り着く船は増えたが、それでも難破する船が無いわけじゃない」
「つまり、人族の船は天候不良で難破したとされるってことですか」
「戻らなければそういう判断をされるだろう」
淡々とゲルトさんは言うけれど、それで問題にならないんだろうか。
心配だけど、俺が何か出来る話じゃない。
「そう不安になるな。あれで領主もギルマスも優秀だ、領主は民を守ろうと動く人だ。だからウヅとグレオをこうして逃がす方向で話を進めたんだ」
確かに俺達の命より自分の利益だけを動く人なら、俺達なんて領主さんに騙されて人族にプレゼントされてたかもしれない。
そうせずに、俺達を町の外に出し、グレオ君の家族も避難させてくれた。
人族に馬鹿にされていたら、誘拐され放題になる可能性もあるからかもしれないけど。
町の人達を守る為に動いてくれているんだ。
「俺達に出来る事は、自分の身を守るってことだけですね」
「そういうことだ。さすがにグリームの町から離れたら大丈夫かと思ってたが、まさか狐獣人の里が襲われるとは思わなかったがな」
「そうですね。俺もそれは油断していた。すまなかったなウヅ、グレオ」
「ゲルトさん達のせいじゃないです。ビリーさんがいつ人族と接触したのか分からないですが、人族を招き入れたビリーさん達が悪いんですから」
グリームの町で見た人族は、あの冒険者の二人だけだ。
俺の一件の後、ビリーさんは狐獣人の里に帰されていた筈なのに、一体いつ人族と接触したんだろう。
「人族と接触。そうだな、可能性があるのは、その」
「え、ワルドさん知ってるんですか」
何か言い難そうに、ワルドさんは俺を見ている。
なんだろう、俺に関係ある事なのかな。
「そのよぉ、お前がそのビリーに、そのな」
「え、俺がビリーさんに? あの件ですか?」
それが人族の接触にどういう風に繋がるんだろう。
ワルドさんが何を言いたいのか分からなくて、首を傾げていると躊躇いながら話をしてくれた。
「あの時、ビリーは冒険者ギルドの地下牢に閉じ込められたんだが、その牢に人族の冒険者も入ってたんだ」
「え、そうなんですか」
人族の冒険者って、俺達に魔物を押し付けて逃げたせいでギルドの地下牢に入れられたとは聞いていたけど、領主さんのお客さんとして来ている人達だしすぐに出されたんだと思っていたけど、違ったんだね。
あれ、何か忘れてる?
「人族の冒険者はお前達に魔物を押し付けて逃げた。それだけの罪だと周知されているが、そうじゃねえ。あいつらは魔物を召喚してたんだ。お前が戦ったゴブリンとトロールはあいつらが持っていた召喚の魔道具で呼び出した魔物だったんだ。領主は善意で人族の貴族から二人を預かったが、あいつらは領主の人がいいのを利用して獣人の国で好き勝手したい放題するつもりだったんだ」
「それが分かったから、牢に入れたままだったんですね」
「ああ、そうだ。ギルドの牢は通路を挟んで二つに分かれて牢がある。両方を使うことなんざ殆どないんだが、あの時は片方に人族のあいつらが入っていた。窓などは無いし牢の鍵はそう簡単に開錠出来ねえし、牢に続く階段はギルマスの部屋からじゃへえと入れねえから、牢番もいねえ」
殆ど使う事が無いからなのかもしれないけど、見張りもいない牢ってどうなんだろう。
ビリーさんに俺が襲われたのは昼過ぎ、そこからどれだけ長い時間そこに入っていたか分からないけれど、要するに長い時間ビリーさんは人族と話す時間があったって事だよね。
それじゃビリーさんが人族の二人に唆される時間が十分にあったってことだよね。
「じゃあ、その時に唆されたってことですか」
「多分そうなんだろうな。あのビリーが人族の話にのるとは思えないが、実際にこうなっているわけだしな」
あの時すぐにビリーさんを連れ帰っていれば、ニルスさんこれを知ったら余計に悔やみそうだな。
俺はなんだかしょんぼりとしてしまって、耳もしっぽも落ち込んじゃったんだ。
「そうじゃない。船を沈める」
「船を沈める」
この世界の港がどんな感じなのか、俺は知らない。
人族の船が沢山入港しているのかも知らないけど、船を沈めるって簡単に出来るんだろうか。
「グリームの町で何かあっても、そこで人族を裁くのは難しい。今回もそれが出来なかったから人族の国から迎えが来る事になってしまった。もし人族が獣人を攫おうとしていたのが発覚したとしても、また同じ事が繰り返されるだけだろう」
「それはそうかもしれないですが」
「だから、あいつらを船に乗せて出港したという記録を残した上で、獣人国の海域から離れた場所で船を沈める。グリームの町で何もしなくても、狐獣人の里の件があるからそれをルルに伝え領主とギルマスに話がいけば、これは確定になるだろう」
つまり、逃げようがない船で彼らを襲い殺すって事?
「獣人国と人族の国は船で一ヶ月以上の距離があるし、海の上では何があるか分からない、魔道船が開発されて無事に辿り着く船は増えたが、それでも難破する船が無いわけじゃない」
「つまり、人族の船は天候不良で難破したとされるってことですか」
「戻らなければそういう判断をされるだろう」
淡々とゲルトさんは言うけれど、それで問題にならないんだろうか。
心配だけど、俺が何か出来る話じゃない。
「そう不安になるな。あれで領主もギルマスも優秀だ、領主は民を守ろうと動く人だ。だからウヅとグレオをこうして逃がす方向で話を進めたんだ」
確かに俺達の命より自分の利益だけを動く人なら、俺達なんて領主さんに騙されて人族にプレゼントされてたかもしれない。
そうせずに、俺達を町の外に出し、グレオ君の家族も避難させてくれた。
人族に馬鹿にされていたら、誘拐され放題になる可能性もあるからかもしれないけど。
町の人達を守る為に動いてくれているんだ。
「俺達に出来る事は、自分の身を守るってことだけですね」
「そういうことだ。さすがにグリームの町から離れたら大丈夫かと思ってたが、まさか狐獣人の里が襲われるとは思わなかったがな」
「そうですね。俺もそれは油断していた。すまなかったなウヅ、グレオ」
「ゲルトさん達のせいじゃないです。ビリーさんがいつ人族と接触したのか分からないですが、人族を招き入れたビリーさん達が悪いんですから」
グリームの町で見た人族は、あの冒険者の二人だけだ。
俺の一件の後、ビリーさんは狐獣人の里に帰されていた筈なのに、一体いつ人族と接触したんだろう。
「人族と接触。そうだな、可能性があるのは、その」
「え、ワルドさん知ってるんですか」
何か言い難そうに、ワルドさんは俺を見ている。
なんだろう、俺に関係ある事なのかな。
「そのよぉ、お前がそのビリーに、そのな」
「え、俺がビリーさんに? あの件ですか?」
それが人族の接触にどういう風に繋がるんだろう。
ワルドさんが何を言いたいのか分からなくて、首を傾げていると躊躇いながら話をしてくれた。
「あの時、ビリーは冒険者ギルドの地下牢に閉じ込められたんだが、その牢に人族の冒険者も入ってたんだ」
「え、そうなんですか」
人族の冒険者って、俺達に魔物を押し付けて逃げたせいでギルドの地下牢に入れられたとは聞いていたけど、領主さんのお客さんとして来ている人達だしすぐに出されたんだと思っていたけど、違ったんだね。
あれ、何か忘れてる?
「人族の冒険者はお前達に魔物を押し付けて逃げた。それだけの罪だと周知されているが、そうじゃねえ。あいつらは魔物を召喚してたんだ。お前が戦ったゴブリンとトロールはあいつらが持っていた召喚の魔道具で呼び出した魔物だったんだ。領主は善意で人族の貴族から二人を預かったが、あいつらは領主の人がいいのを利用して獣人の国で好き勝手したい放題するつもりだったんだ」
「それが分かったから、牢に入れたままだったんですね」
「ああ、そうだ。ギルドの牢は通路を挟んで二つに分かれて牢がある。両方を使うことなんざ殆どないんだが、あの時は片方に人族のあいつらが入っていた。窓などは無いし牢の鍵はそう簡単に開錠出来ねえし、牢に続く階段はギルマスの部屋からじゃへえと入れねえから、牢番もいねえ」
殆ど使う事が無いからなのかもしれないけど、見張りもいない牢ってどうなんだろう。
ビリーさんに俺が襲われたのは昼過ぎ、そこからどれだけ長い時間そこに入っていたか分からないけれど、要するに長い時間ビリーさんは人族と話す時間があったって事だよね。
それじゃビリーさんが人族の二人に唆される時間が十分にあったってことだよね。
「じゃあ、その時に唆されたってことですか」
「多分そうなんだろうな。あのビリーが人族の話にのるとは思えないが、実際にこうなっているわけだしな」
あの時すぐにビリーさんを連れ帰っていれば、ニルスさんこれを知ったら余計に悔やみそうだな。
俺はなんだかしょんぼりとしてしまって、耳もしっぽも落ち込んじゃったんだ。
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