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彼の罪は何
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「ウヅキの魂が体を離れて里にいたって事なんだな」
「ワルドさん」
ゲルト君の体を抱っこしたまま、ワルドさんは俺の方を見て眉を顰めている。
その顔から俺の話を疑っているわけじゃないんだって分かる。
「ビリーは俺の目の前で馬車と一緒に転移した。ビリーはウヅキとグレオが馬車の中にいると知らなかったから馬車の中の荷物は全部一緒に転移するって承認して転移したんだろうが、俺は拒絶されて吹き飛ばされたんだ」
「吹き飛ばされた」
「そうだ。吹き飛ばされた俺は何とか崖上に戻りはしたが、そこには馬車も何もなくて下を見ればあちこちから火柱が上がっている。だから俺は魔法で雨を降らせて雨を消そうとしたんだ」
それが俺がみたワルドさんの魔法の雨だったんだろう。
つまりあれは、第六感が見せた未来じゃなく現実だったっていうことだ。
「俺時々魔力が戻って、でもすぐに魔力切れになって気を失っていたので、どれが現実だったとかどれが第六感が見せた未来だったとか分からないんです」
「グレオがウヅに魔力を渡していたから、魔力を回復しでもすぐにまた魔力切れになっていたんだろうな」
ゲルトさんが言うのは多分事実だ。
俺は多分グレオ君がいなければ、魔力切れなのに無理矢理に魔力を使おうとして死んでいたかもしれない。
「グレオのお陰だな。ありがとうウヅを助けてくれて」
「お、俺は何も。ただ夢中で、それだけで。馬車からオークを離さなきゃって俺囮になって逃げたけど、逃げられたのだってウヅキから貰ったトゲトゲの石と唐の実の粉の袋のお陰だし。最終的には目が覚めたウヅキが俺に追いついてオークを狩ってくれたんだし」
ゲルトさんの礼にグレオ君は慌てて両手を振ると謙遜しだすけれど、最後には落ち込んだ様に俯いてワルドさんの首元に顔を埋めてしまった。
「結局俺、何にも出来なかった」
「そんな事ねえ。出来なかったのは俺達だ」
ワルドさんにしがみ付いたままのグレオ君の背中を、ワルドさんは優しく撫でている。
その優しい手の動きに、俺の鼻はツンとして切なさに息が苦しくなる。
ああ、ワルドさんはグレオ君が大切なんだ。
きっと誰より大切で、だからこそ俺達がビリーさんに連れ去られたのを悔やんでいるんだ。
「何も出来なかったことなんてありません。あれはきっと必然なんです。だって、ワルドさんがあそこにいなければ雨を降らせる人はいなかった。そうしたら里は祠の守りを失うことになった。ゲルトさんがいなければニルスさん達はきっと守られなかった。そうしたら里は、里は」
あの声が気になって仕方ない。
聞いたことが無い声、あの声は誰のもの?
俺はあの時、誰の怒りを自分のものと思っていたの?
気になるけれど、誰もきっと答えは知らない。
「悪いのはビリーさんだよ。ビリーさんが人族を里に引き入れてしまったんだ」
馬車の方を振り返る。
未だ魔法で眠っているビリーさんは、片足を失って、でもまだ生きている。
俺はビリーさんを見殺しにはしなかった。
だって、罪は裁かれるべきだと思うから、だから命を助けた。
本当はビリーさんを見殺しにした方が良かったのかもしれない。
でも、俺はその勇気が無くて命を助けたんだ。
ニルスさんはそれで辛い思いをするのかもしれない、でも真実を知るのがビリーさんだけだと分かっているからそれをちゃんと知る為にもビリーさんは生きていなければいけないんだ。
「ゲルトさん、ニルスさん達とは会えるのかな。俺達また狐獣人の里に行けるの?」
「ああ、俺達がウヅ達と合流出来たらニルスさんへ連絡をする手筈になっている」
「良かった。ゲルトさん」
その答えに安心して、俺はゲルトさんの首にしがみ付いたんだ。
「ワルドさん」
ゲルト君の体を抱っこしたまま、ワルドさんは俺の方を見て眉を顰めている。
その顔から俺の話を疑っているわけじゃないんだって分かる。
「ビリーは俺の目の前で馬車と一緒に転移した。ビリーはウヅキとグレオが馬車の中にいると知らなかったから馬車の中の荷物は全部一緒に転移するって承認して転移したんだろうが、俺は拒絶されて吹き飛ばされたんだ」
「吹き飛ばされた」
「そうだ。吹き飛ばされた俺は何とか崖上に戻りはしたが、そこには馬車も何もなくて下を見ればあちこちから火柱が上がっている。だから俺は魔法で雨を降らせて雨を消そうとしたんだ」
それが俺がみたワルドさんの魔法の雨だったんだろう。
つまりあれは、第六感が見せた未来じゃなく現実だったっていうことだ。
「俺時々魔力が戻って、でもすぐに魔力切れになって気を失っていたので、どれが現実だったとかどれが第六感が見せた未来だったとか分からないんです」
「グレオがウヅに魔力を渡していたから、魔力を回復しでもすぐにまた魔力切れになっていたんだろうな」
ゲルトさんが言うのは多分事実だ。
俺は多分グレオ君がいなければ、魔力切れなのに無理矢理に魔力を使おうとして死んでいたかもしれない。
「グレオのお陰だな。ありがとうウヅを助けてくれて」
「お、俺は何も。ただ夢中で、それだけで。馬車からオークを離さなきゃって俺囮になって逃げたけど、逃げられたのだってウヅキから貰ったトゲトゲの石と唐の実の粉の袋のお陰だし。最終的には目が覚めたウヅキが俺に追いついてオークを狩ってくれたんだし」
ゲルトさんの礼にグレオ君は慌てて両手を振ると謙遜しだすけれど、最後には落ち込んだ様に俯いてワルドさんの首元に顔を埋めてしまった。
「結局俺、何にも出来なかった」
「そんな事ねえ。出来なかったのは俺達だ」
ワルドさんにしがみ付いたままのグレオ君の背中を、ワルドさんは優しく撫でている。
その優しい手の動きに、俺の鼻はツンとして切なさに息が苦しくなる。
ああ、ワルドさんはグレオ君が大切なんだ。
きっと誰より大切で、だからこそ俺達がビリーさんに連れ去られたのを悔やんでいるんだ。
「何も出来なかったことなんてありません。あれはきっと必然なんです。だって、ワルドさんがあそこにいなければ雨を降らせる人はいなかった。そうしたら里は祠の守りを失うことになった。ゲルトさんがいなければニルスさん達はきっと守られなかった。そうしたら里は、里は」
あの声が気になって仕方ない。
聞いたことが無い声、あの声は誰のもの?
俺はあの時、誰の怒りを自分のものと思っていたの?
気になるけれど、誰もきっと答えは知らない。
「悪いのはビリーさんだよ。ビリーさんが人族を里に引き入れてしまったんだ」
馬車の方を振り返る。
未だ魔法で眠っているビリーさんは、片足を失って、でもまだ生きている。
俺はビリーさんを見殺しにはしなかった。
だって、罪は裁かれるべきだと思うから、だから命を助けた。
本当はビリーさんを見殺しにした方が良かったのかもしれない。
でも、俺はその勇気が無くて命を助けたんだ。
ニルスさんはそれで辛い思いをするのかもしれない、でも真実を知るのがビリーさんだけだと分かっているからそれをちゃんと知る為にもビリーさんは生きていなければいけないんだ。
「ゲルトさん、ニルスさん達とは会えるのかな。俺達また狐獣人の里に行けるの?」
「ああ、俺達がウヅ達と合流出来たらニルスさんへ連絡をする手筈になっている」
「良かった。ゲルトさん」
その答えに安心して、俺はゲルトさんの首にしがみ付いたんだ。
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