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その後の俺達は6
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「どうするの、ウヅキ」
「どうするって?」
動揺してるのは俺だけなのかな、グレオ君が何を考えているのか分からないんだ。
怖いのを我慢してビリーさんのところまで近づいた俺達は、片足を失い痛みに苦しんでいる彼を見下ろしていた。
「ビリーさんを助けるの?」
「え、助けるよ。勿論だよ」
マジックバッグの中にはまだ回復薬が沢山入っている。
回復薬は怪我と体力回復に効果がある薬だ。
病気にはあまり効かないらしいけれど、今のビリーさんは足の怪我(というより欠損?)だから薬は効く筈だ。
ただ失った足は戻らない。無くなった足を戻すには最上級の回復薬が必要になるらしいけれど、俺はそんなの持ってない。
「ウヅキ!」
回復薬を取り出した俺の手を、グレオ君が止めた。
「グレオ君?」
『あれはウヅキを害した者、ウヅキを恨み、妬んで害した者!』
何か様子が違う。
グレオ君の顔なのに、グレオ君の声なのに、グレオ君じゃない?
「グレオ君、どうしたの。助けるよ、だってビリーさんはニルスさんの甥だよ。悪い事したかもしれないし、俺はビリーさんを許せない。だけど、助けられる命を見捨てるなんて出来ないよ」
『見捨てればいい。これが生きていても誰も喜びはしない。ウヅキが助けてもこれはウヅキを恨み続ける。命を助けたと感謝するどころか、むしろ足を失ったことまでウヅキのせいだと恨みかねない』
「それは、でも、それはっ!」
グレオ君どうしたの、なんでそんなこと言うの。
これはグレオ君なの、本当に?
『ビリーを生かしてニルスは喜ぶのか? ビリーを生かした方が困るのではないか?』
「え」
『狐獣人の長の甥が、狐獣人の里を害し、子を攫った。そんな者を生かしておいたらニルスは困るだろう』
「そんな、でも。そんな」
助ける方がおかしい? その方が迷惑? でも、そんなこと。
「ニルスさんは思わないよ。きっと罪を犯したなら生きて償って欲しいってそう考える筈だよ。命を救っても俺はビリーさんに嫌われ続けて、もしかしたら恨まれちゃうかもしれないけど、でもそれでもいい。助けられる命を見捨てたり出来ないよ。そんなことしたら駄目だよ!」
グレオ君の手をそっと外して、俺はビリーさんの足に浄化の魔法を掛けた後回復薬を掛けた。
グレオ君はそれを無表情で見ていた。
何も言わない、何も思わない、そんな様子はグレオ君らしくなくて俺は不安な気持ちのまま意識が無いビリーさんの口元に新しい回復薬を取り出して、そっと飲ませたんだ。
「う、ううう」
「気が付きましたか、うわっ」
「お前何でここにいる、オークはどうした!」
意識を回復したばかりなのに、ビリーさんの両手が俺に襲い掛かり俺の首をギュウギュウと絞めた。
凄い力だ、なにこれ。
「あの馬車にいたのか、くそっ。お前がオークを呼んだのか?」
「ち、ちが、ちが……」
苦しい、苦しい。
抵抗しなきゃと思うのに、俺はビリーさんの手から逃れられない。
力を込めて、抵抗しなきゃと思うのに、大きな体に圧し掛かられて動けないんだ。
首を絞められる恐怖に、俺の体が動かなくなる。
「くそっ。俺の足が! ウヅキ、お前のせいだ。お前がオークを呼んだんだろっ。馬車にオークを向かわせたのに、馬車がオークに襲われていないのが証拠だ。ウヅキ、お前は災いしか呼ばないんだな」
「ち、ちが」
「おじさんも馬鹿だ。こんなガキを養い子になんかするなんて、俺を里に閉じ込めるなんて」
ギュウギュウと首を絞められて、俺は酸欠で意識が朦朧とし始める。
どうして俺抵抗出来ないの。
なんで、体が動かないの。
怖い、怖いんだ。
母さん、母さん。許して、許して。
ビリーさんは母さんじゃないのに、どうしても母さんに重なる。
俺を害し続けた、気分によって優しくして、気分によって俺を殴り蹴とばし罵った。
そんな母さんは、もういないんだ。
これは母さんじゃない。
「防御壁!」
俺を罵りながら首を絞め続けるビリーさんに向かい、防御壁を発動する。
「うわあああ」
防御壁に弾き飛ばされ、ビリーさんの体が俺から離れた。
「眠れ! 深く深く眠れ!」
グレオ君は俺の前に立ち、ビリーさんへ睡眠の魔法を発動した。
「グレオ君」
『やはり、駄目だ。濁った魂は濁ったまま』
「グレオ君?」
『それでもウヅキはこの命を生かしたままにするのか、こんな者を』
「生かすよ。罪を決めるのは俺じゃない。ビリーさんの命の重さを決めるのは俺じゃないよ」
ビリーさんに恨まれても、憎まれても俺はビリーさんを生かして、ニルスさんのところに返す。
狐獣人を襲った罪、それを決めるのは俺じゃなくニルスさんや狐獣人の里の人達だ。
彼らが罪だと決めてから、ビリーさんは罪を償うべきなんだ。
今俺が勝手に命を狩っていいわけじゃない。
『そうか、ウヅキは、そう思うのだな。恨みでは人を殺さない。それがウヅキの……』
最後何を言ったのか聞こえなかった。
グレオ君の体はぐらりと傾き、ゆっくりと崩れ落ちたんだ。
「グレオ君!」
グレオ君の体を支えた俺は、何が起きたのかさっぱり分からなかったんだ。
「どうするって?」
動揺してるのは俺だけなのかな、グレオ君が何を考えているのか分からないんだ。
怖いのを我慢してビリーさんのところまで近づいた俺達は、片足を失い痛みに苦しんでいる彼を見下ろしていた。
「ビリーさんを助けるの?」
「え、助けるよ。勿論だよ」
マジックバッグの中にはまだ回復薬が沢山入っている。
回復薬は怪我と体力回復に効果がある薬だ。
病気にはあまり効かないらしいけれど、今のビリーさんは足の怪我(というより欠損?)だから薬は効く筈だ。
ただ失った足は戻らない。無くなった足を戻すには最上級の回復薬が必要になるらしいけれど、俺はそんなの持ってない。
「ウヅキ!」
回復薬を取り出した俺の手を、グレオ君が止めた。
「グレオ君?」
『あれはウヅキを害した者、ウヅキを恨み、妬んで害した者!』
何か様子が違う。
グレオ君の顔なのに、グレオ君の声なのに、グレオ君じゃない?
「グレオ君、どうしたの。助けるよ、だってビリーさんはニルスさんの甥だよ。悪い事したかもしれないし、俺はビリーさんを許せない。だけど、助けられる命を見捨てるなんて出来ないよ」
『見捨てればいい。これが生きていても誰も喜びはしない。ウヅキが助けてもこれはウヅキを恨み続ける。命を助けたと感謝するどころか、むしろ足を失ったことまでウヅキのせいだと恨みかねない』
「それは、でも、それはっ!」
グレオ君どうしたの、なんでそんなこと言うの。
これはグレオ君なの、本当に?
『ビリーを生かしてニルスは喜ぶのか? ビリーを生かした方が困るのではないか?』
「え」
『狐獣人の長の甥が、狐獣人の里を害し、子を攫った。そんな者を生かしておいたらニルスは困るだろう』
「そんな、でも。そんな」
助ける方がおかしい? その方が迷惑? でも、そんなこと。
「ニルスさんは思わないよ。きっと罪を犯したなら生きて償って欲しいってそう考える筈だよ。命を救っても俺はビリーさんに嫌われ続けて、もしかしたら恨まれちゃうかもしれないけど、でもそれでもいい。助けられる命を見捨てたり出来ないよ。そんなことしたら駄目だよ!」
グレオ君の手をそっと外して、俺はビリーさんの足に浄化の魔法を掛けた後回復薬を掛けた。
グレオ君はそれを無表情で見ていた。
何も言わない、何も思わない、そんな様子はグレオ君らしくなくて俺は不安な気持ちのまま意識が無いビリーさんの口元に新しい回復薬を取り出して、そっと飲ませたんだ。
「う、ううう」
「気が付きましたか、うわっ」
「お前何でここにいる、オークはどうした!」
意識を回復したばかりなのに、ビリーさんの両手が俺に襲い掛かり俺の首をギュウギュウと絞めた。
凄い力だ、なにこれ。
「あの馬車にいたのか、くそっ。お前がオークを呼んだのか?」
「ち、ちが、ちが……」
苦しい、苦しい。
抵抗しなきゃと思うのに、俺はビリーさんの手から逃れられない。
力を込めて、抵抗しなきゃと思うのに、大きな体に圧し掛かられて動けないんだ。
首を絞められる恐怖に、俺の体が動かなくなる。
「くそっ。俺の足が! ウヅキ、お前のせいだ。お前がオークを呼んだんだろっ。馬車にオークを向かわせたのに、馬車がオークに襲われていないのが証拠だ。ウヅキ、お前は災いしか呼ばないんだな」
「ち、ちが」
「おじさんも馬鹿だ。こんなガキを養い子になんかするなんて、俺を里に閉じ込めるなんて」
ギュウギュウと首を絞められて、俺は酸欠で意識が朦朧とし始める。
どうして俺抵抗出来ないの。
なんで、体が動かないの。
怖い、怖いんだ。
母さん、母さん。許して、許して。
ビリーさんは母さんじゃないのに、どうしても母さんに重なる。
俺を害し続けた、気分によって優しくして、気分によって俺を殴り蹴とばし罵った。
そんな母さんは、もういないんだ。
これは母さんじゃない。
「防御壁!」
俺を罵りながら首を絞め続けるビリーさんに向かい、防御壁を発動する。
「うわあああ」
防御壁に弾き飛ばされ、ビリーさんの体が俺から離れた。
「眠れ! 深く深く眠れ!」
グレオ君は俺の前に立ち、ビリーさんへ睡眠の魔法を発動した。
「グレオ君」
『やはり、駄目だ。濁った魂は濁ったまま』
「グレオ君?」
『それでもウヅキはこの命を生かしたままにするのか、こんな者を』
「生かすよ。罪を決めるのは俺じゃない。ビリーさんの命の重さを決めるのは俺じゃないよ」
ビリーさんに恨まれても、憎まれても俺はビリーさんを生かして、ニルスさんのところに返す。
狐獣人を襲った罪、それを決めるのは俺じゃなくニルスさんや狐獣人の里の人達だ。
彼らが罪だと決めてから、ビリーさんは罪を償うべきなんだ。
今俺が勝手に命を狩っていいわけじゃない。
『そうか、ウヅキは、そう思うのだな。恨みでは人を殺さない。それがウヅキの……』
最後何を言ったのか聞こえなかった。
グレオ君の体はぐらりと傾き、ゆっくりと崩れ落ちたんだ。
「グレオ君!」
グレオ君の体を支えた俺は、何が起きたのかさっぱり分からなかったんだ。
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