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その後の俺達は5
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「そ、そんな。ビリーさんが、どうして」
グレオ君が震えている。
いいや、震えているのは、俺だ。
ビリーさんの怒鳴り声が聞こえてきたんだ。
俺を殴って「生意気な口をきくからだっ! 捨て子のくせに俺に逆らうなっ!」と怒鳴った。俺を何度も殴る蹴るしながら「うるさいっ。親から捨てられた餓鬼が生意気なんだよ! お前のせいで俺は店に立たせて貰えなくなったんだ! 俺に逆らうなっ」と怒鳴り「うるさいっ! どいつもこいつも俺に逆らいやがって! お前みたいな生意気な捨て子がなんでおじさんに可愛がられてるんだよ! お前みたいな餓鬼は躾が必要なんだよ!」と床に倒れた俺の体を踏みつけた。
俺はビリーさんに憎まれている。
親に捨てられたくせにニルスさんとマリアさんに可愛がられている俺は、ビリーさんに憎まれている。
何度謝っても、ごめんなさいと繰り返してもビリーさんの暴力は止まらなかった。
痛くて苦しくて、怖くて、怖くて、ただただ怖くて。
ニルスさんに似た顔のビリーさんが俺に暴力を振るう度、俺は恐怖に震えて謝ることしか出来なかった。
「どうして、どうして、ビリーさんが狐獣人の子供を拐ったの? ねえ、グレオ君、どうして」
グレオ君に聞いたって分かるわけない。
それを頭では理解しているのに、俺の頭は考えることを拒否してグレオ君に答えを求めてしまう。
「ウヅキ?」
「ねえ、ビリーさんは狐獣人の里に閉じ込められていたんじゃなかったの? どうして、どうして」
子供を誘拐して来られるくらいに、それすら簡単に出来る位にビリーさんは里の中を自由に歩けていた?
だけどニルスさんは俺にビリーさんは里に閉じ込められているって、自由に外を歩けたりしない様に監視をつけているって言っていたのに。
「ビリーさんは何も罰を与えられていなかったの?」
ニルスさんが俺に嘘を教えたんだろうか。
養い子の俺よりも、血がつながった甥のビリーさんの方が大切だから俺にバレないだろうと嘘を?
「そんな筈ないよ。ワルドさんがギルドマスターはビリーさんとニルスさんと一緒に里に行って、ビリーさんが牢に入れられるのを見たって言ってた。ウヅキが気にすると可哀そうだから言うなよって言ってたんだよ。手枷をされてビリーさんは牢に入れられたんだって」
じゃあなんで、ビリーさんは外に出て子供を誘拐して馬車を奪ってこんなところにいるの?
誰かがビリーさんを外に出したんだよ。それは誰?
「ウヅキ、怖いなら俺だけ見て来るよ」
「え」
「ウヅキ、震えてる。ビリーさんが怖いんだよね。分かるよ、あんなに酷い事されたんだから」
痛ましそうな顔でグレオ君は俺を見ている。
そうだ、俺はビリーさんが怖い。
片足を失い、声すら上げていないあの姿のビリーさんでも、俺は怖いんだ。
「だ、大丈夫だよ。ビリーさんは何も出来ない」
今にもむっくりと起き上がり、俺を睨みつけ怒鳴り暴力を振るうんじゃないか。
心のどこかで、そういう怖さを感じている。
オークが片足だけを奪い馬車の方へ戻って来た理由が分からない。
ビリーさんは、何かしていて、だからオークは俺達の方に来たんじゃないのかな。
そうじゃなきゃ、オークが獲物をそのままに移動した理由が分からない。
「行こう」
怖がっていたら前に進めない。
俺はゲルトさんとパーティーを組み冒険者として生きるんだ。
そんな俺がこの程度を怖がっていたら、ゲルトさんについていけなくなってしまう。
「ウヅキ」
「手、握ってていい?」
「勿論だよ。ウヅキ、一緒に行こう」
グレオ君が俺の手を握ってくれるから、俺は深呼吸して歩き出す。
のろのろとした歩みで、ビリーさんの傍まで近づいていく。
「酷い」
馬は腹の部分を食われていた。
優しい子だったのに、ニルスさんとあの森で出会った後俺はこの馬とも一緒に旅をしたんだ。
ニルスさんの家で暮らす様になって、毎朝この子の体をブラッシングした。飼い葉も水もあげて仲良しだったんだよ。それなのに、こんな。
「馬は駄目だね。だけどビリーさんは」
荒い息、ビリーさんは苦しんでいた。
足以外の怪我は見あたらない。
馬がこんな状態だっていうのに、ビリーさんの怪我は足だけだったんだ。
グレオ君が震えている。
いいや、震えているのは、俺だ。
ビリーさんの怒鳴り声が聞こえてきたんだ。
俺を殴って「生意気な口をきくからだっ! 捨て子のくせに俺に逆らうなっ!」と怒鳴った。俺を何度も殴る蹴るしながら「うるさいっ。親から捨てられた餓鬼が生意気なんだよ! お前のせいで俺は店に立たせて貰えなくなったんだ! 俺に逆らうなっ」と怒鳴り「うるさいっ! どいつもこいつも俺に逆らいやがって! お前みたいな生意気な捨て子がなんでおじさんに可愛がられてるんだよ! お前みたいな餓鬼は躾が必要なんだよ!」と床に倒れた俺の体を踏みつけた。
俺はビリーさんに憎まれている。
親に捨てられたくせにニルスさんとマリアさんに可愛がられている俺は、ビリーさんに憎まれている。
何度謝っても、ごめんなさいと繰り返してもビリーさんの暴力は止まらなかった。
痛くて苦しくて、怖くて、怖くて、ただただ怖くて。
ニルスさんに似た顔のビリーさんが俺に暴力を振るう度、俺は恐怖に震えて謝ることしか出来なかった。
「どうして、どうして、ビリーさんが狐獣人の子供を拐ったの? ねえ、グレオ君、どうして」
グレオ君に聞いたって分かるわけない。
それを頭では理解しているのに、俺の頭は考えることを拒否してグレオ君に答えを求めてしまう。
「ウヅキ?」
「ねえ、ビリーさんは狐獣人の里に閉じ込められていたんじゃなかったの? どうして、どうして」
子供を誘拐して来られるくらいに、それすら簡単に出来る位にビリーさんは里の中を自由に歩けていた?
だけどニルスさんは俺にビリーさんは里に閉じ込められているって、自由に外を歩けたりしない様に監視をつけているって言っていたのに。
「ビリーさんは何も罰を与えられていなかったの?」
ニルスさんが俺に嘘を教えたんだろうか。
養い子の俺よりも、血がつながった甥のビリーさんの方が大切だから俺にバレないだろうと嘘を?
「そんな筈ないよ。ワルドさんがギルドマスターはビリーさんとニルスさんと一緒に里に行って、ビリーさんが牢に入れられるのを見たって言ってた。ウヅキが気にすると可哀そうだから言うなよって言ってたんだよ。手枷をされてビリーさんは牢に入れられたんだって」
じゃあなんで、ビリーさんは外に出て子供を誘拐して馬車を奪ってこんなところにいるの?
誰かがビリーさんを外に出したんだよ。それは誰?
「ウヅキ、怖いなら俺だけ見て来るよ」
「え」
「ウヅキ、震えてる。ビリーさんが怖いんだよね。分かるよ、あんなに酷い事されたんだから」
痛ましそうな顔でグレオ君は俺を見ている。
そうだ、俺はビリーさんが怖い。
片足を失い、声すら上げていないあの姿のビリーさんでも、俺は怖いんだ。
「だ、大丈夫だよ。ビリーさんは何も出来ない」
今にもむっくりと起き上がり、俺を睨みつけ怒鳴り暴力を振るうんじゃないか。
心のどこかで、そういう怖さを感じている。
オークが片足だけを奪い馬車の方へ戻って来た理由が分からない。
ビリーさんは、何かしていて、だからオークは俺達の方に来たんじゃないのかな。
そうじゃなきゃ、オークが獲物をそのままに移動した理由が分からない。
「行こう」
怖がっていたら前に進めない。
俺はゲルトさんとパーティーを組み冒険者として生きるんだ。
そんな俺がこの程度を怖がっていたら、ゲルトさんについていけなくなってしまう。
「ウヅキ」
「手、握ってていい?」
「勿論だよ。ウヅキ、一緒に行こう」
グレオ君が俺の手を握ってくれるから、俺は深呼吸して歩き出す。
のろのろとした歩みで、ビリーさんの傍まで近づいていく。
「酷い」
馬は腹の部分を食われていた。
優しい子だったのに、ニルスさんとあの森で出会った後俺はこの馬とも一緒に旅をしたんだ。
ニルスさんの家で暮らす様になって、毎朝この子の体をブラッシングした。飼い葉も水もあげて仲良しだったんだよ。それなのに、こんな。
「馬は駄目だね。だけどビリーさんは」
荒い息、ビリーさんは苦しんでいた。
足以外の怪我は見あたらない。
馬がこんな状態だっていうのに、ビリーさんの怪我は足だけだったんだ。
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