ひとめぼれなので、胃袋から掴みます

木嶋うめ香

文字の大きさ
上 下
214 / 248

悪夢からの生還2

しおりを挟む
「あ、あれ?」

 俺、さっき空を飛んでいて魔力切れで落ちなかったっけ?
 今の自分の状況が理解出来なくて、周囲をきょろきょろと見渡してしまう。

「魔力、戻ってる?」

 眠っていれば魔力はそれなりに戻るけれど、それってご飯をちゃんと食べて魔力切れを起こした場合だ。
 さっきの俺は体力もほぼゼロで、魔力は当然ゼロ。そんな時に魔法を何故か使えてしまった状態だった筈?

「分かんない。今はなんなの、これ」

 自分の状況が良く分からない。

 気を失って、目が覚めた。
 ここは多分、狐獣人の里のどこか。

 今分かるのってこれくらいだ。
 どこか見渡せる場所……、と考えたら視界が浮上した。
 つまり俺はまた飛んだ? 浮かんだ状態になった。

 俺にそんな能力は無かった筈なのに、これはなんなのだろう。
 
「長時間は使えない。これ、魔力を消費してる?」

 体力ゼロで、何も食べていない状態なのに何故か僅かに回復している魔力がどんどん消費されているって分かる。
 これが長時間続くのは、多分ヤバい。
 なにせ今の俺は体力がほぼゼロ、魔力だけ僅かにある状態なんだ。
 これって異常だ。
 僅かな魔力で体力を補っている状態、つまりいつでも気絶出来るし死ねちゃうんだ。

「どうしたらいいんだろ」

 持っているマジックバッグは何故か使えなかった。
 マジックバッグの中には大量に回復薬も魔力回復薬も入ってるし、魔物肉を焼いたものもスープも卵料理もパンも大量に入っている。
 マジックバッグの中にある食べ物や薬を取り出せれば、今のところの不安は減るのに何故か中身を取り出せない。
 これって何故なんだろう。
 俺の魔力不足が原因なんだろうか。

「俺のことはどうでもいいや、ニルスさん達を探さなきゃ」

 そう思うだけで視界が動いた。
 あちこちで火柱があがったままの狐獣人の里。
 初めて来た場所なのに、さっき少し見たせいなのかなんだか知らない場所には思えない。
 建っている家が萱葺きの木造のせいなのか、なんだか懐かしい感じすらしてしまう。

「ニルスさん、マリアさん、ゲルトさん」

 不安になって名前を呼ぶ。
 側にいるだけで安心してしまう、俺の保護者。
 
 どうしてなんだろう、ニルスさんやマリアさんといると前世で母さんにすら感じたことがない、世界一安心できる人、そんな感覚になってしまう。
 無条件で安心できる存在。
 二人はそんなポジションなんだ。
 側にいると安心できるし、困ったら頼っていいんだって心の底から信頼できて安心できる存在。
 それがニルスさんとマリアさんだ。
 出会ってから半年も経っていないのに、そう思うのは図々しいのかもしれないけれど、まだ甘えたりは出来ないけれど、精神的には頼り切っている存在なんだ。

「ゲルトさん」

 ゲルトさんは二人とはちょっと違う。
 だって、大好きなんだ。

 ゲルトさんが笑くれる顔が好きだ。
 ゲルトさんって、少し感情表現が乏しいんだけれど、たまに笑ってくれるその顔が大好き。
 俺を抱っこして、耳元に囁いてくれる声が好き。
 囁きながら、笑う顔が大好き。
 ゲルトさんって十七歳なんだけど、年齢より落ち着いてる感じがするし、どれだけ甘えても平気な感じがするのが安心する。
 俺と七歳しか変わらないのに、もっと年上の感じがする。それなのに好きなのは甘い味付けのものだったりするんだ。
 蜂蜜たっぷりかけたパンケーキとか、砂糖の実をたっぷり使って煮た果物を使ったクレープとかゲルトさんは大好きなんだよ。可愛いよね、大事なことだから繰り返すけど滅茶苦茶可愛いよね!!

「ゲルトさんにお菓子沢山作ってあげたいなあ」

 木の実を沢山使ったクッキーとか、果物沢山乗せたタルトとか。
 牛乳から練習で作ったカスタードクリームをたっぷり使ったケーキとか、ワルドさんに作ってもらった蒸し器で作ったふわふわの蒸しパンに、プリンとか。
 前世の俺が食べたことなかったものを、奥さんがくれたレシピ本から見つけて作ったらゲルトさんは嬉しそうに食べてくれて、俺もすっごく嬉しくなった。

 奥さんのレシピ本って凄いんだ。
 普通の料理のレシピが大量に載っているし、お菓子も大量にレシピが載っている。
 クレープ、タルト、蒸しパン、プリン、クッキーの基本は当然載ってたし、食べたことがないものも大量に載っている。
 厚さは辞典? って感じだけど。
 貰った時こんなだったかなあ。家に持って帰ったら、すぐに母さんに破られちゃったから申し訳ないけれど殆ど使えてなかったんだ。
 
 今見てみたら料理やお菓子の基本の物が沢山載っていて、奥さんは俺が独り立ちした時になんでも作れるようにって考えてこの本をくれたんだろうなって分かるものだった。
 それなのに俺は、母さんに本を破られて捨てられてしまって、申し訳なさ過ぎて奥さんにはそれを言えなかったんだ。

「奥さん、ありがとう。今凄く役にたってるよ」

 お礼を言いたいなあ、奥さんにも店長にも。
 今そんな場合じゃないけれど、皆にお礼が言いたいなあ。

「呑気に考えてる場合じゃないな。ニルスさん達を探さなきゃ」

 さっきの怪我はどうなったんだろう。
 ニルスさん達を脅していた人族は?

 のんびりしてる場合じゃないと思い出した俺は、周囲を真剣に見渡したんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

子を成せ

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
ミーシェは兄から告げられた言葉に思わず耳を疑った。 「リストにある全員と子を成すか、二年以内にリーファスの子を産むか選べ」 リストに並ぶ番号は全部で十八もあり、その下には追加される可能性がある名前が続いている。これは孕み腹として生きろという命令を下されたに等しかった。もう一つの話だって、譲歩しているわけではない。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

処理中です...