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それでも、誰かを生かすなら1(グレオ視点)
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「ウヅキ、お願い魔力受け取って」
祈るような気持ちで、俺はウヅキに魔力を流し付けた。
失敗が怖いから、俺が一度に流す魔力はほんの少しだ。
少しずつ、でも途切れないように魔力を流している。
「ワルドさん、俺ワルドさんにもう会えないかもしれません」
俺の魔力は既に全部ウヅキに渡して、今流している魔力は魔道具に充填していた分だ。
魔力切れって、かなり辛いけど俺はもうそれを克服してると思っていた。
すでに魔力切れの先、俺が俺として生きられる魔力の最小限を超えて体力がどんどん魔力に変換されたその後は、魔道具から自分に魔力を補充し、俺はその魔力をウヅキへと譲渡し続けている。
「ウヅキ、お願い。目を覚まして」
俺がウヅキに譲渡した魔力は、俺の魔力量を超えている。それでもウヅキは目を覚まさない。それどころか薄暗い中でも分かるくらい、どんどん顔色が悪くなっていって、俺が両手で口を塞がなくてももう声すらあげなくなってしまった。
「お願いだからウヅキ、目を覚まして」
ウヅキが目を覚ませば、ウヅキが持ってるマジックバッグから回復薬が取り出せるんだ。
せめてそれだけ出来ればウヅキは元気になる筈なんだ。
「もう、魔力が尽きちゃった」
微かに繋がっていたワルドさんの位置、それがもう分からなくなってしまった。
魔道具からの魔力補充も無くなって、俺は自分自身の体力と魔力の限界に気を失いそうになった。
「駄目だこのままじゃ、俺もウヅキも限界が来ちゃうよ」
薄暗い中俺はウヅキを抱きしめている。ウヅキの体温はかなり低くなってきたから、せめて俺の体温で温めようとピッタリと体をくっつけていたけど、なんだか俺の体も冷えてきているみたいで、ウヅキの体温が良く分からなくなってきた。
「馬車は動いてる。一人なのかな、一人だよね」
キューンキューンと鳴いていた声は、馬車が動き出してすぐに聞こえなくなった。
話すことが出来ないくらいの子供だろうから、馬車の振動に怯えてるのかもしれない。
「そっと開ければ平気?」
男がここから外に出てすぐ、扉に鍵をかけて馬車を走らせ始めた。
話し声は一人だけだったから、多分あの人と鳴いていた子供だけなんだろう。
子供は無理矢理連れてこられたんだよね、
ゲルトさんに邪魔されなきゃもう少し連れてこられたって言ってたし。
「ここに隠れていてもこのままじゃ二人共終わり、せめてウヅキだけは守らなきゃ」
俺の鞄に入ってる魔力回復薬は五本、普通の回復薬も五本。
多分全部使ってもウヅキを回復するのは無理だと思うけれど、無いよりはマシだ。
すぐに食べられるパンとか木の実も入ってるから、ウヅキが目を覚ませばそれだって食べさせられる。
「馬車は動いてる、御者台とここを繋ぐ扉は閉じてるから見つかる心配は無いはず」
自信はないけど、やるしかない。
「ウヅキ待っててね、すぐに鞄取ってくるから」
そっとウヅキの体を床に寝かせて、俺はなけなしの魔力で仕掛けを解除する。
隙間から御者台の扉が閉じてるのを確認して、誰もいないのも確認、え? 鳴いてたあの子はどこ?
「袋?」
まさかあの中に?
連れてきたというのは、攫ってきたってことなんだ。
「まさか人族?」
でもおじさんの馬車って言ってた。ニルスさんがおじさんだとするなら男は狐獣人の筈だよね。
「鞄、大丈夫かな」
そっと足音をたてないように出て、鞄を持ってウヅキのところに戻る。
袋にゴメンと謝って、また仕掛けを発動させる。
「ウヅキ、飲んで」
薄暗い中、手探りで鞄から魔力回復薬を取り出してウヅキに飲ませ、少しだけウヅキの左手の指にも魔力回復薬をかける。
これでウヅキの魔道具に魔力が少しは戻った筈、俺のは魔力切れしてるからせめてウヅキの方は回復しておかないと、ゲルトさんとワルドさんが俺達の場所分からなくなっちゃうよ。
「ウヅキ、もう一本」
ウヅキの指に薬をかけた時、僅かに俺の指にも薬がかかったみたい。
ほんの僅かな薬が俺の魔力になって、そのせいで凄く苦しくなってきた。
「回復薬飲んで」
魔力回復薬と普通の回復薬を交互に飲ませていく、どちらも三本飲ませた。
「お腹すいた」
鞄の中に入れていた木の実を一つ口に入れ、ゆっくりと噛む。
お腹がすっごく空いていて、魔力が限界で意識が無くなりそうになってる。
鞄に入ってる食べ物全部むさぼり食べ尽くしてしまいたい、そんな気持ちに頭がいっぱいになって苦しくて仕方ない。
「ウヅキもう一本」
意識が無くてもなんとか薬を飲んでくれてる、もしかしたら飲んでるんじゃなく口に含んだ分から体に吸収されてるのかもしれないけど、それでもウヅキの力になってるならそれで十分だ。
「残り一本」
それぞれ四本ウヅキに飲ませて、残りは一本。
俺でも二本は飲まないと魔力全部回復しないから、ウヅキじゃ全然足りてないかもしれない。
魔力回復薬はウヅキの魔道具にも掛けてるから、余計に足りないだろう。
「ウヅキ、目を覚まして」
最後の一本、これを飲めたら俺だったらかなり楽になる。
魔力が欲しい。
ほんの僅かでも、これが飲めたら。
「駄目だ」
食べたそばからどこかに消えてしまった様に感じる、魔物肉ならともかく、木の実程度じゃ回復出来る魔力はほんの僅かだろうから、仕方ない。
「ウヅキこれ飲んで、目を覚まして」
回復薬が飲みたい、これを飲んだら俺は楽になれるのに。
その思いを断ち切る様に、木の実を数個口に入れゆっくりと噛む。
噛みながら、もっと食べたいもっと食べたいと苦しくなる。
魔力切れに苦しみながらウヅキに薬を飲ませていた俺は、馬車がいつの間にか止まっていたと気付いていなかったんだ。
祈るような気持ちで、俺はウヅキに魔力を流し付けた。
失敗が怖いから、俺が一度に流す魔力はほんの少しだ。
少しずつ、でも途切れないように魔力を流している。
「ワルドさん、俺ワルドさんにもう会えないかもしれません」
俺の魔力は既に全部ウヅキに渡して、今流している魔力は魔道具に充填していた分だ。
魔力切れって、かなり辛いけど俺はもうそれを克服してると思っていた。
すでに魔力切れの先、俺が俺として生きられる魔力の最小限を超えて体力がどんどん魔力に変換されたその後は、魔道具から自分に魔力を補充し、俺はその魔力をウヅキへと譲渡し続けている。
「ウヅキ、お願い。目を覚まして」
俺がウヅキに譲渡した魔力は、俺の魔力量を超えている。それでもウヅキは目を覚まさない。それどころか薄暗い中でも分かるくらい、どんどん顔色が悪くなっていって、俺が両手で口を塞がなくてももう声すらあげなくなってしまった。
「お願いだからウヅキ、目を覚まして」
ウヅキが目を覚ませば、ウヅキが持ってるマジックバッグから回復薬が取り出せるんだ。
せめてそれだけ出来ればウヅキは元気になる筈なんだ。
「もう、魔力が尽きちゃった」
微かに繋がっていたワルドさんの位置、それがもう分からなくなってしまった。
魔道具からの魔力補充も無くなって、俺は自分自身の体力と魔力の限界に気を失いそうになった。
「駄目だこのままじゃ、俺もウヅキも限界が来ちゃうよ」
薄暗い中俺はウヅキを抱きしめている。ウヅキの体温はかなり低くなってきたから、せめて俺の体温で温めようとピッタリと体をくっつけていたけど、なんだか俺の体も冷えてきているみたいで、ウヅキの体温が良く分からなくなってきた。
「馬車は動いてる。一人なのかな、一人だよね」
キューンキューンと鳴いていた声は、馬車が動き出してすぐに聞こえなくなった。
話すことが出来ないくらいの子供だろうから、馬車の振動に怯えてるのかもしれない。
「そっと開ければ平気?」
男がここから外に出てすぐ、扉に鍵をかけて馬車を走らせ始めた。
話し声は一人だけだったから、多分あの人と鳴いていた子供だけなんだろう。
子供は無理矢理連れてこられたんだよね、
ゲルトさんに邪魔されなきゃもう少し連れてこられたって言ってたし。
「ここに隠れていてもこのままじゃ二人共終わり、せめてウヅキだけは守らなきゃ」
俺の鞄に入ってる魔力回復薬は五本、普通の回復薬も五本。
多分全部使ってもウヅキを回復するのは無理だと思うけれど、無いよりはマシだ。
すぐに食べられるパンとか木の実も入ってるから、ウヅキが目を覚ませばそれだって食べさせられる。
「馬車は動いてる、御者台とここを繋ぐ扉は閉じてるから見つかる心配は無いはず」
自信はないけど、やるしかない。
「ウヅキ待っててね、すぐに鞄取ってくるから」
そっとウヅキの体を床に寝かせて、俺はなけなしの魔力で仕掛けを解除する。
隙間から御者台の扉が閉じてるのを確認して、誰もいないのも確認、え? 鳴いてたあの子はどこ?
「袋?」
まさかあの中に?
連れてきたというのは、攫ってきたってことなんだ。
「まさか人族?」
でもおじさんの馬車って言ってた。ニルスさんがおじさんだとするなら男は狐獣人の筈だよね。
「鞄、大丈夫かな」
そっと足音をたてないように出て、鞄を持ってウヅキのところに戻る。
袋にゴメンと謝って、また仕掛けを発動させる。
「ウヅキ、飲んで」
薄暗い中、手探りで鞄から魔力回復薬を取り出してウヅキに飲ませ、少しだけウヅキの左手の指にも魔力回復薬をかける。
これでウヅキの魔道具に魔力が少しは戻った筈、俺のは魔力切れしてるからせめてウヅキの方は回復しておかないと、ゲルトさんとワルドさんが俺達の場所分からなくなっちゃうよ。
「ウヅキ、もう一本」
ウヅキの指に薬をかけた時、僅かに俺の指にも薬がかかったみたい。
ほんの僅かな薬が俺の魔力になって、そのせいで凄く苦しくなってきた。
「回復薬飲んで」
魔力回復薬と普通の回復薬を交互に飲ませていく、どちらも三本飲ませた。
「お腹すいた」
鞄の中に入れていた木の実を一つ口に入れ、ゆっくりと噛む。
お腹がすっごく空いていて、魔力が限界で意識が無くなりそうになってる。
鞄に入ってる食べ物全部むさぼり食べ尽くしてしまいたい、そんな気持ちに頭がいっぱいになって苦しくて仕方ない。
「ウヅキもう一本」
意識が無くてもなんとか薬を飲んでくれてる、もしかしたら飲んでるんじゃなく口に含んだ分から体に吸収されてるのかもしれないけど、それでもウヅキの力になってるならそれで十分だ。
「残り一本」
それぞれ四本ウヅキに飲ませて、残りは一本。
俺でも二本は飲まないと魔力全部回復しないから、ウヅキじゃ全然足りてないかもしれない。
魔力回復薬はウヅキの魔道具にも掛けてるから、余計に足りないだろう。
「ウヅキ、目を覚まして」
最後の一本、これを飲めたら俺だったらかなり楽になる。
魔力が欲しい。
ほんの僅かでも、これが飲めたら。
「駄目だ」
食べたそばからどこかに消えてしまった様に感じる、魔物肉ならともかく、木の実程度じゃ回復出来る魔力はほんの僅かだろうから、仕方ない。
「ウヅキこれ飲んで、目を覚まして」
回復薬が飲みたい、これを飲んだら俺は楽になれるのに。
その思いを断ち切る様に、木の実を数個口に入れゆっくりと噛む。
噛みながら、もっと食べたいもっと食べたいと苦しくなる。
魔力切れに苦しみながらウヅキに薬を飲ませていた俺は、馬車がいつの間にか止まっていたと気付いていなかったんだ。
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