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違う景色と冷ややかな視線4(ワルド視点)
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「全部あげる。俺の何もかも捧げるから。守って」
ウヅキのその声が辺りに響いて、俺は無意識に側にいたグレオの体を引き寄せていた。
生まれて初めて足を踏み入れる狐獣人の里は、俺が今まで体感していたどの場所とも違っていて、だからこそ俺は警戒していたんだ。
「ニルスさん、マリアさん、俺はね二人に死んでほしくないんです」
ウヅキが二人に、ニルス会頭とマリアさんに何かをしたのは確かで、でもそれが何なのか俺には分からなかった。
「ウヅキ君? 駄目じゃそんなことをしたら」
焦った様なニルス会頭の声がするけれど、俺は何も出来ずにグレオの体を抱きしめるだけだった。
ウヅキの体が倒れていく、ゲルトはその体を抱きしめながらニルス会頭の顔を見つめる。
なんだろうこれは、俺は何も出来ずにそれぞれの姿を見ているだけだった。
「ゲルト君、私達は行かなければならないんじゃよ」
「分かっています。ウヅが何を願って何をしたのか分かりませんが、ニルスさん達にはニルスさん達なりにやらなければならないことがあるんでしょう」
「ウヅキ君を頼むよ。私達は戻って来られないかもしれないが、ずっとずっとこの子を守っておくれ」
「ニルスさん、戻って来られないなんて」
「ウヅキ君は小さな祠が燃えていると言っていた、ウヅキ君は里に小さな祠も白い狐も、そんなものがあると知らない筈じゃから未来を見たんじゃよ」
ゲルトが珍しく動揺している様に見える。
ゲルトの腕の中にはぐったりとしたウヅキ、魔力切れなんてもうウヅキは慣れているからあんな風にはもうならない筈だ。
「ワルドさん、ウヅキもしかして体力まで切れかけてるんじゃ」
抱き寄せていたグレオの言葉にギョッとして俺はマジックバッグの中に放り込んでいた回復薬と魔力回復薬を取り出した。
「ゲルト、ウヅキにこれを飲ませろ。まず回復薬、次に魔力回復薬だ」
難しい顔をして話をしている三人に割り込んで、封を開けた回復薬をゲルトに渡す。
「回復薬?」
「勘違いなら良いが、ウヅキは魔力切れだけじゃないんじゃないか」
魔力切れをすると体も弱る、幼い子供はだから魔力切れをさせないようにするのが獣人の当たり前だった。
エルフの魔力量の増やし方がまさにこれで、だからこそ魔力切れした時の体の状態をルルは詳しく知っていたんだ。
「魔力切れだけじゃない?」
「あの、魔力切れを自分で起こす時はお腹空いてる時も疲れてる時も駄目だって」
「どういうことだ」
「魔力切れすると体力が減った魔力を補おうとするんだよ。食っても寝ても魔力は回復するが、体力ありきなんだよ。とにかくそれを飲ませろ」
「分かった」
さっき確かにウヅキはすべを捧げると言っていた。
それは魔力も体力も両方って意味だったのかもしれねえ。
「ゲルト君、ウヅキ君を頼むよ」
「頼まれます、でも諦めないでください。何があってもウヅキのところに戻って来る。そういう誓って下さい」
「ゲルト君、でもね」
「二人はウヅキの養い親になったんです。ウヅキは親に捨てられてその傷が癒えていないというのに、自分を置いて二人が戻らなかったら、どれだけ悲しむと思っているんですか」
ニルス会頭の足にしがみ付き、ウヅキは引き留めようと必死だった。
ウヅキは思い込みで馬鹿はやるが、我儘をいう奴じゃねえ。
ニルス会頭が何のためにここから離れようとしているかなんて嫌って言う程理解していて、それでも引き留めたんだ。
ウヅキが見た未来がそれだけ酷かったってことなんだろう。
「そうじゃの、分かったよ。ゲルト君。私は里の守りじゃから祠を守る為に死力を尽くすのが役目、じゃが必ず帰ってくるよ。可愛い子を悲しませる親にはなりたくないからの」
「ええ、約束するわ。必ず帰ってくるから。どうか私達の子を守っていてね」
ゲルトがウヅキに回復薬を飲ませているのを見届けた後、二人はそういうと姿を変えて崖を一気に駆け下りた。
「白い狐。おい、あのしっぽ」
二体の狐にはそれぞれ九本のしっぽが生えていた。
ニルス会頭の商会の名の通り、九尾の狐だ。あれは狐獣人の伝説じゃなかったのか。
「狐獣人は長命種だ。狐獣人の寿命を超えて生きるとしっぽが増えて獣化出来る様になる。狐獣人の秘密だがな」
「じゃあ、さっきウヅキが言ってた白い狐ってのは」
しっぽを切られた白い狐、それはニルス会頭達の事だったのか。
「ウヅキは獣化を知ってたのか」
「知らないだろう。俺はここに住んでいたことがあるから知っているだけだ」
「ここに?」
「ああ、十年前一時的に住んでいた」
十年前と聞いてそれ以上聞くのは止めた。
止めた代わりに魔力回復薬の壺の封を開けゲルトに手渡したんだ。
ウヅキのその声が辺りに響いて、俺は無意識に側にいたグレオの体を引き寄せていた。
生まれて初めて足を踏み入れる狐獣人の里は、俺が今まで体感していたどの場所とも違っていて、だからこそ俺は警戒していたんだ。
「ニルスさん、マリアさん、俺はね二人に死んでほしくないんです」
ウヅキが二人に、ニルス会頭とマリアさんに何かをしたのは確かで、でもそれが何なのか俺には分からなかった。
「ウヅキ君? 駄目じゃそんなことをしたら」
焦った様なニルス会頭の声がするけれど、俺は何も出来ずにグレオの体を抱きしめるだけだった。
ウヅキの体が倒れていく、ゲルトはその体を抱きしめながらニルス会頭の顔を見つめる。
なんだろうこれは、俺は何も出来ずにそれぞれの姿を見ているだけだった。
「ゲルト君、私達は行かなければならないんじゃよ」
「分かっています。ウヅが何を願って何をしたのか分かりませんが、ニルスさん達にはニルスさん達なりにやらなければならないことがあるんでしょう」
「ウヅキ君を頼むよ。私達は戻って来られないかもしれないが、ずっとずっとこの子を守っておくれ」
「ニルスさん、戻って来られないなんて」
「ウヅキ君は小さな祠が燃えていると言っていた、ウヅキ君は里に小さな祠も白い狐も、そんなものがあると知らない筈じゃから未来を見たんじゃよ」
ゲルトが珍しく動揺している様に見える。
ゲルトの腕の中にはぐったりとしたウヅキ、魔力切れなんてもうウヅキは慣れているからあんな風にはもうならない筈だ。
「ワルドさん、ウヅキもしかして体力まで切れかけてるんじゃ」
抱き寄せていたグレオの言葉にギョッとして俺はマジックバッグの中に放り込んでいた回復薬と魔力回復薬を取り出した。
「ゲルト、ウヅキにこれを飲ませろ。まず回復薬、次に魔力回復薬だ」
難しい顔をして話をしている三人に割り込んで、封を開けた回復薬をゲルトに渡す。
「回復薬?」
「勘違いなら良いが、ウヅキは魔力切れだけじゃないんじゃないか」
魔力切れをすると体も弱る、幼い子供はだから魔力切れをさせないようにするのが獣人の当たり前だった。
エルフの魔力量の増やし方がまさにこれで、だからこそ魔力切れした時の体の状態をルルは詳しく知っていたんだ。
「魔力切れだけじゃない?」
「あの、魔力切れを自分で起こす時はお腹空いてる時も疲れてる時も駄目だって」
「どういうことだ」
「魔力切れすると体力が減った魔力を補おうとするんだよ。食っても寝ても魔力は回復するが、体力ありきなんだよ。とにかくそれを飲ませろ」
「分かった」
さっき確かにウヅキはすべを捧げると言っていた。
それは魔力も体力も両方って意味だったのかもしれねえ。
「ゲルト君、ウヅキ君を頼むよ」
「頼まれます、でも諦めないでください。何があってもウヅキのところに戻って来る。そういう誓って下さい」
「ゲルト君、でもね」
「二人はウヅキの養い親になったんです。ウヅキは親に捨てられてその傷が癒えていないというのに、自分を置いて二人が戻らなかったら、どれだけ悲しむと思っているんですか」
ニルス会頭の足にしがみ付き、ウヅキは引き留めようと必死だった。
ウヅキは思い込みで馬鹿はやるが、我儘をいう奴じゃねえ。
ニルス会頭が何のためにここから離れようとしているかなんて嫌って言う程理解していて、それでも引き留めたんだ。
ウヅキが見た未来がそれだけ酷かったってことなんだろう。
「そうじゃの、分かったよ。ゲルト君。私は里の守りじゃから祠を守る為に死力を尽くすのが役目、じゃが必ず帰ってくるよ。可愛い子を悲しませる親にはなりたくないからの」
「ええ、約束するわ。必ず帰ってくるから。どうか私達の子を守っていてね」
ゲルトがウヅキに回復薬を飲ませているのを見届けた後、二人はそういうと姿を変えて崖を一気に駆け下りた。
「白い狐。おい、あのしっぽ」
二体の狐にはそれぞれ九本のしっぽが生えていた。
ニルス会頭の商会の名の通り、九尾の狐だ。あれは狐獣人の伝説じゃなかったのか。
「狐獣人は長命種だ。狐獣人の寿命を超えて生きるとしっぽが増えて獣化出来る様になる。狐獣人の秘密だがな」
「じゃあ、さっきウヅキが言ってた白い狐ってのは」
しっぽを切られた白い狐、それはニルス会頭達の事だったのか。
「ウヅキは獣化を知ってたのか」
「知らないだろう。俺はここに住んでいたことがあるから知っているだけだ」
「ここに?」
「ああ、十年前一時的に住んでいた」
十年前と聞いてそれ以上聞くのは止めた。
止めた代わりに魔力回復薬の壺の封を開けゲルトに手渡したんだ。
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