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違う景色と冷ややかな視線3
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どうすればいい、どうしたらいい。
ニルスさんは狐獣人の里の人として話をしているって、俺だって分かる。
元がただの人間で、この世界に来て半年に満たない狼獣人としての俺には理解出来かねることだけど、ニルスさんは狐獣人として今話をしている。
「ニルスさん」
俺は後悔する? これから先、そうなる?
不安なんだ、ニルスさんとマリアさんだけが里の為に俺から離れるのが。
「ニルスさん」
行かないで、行ったら駄目だよ。だって危ない。
これが俺の思いなだけなのか、第六感からの感情なのか分からないけれどニルスさんが単独行動するという、それに俺の感情が悲鳴を上げているんだ。
「行かないで、お願いです行かないで」
行かせたら駄目だ。
二人だけで行く、その未来が駄目だと俺の何かが言っているんだ。
「ウヅキ君、大丈夫よ。様子を見に行くだけよ」
「マリアさん、駄目です。行かないで」
ゲルトさんの腕からピョンと飛び降りて、ニルスさんの足にしがみ付く。
行ったら駄目だ、俺の心の中に占めているのはその感情で俺は必死に引き止める。
「お願いします。行かないで」
ぎゅうぎゅうと俺の短い腕をニルスさんの足に伸ばせて、絶対行かせないという思いのまま力を籠める。
「ウヅキ君、大丈夫じゃよ。様子を見てくるだけなんじゃよ」
優しいニルスさんは、俺の我儘にしか見えない行動を否定することなく俺の頭を撫でてくれる。
駄目なんだ、絶対に行かせたら駄目なんだ。
俺は、俺の心の中が止める気持ちを行動するんだ。
「お願いです。ニルスさん行かないで、お願いです」
第六感が見せる感情なんだろうか、今手を離したら二度とニルスさんとマリアさんに会えない気がするんだ。
「ウヅキ君」
「行かないで、お願いです」
大神様、心の中で祈った。
大神様、ニルスさんとマリアさんの未来は、何かが起きるの? 起きるとしたらどうやったら回避できる?
ニルスさんの足にしがみ付きながら、大神様に祈る。
この地はニルスさんの能力を上げる何かがあるみたいだ。
この里の何かは大神様に縁があるものなのか分からないけれど、もしもそうならどうか俺に力を貸して欲しい。
ニルスさんとマリアさん、二人を守る為の未来を見せて。お願いだから見せて。
「ウヅキ君」
必死に祈っている内に、大量に魔力が抜ける感覚があった。
「あ」
白い狐が二体、小さな祠が燃えて、狐のしっぽが、切られたしっぽが何本も地面に散らばる。
刃物を持っているのは狐獣人、そんな。
危ないのはグレオ君だけじゃなかったの、俺達が気にしなきゃいけないのはグレオ君だけじゃなかったの?
「ニルスさん、白い狐が、何本ものしっぽを切られた狐が」
涙が零れ落ちる。
白い狐はしっぽを切られて地面に倒れている。
息をしていない、力も何もかも失って地面に体を横たえているんだ。
「小さな祠が燃えているんです。白い狐の沢山のしっぽが切られて、切ったのは狐獣人」
足りなかったから切られた。
何故か頭に浮かぶ。
足りなかったから、力が及ばずに切られた。
足りないなら、足せばいい。
ニルスさんとマリアさん、俺を無条件に愛して大切にしてくれた二人。
怪しい以外の何者でもない俺を愛してくれた二人は、俺にとって本当の親よりも大切な人達なんだ。
「白い狐、ウヅキ君」
「足りなかったから切られたんです、足りなくて力が及ばずに」
足りないのは、なに?
足りないなら、足せばいい。俺が出来るなら俺は躊躇なんかしない。
「俺の力、こんなの足りるか分からないけれど」
助けたい、失いたくない。
大神様、俺の大切な人を守りたいんだ。
「全部あげる。俺の何もかも捧げるから。守って」
失いたくない。傷ついて欲しくなんかない。
俺が守れるなら、俺の力で少しでも守れるのなら俺は何度でも俺のすべてを差し出すよ。
「ウヅキ君? 駄目じゃそんなことをしたら」
慌てているニルスさんの声が、何故か遠くに聞こえる。
俺の魔力も体力も、大量に俺の体から出ていくのが分かる。
どうか大神様、どうかどうか大神様。
俺の力を使って下さい。何もかも使って二人を俺の大切な人を守って。
体から抜けていく魔力、消えていく体力。
魔力切れになっていると感じた俺は、薄れゆく意識の片隅で俺を心配するニルスさんとマリアさんの顔を見ていたのだった。
ニルスさんは狐獣人の里の人として話をしているって、俺だって分かる。
元がただの人間で、この世界に来て半年に満たない狼獣人としての俺には理解出来かねることだけど、ニルスさんは狐獣人として今話をしている。
「ニルスさん」
俺は後悔する? これから先、そうなる?
不安なんだ、ニルスさんとマリアさんだけが里の為に俺から離れるのが。
「ニルスさん」
行かないで、行ったら駄目だよ。だって危ない。
これが俺の思いなだけなのか、第六感からの感情なのか分からないけれどニルスさんが単独行動するという、それに俺の感情が悲鳴を上げているんだ。
「行かないで、お願いです行かないで」
行かせたら駄目だ。
二人だけで行く、その未来が駄目だと俺の何かが言っているんだ。
「ウヅキ君、大丈夫よ。様子を見に行くだけよ」
「マリアさん、駄目です。行かないで」
ゲルトさんの腕からピョンと飛び降りて、ニルスさんの足にしがみ付く。
行ったら駄目だ、俺の心の中に占めているのはその感情で俺は必死に引き止める。
「お願いします。行かないで」
ぎゅうぎゅうと俺の短い腕をニルスさんの足に伸ばせて、絶対行かせないという思いのまま力を籠める。
「ウヅキ君、大丈夫じゃよ。様子を見てくるだけなんじゃよ」
優しいニルスさんは、俺の我儘にしか見えない行動を否定することなく俺の頭を撫でてくれる。
駄目なんだ、絶対に行かせたら駄目なんだ。
俺は、俺の心の中が止める気持ちを行動するんだ。
「お願いです。ニルスさん行かないで、お願いです」
第六感が見せる感情なんだろうか、今手を離したら二度とニルスさんとマリアさんに会えない気がするんだ。
「ウヅキ君」
「行かないで、お願いです」
大神様、心の中で祈った。
大神様、ニルスさんとマリアさんの未来は、何かが起きるの? 起きるとしたらどうやったら回避できる?
ニルスさんの足にしがみ付きながら、大神様に祈る。
この地はニルスさんの能力を上げる何かがあるみたいだ。
この里の何かは大神様に縁があるものなのか分からないけれど、もしもそうならどうか俺に力を貸して欲しい。
ニルスさんとマリアさん、二人を守る為の未来を見せて。お願いだから見せて。
「ウヅキ君」
必死に祈っている内に、大量に魔力が抜ける感覚があった。
「あ」
白い狐が二体、小さな祠が燃えて、狐のしっぽが、切られたしっぽが何本も地面に散らばる。
刃物を持っているのは狐獣人、そんな。
危ないのはグレオ君だけじゃなかったの、俺達が気にしなきゃいけないのはグレオ君だけじゃなかったの?
「ニルスさん、白い狐が、何本ものしっぽを切られた狐が」
涙が零れ落ちる。
白い狐はしっぽを切られて地面に倒れている。
息をしていない、力も何もかも失って地面に体を横たえているんだ。
「小さな祠が燃えているんです。白い狐の沢山のしっぽが切られて、切ったのは狐獣人」
足りなかったから切られた。
何故か頭に浮かぶ。
足りなかったから、力が及ばずに切られた。
足りないなら、足せばいい。
ニルスさんとマリアさん、俺を無条件に愛して大切にしてくれた二人。
怪しい以外の何者でもない俺を愛してくれた二人は、俺にとって本当の親よりも大切な人達なんだ。
「白い狐、ウヅキ君」
「足りなかったから切られたんです、足りなくて力が及ばずに」
足りないのは、なに?
足りないなら、足せばいい。俺が出来るなら俺は躊躇なんかしない。
「俺の力、こんなの足りるか分からないけれど」
助けたい、失いたくない。
大神様、俺の大切な人を守りたいんだ。
「全部あげる。俺の何もかも捧げるから。守って」
失いたくない。傷ついて欲しくなんかない。
俺が守れるなら、俺の力で少しでも守れるのなら俺は何度でも俺のすべてを差し出すよ。
「ウヅキ君? 駄目じゃそんなことをしたら」
慌てているニルスさんの声が、何故か遠くに聞こえる。
俺の魔力も体力も、大量に俺の体から出ていくのが分かる。
どうか大神様、どうかどうか大神様。
俺の力を使って下さい。何もかも使って二人を俺の大切な人を守って。
体から抜けていく魔力、消えていく体力。
魔力切れになっていると感じた俺は、薄れゆく意識の片隅で俺を心配するニルスさんとマリアさんの顔を見ていたのだった。
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