ひとめぼれなので、胃袋から掴みます

木嶋うめ香

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違う景色と冷ややかな視線1

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「凄い、ここ山ですか? 崖?」

 馬車から出ると、眼下に広がる景色に唖然とした。
 さっきまでは森の入り口付近にいたんだよ、俺達はそこで一晩過ごしてさっきニルスさんがこの場所に連れて来てくれたんだ。
 それは勿論頭では分かっているつもりだけど、一瞬で景色が変わると驚くよね。

「ここは里を守る山の中腹じゃよ。ほら、下に小さく家があるのが見えるじゃろ。あれが里じゃ」

 ニルスさんに言われて俺達は辺りを見渡す。
 見上げると山なんだか崖なんだかよく分からない、岩肌ばかりが目立つところで上の方には木は一本もない。
 馬車が到着した場所は、岩盤を削って作った様な場所で横穴というか軽自動車二台分位のスペースの岩の屋根がある場所に神社みたいな祠? 何ていうんだろ社務所? みたいな物が建っている。
 木造の建物で屋根は瓦じゃなく木でも無いんだけど、茅葺屋根ってこういうを言うのかな。

 ちなみにグリームや他の町や村の一般的な家屋は屋根まで全部木造だ。お金がある家は魔物の皮を屋根の部分に貼っているそうだ。そうすると雨雪が続いても屋根板が痛みにくくなるらしい。

「どうしたウヅ」
「変わった屋根だなあって」

 屋根の造りを気にして見上げていると、ゲルトさんが声を掛けてくれた。
 グレオ君とワルドさんは馬車の側から動かずに二人で何か話をしているから、今は近づかない方がいいのかな。

「変わった屋根、ああ」

 ゲルトさんは気にした様子もなく俺の疑問に頷くだけだ。もしかしてゲルトさんは里に来たことがあるのかな。

「変わってませんか? ほら、向こうの家も同じ造りですよね」

 ここから遥か下に見える里の住民が暮らしていると思われる家を指さす、目の前に建ってる建物と似たような屋根に見えるんだ。
 今気が付いたけれど、俺の視力ってかなり良いのかもしれない。
 あんなに離れた場所に立っている家の屋根がどんなか分かるんだから、かなり良いんじゃないだろうか。

「ああ、これはのぉこの辺りで収穫できる魔木の葉で作っているんじゃよ。これで屋根を作るとの、室内の暑さ寒さを和らげるんじゃ」
「へえぇ、凄いんですね」
「魔木は魔物の一種なんじゃが狐獣人でも狩れる程弱いし、木はすぐに大きく育ち実は薬にもなるんじゃよ」
「それは便利ですね」

 ニルスさんの説明を頷きながら聞く。
 料理するにも暖を取るにも薪は必要だから、そういう意味でも魔木は使えるんだろうな。

「この建物は」
「守りの祠じゃよ、里と他の地を繋ぐ場所でもあるんじゃよ」

 守りの祠、ここからじゃないと他の場所に行けないってことなのか。
 それとも他に守るものがあるのかな。

「馬車はここに置いておくのよ。ルルちゃんの魔法陣を設置して、里に着いたと連絡しないとね。それを確認したらルルちゃんが迎えに来てくれるわ」
「狐獣人の里には狐獣人と一緒じゃないと入れないんじゃないんですか」
「そうなの、だからルルちゃんはこの魔法陣から外には出られないのよ」

 マリアさんの説明に、魔法陣の中にポツリと立つルル先生の姿が思い浮かんでしまう。
 なんか、合理的なのかなんなのか分からないよね、だってそれじゃルル先生が来たって気が付かなかったらどうなるの?

「ルル先生が来ても誰かここにいないと分からないんじゃないですか」
「それは大丈夫じゃよ、結界が反応すればすぐ分かるからの」

 それってどういうシステムなんだろ。
 というよりも、領主様にギルドマスター、ルル先生にニルスさん達まで総動員しているなんて、どれだけ大事になっているんだろう。
 俺達、どれだけの人に迷惑掛けちゃっているんだろう。

「この里にはね、この人が結界を張っているの。だからわかるのよ」

 だから分かるって、ニルスさん普段はこの里にいないよね。
 結界ってそんなに長い間張っていられるものなんだろうか。

「ふふ、詳しくは里の秘密だから話せないけれど、だから安心していていいわ」

 マリアさんが俺の頭を撫でながら説明してくれるから、俺は無意識に抱きしめていた自分のしっぽを離した。
 なんか不安になるとしっぽを抱きしめる癖がついちゃってるみたいなんだよね。
 これ、気を付けないといけないよね。
 自分が不安ですってアピールしているみたいじゃないか。

「ルル先生が来たって気が付かなかったらどうしようって思ったんですけど、そうじゃないなら安心しました」

 しっぽから手を離し、笑顔でマリアさんに言うと笑ってくれた。
 俺、大丈夫だよ。
 大丈夫じゃないけど、大丈夫だよ。
 そう思ってくれたらいいな。これ以上迷惑も心配も掛けたくないから。

 俺の思いは通じていたんだろうか。
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