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見えない振りの旅2

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「分りました。じゃあ夜とか寒くなったら言って下さいね」

 言いながらマジックバッグから鍋を出し、人参と芋の皮を剥いてそれぞれ乱切りにすると焚火の近くに石を組んで作ってある竈の上に載せる。
 牛乳、牛の乳と皆が言うので普段はそう言うけどやっぱり俺には牛乳の方がしっくりくる。
 沢山スープやシチュー等を作り、沢山の鍋に分けてマジックバッグに保存してはあるけれど、余裕があるなら作れた方がいいでしょうと、ロッタさんが牛乳を沢山マジックバッグに入れてくれた。
 俺が牛乳好きなのを知っているからだ、後コケッコの卵とお肉。これはゲルトさんの好物だ。
 マジックバッグに沢山入っている食材は、ロッタさんが準備していてくれたんだ。

「お芋と人参のスープにコケッコの肉を入れたもの作りますけど、卵焼きとホットケーキどちらがいいですか」

 俺の鉄鍋で一口大に切ったコケッコの肉を軽く焼いておく。これは鍋に入れた水が沸騰してから加えるから一旦マジックバッグに入れておく。

「それは悩むな」
「ふふ、両方は駄目ですよ。時間もあるしパンケーキにしましょうか」

 ニルスさんから出発するのは日が出てから一刻程経ってからと聞いているから、時間に余裕がある。
 だからスープの野菜は大きめに切った。
 煮えるまで時間が掛かっても大丈夫だからね。

「いいのか?」
「はい、焼く時間が必要なだけで、手間はそんなに掛かりませんから」

 ゲルトさん、実はパンケーキがかなり好きなんだよね。
 メレンゲ作ってフワフワにしたのも、普通のも好きで蜂蜜とバターをつけて沢山食べるんだ。
 うーん、でもスープには合わないかな。
 あ、そうだ。

「パン?」
「これは試しに作ってみようかなって」

 バットがないので、浅型で大きな鍋を代用して、卵と砂糖と牛乳で液を作る。
 パンを厚めに切って、液に漬け込んで下準備完了。

「試し?」
「はい、まずはパンケーキ焼いちゃいますね」

 ちゃちゃっと小麦粉と卵と牛乳を混ぜてふくらし粉もちょっと入れてまた混ぜる。
 バターを溶かした鉄鍋はいい温度になっているから、じゅわっと生地を入れて焼いていく。
 本島は一旦濡れ布巾に鉄鍋の底をのせて、って奴をやりたいんだけど。野外でそこまで丁寧には焼いてられないので、妥協しちゃう。

 竈に鉄鍋三つ並べて、それぞれ様子を見ながら焼くのは結構大変だ。

「そうだ、ゲルトさん試してみて欲しいんですが」
「試し、何をすればいい」
「魔道具、まだ使ってないですよね、浄化とか使えるか試して貰ってもいいですか? ゲルトさん指輪の効果って頭に浮かびますか?」
「あぁ、指輪を着けた時に理解した」
「じゃあ、これを浄化したいって思いながら触れて下さい」

 ちょっとだけお椀にパンケーキの生地を付けてから、ゲルトさんに手渡す。

「んー? これでいいのか」
「浄化出来ましたね。魔力減った感覚ないですか」
「ああ、無い。他の効果も同じような使い方をすればいいんだな」
「はい。魔力は魔道具を使えば減っていきますが、俺が充填出来ますから。後は魔石でもいいみたいですけど、おれにやらせて下さいね」
「頼んでいいのか」
「勿論です」

 頼まれなくても毎晩やろうと思ってるけどね。

「ありがとう」
「……俺の方こそありがとうございます」
「ん?」
「指輪、ゲルトさんのいるところが意識しなくても何となく分かって、それでなんだか安心出来るんです。ゲルトさんが指輪を着けてくれているから」

 俺は安心出来るけど、ゲルトさんも同じ様に俺の居場所を感じるってことだ。
 それってどうなんだろ。

「あぁ、そういえば分かるな。不思議な感じだ。ウヅの姿が見えなくても分かる」
「必要じゃ無い時は、そう念じると効果が止まると思いますから」
「止める必要あるのか?」
「無い、ですか?」

 俺はゲルトさんの存在というか繋がりが感じられるのは幸せなんだけど、ゲルトさんはそうじゃないよね。

「無いな」

 俺とは違う意味なんだろうけど、喜んじゃう俺を誰か止めて。
 ゲルトさん、俺を喜ばす天才すぎるよ。

 俺は必死にしっぽが動かないように頑張りながら、パンケーキを焼き続けたのだった。
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