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ウヅキとゲルト3(ワルド視点)
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「ワルドさん、ここにいてもいいですか」
馬車に行った筈のグレオは、すぐに戻ってきちまった。
ビリーの一件である程度のウヅキの事情を知っていた俺でも衝撃だったんだから、無理はねえがグレオを諭して馬車に向かわせても無理だったってわけだ。
「いいぜ、こい」
側に近付いてきたグレオの腕を引くと、俺の前に座らせる。
背中から抱くようにして、グレオの右肩に顎をのせ話し始めた。
見えた顔は泣きそうだった。
そういえばグレオもまだ十三歳、立派な子供だ。
家族仲がいい家で育ったグレオには、驚き以上の話だったんだろう。
「ゲルトの話の通りだったか」
「それ以上でした、俺怖くて、逃げてきちゃった。友達なのに俺、ウヅキがどんな風に生きてきたのか考えるのすら怖くて」
「そうか」
まあ、親が子供を害するなんて簡単に想像出来る方がヤバいだろうな。
基本的に獣人は子を溺愛するのが常だ。
「ウヅキ、痛いって、ごめんなさいっ母さんって」
「うん」
「小さく体丸めて、頭を庇って、ごめんなさい良い子になるから、打たないでって」
「そうか」
そういえば、治療の時もウヅキは体を小さく丸めていたんだったな。
「ゲルトは?」
「大丈夫、誰もお前を傷付けない、嫌わないから安心しろって」
「成程、そうか」
一緒に寝てる感じだったのはそういうわけなんだな。
それにしても毎晩そんなんじゃ、ゲルトもまともに眠れてねえんじゃないのか?
「寝にくいだろうが、このまま寝ろ」
野営用に厚手の皮のマントを着けていたから、両端を合わせてグレオを包む。
「いいんですか?」
「ニルスさんの魔法と魔物よけの香を使ってるから、魔物の心配は殆どねえ。気にしないでねろ」
ウヅキが寝る前に、焚火の火で温めた石を布に包んで渡してくれたから、腹の前にその石を入れてあるんだ。
夜はだいぶ冷えるようになったから、ワルドさんは冷やさない方がいいでしょうとかいいながら、体を温める効果があるという薬草茶まで用意してくれた。それはグレオも飲んでいる。
とりあえず寒くなくグレオも眠れる筈だ。
蛇獣人の俺は外気が冷えると、それに合わせて体温が下り動きが鈍くなる。
だがそれは不利になる情報だから、絶対に誰にも話さない。それが蛇獣人の掟の様なものだし一般的には広まっていない筈だというのに、ウヅキは当たり前の様な顔で俺に体を温める様行ったのだ。
ウヅキの知識は謎が多い。
変な事に詳しいくせに、当たり前のことを知らなかったりするんだから。偏りすぎだ。
「ワルドさん、俺ウヅキに何が出来るでしょう」
「なんでも出来る。お前はウヅキの友達だろ」
「はい、でもしてもらうばかりで俺なにも返せてません」
「そんなの、皆そうだ」
ウヅキのお陰で俺は木工の仕事が増えた。
冒険者としての仕事は楽しかったが、俺は木工の仕事が好きだった。なのに、余所者を受け入れ難い土地柄のグリームの町では元々住んでる奴らに仕事を取られてばかりだった。
冒険者は余所者の集まりだからなんとかなったが、木工の仕事は殆ど諦めていたんだ。
ニルス会頭から子供用椅子を注文され、望まれるままに調理器具を作るようになり、泊まりでの依頼以外の日は夜木工の仕事をやらなきゃ間に合わない位になった。
木工の腕は自信があったが、きっかけはウヅキだった。
仕事が終ったら酒ばかり飲んでいた俺は、いつの間にかグレオが家に通うようになりきちんとした飯を食うようになった。
生活に張りが出て、体調が良くなって魔力切れを起こして魔力を増やすようになって、魔法もどんどん覚えていった。
魔法なんて、魔力なんてもうこれ以上上にいけないと思ってたのに、そんな俺を笑うかの様にウヅキは上を目指してたんだ。
「あいつはやらかしてばかりだが、それは大抵誰かの為に張り切り過ぎた時だ。あいつは自分の利益なんて考えちゃいねえ」
「はい。だから魔力切れしかかってたのに、俺の薬草に回復魔法掛けたり、俺を逃したり」
「ウヅキはさ、馬鹿なんだよ。自分がどれだけ皆に愛されてんのか気がついてねえんだから」
グレオが俺の近くにいるようになって、一緒に飯食って俺の前で笑ったり泣いたりしてる顔見るようになって、可愛いなと思うようになった。
ゲルトがウヅキを当たり前の様に抱き上げて歩く気持ちも、何か分かる気もする。
「ウヅキは大事な友達です。ウヅキがなんであんなに心配してるのか分かりませんが、嫌いになったりしません」
「なら今まで通りでいろ。ゲルトやニルスさん達に言えねえことも、友達のお前になら話せることもある。頼れる兄ちゃんで友達でいろ」
「……はい。ありがとうございますワルドさん。俺ウヅキが困った時に安心して頼って貰える様になります」
やっと落ち着いたのか、グレオは肩にのせたままの俺の頬に頭を寄せてきた。
「ワルドさん、おやすみなさい」
「あぁ、しっかり寝ろよ。寒くねえか」
冷え込んで来たなといいながらグレオの体を抱き込む。
温かいのはグレオの体温なのか、ウヅキが用意した石のお陰なのか。
分からないまま、夜はふけていった。
馬車に行った筈のグレオは、すぐに戻ってきちまった。
ビリーの一件である程度のウヅキの事情を知っていた俺でも衝撃だったんだから、無理はねえがグレオを諭して馬車に向かわせても無理だったってわけだ。
「いいぜ、こい」
側に近付いてきたグレオの腕を引くと、俺の前に座らせる。
背中から抱くようにして、グレオの右肩に顎をのせ話し始めた。
見えた顔は泣きそうだった。
そういえばグレオもまだ十三歳、立派な子供だ。
家族仲がいい家で育ったグレオには、驚き以上の話だったんだろう。
「ゲルトの話の通りだったか」
「それ以上でした、俺怖くて、逃げてきちゃった。友達なのに俺、ウヅキがどんな風に生きてきたのか考えるのすら怖くて」
「そうか」
まあ、親が子供を害するなんて簡単に想像出来る方がヤバいだろうな。
基本的に獣人は子を溺愛するのが常だ。
「ウヅキ、痛いって、ごめんなさいっ母さんって」
「うん」
「小さく体丸めて、頭を庇って、ごめんなさい良い子になるから、打たないでって」
「そうか」
そういえば、治療の時もウヅキは体を小さく丸めていたんだったな。
「ゲルトは?」
「大丈夫、誰もお前を傷付けない、嫌わないから安心しろって」
「成程、そうか」
一緒に寝てる感じだったのはそういうわけなんだな。
それにしても毎晩そんなんじゃ、ゲルトもまともに眠れてねえんじゃないのか?
「寝にくいだろうが、このまま寝ろ」
野営用に厚手の皮のマントを着けていたから、両端を合わせてグレオを包む。
「いいんですか?」
「ニルスさんの魔法と魔物よけの香を使ってるから、魔物の心配は殆どねえ。気にしないでねろ」
ウヅキが寝る前に、焚火の火で温めた石を布に包んで渡してくれたから、腹の前にその石を入れてあるんだ。
夜はだいぶ冷えるようになったから、ワルドさんは冷やさない方がいいでしょうとかいいながら、体を温める効果があるという薬草茶まで用意してくれた。それはグレオも飲んでいる。
とりあえず寒くなくグレオも眠れる筈だ。
蛇獣人の俺は外気が冷えると、それに合わせて体温が下り動きが鈍くなる。
だがそれは不利になる情報だから、絶対に誰にも話さない。それが蛇獣人の掟の様なものだし一般的には広まっていない筈だというのに、ウヅキは当たり前の様な顔で俺に体を温める様行ったのだ。
ウヅキの知識は謎が多い。
変な事に詳しいくせに、当たり前のことを知らなかったりするんだから。偏りすぎだ。
「ワルドさん、俺ウヅキに何が出来るでしょう」
「なんでも出来る。お前はウヅキの友達だろ」
「はい、でもしてもらうばかりで俺なにも返せてません」
「そんなの、皆そうだ」
ウヅキのお陰で俺は木工の仕事が増えた。
冒険者としての仕事は楽しかったが、俺は木工の仕事が好きだった。なのに、余所者を受け入れ難い土地柄のグリームの町では元々住んでる奴らに仕事を取られてばかりだった。
冒険者は余所者の集まりだからなんとかなったが、木工の仕事は殆ど諦めていたんだ。
ニルス会頭から子供用椅子を注文され、望まれるままに調理器具を作るようになり、泊まりでの依頼以外の日は夜木工の仕事をやらなきゃ間に合わない位になった。
木工の腕は自信があったが、きっかけはウヅキだった。
仕事が終ったら酒ばかり飲んでいた俺は、いつの間にかグレオが家に通うようになりきちんとした飯を食うようになった。
生活に張りが出て、体調が良くなって魔力切れを起こして魔力を増やすようになって、魔法もどんどん覚えていった。
魔法なんて、魔力なんてもうこれ以上上にいけないと思ってたのに、そんな俺を笑うかの様にウヅキは上を目指してたんだ。
「あいつはやらかしてばかりだが、それは大抵誰かの為に張り切り過ぎた時だ。あいつは自分の利益なんて考えちゃいねえ」
「はい。だから魔力切れしかかってたのに、俺の薬草に回復魔法掛けたり、俺を逃したり」
「ウヅキはさ、馬鹿なんだよ。自分がどれだけ皆に愛されてんのか気がついてねえんだから」
グレオが俺の近くにいるようになって、一緒に飯食って俺の前で笑ったり泣いたりしてる顔見るようになって、可愛いなと思うようになった。
ゲルトがウヅキを当たり前の様に抱き上げて歩く気持ちも、何か分かる気もする。
「ウヅキは大事な友達です。ウヅキがなんであんなに心配してるのか分かりませんが、嫌いになったりしません」
「なら今まで通りでいろ。ゲルトやニルスさん達に言えねえことも、友達のお前になら話せることもある。頼れる兄ちゃんで友達でいろ」
「……はい。ありがとうございますワルドさん。俺ウヅキが困った時に安心して頼って貰える様になります」
やっと落ち着いたのか、グレオは肩にのせたままの俺の頬に頭を寄せてきた。
「ワルドさん、おやすみなさい」
「あぁ、しっかり寝ろよ。寒くねえか」
冷え込んで来たなといいながらグレオの体を抱き込む。
温かいのはグレオの体温なのか、ウヅキが用意した石のお陰なのか。
分からないまま、夜はふけていった。
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