ひとめぼれなので、胃袋から掴みます

木嶋うめ香

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グレオ君の報告は

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「わああ、ゲルトさん恰好良いっ」

 狐獣人の里に着くまでは、俺とグレオ君はなるべく馬車の外に出ないという約束を、ギルドマスターとした後俺達はグリームの町を出発した。
 この町に来た時とは逆の方向にある町に進むのは旅の行方を誤魔化す為らしい。
 狐獣人の里は、狐獣人だけがある魔法陣を使って辿り着ける場所で他の獣人は同じ魔法陣を使っても単独では行けない場所なんだそうだ。

 今日は隣町に着いて買い物をした後そこを立ち、次の町に向かう風を装い人気のない場所で魔法陣を使うのだそうだ。
 魔法陣とか見たことないからちょっとドキドキしてる。
 ギルドマスタ―の情報では、二人の冒険者を迎えに来ている人族の人達はグリームの町から馬車で北に四日程行ったところにある港町に着いたばかりだそうだ。
 そこからグリームの町に来るのは領主様の使いが迎えに行ってから、という手筈になっているからまだ俺達の日程には余裕がある。

「ゲルトさんが魔物狩ってるのって初めて見るけど凄いな。剣士って」
「だよね、だよね。恰好良いよぉ」

 俺の目、ハートになってないかな。
 隣町に向かう途中はオークが出やすい地域らしく、ゲルトさんは何度かオークを狩っている。
 ワルドさんは今御者をしているから、狩っているのはゲルトさんだけだ。
 俺達は、人目に付きそうなところでは馬車からでちゃ駄目と言われているのでお留守番だ。

「はあぁ。恰好良い」

 うっとりとオークを狩っているゲルトさんを見ながら言うと、グレオ君がくすくすと笑う。
 昨日とは違い今日のグレオ君は機嫌良さそうだ。
 馬車の中はニルスさんとマリアさんと俺とグレオ君、御者台にはワルドさんとゲルトさんが座っての移動だ。
 馬車は二頭立ての箱馬車で、俺達は馬車の後ろに空いている小さな窓から外を見ている。

「あのさ、ウヅキ」
「なあに?」
「あのさ、俺ね、昨日さ」
「うん」

 なんだろ、実は今日何回目かのグレオ君のもじもじタイムだ。
 何か俺に話があるらしいんだけど、ちょっと言いにくいらしくて話を切り出そうとしては「ごめん、後にする」を繰り返している。

「ワルドさんがね」
「うん」

 これはもしかすると恋バナだろうか。
 俺はわくわく心を抑えて、しっぽを抱きしめる。
 グレオ君のこの顔は、きっと良い報告なんじゃないかな。
 何、何か昨日あったのかな。

「俺が成人したら、正式な番の誓いをしてくれるかって、その、あのさ」
「グ、グレオ君」

 しっぽを離して、グレオ君に飛びついた。

「ウヅキ、苦しいよ」
「だって、グレオ君。それってそれって」

 俺大興奮。
 だって、それってグレオ君の思いが通じたっていうことだよね。

「うん。ウヅキの魔道具のお陰だよ。俺ね無事に町に帰れたらワルドさんと一緒に暮らすんだ」
「グレオ君!」

 凄い、嬉しい。
 何それ、凄い。
 ああ、俺語彙力無くなってるよ。

「なんて、なんてワルドさん言ったの? 好きって言われた?」
「あの、俺でいいんですかって聞いたら、お前じゃねえと駄目みたいだなって言って貰えたんだ」

 話すグレオ君の顔は真っ赤だ。
 お前じゃねえと駄目みたいだなって、そんなの俺も言われてみたい。

「そうなんだ。凄い。良かったね、グレオ君おめでとう」
「へへ、ありがとう。でもウヅキだって少し進展あったりしないのか」
「あったよ。逆な意味でならね」

 ああ、俺なんてへこむ展開だったのになあ。

「逆な意味って?」
「ウヅが大人になって相手の女性を見つけたくても出来ないのは問題だなってさ」
「それって番の誓いが成立してたらってこと?」
「うん。ゲルトさんはさあ、自分じゃなくて俺が大人になったら誰か好きな人を見つけるって思ってるんだよ。それでいいって思ってて、番の誓いが成立してたら俺が困るよねっていうんだよ」

 俺の発言にグレオ君は唖然としている。
 そうだよね、俺だって同じ気持ちだよ。
 だって、いつも当たり前みたいに抱っこしてくれてスキンシップしてくれて、一緒に寝ているっていうのに。
 それって全部理由は俺が小さな子供だから、それだけだって言われた様なものなんだもん。

「ウヅキ」
「慰めないで、落ち込むから」
「ごめん。あの、俺何か出来ることあったら言って」
「ありがと。でもグレオ君が幸せなら今はいいよ。俺が成人するのってまだまだ先の話だし、そうなるまで頑張ってゲルトさんに好きになって貰える様にするから」
「うん、そうだな。ウヅキが大人になれば見方も変わるって」
「頑張る。ゲルトさんの好きな物沢山作って食べて貰うんだ。ほら好きな人の胃袋を掴むって言うもんね」
「俺も頑張るよ。ワルドさんに沢山美味しい物食べて貰うんだ」

 グレオ君は照れた様ににこにこと話す。
 ああ、こういうのっていいなあ。
 楽しい話をしてたら、不安な気持ちって飛んで行っちゃうよね。

 俺達の会話をニルスさん達が微笑ましく見つめているのにも気付かずに、俺達は恋バナに夢中になっていたのだった。
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