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グレオ君の涙3
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「あの、ええと」
俺は思わず自分のしっぽを抱きしめて、俯いてしまう。
大神様は俺を試しただけだと言ったけれど、皆がそれで助かるなら耐えられると一度は決心もしたけれど、でも皆の心の中から俺への気持ちが無くなってしまうというのは、本当は恐怖以外のなにものでもなかった。
この世界に一人でやってきたのだから、一人に戻るだけだ。
グリームの町を離れてよその町で冒険者として生きていけばいいだけだ。
新しい環境で知らない人に囲まれて、それでもきっと生きていける。
だけど、皆と別れたくない。
ニルスさん、マリアさん、ゲルトさん。グレオ君だってワルドさんだって、ロッタさんもギルドマスターもリサさんも、ルル先生も、皆が大好きなんだ。
誰も彼もが俺への気持ちを忘れた場所で、何もなかった振りしてなんて生きていけない。
俺に笑いかけてくれた、優しく頭を撫でて名前を呼んでくれた人達。
もし本当の話をして、信じてもらうどころか嫌われてしまったら?
俺きっと耐えられないよ。
「あの、俺、不安で……怖くて」
耳がぺしょんと伏せてしまう。
嫌いにならないで、俺を否定しないで。
祈るような気持ちで俺は話し続ける。
「凄く凄く不安で、もうこの町に帰ってこられない気がしてて、それで」
声が震える。
大神様の奇跡、ゲルトさんの目の前で起きたことは大神様が俺の力で作ったと思われない為になんだろう。
優しい優しい大神様、なぜあんなに俺に親切にしてくれるのか分からないけれど、俺に力を貸してくれたんだ。
「大神様にお祈りしたんだ。俺達が無事に帰ってこられるお守りを下さいって」
嘘だ。願ったのは本当だけど、すべて話してない。
だって、だって、嫌われたくない。
「信じて貰えないかもしれないけど、俺」
「そんな奇跡が? 聞いたことねえが。ウヅキが狼獣人だからか? まさかな」
ワルドさんの呟きに顔を上げる。
俺が狼獣人なのと大神様の関係は、何?
「知らねえのか、この世界は大神様が弟の神と妹の神と共に作ったとされてんだよ」
「月陽光神様が地の神様、水の神様と共に作ったと言われているのはその為ですか」
教会に初めて行った時にゲルトさんにそう教わった。
「そうだ地の神が弟、水の神が妹らしいな」
「それと狼獣人になんの関係が?」
「大神様は狼獣人だったって説があんだよ。大神様ってのは狼から来てるんだって」
ワルドさんの話に目を見開いた。
なんだそれ、大神様に俺みたいな耳なんて付いて無かったと思うけど?
「じゃあ狼獣人のウヅキが祈ったから大神様が助けてくれたって言うんですか?」
「いや、それは分かんねえが。他に理由を考えるのも難しいよなあ。なんの効果が付いてるか分からねえが、ウヅキが祈って大神様がそれに応えて下さったんだと信じるしかねえな。これから先どれだけ用心しても足りねえんだ。大神様からの授かりもん、有り難く使わせて貰うぞ。ウヅキありがとう」
ポリポリと頭を掻きながら、ワルドさんはグレオ君を見る。
「で、このまま身に着ければいいのか?」
「ええと、お互いのものをそれぞれ」
「互い……じゃあグレオいいな着けるぞ。これはおめぇを守るためのもんだ。思うところはあるだろうが、暫くの間辛抱してくれ」
「は、はい」
辛抱? やっぱり首輪っぽいのは嫌だったのかなぁ。
ワルドさんがもの凄く困った顔してグレオ君に告げる。告げる? 違う説得してるの?
「苦しくねえか」
「だ、大丈夫です。お、俺も着けていいですか?」
「あぁ、頼む」
何故だろう、グレオ君が泣きそうな顔してるんだけどそんなに嫌だったの? 俺、どうしよう。
「苦しくもなんともねぇな、着けてんの忘れそうだ」
「はい」
「これでいいのか」
「後は、お互いの魔道具に魔力を流して下さい。それでお互いの位置が分かる様になります」
「魔力か」
何故かワルドさんがさっき異常に困った顔になってしまった。
「ウヅ、それは必要なのか」
「はい。そうしないと魔道具が発動しないんです」
何故だろう、ゲルトさんも困った顔してる。
「グレオ、我慢できるか? 俺がしてもいいのか」
「俺は、ワルドさんが嫌じゃないなら大丈夫です」
な、何。何なの俺だけが分かってないの。
「じゃあ俺の魔力を流すぞ」
「はい、お願いします」
「グレオを守る、これはその為のものだ。俺がお前を守るから」
「はい」
ワルドさんがグレオ君の魔道具に魔力を流し、グレオ君も同じ様にワルドさんへと流す。
その瞬間、二人の体は光に包まれた。
俺達以上の光だ。
「グレオ、君。な、なんで泣いてるのっ!」
光が収まった後俺の視界に入ってきたのは、静かに涙を流すグレオ君の姿だったんだ。
俺は思わず自分のしっぽを抱きしめて、俯いてしまう。
大神様は俺を試しただけだと言ったけれど、皆がそれで助かるなら耐えられると一度は決心もしたけれど、でも皆の心の中から俺への気持ちが無くなってしまうというのは、本当は恐怖以外のなにものでもなかった。
この世界に一人でやってきたのだから、一人に戻るだけだ。
グリームの町を離れてよその町で冒険者として生きていけばいいだけだ。
新しい環境で知らない人に囲まれて、それでもきっと生きていける。
だけど、皆と別れたくない。
ニルスさん、マリアさん、ゲルトさん。グレオ君だってワルドさんだって、ロッタさんもギルドマスターもリサさんも、ルル先生も、皆が大好きなんだ。
誰も彼もが俺への気持ちを忘れた場所で、何もなかった振りしてなんて生きていけない。
俺に笑いかけてくれた、優しく頭を撫でて名前を呼んでくれた人達。
もし本当の話をして、信じてもらうどころか嫌われてしまったら?
俺きっと耐えられないよ。
「あの、俺、不安で……怖くて」
耳がぺしょんと伏せてしまう。
嫌いにならないで、俺を否定しないで。
祈るような気持ちで俺は話し続ける。
「凄く凄く不安で、もうこの町に帰ってこられない気がしてて、それで」
声が震える。
大神様の奇跡、ゲルトさんの目の前で起きたことは大神様が俺の力で作ったと思われない為になんだろう。
優しい優しい大神様、なぜあんなに俺に親切にしてくれるのか分からないけれど、俺に力を貸してくれたんだ。
「大神様にお祈りしたんだ。俺達が無事に帰ってこられるお守りを下さいって」
嘘だ。願ったのは本当だけど、すべて話してない。
だって、だって、嫌われたくない。
「信じて貰えないかもしれないけど、俺」
「そんな奇跡が? 聞いたことねえが。ウヅキが狼獣人だからか? まさかな」
ワルドさんの呟きに顔を上げる。
俺が狼獣人なのと大神様の関係は、何?
「知らねえのか、この世界は大神様が弟の神と妹の神と共に作ったとされてんだよ」
「月陽光神様が地の神様、水の神様と共に作ったと言われているのはその為ですか」
教会に初めて行った時にゲルトさんにそう教わった。
「そうだ地の神が弟、水の神が妹らしいな」
「それと狼獣人になんの関係が?」
「大神様は狼獣人だったって説があんだよ。大神様ってのは狼から来てるんだって」
ワルドさんの話に目を見開いた。
なんだそれ、大神様に俺みたいな耳なんて付いて無かったと思うけど?
「じゃあ狼獣人のウヅキが祈ったから大神様が助けてくれたって言うんですか?」
「いや、それは分かんねえが。他に理由を考えるのも難しいよなあ。なんの効果が付いてるか分からねえが、ウヅキが祈って大神様がそれに応えて下さったんだと信じるしかねえな。これから先どれだけ用心しても足りねえんだ。大神様からの授かりもん、有り難く使わせて貰うぞ。ウヅキありがとう」
ポリポリと頭を掻きながら、ワルドさんはグレオ君を見る。
「で、このまま身に着ければいいのか?」
「ええと、お互いのものをそれぞれ」
「互い……じゃあグレオいいな着けるぞ。これはおめぇを守るためのもんだ。思うところはあるだろうが、暫くの間辛抱してくれ」
「は、はい」
辛抱? やっぱり首輪っぽいのは嫌だったのかなぁ。
ワルドさんがもの凄く困った顔してグレオ君に告げる。告げる? 違う説得してるの?
「苦しくねえか」
「だ、大丈夫です。お、俺も着けていいですか?」
「あぁ、頼む」
何故だろう、グレオ君が泣きそうな顔してるんだけどそんなに嫌だったの? 俺、どうしよう。
「苦しくもなんともねぇな、着けてんの忘れそうだ」
「はい」
「これでいいのか」
「後は、お互いの魔道具に魔力を流して下さい。それでお互いの位置が分かる様になります」
「魔力か」
何故かワルドさんがさっき異常に困った顔になってしまった。
「ウヅ、それは必要なのか」
「はい。そうしないと魔道具が発動しないんです」
何故だろう、ゲルトさんも困った顔してる。
「グレオ、我慢できるか? 俺がしてもいいのか」
「俺は、ワルドさんが嫌じゃないなら大丈夫です」
な、何。何なの俺だけが分かってないの。
「じゃあ俺の魔力を流すぞ」
「はい、お願いします」
「グレオを守る、これはその為のものだ。俺がお前を守るから」
「はい」
ワルドさんがグレオ君の魔道具に魔力を流し、グレオ君も同じ様にワルドさんへと流す。
その瞬間、二人の体は光に包まれた。
俺達以上の光だ。
「グレオ、君。な、なんで泣いてるのっ!」
光が収まった後俺の視界に入ってきたのは、静かに涙を流すグレオ君の姿だったんだ。
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