ひとめぼれなので、胃袋から掴みます

木嶋うめ香

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大神様の魔道具

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「後悔はありませんか、一人になるのですよ」
「それでもいいです。俺には皆に大切にしてもらった記憶があります。それでグレオ君達が助かるなら、俺は一人でも、一人になっても生きていけます」

 ポタポタと落ちる涙。
 しょんぼりと伏せる耳。
 しゅんとしたしっぽは、揺れる元気さえ失ったみたいだ。

「それでいいのですね」
「はい。俺は皆を守りたいんです。その為なら自分が一人になるくらい、へ、平、平気です。痛っ!」

 泣きながら叫んだら、大神様にデコピンされた。
 な、なんで? 驚きと痛さで涙が止まり、俺は大神様のお顔を見上げたんだ。

「自己犠牲の精神は尊いものですが、ウヅキのは度が過ぎてます。大切な人を本当に守りたいのなら、同じ様に自分も守りなさい。守られた人に悔やまれる様な守り方はただの自己満足ですよ」
「自己満足」
「そうです。あなたの気持ちを試したかったとはいえ、私の意地が悪すぎましたね。気持ちが無くなるというのは嘘ですよ」

 気持ちを試す? どうして。

「それにしても魔石を随分と溜め込んだものです。これはトロールの魔石ですか、成程ウヅキが苦戦するわけです」

 マジックバッグから出された魔石は、俺の膝位の高さの山になっている。
 素材奪取が追加されてから、何故か落ちる魔石が一つだけじゃなくなったんだ。
 そして何故かゲルトさんまでほぼ毎回魔石が落ちる様になった。
 でもこんなに魔石一度に売れないから、俺が預かっていたんだ。

「トロールの魔石が何か」
「あのトロールが亜種だったのは知っていますか」
「一応は」

 亜種の場合は元々のものより強いんだよとは聞いてはいたけど、他のトロールを知らないから比較出来ない。

「亜種だから同じ強さとは限りませんが、この魔石を見る限り通常のトロールより三倍程度強いと思いますよ。怪我もせずにいたのはウヅキの魔力制御の拙さを考えると奇跡ですね」
「ゲルトさんが来てくれたから」

 俺の魔力制御、拙いって言われちゃった。
 事実だけど、大神様の目から見ても駄目駄目なんだ。

「ウヅキは魔力を水道の蛇口から出る水量の調節と同じと考えているようですが、単純に消費魔力を数値化しても使える筈ですよ」
「数値化? ですか?」
「そうです。風の刃の発動に必要な魔力は五程度です。必要な五の魔力を、本人の能力に関係なく出せるようにしているのが詠唱ですが、ウヅキは面倒だと行わない」
「はい」
「詠唱短縮や無詠唱に必要なものは、分かりやすく言うなら、ウヅキの前世で言うところのイメージです」
「イメージ」
「そうです。例えば、あそこに的があります。魔力五を使った風の刃はこうです」

 無詠唱で大神様は風の刃を発動して的に当てる。

「魔力十、魔力十五、魔力二十」

 次々と風の刃が発動して、的に当たっていく。
 込める魔力で同じ魔法でもこんなに違うのか。

「やってご覧なさい」
「ええと、風の刃、魔力五?」

 出来たけど、なんかしっくりこない。

「消費する魔力は口にしなくてもいいですよ。五の魔力を使って発動した結果を思い浮かべながら発動するんです」
「思い浮かべながら」
「そうです。威力の弱い魔法だと考えながら大量の魔力を込めても暴走するだけです」

 ということは魔力十は五の魔力を使った時より少し強め、十五は更に、二十はもっと? そう考えるといいのかな。

「風の刃」

 二十の魔力を使った強い魔法と思いながら発動した風の刃は、真っ直ぐに的に向かって飛ぶ。
 当たった。

「当たりました!」
「そうです。イメージの意味は分かりましたね」
「はい」

 これで俺の魔法ももう少しマシになるはず。

「では、本題に入りましょう。これからウヅキには魔道具を作ってもらいます。この魔道具を作成出来るのはこの空間のみです。まず魔力を回復しましょうか。先程第六感を使ってかなり魔力を消費しましたからね」

 そう言うと大神様は俺の額に人差し指で触れる、その途端あったかい魔力が入ってくる。

「では、こちらの魔石でまずはグレオとワルドを守る物を作ります。効果は害そうとする者からの防御、互いの位置が分かる効果、毒等を無効化する効果、魔力の回復(小)です」
「はい、あのでもどうやって」
「私と左手を繋いで、右手を魔石の上に。今伝えた効果がある身につけられる魔道具をイメージするのです」

 グレオ君とワルドさんを守る物。
 グレオ君に奴隷の首輪を付けられない様に、ワルドさんがずっと木工出来る様に。
 俺の魔力全部使って、守れる魔道具を!

「こうなりましたか」
「これ」

 魔力切れで体が怠い。
 慣れたけれど、やっぱり怠いのは変わらない。
 出来上がったものは、なんというか悩むとしか言えないものだった。

「まあ、いいでしょう。次はウヅキとゲルトです」
「はい」

 また魔力を回復してもらって、イメージする。
 俺達を守るもの、俺達を繋ぐもの。
 同じ様に魔力を全部使って、魔道具を作る。

「指輪?」

 出来たのは二つの指輪だった。
 なんで?
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