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大神様にお願い4
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「そうです。人族はウヅキを拐うことで力の強い獣人も奴隷に出来る。ゲルトは若く強い、見た目も悪くない」
「それが理由ですか」
人族はそんなに詳しく獣人国を調べているんだろうか、この町は王都から離れているのに、どうして詳しいんだろう。
「王都は獣王とその配下が目を光らせています。適度に田舎で人族の国に向かう方法があるこの辺りは人族には都合がいいのでしょう」
そういえばあの二人は、領主様が身柄を預かっていたんだ。
「それでゲルトさんを?」
「ええ、狼獣人と山猫獣人を手に入れ、その上強い熊獣人も上手くすれば手に入る」
「そんな」
町にいても領主様は守ってはくれないのだろうか。
俺はともかくゲルトさんやグレオ君のことは? 領主様にとって価値がない?
「獣人の方が立場が弱いんでしょうか、それで領主様はゲルトさん達を守れないんですか」
「グリームの町を治める領主はお前達を守ろうとしていますよ。だからこそ情報をギルドマスターに伝えたのです。町から逃すのは領主とギルドマスターの考えです。居なければ連れて行きようがありませんから」
大神様の答えは領主様はこちらの味方だと言っている。でも、それでも逃げないといけないんだね。
「守りたいと思いながら、獣人と人族で争う理由を作りたくはない。領主の立場も辛いのでしょう」
「あぁ、そういうのもあるのですね。それでは公には争えないです」
納得するしかない。
俺やグレオ君が争う口実にされたら堪らない。
「今回逃げ切れたら、安心できますか」
「逃げ切れると思いますか」
「ゲルトさんとワルドさんが居て、それで相手に後れを取るというのはないと思います。でも不安があって、それか気になっています」
第六感、それが虫の知らせ程度でも気になるんだ。
「不安なんです。大神様のお話を聞いて更にその思いが強くなりました。俺じゃなくグレオ君が、グレオ君が」
グレオ君と会えなくなる。
何故かその予感が消えない。
「意識を集中し、未来を知りたいと強く念じなさい。ここは神の領域です。今ならあなたの実力以上の力で未来が見えるはずです」
大神様の言われるままに、目を閉じて意識を集中する。
これから何が起きる? 何が起きるんだ。
未来に何が。
「グレオ君が町に戻れない。慟哭するワルドさんが、怒りのまま人族に魔法を放とうとして、グレオ君の身を守ろうと……」
グレオ君の首には禍々しい首輪、それがグレオ君を苦しめる。
ワルドさんが人族に攻撃される。
抵抗できないのは、グレオ君の命の危機があるから。
「俺は、ゲルトさんは何で何も出来ないの」
魔力が凄い勢いで減っていく。
額から汗が流れて、息が苦しくなる。
「ゲルトさんが倒れている? 俺はどこに?」
俺の姿が見えない。
何も、もう見えない。
「これが未来?」
「ええ、ウヅキの見たものが未来です」
「変えられないのですか」
「可能性はあります」
縋るように大神様を見る俺の前に、ふわりと俺のマジックバッグが浮かび上がる。
「ウヅキが持っている魔石すべてを使い、ある魔道具を作ります。それがあれば逃げ切れる可能性は高くなります」
「魔道具」
「ただ、あなたはそれを作るため代償を支払わなければならないとしたら、どうしますか」
代償? 皆が助かるためなら何でもいい。
「払います。それが何でも」
「それが例えば、ゲルトやニルス達のウヅキへの思いだとしてもですか」
「え」
「ウヅキを大切に思う気持ちが無くなり、他人より遠い関係になるとしても、そうしますか」
皆と離れる。
ゲルトさんが、ニルスさんが、マリアさんが、俺への気持ちを無くしてしまう。
「嫌われるって、そういうことですか」
声が震えた。
俺にとって一番の恐怖は、三人に嫌われることなんだ。
それが現実になるの?
「思いを忘れます。大切にしていたという記憶は一欠片も残らずに消え、何の感情も無くなります」
そんなの、俺耐えれるわけない。
俺に向けられる優しい視線、頭を撫でてくれる手、一緒に囲む食卓は笑顔が絶えなくて、いつもいつも幸せで。
だけど。
「魔道具を作ったら皆が助かりますか」
「その可能性は高くなります」
だったら、俺が決めるのは当たり前だ。
「俺は皆に忘れられてもいいです。一人になってもいいから皆を助けたいです」
ポタポタと涙がこぼれ落ちる。
大好きな人達、大好きだから躊躇いたくない。
皆を傷つけたくないんだ、俺が守りたいんだ。
「皆が俺を忘れても、俺は忘れないから平気です。だから大神様、教えて下さい魔道具を作る方法を」
覚悟を決めて俺は大神様に頭を下げたのだった。
「それが理由ですか」
人族はそんなに詳しく獣人国を調べているんだろうか、この町は王都から離れているのに、どうして詳しいんだろう。
「王都は獣王とその配下が目を光らせています。適度に田舎で人族の国に向かう方法があるこの辺りは人族には都合がいいのでしょう」
そういえばあの二人は、領主様が身柄を預かっていたんだ。
「それでゲルトさんを?」
「ええ、狼獣人と山猫獣人を手に入れ、その上強い熊獣人も上手くすれば手に入る」
「そんな」
町にいても領主様は守ってはくれないのだろうか。
俺はともかくゲルトさんやグレオ君のことは? 領主様にとって価値がない?
「獣人の方が立場が弱いんでしょうか、それで領主様はゲルトさん達を守れないんですか」
「グリームの町を治める領主はお前達を守ろうとしていますよ。だからこそ情報をギルドマスターに伝えたのです。町から逃すのは領主とギルドマスターの考えです。居なければ連れて行きようがありませんから」
大神様の答えは領主様はこちらの味方だと言っている。でも、それでも逃げないといけないんだね。
「守りたいと思いながら、獣人と人族で争う理由を作りたくはない。領主の立場も辛いのでしょう」
「あぁ、そういうのもあるのですね。それでは公には争えないです」
納得するしかない。
俺やグレオ君が争う口実にされたら堪らない。
「今回逃げ切れたら、安心できますか」
「逃げ切れると思いますか」
「ゲルトさんとワルドさんが居て、それで相手に後れを取るというのはないと思います。でも不安があって、それか気になっています」
第六感、それが虫の知らせ程度でも気になるんだ。
「不安なんです。大神様のお話を聞いて更にその思いが強くなりました。俺じゃなくグレオ君が、グレオ君が」
グレオ君と会えなくなる。
何故かその予感が消えない。
「意識を集中し、未来を知りたいと強く念じなさい。ここは神の領域です。今ならあなたの実力以上の力で未来が見えるはずです」
大神様の言われるままに、目を閉じて意識を集中する。
これから何が起きる? 何が起きるんだ。
未来に何が。
「グレオ君が町に戻れない。慟哭するワルドさんが、怒りのまま人族に魔法を放とうとして、グレオ君の身を守ろうと……」
グレオ君の首には禍々しい首輪、それがグレオ君を苦しめる。
ワルドさんが人族に攻撃される。
抵抗できないのは、グレオ君の命の危機があるから。
「俺は、ゲルトさんは何で何も出来ないの」
魔力が凄い勢いで減っていく。
額から汗が流れて、息が苦しくなる。
「ゲルトさんが倒れている? 俺はどこに?」
俺の姿が見えない。
何も、もう見えない。
「これが未来?」
「ええ、ウヅキの見たものが未来です」
「変えられないのですか」
「可能性はあります」
縋るように大神様を見る俺の前に、ふわりと俺のマジックバッグが浮かび上がる。
「ウヅキが持っている魔石すべてを使い、ある魔道具を作ります。それがあれば逃げ切れる可能性は高くなります」
「魔道具」
「ただ、あなたはそれを作るため代償を支払わなければならないとしたら、どうしますか」
代償? 皆が助かるためなら何でもいい。
「払います。それが何でも」
「それが例えば、ゲルトやニルス達のウヅキへの思いだとしてもですか」
「え」
「ウヅキを大切に思う気持ちが無くなり、他人より遠い関係になるとしても、そうしますか」
皆と離れる。
ゲルトさんが、ニルスさんが、マリアさんが、俺への気持ちを無くしてしまう。
「嫌われるって、そういうことですか」
声が震えた。
俺にとって一番の恐怖は、三人に嫌われることなんだ。
それが現実になるの?
「思いを忘れます。大切にしていたという記憶は一欠片も残らずに消え、何の感情も無くなります」
そんなの、俺耐えれるわけない。
俺に向けられる優しい視線、頭を撫でてくれる手、一緒に囲む食卓は笑顔が絶えなくて、いつもいつも幸せで。
だけど。
「魔道具を作ったら皆が助かりますか」
「その可能性は高くなります」
だったら、俺が決めるのは当たり前だ。
「俺は皆に忘れられてもいいです。一人になってもいいから皆を助けたいです」
ポタポタと涙がこぼれ落ちる。
大好きな人達、大好きだから躊躇いたくない。
皆を傷つけたくないんだ、俺が守りたいんだ。
「皆が俺を忘れても、俺は忘れないから平気です。だから大神様、教えて下さい魔道具を作る方法を」
覚悟を決めて俺は大神様に頭を下げたのだった。
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