ひとめぼれなので、胃袋から掴みます

木嶋うめ香

文字の大きさ
上 下
171 / 248

大神様にお願い4

しおりを挟む
「そうです。人族はウヅキを拐うことで力の強い獣人も奴隷に出来る。ゲルトは若く強い、見た目も悪くない」
「それが理由ですか」

 人族はそんなに詳しく獣人国を調べているんだろうか、この町は王都から離れているのに、どうして詳しいんだろう。

「王都は獣王とその配下が目を光らせています。適度に田舎で人族の国に向かう方法があるこの辺りは人族には都合がいいのでしょう」

 そういえばあの二人は、領主様が身柄を預かっていたんだ。

「それでゲルトさんを?」
「ええ、狼獣人と山猫獣人を手に入れ、その上強い熊獣人も上手くすれば手に入る」
「そんな」

 町にいても領主様は守ってはくれないのだろうか。
 俺はともかくゲルトさんやグレオ君のことは? 領主様にとって価値がない?

「獣人の方が立場が弱いんでしょうか、それで領主様はゲルトさん達を守れないんですか」
「グリームの町を治める領主はお前達を守ろうとしていますよ。だからこそ情報をギルドマスターに伝えたのです。町から逃すのは領主とギルドマスターの考えです。居なければ連れて行きようがありませんから」

 大神様の答えは領主様はこちらの味方だと言っている。でも、それでも逃げないといけないんだね。

「守りたいと思いながら、獣人と人族で争う理由を作りたくはない。領主の立場も辛いのでしょう」
「あぁ、そういうのもあるのですね。それでは公には争えないです」

 納得するしかない。
 俺やグレオ君が争う口実にされたら堪らない。

「今回逃げ切れたら、安心できますか」
「逃げ切れると思いますか」
「ゲルトさんとワルドさんが居て、それで相手に後れを取るというのはないと思います。でも不安があって、それか気になっています」

 第六感、それが虫の知らせ程度でも気になるんだ。

「不安なんです。大神様のお話を聞いて更にその思いが強くなりました。俺じゃなくグレオ君が、グレオ君が」

 グレオ君と会えなくなる。
 何故かその予感が消えない。

「意識を集中し、未来を知りたいと強く念じなさい。ここは神の領域です。今ならあなたの実力以上の力で未来が見えるはずです」

 大神様の言われるままに、目を閉じて意識を集中する。

 これから何が起きる? 何が起きるんだ。
 未来に何が。

「グレオ君が町に戻れない。慟哭するワルドさんが、怒りのまま人族に魔法を放とうとして、グレオ君の身を守ろうと……」

 グレオ君の首には禍々しい首輪、それがグレオ君を苦しめる。
 ワルドさんが人族に攻撃される。
 抵抗できないのは、グレオ君の命の危機があるから。

「俺は、ゲルトさんは何で何も出来ないの」

 魔力が凄い勢いで減っていく。
 額から汗が流れて、息が苦しくなる。

「ゲルトさんが倒れている? 俺はどこに?」

 俺の姿が見えない。
 何も、もう見えない。

「これが未来?」
「ええ、ウヅキの見たものが未来です」
「変えられないのですか」
「可能性はあります」

 縋るように大神様を見る俺の前に、ふわりと俺のマジックバッグが浮かび上がる。

「ウヅキが持っている魔石すべてを使い、ある魔道具を作ります。それがあれば逃げ切れる可能性は高くなります」
「魔道具」
「ただ、あなたはそれを作るため代償を支払わなければならないとしたら、どうしますか」

 代償? 皆が助かるためなら何でもいい。
 
「払います。それが何でも」
「それが例えば、ゲルトやニルス達のウヅキへの思いだとしてもですか」
「え」
「ウヅキを大切に思う気持ちが無くなり、他人より遠い関係になるとしても、そうしますか」

 皆と離れる。
 ゲルトさんが、ニルスさんが、マリアさんが、俺への気持ちを無くしてしまう。

「嫌われるって、そういうことですか」

 声が震えた。
 俺にとって一番の恐怖は、三人に嫌われることなんだ。
 それが現実になるの?

「思いを忘れます。大切にしていたという記憶は一欠片も残らずに消え、何の感情も無くなります」

 そんなの、俺耐えれるわけない。
 俺に向けられる優しい視線、頭を撫でてくれる手、一緒に囲む食卓は笑顔が絶えなくて、いつもいつも幸せで。
 だけど。

「魔道具を作ったら皆が助かりますか」
「その可能性は高くなります」

 だったら、俺が決めるのは当たり前だ。

「俺は皆に忘れられてもいいです。一人になってもいいから皆を助けたいです」

 ポタポタと涙がこぼれ落ちる。
 大好きな人達、大好きだから躊躇いたくない。
 皆を傷つけたくないんだ、俺が守りたいんだ。
 
「皆が俺を忘れても、俺は忘れないから平気です。だから大神様、教えて下さい魔道具を作る方法を」

 覚悟を決めて俺は大神様に頭を下げたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

子を成せ

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
ミーシェは兄から告げられた言葉に思わず耳を疑った。 「リストにある全員と子を成すか、二年以内にリーファスの子を産むか選べ」 リストに並ぶ番号は全部で十八もあり、その下には追加される可能性がある名前が続いている。これは孕み腹として生きろという命令を下されたに等しかった。もう一つの話だって、譲歩しているわけではない。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

処理中です...