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大神様にお願い2
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「大神様」
ここに来たのは衝動的だった。
町を離れる理由が理由だけに不安だったから、それだけ。
自分のことだけなら、きっとそうでもなかった。
この世界で初めて出来た、そして今の所唯一の友達が狙われている。
人族の貴族というのがどういうものか、俺にはイマイチ理解できてないんだけど、権力もなんにもない俺に出来ることといったらギルドマスターの言うとおり逃げることぐらいなんだろう。
「ウヅキ、元気にしていましたか」
「はい、大神様が教えてくれた通り調味料も手に入りました。あの、これ大神様は食べられますか?」
何となくここに来る前にしていた会話が後ろめたくて、俺は収納から料理とお菓子を取り出して大神様に見せた。
「祭壇に供えて頂いた物でしたら、地上の物を食せます」
「祭壇」
そういうものなのか。
じゃあ、これは駄目なんだね。
「でもウヅキが折角私にと出してくれたのですから、頂いてみたいですね」
「ありがとうございますっ!」
「ふふ、お礼を言うのはこちらのほうですよ」
大神様に笑われてしまった。
でも、こんな風に話してくれるのもこれか最後かな。
人族の人が本当に俺とグレオ君を攫おうとするかまだ分からないけれど、そうなったら俺は相手に本気で抵抗しなきゃいけないし、状況によってはゲルトさんが言う通り相手を殺さなきゃいけなくなる。
人を殺そうと思って本当にそうしてしまう俺を、大神様は許したりしないよね。
大神様は親切にしてくれたのに、大神様の世界の人を俺は殺すかもしれないんだから。
「何を悩んでいるのです」
「大神様、俺はこれから罪を犯すかもしれません」
「罪」
俺は今までのことを話した。
二人の人族の冒険者に魔物を引き付けておく囮にされたことから始まり、今日ギルドマスターに説明された事まで全部を話したんだ。
「そうでしたか」
「だから暫くこの町を離れます。最初はニルスさんの護衛として狐獣人の里に向かって、その後ルル先生の手引でエルフの里に」
「そこまで行けばあなた達は安全だと考えているのですね」
「はい。俺とグレオが町にいなければ無理矢理連れて行くことは出来ないですし、領主様が上手くとりなしてくれる手筈になっているので」
ただ、不安なんだ。
これだけじゃ駄目な氣がして仕方ない。
「第六感」
「え」
「それは簡易の未来予知みたいなものです。まだ取得したばかりですから虫の知らせ程度の役にしか立ちませんが」
それじゃあ、この不安は起こるかもしれない未来を予測してのものなのかな。
「どうしたらいいんですか、俺じゃないんです。グレオ君なんです。でも何をどうすればいいのか分からなくて」
「ウヅキも狙われているのでは?」
「でも、俺じゃない気がするんです」
不安なんだ、何が起きるのか分からないから。
違う、俺は自分以外が傷付くのが恐いんだ。
「ゲルトさんは、自分を守るために相手を害する覚悟を持てと」
「そうですね。自衛は大切です。その為に他者を害することもあるでしょう」
大神様の言葉に俺は戸惑ってしまう。
大神様は害することを否定しないのかな、分からないよ。
「止めないんですか?」
「止める? どうして」
「殺すのは罪ではありませんか」
違うのかな。大神様にとっては些細なことなのかな。
「個人の利益の為の行いは罪です。それは庇う事は出来ませんが、でも自分を守る為の行いは必然です」
自分を守る為なら、それならばいいの?
俺は、自分に都合がいいように思いたいだけなのかな。
そう思いながら大神様の言葉を待ったんだ。
ここに来たのは衝動的だった。
町を離れる理由が理由だけに不安だったから、それだけ。
自分のことだけなら、きっとそうでもなかった。
この世界で初めて出来た、そして今の所唯一の友達が狙われている。
人族の貴族というのがどういうものか、俺にはイマイチ理解できてないんだけど、権力もなんにもない俺に出来ることといったらギルドマスターの言うとおり逃げることぐらいなんだろう。
「ウヅキ、元気にしていましたか」
「はい、大神様が教えてくれた通り調味料も手に入りました。あの、これ大神様は食べられますか?」
何となくここに来る前にしていた会話が後ろめたくて、俺は収納から料理とお菓子を取り出して大神様に見せた。
「祭壇に供えて頂いた物でしたら、地上の物を食せます」
「祭壇」
そういうものなのか。
じゃあ、これは駄目なんだね。
「でもウヅキが折角私にと出してくれたのですから、頂いてみたいですね」
「ありがとうございますっ!」
「ふふ、お礼を言うのはこちらのほうですよ」
大神様に笑われてしまった。
でも、こんな風に話してくれるのもこれか最後かな。
人族の人が本当に俺とグレオ君を攫おうとするかまだ分からないけれど、そうなったら俺は相手に本気で抵抗しなきゃいけないし、状況によってはゲルトさんが言う通り相手を殺さなきゃいけなくなる。
人を殺そうと思って本当にそうしてしまう俺を、大神様は許したりしないよね。
大神様は親切にしてくれたのに、大神様の世界の人を俺は殺すかもしれないんだから。
「何を悩んでいるのです」
「大神様、俺はこれから罪を犯すかもしれません」
「罪」
俺は今までのことを話した。
二人の人族の冒険者に魔物を引き付けておく囮にされたことから始まり、今日ギルドマスターに説明された事まで全部を話したんだ。
「そうでしたか」
「だから暫くこの町を離れます。最初はニルスさんの護衛として狐獣人の里に向かって、その後ルル先生の手引でエルフの里に」
「そこまで行けばあなた達は安全だと考えているのですね」
「はい。俺とグレオが町にいなければ無理矢理連れて行くことは出来ないですし、領主様が上手くとりなしてくれる手筈になっているので」
ただ、不安なんだ。
これだけじゃ駄目な氣がして仕方ない。
「第六感」
「え」
「それは簡易の未来予知みたいなものです。まだ取得したばかりですから虫の知らせ程度の役にしか立ちませんが」
それじゃあ、この不安は起こるかもしれない未来を予測してのものなのかな。
「どうしたらいいんですか、俺じゃないんです。グレオ君なんです。でも何をどうすればいいのか分からなくて」
「ウヅキも狙われているのでは?」
「でも、俺じゃない気がするんです」
不安なんだ、何が起きるのか分からないから。
違う、俺は自分以外が傷付くのが恐いんだ。
「ゲルトさんは、自分を守るために相手を害する覚悟を持てと」
「そうですね。自衛は大切です。その為に他者を害することもあるでしょう」
大神様の言葉に俺は戸惑ってしまう。
大神様は害することを否定しないのかな、分からないよ。
「止めないんですか?」
「止める? どうして」
「殺すのは罪ではありませんか」
違うのかな。大神様にとっては些細なことなのかな。
「個人の利益の為の行いは罪です。それは庇う事は出来ませんが、でも自分を守る為の行いは必然です」
自分を守る為なら、それならばいいの?
俺は、自分に都合がいいように思いたいだけなのかな。
そう思いながら大神様の言葉を待ったんだ。
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