167 / 248
二人の企みはなんだった?
しおりを挟む
「教会?」
「はい。暫く町を離れるのなら、皆の無事を祈りたいです」
これからの予定を話し合った後、ワルドさんとグレオ君とはギルドの前で別れた。
二人はこれからグレオ君の家に行き町を出る準備をするのだそうだ。
グレオ君の家族は、ワルドさんのパーティーに護衛されて町を出る。
グレオ君の両親は魔道ギルドに登録している付与魔法師だそうで、家を長い期間開けても大丈夫らしいけれど旅の経験は殆どないと聞いた。
歩いていくグレオ君の背は当然かもしれないけれど元気が無くて、俺は明日以降の自分達の行く末を思い途方に暮れていた。
「そうか、分かった。じゃあその帰りに旅に必要な物を買って帰ろう」
「はい。我儘言ってすみません」
ゲルトさんに抱っこされて、両腕をゲルトさんの首に回して顔を埋める。
泣きたいのを我慢していて、不安過ぎてどうにかなりそうだった。
「ゲルトさぁん。今日はお仕事終わりですか、これから時間があるなら、私達と飲みに……」
しょんぼりする俺の頭を撫でながら教会のある方向へと歩き始めたゲルトさんを、誰かが呼んだ。
「用事がある」
「えぇー。いつも用事があるって、たまには付き合ってよぉ」
「そうよ。子守りで大変なのは分かるけれど、大人には大人の付き合いが、あらいたのね」
この二人、以前食堂で俺に嫌がらせした人達だ。
二人の顔をちらりと見て思い出し、目を伏せた。
今こんな人達と話せる元気ないよ、俺。
「その子はリサに預けて、私達と食堂で飲みましょうよ」
「そうそう、あの人族の子は子守が大好きみたいだからきっと喜んで預かってくれるわ」
頭悪いなあ、この人達。
なんで俺、こんな人達がゲルトさんとお似合いだんて思ったんだろ。
美人でもスタイルが良くても、性格悪い人は合わないよね。
「話にならない、忙しいんだ。飲みたいなら二人で飲んでればいいだろ」
「ゲルト」
「呼び捨てにされる程親しくないと思うが」
ゲルトさんの口調はかなりキツイのに、二人はそれでもめげずに縋りついてくる。
「そんなあ、酷いわ。私達と飲めるなら幾らでも時間を作るって人いくらでもいるのよ」
「そうよ。後悔しても遅いわよ。もう誘ってあげないわよいいの?」
「ああ、それで構わない。じゃあな」
俺、こんな冷たい声で断られたら泣く自信あるんだけど。
あまりの展開に、不安が一瞬消えてしまった。
「なんなのあれ」
「あの子いい気になりすぎよね。ねえ、確か……」
ひそひそと話続ける二人を置いて、ゲルトさんは歩き始めた。
あの二人からすれば当たり前なのかもしれないけれど、俺目の敵にされてるな。
「悪かったな、ウヅ」
「ううん。ゲルトさんが悪いんじゃないから。変な人に絡まれて災難でしたね」
「ふ。災難か、そうだな」
俺には優しい声で話すゲルトさんが、あの二人には冷たかった。
ああいう声で話すゲルトさんって稀だから、ドキドキしてしまう。
あんな風に俺に向けて言われたら、悪い事をしてなくても謝っちゃう気がするし縋ってしまうと思う。
「ゲルトさん、俺またゲルトさんに迷惑掛けてしまいますね」
「迷惑? 何の話だ」
「俺とグレオ君の為に町を離れなくちゃいけなくなっちゃったから」
「冒険者なんて、そういうものだ。いつでも身軽にしてどこにでも行ける。それが冒険者だ」
いつでも身軽。確かにゲルトさんは殆ど部屋に荷物を置いていない。
ワルドさんの家は、木工の道具以外もあるけど、それでもすぐに旅立てる様にはなっているみたいだ。
「それが冒険者」
「そうだ。依頼で旅に出るのなんて当たり前にあることだろ。遠出の依頼を受けない奴もいないわけじゃないが、そんなの少数だからな」
「そうですね」
でも、今回のは依頼じゃない。
俺とグレオ君を守る為に町を離れるんだ。
「もし俺達がここにいたとして、人族に連れていかれる可能性は高いんですか」
「ああ、あの二人を領主とギルマスが何度か尋問したんだが、あいつらはウヅよりもグレオに執着しているようだ。一度一緒に魔法講習を受けた時から目をつけていたらしい」
「え」
そう言えば俺が最初に魔法講習受けた時に、そんな話を聞いた様な覚えがある。
「ウヅとグレオが薬草採取に行ったあの日、あいつらがあの森にいたのは偶然だったが、機会があればグレオに奴隷の首輪をつけようと考えていた様だ」
「奴隷の首輪って」
「人族の国で作られた魔道具で、奴隷を購入した人間がそれを奴隷の首に嵌めることで主従関係を確定するんだ。首輪は奴隷の体力を魔力に変換して自分の意思とは関係なく、主人の言う事を聞く様になる」
「そ、そんなのあるんですが」
「それを嵌められたらどうしようもなくなる。無理に本人や主人以外の者が外そうとすれば奴隷は命を落とすんだ」
怖い、そんな魔道具があるなんて。
じゃあもしも、グレオ君や俺があの時二人にその首輪を付けられていたら?
「そ、そんなの獣人の国で行っても」
「奴隷の首輪を嵌められたら、主人が外さない限り永久に外れない。もし首輪を外されないまま主人が死んでしまったら、その時奴隷の命も終わる。だから、下手な手出しは出来ないんだ」
「じゃあ、首輪を嵌められたら最後ってことですか」
「ああ、こちらの言う事を聞いてくれるような奴なら、獣人に無理矢理首輪をつけて奴隷にしようなど思わないだろうからな。だから、ウヅ。もしその危険があるなら躊躇わず力を使って欲しい。相手を傷つけるだろうとかそういうことは考えるな。自分のことだけ考えるんだ」
あまりの話に理解が追い付かない。
もしもその時が来たとして、俺抵抗なんて出来るんだろうか。
「はい。暫く町を離れるのなら、皆の無事を祈りたいです」
これからの予定を話し合った後、ワルドさんとグレオ君とはギルドの前で別れた。
二人はこれからグレオ君の家に行き町を出る準備をするのだそうだ。
グレオ君の家族は、ワルドさんのパーティーに護衛されて町を出る。
グレオ君の両親は魔道ギルドに登録している付与魔法師だそうで、家を長い期間開けても大丈夫らしいけれど旅の経験は殆どないと聞いた。
歩いていくグレオ君の背は当然かもしれないけれど元気が無くて、俺は明日以降の自分達の行く末を思い途方に暮れていた。
「そうか、分かった。じゃあその帰りに旅に必要な物を買って帰ろう」
「はい。我儘言ってすみません」
ゲルトさんに抱っこされて、両腕をゲルトさんの首に回して顔を埋める。
泣きたいのを我慢していて、不安過ぎてどうにかなりそうだった。
「ゲルトさぁん。今日はお仕事終わりですか、これから時間があるなら、私達と飲みに……」
しょんぼりする俺の頭を撫でながら教会のある方向へと歩き始めたゲルトさんを、誰かが呼んだ。
「用事がある」
「えぇー。いつも用事があるって、たまには付き合ってよぉ」
「そうよ。子守りで大変なのは分かるけれど、大人には大人の付き合いが、あらいたのね」
この二人、以前食堂で俺に嫌がらせした人達だ。
二人の顔をちらりと見て思い出し、目を伏せた。
今こんな人達と話せる元気ないよ、俺。
「その子はリサに預けて、私達と食堂で飲みましょうよ」
「そうそう、あの人族の子は子守が大好きみたいだからきっと喜んで預かってくれるわ」
頭悪いなあ、この人達。
なんで俺、こんな人達がゲルトさんとお似合いだんて思ったんだろ。
美人でもスタイルが良くても、性格悪い人は合わないよね。
「話にならない、忙しいんだ。飲みたいなら二人で飲んでればいいだろ」
「ゲルト」
「呼び捨てにされる程親しくないと思うが」
ゲルトさんの口調はかなりキツイのに、二人はそれでもめげずに縋りついてくる。
「そんなあ、酷いわ。私達と飲めるなら幾らでも時間を作るって人いくらでもいるのよ」
「そうよ。後悔しても遅いわよ。もう誘ってあげないわよいいの?」
「ああ、それで構わない。じゃあな」
俺、こんな冷たい声で断られたら泣く自信あるんだけど。
あまりの展開に、不安が一瞬消えてしまった。
「なんなのあれ」
「あの子いい気になりすぎよね。ねえ、確か……」
ひそひそと話続ける二人を置いて、ゲルトさんは歩き始めた。
あの二人からすれば当たり前なのかもしれないけれど、俺目の敵にされてるな。
「悪かったな、ウヅ」
「ううん。ゲルトさんが悪いんじゃないから。変な人に絡まれて災難でしたね」
「ふ。災難か、そうだな」
俺には優しい声で話すゲルトさんが、あの二人には冷たかった。
ああいう声で話すゲルトさんって稀だから、ドキドキしてしまう。
あんな風に俺に向けて言われたら、悪い事をしてなくても謝っちゃう気がするし縋ってしまうと思う。
「ゲルトさん、俺またゲルトさんに迷惑掛けてしまいますね」
「迷惑? 何の話だ」
「俺とグレオ君の為に町を離れなくちゃいけなくなっちゃったから」
「冒険者なんて、そういうものだ。いつでも身軽にしてどこにでも行ける。それが冒険者だ」
いつでも身軽。確かにゲルトさんは殆ど部屋に荷物を置いていない。
ワルドさんの家は、木工の道具以外もあるけど、それでもすぐに旅立てる様にはなっているみたいだ。
「それが冒険者」
「そうだ。依頼で旅に出るのなんて当たり前にあることだろ。遠出の依頼を受けない奴もいないわけじゃないが、そんなの少数だからな」
「そうですね」
でも、今回のは依頼じゃない。
俺とグレオ君を守る為に町を離れるんだ。
「もし俺達がここにいたとして、人族に連れていかれる可能性は高いんですか」
「ああ、あの二人を領主とギルマスが何度か尋問したんだが、あいつらはウヅよりもグレオに執着しているようだ。一度一緒に魔法講習を受けた時から目をつけていたらしい」
「え」
そう言えば俺が最初に魔法講習受けた時に、そんな話を聞いた様な覚えがある。
「ウヅとグレオが薬草採取に行ったあの日、あいつらがあの森にいたのは偶然だったが、機会があればグレオに奴隷の首輪をつけようと考えていた様だ」
「奴隷の首輪って」
「人族の国で作られた魔道具で、奴隷を購入した人間がそれを奴隷の首に嵌めることで主従関係を確定するんだ。首輪は奴隷の体力を魔力に変換して自分の意思とは関係なく、主人の言う事を聞く様になる」
「そ、そんなのあるんですが」
「それを嵌められたらどうしようもなくなる。無理に本人や主人以外の者が外そうとすれば奴隷は命を落とすんだ」
怖い、そんな魔道具があるなんて。
じゃあもしも、グレオ君や俺があの時二人にその首輪を付けられていたら?
「そ、そんなの獣人の国で行っても」
「奴隷の首輪を嵌められたら、主人が外さない限り永久に外れない。もし首輪を外されないまま主人が死んでしまったら、その時奴隷の命も終わる。だから、下手な手出しは出来ないんだ」
「じゃあ、首輪を嵌められたら最後ってことですか」
「ああ、こちらの言う事を聞いてくれるような奴なら、獣人に無理矢理首輪をつけて奴隷にしようなど思わないだろうからな。だから、ウヅ。もしその危険があるなら躊躇わず力を使って欲しい。相手を傷つけるだろうとかそういうことは考えるな。自分のことだけ考えるんだ」
あまりの話に理解が追い付かない。
もしもその時が来たとして、俺抵抗なんて出来るんだろうか。
23
お気に入りに追加
3,694
あなたにおすすめの小説


子を成せ
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
ミーシェは兄から告げられた言葉に思わず耳を疑った。
「リストにある全員と子を成すか、二年以内にリーファスの子を産むか選べ」
リストに並ぶ番号は全部で十八もあり、その下には追加される可能性がある名前が続いている。これは孕み腹として生きろという命令を下されたに等しかった。もう一つの話だって、譲歩しているわけではない。

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。
えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた!
どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。
そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?!
いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?!
会社員男性と、異世界獣人のお話。
※6話で完結します。さくっと読めます。


皇帝陛下の精子検査
雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。
しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。
このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。
焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?

僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる